つっこめ! ルネサンス ~脳筋ばかりの騎士物語! 結婚するまで帰れません!?~

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第4章 パリ攻防戦

18 一方、ロジェロ達は★

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 地中海に浮かぶ魔女の島、アイアイエ島。
 ロジェロこと黒崎くろさき八式やしきの傷が完治するまで、善徳の魔女ロジェスティラの召使いやアストルフォが甲斐甲斐しく看病した。
 その結果、どうにか傷も癒え、剣を振り回すのにも支障ないほどに回復する事ができた訳だが。

 すでにロジェロ達は、パリを攻撃していたサラセン軍がシャルルマーニュの手によって撃退されたという話を耳にしていた。
 しかも、パリ市民を虐殺するはずだったロドモンが、ブラダマンテによって討ち取られたという。

「マジかよ――ははッ。司藤しどうの奴、やるじゃあねえか」

 ロジェロはまるで自分の事のように喜んだ。ブラダマンテ――司藤アイが無事だったこと。そして本来なら逃げおおせていた筈のロドモンが死んだという事。
 この物語の世界は、すでに作者アリオストの描いた展開からはかけ離れていたが――ここに来て大きな転機を迎えた事になる。

(本来なら最終歌でオレに殺されるハズのロドモンがこんなに早く――
 こいつはいい兆候かもな。物語に起きるハズだった数々の理不尽な悲劇を覆せるかもしれねえって事だ。
 まあ、オレとブラダマンテの結婚だけはキチンと成し遂げなきゃならん訳だが)

「はっはっは! ロジェロ君、ご機嫌だな!
 やはり愛する者の無事の報せというのは良いものだ! 聞く者に安心と温もりを与えてくれる――」

 ロジェロの部屋を訪れたのは、イングランド王子アストルフォだった。

「ところでロジェロ君。このアストルフォから提案があるんだが!」
「断る」

「まだ何も言ってないよ! 話だけでも聞いてよ!」
「しょうがねえなあ」

 看病してもらっていながら酷い言い草な気もするが、ロジェロ的にアストルフォからの提案や頼みで、余りいい予感はしないのが正直な所である。

「君の所有している空飛ぶ馬ヒポグリフを、僕の馬ラビカンと交換しないかい?」
「そりゃまた何でだ?」

「だってホラ! 空飛ぶ馬だよ!? もし空が飛べたら、遠くの地までひとっ飛びじゃないか。
 ボクはまだまだ騎士として未熟だ! だから色んな土地を巡って冒険して、経験を積みたいのさ!」

 取り立てて困る話でもない提案だが――ロジェロとしては一つだけ気がかりな点があった。
 ブラダマンテとの再会を果たしても、恐らく何らかの妨害の力が働いて、教会に行けなかったりするだろう。実際原典はそのパターンでズルズルと引き延ばされ、偶然が重なり二人は離れ離れになってしまうのだ。
 そしてロジェロは――「とある理由」でアストルフォの動向を探らねばならなくなっていた。

「条件がある。オレもアンタと一緒に冒険の旅についていく事だ」
「え? それは勿論構わないが――ブラダマンテの事はいいのかい?」

「ああ。心配しなくていい。問題はむしろ、ラビカンじゃヒポグリフの空の旅にはついて行けない事だな。
 なんで、ちょっとロジェスティラの婆さんに頼んでみるわ」

 そう言ってロジェロは、魔女ロジェスティラの部屋を訪れた。彼の頼み事は――ラビカンが空を飛べるようにできないか、である。

「無理は承知の上だ。できないなら仕方ないが――」
「可能ですよ。普通の馬を空飛ぶようにはできませんが――ラビカンは東方世界の魔法生物のような存在です。ちょっと改造すれば飛翔能力を得られるでしょう」

 いともあっさりと善徳の魔女は、ロジェロの無茶ぶりを承諾したのだった。

「え? 本当に――できるのか? っていうか、いいのか?」
「アストルフォ様にはすでに呪文書や角笛などの道具を差し上げてますし、ブラダマンテ様にも望みの品を差し上げましたわ。
 ロジェロ様のお望みも叶えて差し上げる事、やぶさかではございません」

(マジか、言ってみるもんだな。つーか……司藤しどうの奴もロジェスティラから何か貰ったのか)

