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第7章 オルランド討伐作戦
30 ブラダマンテvsグラダッソ・前編
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セリカン王グラダッソ率いる黒騎兵たちは驚愕した。
「馬鹿な……グラダッソ様がッ……!」
「あんな小娘の騎士ごときに……!?」
体格差凄まじく、大人と子供ほども違う二人が激突した――にも関わらず。
勝利したのは小柄な女騎士ブラダマンテだったのだ。
(この感触……まるであの時のようではないか……!
パリを陥落せしめた折、アストルフォに挑まれた時と同じッ……!)
名馬バヤールから振り落とされ、盛大に地面に転がったように見えたグラダッソであったが。
凄まじい衝撃音にも関わらず、咄嗟に受け身を取ったらしい。間を置かず即座に起き上がっていた。
一方ブラダマンテであるが――巨漢の荒ぶる王に浴びせた戦槍は、半ばから折れてしまっていた。もはや使い物にならない。
(やっぱりこうなるか。いくら『黄金の槍』の感覚を掴んでいても……今手にしている槍はそうじゃない。
あんな巨体を突き崩したんだから、ガタが来て当然よね……
でも当初の目的は果たしたわ。グラダッソをバヤールから引きずり降ろさない事には、勝負にすらならないもの……!)
ブラダマンテは油断なく下馬し、両刃剣を構えた。
グラダッソに白兵戦を挑む為だ。再びバヤールに乗られたら、今度こそ勝ち目はない。
「お主は――クレルモン家のブラダマンテだったな?
よくここまで来れたものだ。マンドリカルドはどうした?」
「あいつなら……死んだわ」
女騎士は出来うる限り冷徹に言い放つ。
落馬したとはいえ、相手は7フィート(約2.1メートル)近い。体格差から来る威圧感は相当なものだ。
「マンドリカルドを退けるとは……噂よりも腕が立つようだな、女騎士よ!
だがこのグラダッソに挑戦する以上、覚悟を決めてもらうぞ。
女好きの彼奴と違い――儂はお主に対し手加減などする気はない」
「でかい図体の割には、口ばかり達者なのね。セリカンの王様?」
ブラダマンテの挑発に、グラダッソのこめかみに青筋が浮かび上がった。
「よかろう――お主を退けねば、オルランドを殺せぬようだからな!
言葉ではなく、この不滅の刃にて相手をしてやろうぞッ!」
セリカンの荒ぶる王は、オルランドの所有物であった武器を掲げた。
鎧では防げず、絶対に砕けぬという恐るべき聖剣。まともに戦えば彼女とてただでは済まないだろう。
(でも、負けられない。ここまでの活路を切り拓いてくれたロジェロやメリッサ、そしてマラジジさんの為にも!)
**********
十数分ほど前。
暗黒空間を脱した直後、グラダッソ兵に囲まれ絶体絶命に陥ったブラダマンテ達を救ったのは……意外な事に、先刻まで敵に回っていた魔術師マラジジであった。
「マラジジ、様……? 私たちを、助けて下さいますの?」
予想だにしなかった援軍の申し出に、尼僧メリッサも目を丸くしていた。
「ワシの目的はあくまで、ブラダマンテ様に憑く『悪魔』を退けるというものだ。
今この状況を捨て置けば、ブラダマンテ様はおろか、将来結ばれるロジェロ殿も命を落としかねん。
ならば助勢する他はあるまい?」
灰色ローブの老人マラジジはそう言って、悪戯っぽく微笑んだ。先刻まで死闘を繰り広げていた敵とは思えない、茶目っ気のある顔だ。
彼の立場はシャルルマーニュの血縁であり、れっきとした十二勇士の一人。フランク勢に味方するのが本来の役目であった。
ブラダマンテはロジェロに近づき、囁くように言った。
「ロジェロ……いえ、黒崎。悪いけど、ここは任せられる?」
「……グラダッソを追うのか? 司藤」
黒崎の問いに、ブラダマンテ――司藤アイは頷いた。
「ええ。あいつは今、リナルド兄さんの馬バヤールに乗っているんでしょう?
