つっこめ! ルネサンス ~脳筋ばかりの騎士物語! 結婚するまで帰れません!?~

LED

文字の大きさ
74 / 197
第5章 狂えるオルランド

8 ブラダマンテら、北イタリアへ

しおりを挟む
 ブラダマンテはふと我に返ると、慌てて馬を下りてマルフィサへ駆け寄った。

「マルフィサ! 大丈夫? 怪我はない?」

 マルフィサは放心状態だった。
 王女の座に上り詰めてから、サラセンの戦士に身を投じて数年。彼女は圧倒的な力を誇り、敗北した事などなかった。
 ブラダマンテの兄リナルドとの対決でも、武器を落とされたにも関わらず戦意を失わず、素手で頭を殴り意識を奪いかけた事もあった。
 最強騎士オルランドとの戦いでも一歩も譲らず、彼に冷や汗をかかせた程の武勇と伝わっている。

 それが今、馬上の槍勝負とはいえ、叩き落とされてしまったのだ。彼女にとって初めての体験だった。
 下手をすれば敗北の恥辱に激昂し、マルフィサの心を騎士から獣へと変貌させるほどの衝撃だったろう。

 しかし――心配そうな顔をして近づいてくるブラダマンテには、警戒心の欠片も無い。
 すでに一騎打ちは決着がついたと思っているのだろう。マルフィサが怒り狂い、横紙破りをして斬りかかって来るなどとは夢にも思っていないようだ。
 そんな彼女の様子を見ていたら、マルフィサの中に沸き立っていた屈辱や敵愾心は、いつの間にか消え去っていた。
 正々堂々、全力で一騎打ちをした結果なのだ。そのような邪念を抱く事こそ戦士として恥ずべきであろう。

「心配無用だブラダマンテ。このマルフィサ、これしきで怪我をするほどヤワではない。
 素晴らしい槍さばきだった。騎士としても、兄さんの背を預けるに相応しい腕という事なのだな!」

 マルフィサは起き上がり、満面の笑みを浮かべてブラダマンテを抱き締めた。

「えっ……ちょっと、マルフィサ――?」
「ああ、気にしないでくれ。あたしなりの親愛の証なんだ。
 アストルフォに教わったんだがな。自分でも気に入っている」

 メリッサと違い、明らかに性的な嗜好のない、家族にするような抱擁。
 故にブラダマンテは微笑ましく思い、受け入れた。
 ――だがマルフィサは力が強すぎる。以前のロジェロと同様、女騎士は締め上げられてすぐ、悲鳴を上げてしまうのだった。

**********

 その後、ブラダマンテが騎士ピナベルを探しに北イタリア・ヴァロンブローザに向かうつもりであると話すと、マルフィサも同行したいと願い出た。

「せっかく兄の想い人と会えたんだ。共に旅をし、親睦を深めたい。
 いずれ『義姉さん』と呼ぶ事になるだろうからな!」

 屈託ないマルフィサの言葉に、ブラダマンテ――司藤しどうアイは思わず、あの悪友・黒崎くろさき八式やしき礼拝堂チャペルで挙式する様を妄想してしまった。

(うわー、似合わない! クッソ受ける! 黒崎もだけど、わたしだって酷い有様だわ!
 はぁ……まったく、黒崎の奴も気が利かないなぁ。どうせならマルフィサと一緒にマルセイユに来ればよかったのに。
 マルフィサの話では、アストルフォと一緒に旅をしていたそうだけど――何の為なんだろう?)

