つっこめ! ルネサンス ~脳筋ばかりの騎士物語! 結婚するまで帰れません!?~

LED

文字の大きさ
90 / 197
第6章 アストルフォ月へ行く

5 ぎこちなさすぎる再会

しおりを挟む
 ペガサスに乗った女騎士ブラダマンテは、地上の喧騒を見て戸惑っていた。

「ちょっとメリッサ! なんで今回に限って、身を隠そうともせずに堂々としてるのよ?」

 フランク王国にいた時は人目を忍んで、夕暮れ時に飛び立った筈なのに。
 いざエチオピアに着くと、わざと昼間、人々の目につくようにペガサスは飛んでいる。言うまでもなくこのペガサスは、尼僧メリッサが魔法で変身した姿である。

『ご心配には及びませんわ、ブラダマンテ。
 すでにここ、エチオピアにはロジェロ様とアストルフォ様が到着されている。
 セナプス王と謁見を果たすため、空飛ぶ馬に乗った騎士である事をアピールしている筈。
 つまり今更こそこそ隠れる必要なんて、これっぽっちもないのですわ!』

 メリッサはいつもの調子を取り戻したのか、恍惚とした口調だった。

『むしろ見せつけてやりましょう。古の英雄ペルセウス――いえそれ以上に美しくも凛々しき、華麗なるブラダマンテの姿を!
 もうこの時点でエチオピアの歴史に神話として刻まれる事、請け合いですわ! 素敵! 抱いて!』

 血迷った尼僧の戯言はともかくとして。ロジェロやアストルフォと合流するためにも目立つのは悪い選択ではないかもしれない。とブラダマンテは無理矢理自分を納得させる事にした。
 案の定ほどなくして、唖然とした様子でこちらを見上げている二人の騎士の姿が視界に入った。

「見つけたわ! メリッサ、二人の下へ」
『お安い御用ですわっ!』

 ブラダマンテを乗せた天馬ペガサスは、地上の人々を巻き込まないよう軌道に注意を払い――静かにロジェロ達の下へと降り立った。

「司――ブ、ブラダマンテ? どうしてここに!?」

 まさか遠きエチオピアの地まで追いかけてくるなどと、予想だにしていなかったらしい。ロジェロ――黒崎くろさき八式やしきは上ずった声で尋ねた。

「どうしてって……パリの戦闘も終わったし、受けていた依頼も片付けたから。
 落ち着いたら合流しようと思ったのよ。ホラ、その……つまんない事で喧嘩別れして、それっきりだったし」
「ああ……そんな事もあったっけな。べ、別にソレはもう、気にしてねえから」

 久方ぶりの再会。お互いの視線が合う。それに気づき二人はほぼ同時に、やたら不自然な動きで目を逸らした。

(あれっ……黒崎の顔なんて見慣れてるハズなのに。
 ……なんで目を逸らしちゃったんだろ。
 気まずい事なんてないわよね? あんなしょうもない口喧嘩なんて時間が経てば水に流せる……よね?)

(な……何で目ェ合わせただけで頬赤らめてんのコイツ!? 公衆の面前で思わせぶりな態度取るなよ……
 何でもねえ再会ってだけなのに、妙にこっ恥ずかしくなっちまうだろーが!?)

 明らかに様子がおかしいブラダマンテとロジェロを見て、アストルフォは小首を傾げながら言った。

「どうしたんだい二人とも? 想い人同士の感動の再会なんだから、もうちょっと何かあるだろう?
 いつもみたいに抱擁するなり、恋人みたいにキスのひとつやふたつしたって罰は当たらないよ」

「な、何言ってんだよアフォ!? ハグはともかく、キスってそんなモン……
 え、ちょっと!? ブラダマンテ、何でそんなめっちゃ離れてるんだよ!」

 いつぞやのキス未遂事件を思い出したのだろうか。ブラダマンテは大慌てで距離を取り、天馬メリッサの背後に隠れる始末だった。

『ブ、ブラダマンテ……? 大丈夫ですか?』
 さしものメリッサも不安げに尋ねてきた。

《いえ、何でもない……何でもないわ。しなきゃ、駄目なのかしら。
 騎士の恋人同士って、やっぱそういう儀式みたいなのがあったりするわけ?》
《手の甲に口づけとか、そういう話は聞きますけど。
 特に義務でやったりはしなかったかと》

 小声でボソボソと呟く女性陣二人。片や男性陣も互いに顔を見合わせて内緒話をしている。

《アフォてめえ、しょーもない煽り方すんじゃねーよ! オレとブラダマンテは、まだ挙式すらしてねーんだぞ?》
《式を挙げたかどうかなんて、お互い愛し合っていれば関係ないとボクは思うよ。
 フロリマールとフロルドリだって結婚前、二度目の再会を果たした時にさ。茂みに飛び込んでおもむろに――》
《バっ……てめっ……何を……! いいかアフォ、ブラダマンテの前でンな事絶対言うなよ!?
 もし口走ったら今度こそ絶交だからな! 約束しろゴルァ!?》

 いくら物語の中では相思相愛の役柄といえど――現実世界において、司藤しどうアイと黒崎くろさき八式やしきは腐れ縁の悪友でしかないのだ。
 二人の挙動不審ぶりに顔を見合わせるアストルフォとメリッサ。視線を交わした結果、ひとまず彼らを落ち着かせて、無難な再会を演出する方向に舵を定めた。

 それでもお互い視線を泳がせながら、とても恋人同士とは思えない、ぎこちない会話のやり取りになった事は言うまでもない。

**********

 エチオピア王セナプスの窮状については、主にアストルフォから説明され。
 これからちょうど、聖者が住まうとされるナイル川源流のある高山に向かう予定であった事も、ブラダマンテ達は把握した。

「山に登る分には、ボクたちであれば問題はないと思うよ。
 ボクには幻獣ヒポグリフが。ロジェロ君には名馬ラビカンが。ブラダマンテにはペガサスがいるんだからね」

 アストルフォの言う通りであった。確かに出発に関して特に支障はない。
 彼の説明を受ける間、ブラダマンテはロジェロの脇をつつき、小声で尋ねた。

《ねえ黒崎。これから向かう先の山について、下田教授から話とか聞いておいた方がいい?》
《うーむ……今はまだ、いいんじゃねえか? 状況的にヤバい訳でもねえし。
 ていうかな。エチオピアに着いてから、起こるハズだった事件がことごとく原典と異なってるんだよ。
 だから下田教授のアドバイスが役に立つかどうかも正直、未知数なんだよな》
《そっか……残念ね》

 黒崎はやんわりと助言を断った。というのも、下田から直接言葉を受け取るためには、アイの身体に触れている必要がある。
 妙に互いを意識してしまっている現時点で、長時間触れ合っているのはどうにも具合が悪い気がしたのだ。

(いざとなったら――そうも言ってられねーだろうな。もしかしたら聖者なんて、いねーかもしれねーし。
 その時はまあ……その時になったら考えるしかねーか)

 そもそも原典では、アストルフォは単独で月に向かう。ロジェロやブラダマンテが同行できる保証はないのだ。
 幼馴染との再会を恥ずかしがっている場合ではない。黒崎は思い直し、気合いを入れ直す事に決めた。

「そうと分かったら、早速みんなで出発しようぜ。
 いざ向かわん、前人未到のパラダイスへ!(楽園の保証はねーけど)」
『おおーっ!!』

 ロジェロの掛け声と共に、一行はそれぞれ空飛ぶ馬に乗り――山頂へと向かったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

処理中です...