 かくして名馬ラビカンには、ロジェスティラ作の翼の生えた鞍があてがわれた。鞍の前方に張り出すように備え付けられた支えに翼がある構造の為、騎乗者の邪魔にならずに羽ばたけるようである。

「使用しない場合は、教えた呪文を唱えれば翼を収納できますわ」
「至れり尽くせりだな――ありがとう、ロジェスティラさん」

 こうしてロジェロはラビカンに、アストルフォはヒポグリフに乗り。大空を舞いながら各地を回る冒険の旅に出る事になった。

(しかし待てよ――この後アストルフォって何するんだっけ?
 何しろ原典ってクッソ長いから、真面目に目を通すと眠くなるんだよなぁ……
 寄り道せずにさっさとエチオピアまで行ってくれると助かるんだが)

 などとロジェロは願わずにはいられなかった。彼の目的地と望むモノは、エチオピアに存在するからである。
 しかしながらアストルフォである。賢明な読者諸氏なら、彼らの旅が順風満帆に行くはずがないと容易に想像がつくであろう。

**********

 エジプト、カイロにて。
 ナイル川上流にて暴れ回り、人間を喰らうという残虐な巨人カリゴランと戦う事になった。

「どうすんだ、あんな奴? 背丈が8フィート(約2.4メートル)もあるぞ」
「よし! 角笛を吹こう!」

 そう言ってアストルフォが取り出したのは、ロジェスティラより贈られた、聞く者全てを恐怖させるという角笛であった。
 『聞く者全て』。すなわち当然、隣にいるロジェロも含まれる。

「!? ちょっと待てアストルフォ、お前だけじゃなくてオレもいるんだぞ――」

 ロジェロが止めるのも聞かず、アストルフォは力強く角笛を吹いた。ロジェロは間一髪耳を塞いでどうにか事なきを得たが。
 巨人カリゴランは、狂暴そうな目つきで襲いかかろうとしたところを角笛の音を聞いた途端、顔面蒼白になってその場にうずくまり、ガタガタと震え出した。

「効果てきめんだな! さあロジェロ君、縛り上げてくれ!」
「――お前、本当にそれでいいのか?」

 かくして流血沙汰に発展する事なく巨人カリゴラン捕縛は成功し、アストルフォ達はカイロの街に凱旋、一躍英雄扱いとなった。

「スゲエ! あの二人の騎士――あんな恐ろしい巨人をどうやって?」
「きっと名のある、すごく強い騎士サマにちげえねえだ!」

(うわぁ……何だろうこの、ものすごくダマしてる感……)

 ロジェロは釈然とせず、どうにも微妙な表情を浮かべていたが。
 一方のアストルフォは声援を送る人々に対し愛想よく手を振っている。彼の全く悪びれない図太さは大したものだった。

**********

 ナイル川河口にほど近い町ダミエッタ(註:現デュミヤート)にて。
 二人の騎士がワニにまたがった怪人を相手取り、苦戦を強いられていた。ロジェロとアストルフォはしばらく見物していたが――この怪人、手足を切断されても首を刎ねられても全く死なない。それどころか血の一滴も噴き出さず、自力で元通りにくっつけてのけるという離れ業の持ち主であった。名を不死者オッリロという。

「オイ、またしてもとんでもない奴と出くわしたが……どうする?」
「決まっているだろう、助太刀しよう!」

「いやそうは言うがなアフォ殿。首を刎ねても死なないような奴相手にどうやって戦うんだよ」
「……その前に、ボクの名前アフォって略すのやめてくれないかい?」

「気にすんな、親愛の証って奴だから」
「そうか、そういう事なら問題ないな!」

 納得してくれた。案外ちょろい奴だとロジェロは思った。

「戦う方法ならある」と言ってアストルフォが取り出したのは、やはりロジェスティラより贈られた呪文書だった。

「それは――魔法を解除する方法が記されているという呪文書だっけか?
 あのオッリロとかいう奴の不死身ぶりを、そう都合よくどうにかできる方法が載ってるとは――」
「うむ! バッチリ載っている! ここを見てくれロジェロ君」

 あっさりと言い放つアストルフォが指した一文。ロジェロは絶句した。

『アストルフォでも一発で分かる! 不死身のオッリロを不死じゃなくする方法→114ページ』

(何このものすごく分かりやすすぎる文章!? 狙ってやってんのかオイ!)