 この場に黒崎がいたなら。今の自分の妄想も語り合って。
 一緒に笑ったり、からかい合ったり。

(なんだろ。寂しいのかな? わたし――
 あんな奴でも、いてくれたらホッとするんだ)

 魔女の島で喧嘩別れしてから、すでに一週間以上が経つ。しかし不思議と、長い間離れ離れになっているような錯覚に陥った。
 他に現実世界での知り合いがいないから? 本当に、それだけなのだろうか。

(うー……分かんないけど、なんかモヤモヤするなぁ……)

「どうした、ブラダマンテ? 浮かない顔をしているが」

 気づかぬ内に眉間にしわを寄せていたのだろう。
 マルフィサが気遣わしげに顔を覗き込んできたので、慌てて「ちょっと考え事。大丈夫」と取り繕う。

 ともあれマルセイユの守りは今まで通り、兄リッチャルデットが引き受ける事となり。ブラダマンテとマルフィサはヴァロンブローザに向け出発したのだった。

**********

 数日かけてヴァロンブローザに到着した。ここは著名な修道院があり、キリスト教徒が礼拝によく訪れるという。

「ふむ。ピナベルという騎士か」マルフィサは怪訝そうに声を漏らした。
「ここに来るまでの道中、さんざん聞き込みをしたが……彼を見たという話は聞けなかったな。案外噂通り、すでに死体になっているのではないか?」

「たとえそうだとしても、見つけてガヌロンさんに報告しなくちゃね。
 ヴァロンブローザに入ってからの情報が途絶えているって事は、ここで身動きが取れなくなっちゃったのかもしれないもの」

 そんな訳で早速、ブラダマンテ達はピナベルに関して聞き込みを行ったが。
 奇妙だった。ヴァロンブローザの人々はピナベルの名前を聞くや、すぐにそっぽを向いて「知らない」と答え、そそくさと逃げるように去ってしまうのだ。

「むう――知っている者がいないとは。本当に彼はここに立ち寄ったのか?」
「え。マルフィサ……今の人たちの態度を見たでしょ。
 あんなに動揺しながら『知らない』って言うのは、知っていても知らないフリをするか、答えたくないかどっちかよ」

「な、なるほど――そうなのか。ブラダマンテは鋭いな」

(ええー……本気で言ってるのこの。ちょっと考えれば分かりそうな話なのに)

 インド王女マルフィサ。戦いにかけては玄人だが、脳筋な騎士らしく人を疑うという発想がないらしい。
 ともあれ、住人たちは明らかにピナベルの存在を隠したがっている。恐らくは――向こうから接触してくるはず。
 アイの読み通り、早速四人の騎士たちに周りを囲まれていた。

「――あんたらか。ピナベルについて嗅ぎ回っている騎士ってのは」
「ええ、そうよ。知っているなら教えて欲しいわね」

「いいだろう。俺たちに勝てたら教えてやる!
 だがその代わり、負けたら身ぐるみ置いていってもらおうか!」

 一騎打ちに勝利し、勝った側が負けた側の持ち物を奪ったり、身代金を取ったりするのは騎士の常であるが。
 何とも分かりやすい。彼らの物言いは、もはや山賊同然であった。

 四人の騎士が一斉に剣を抜くのを見て、ブラダマンテとマルフィサも己の武器を抜き放った。

「四対二だけど、どうするの? まとめてかかってくる?」

 ブラダマンテの露骨な挑発に、四人の騎士は冷笑で応えた。

「心配するな。我らとて騎士の端くれ。一人ずつお相手しよう!」
「――あ。そこは最低限、礼儀正しくやってくれるのね」

 四人のうち二人がそれぞれ進み出て、ブラダマンテ達に挑みかかってきた。
 彼らの身のこなしは素早い。恐らくはかなりの場数を踏んだ手練れなのだろう。
 だが次の瞬間――地べたに転がったのは襲ってきた側だった。

『なッ…………!?』

「なかなかの剣筋――と言いたい所だが、物足りないな」
 半月刀シャムシールを振るい、マルフィサがフンと鼻を鳴らす。

 残った二人もいきり立って向かってきたが――実力差は明らかであり、瞬く間に決着がついた。
 仲良く這いつくばる四人を見て、マルフィサは「あっ」と声を上げた。

「見覚えのある鎧兜だと思ったら。アクィランにグリフォン。サンソンにグィードじゃないか!」
「え――知り合いなの? マルフィサ」

 ブラダマンテが意外そうに尋ねると、マルフィサは平然と答えた。

「ああ。この間まで、アストルフォやロジェロ兄さんと一緒に旅していた仲間だよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

処理中です...