 呪文書の114ページを開くと、オッリロの髪の毛の一本が不死身の魔力を与えており、それを取り除けば倒せるとの事であった。
 早速実践してみる事に。二人の騎士が再び怪人の首を刎ねたのを見計らって飛び出し、生首を捕まえるとアストルフォは、これでもかとばかりに髪の毛を毟り取りまくった。頭髪の不自由な人々にとっては目を覆いたくなる、残虐きわまる行為である。
 こうしてオッリロは、その命を支える髪の毛をも引っこ抜かれ、あっという間に息絶えてしまった。不死身の男、ここに眠る。

「どこのどなたかは存じませぬが――助けていただきありがとうございました!」
「さぞかし強く、高名な騎士殿なのでしょう。
 どうか我々も貴方たちの旅に加えていただきたい!」

「はっはっは! もちろんオッケーさ!
 仲間が増えるよ! やったねロジェロ君!」
「ああ……うん、よかったね……」

 結果だけ見れば、怪物退治は成功、心強い仲間も増えて絶好調なのだが。
 何故かロジェロの精神には、言いしれぬ疲労感が積み重なっていったのだった。

**********

 こんな調子でアストルフォは、行く先々で冒険しては、旅の仲間の騎士がネズミ算式に増えていった。もはや数が多すぎ、ロジェロも正直名前を覚え切れない。
 そして今ロジェロ達が旅している地は、シリアのダマスカスである。

(どうしてこうなった――
 あちこち飛び回り過ぎて、展開の速さに頭が追いつかねえ!?)

「なあアストルフォ。どうしてここに来たんだっけ?」
「大丈夫かいロジェロ君! どうしてって、今日はダマスカスで馬上槍試合トーナメントの大会があるからじゃあないか!
 騎士なんだし、当然参加するだろう? なあみんな!」

『おおーッ!!!!』

 アストルフォと共に冒険する仲間の騎士たちは、一斉に元気な声を上げ彼の呼びかけに応じた。彼の突飛な行動に振り回されすぎて、ロジェロは本来の目的を忘れかけていた。

「それに見たまえロジェロ君! 今日は珍しく、あそこにいる美しい女性の騎士も大会に参加するみたいだぞ!」
「女性の――騎士?」

 ロジェロはハッとして、アストルフォの指さす方向を見た。ブラダマンテか? 一瞬そう思ったが――違った。
 確かに美女と呼べるほど見目麗しい。だが肌は浅黒く健康的であり、いでたちもフランク人というよりサラセン人の民族衣装に近い。腰に携えている得物も半月刀シャムシールである。

「ん? あの女性の騎士、どこかで見覚えが――」

 アストルフォが首を傾げると、女性の騎士はこちらに気づいたらしく、嬉しそうな顔をして走って近づいてきた。

「……知り合いなのか? こっちにすごい勢いで走り寄ってきてるが」
「思い出した! その昔、美姫アンジェリカの国カタイの首都アルブラッカに立ち寄った時、一緒になった事があるよ。
 きっと彼女、ボクの事が忘れられなかったんだね! はっはっは! モテる男はツライなあ!」

(だから誰なんだよ、名前を言えよ!)

 ロジェロがそう言おうとした時――女性の騎士はアストルフォを突き飛ばした。

「あろほげごぎゃあッ!?」

 情けない悲鳴を上げアストルフォは宙を舞い――近くの屋台に頭から突っ込んでピクピクと痙攣していた。
 女性の騎士は満面の笑みを浮かべており、なんとロジェロに抱き着いてきた。

「なッ…………!?」
「まさか、こんな所で遭えるなんて思わなかった……!
 分からないか? ロジェロ兄さん。妹のマルフィサだ!」

 マルフィサ。インドの王女であり、女性でありながらオルランドやリナルド相手に互角以上に渡り合った強者である。その正体は――幼い頃生き別れたロジェロの実の妹であった。


(第4章 了)

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《 ファンアート・その6 》

貴様 二太郎サンよりいただきました! ありがとうございます!
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