あの化け物馬に跨っている限り――例えオルランドでも、まともに挑めば勝ち目はないわ。
今のグラダッソに対抗できるのは……恐らくは、わたしだけ」
「そうか、分かった。それなら――」
黒崎は笑みを浮かべて、快く彼女を送り出してくれた。
かくしてグラダッソ兵の包囲を突破し、ブラダマンテはひた走ったのである。
**********
オルランドの正気を取り戻すため、あるいは殺すため。
数多くの人々の思惑と力、そして命が絡み合い――今はとうとう、単純な事象に落ち着いた。
すなわち、女騎士ブラダマンテとセリカン王グラダッソの一騎打ち。
この戦いに決着がついた時――大勢は決するだろう。
「後悔するなよ、クレルモン家の小娘ェ!」
先に仕掛けたのはグラダッソだ。聖剣デュランダルの力を頼みに、無造作に踏み込んでくる。
ブラダマンテのスピードに比べれば幾分緩慢な動きだが、その巨体と怪力を利用し、彼女の逃げ場や反撃を封じる構えだ。
加えてデュランダルに備わる力――並みの鎧兜では防ぐ事すらできぬ斬撃。
女騎士に有利な要素は何一つないかに思えた。
ところが――
鋭い金属音と共に、グラダッソの一撃が斜めに逸らされた。
ブラダマンテが手にした両刃剣で切り払い、軌道を曲げたのだ。
「……何、だとォ!?」さしものセリカン王も驚愕する。
並みの鎧兜で防げぬという事は、剣を使って受け流すのも至難の業なのだ。
しかしよく見れば――ブラダマンテの携える武器は、ただの剣ではなかった。
「当てが外れた? これは魔剣ベリサルダよ。ロジェロから借り受けてきたッ!」
かつてロジェロ自身、オルランドに挑んだ際に互角の戦いを可能にした、魔女ファレリーナの鍛えし剣。
黒崎はアイを送り出す際、魔剣を彼女に譲り渡したのだ。
「この魔剣とて、いかなる魔法の防護も貫く魔力を秘めている! いざッ!!」
今度はブラダマンテが魔剣を振るい、グラダッソに攻勢をかける番であった。
大振りなセリカン王と違い、小刻みな突きの連続。きめ細やかな女騎士の攻めは敵の反撃を寄せ付けない。
力任せにデュランダルを振るおうにも、隙の大きい動きはブラダマンテの格好の標的となる。
「……調子に、乗りおってェ!」
グラダッソは業を煮やし、強引に前に出て聖剣を振るおうとした。
それを見逃す彼女ではない。素早く踏み込み、懐近くに跳び上がるような動きで、魔剣を振るった!
鮮血が舞う。女騎士の剣は王の首を斬り裂いた。
(手ごたえはあった。でも浅いッ……これは、誘い込まれた!?)
ブラダマンテの嫌な予感は的中した。
セリカンの荒ぶる王は流血しながらも、ニヤリと笑みをへばりつかせ――伸びきった彼女の胴体にデュランダルの一撃を見舞った!
「馬鹿な……グラダッソ様がッ……!」
「あんな小娘の騎士ごときに……!?」
体格差凄まじく、大人と子供ほども違う二人が激突した――にも関わらず。
勝利したのは小柄な女騎士ブラダマンテだったのだ。
(この感触……まるであの時のようではないか……!
パリを陥落せしめた折、アストルフォに挑まれた時と同じッ……!)
名馬バヤールから振り落とされ、盛大に地面に転がったように見えたグラダッソであったが。
凄まじい衝撃音にも関わらず、咄嗟に受け身を取ったらしい。間を置かず即座に起き上がっていた。
一方ブラダマンテであるが――巨漢の荒ぶる王に浴びせた戦槍は、半ばから折れてしまっていた。もはや使い物にならない。
(やっぱりこうなるか。いくら『黄金の槍』の感覚を掴んでいても……今手にしている槍はそうじゃない。
あんな巨体を突き崩したんだから、ガタが来て当然よね……
でも当初の目的は果たしたわ。グラダッソをバヤールから引きずり降ろさない事には、勝負にすらならないもの……!)
ブラダマンテは油断なく下馬し、両刃剣を構えた。
グラダッソに白兵戦を挑む為だ。再びバヤールに乗られたら、今度こそ勝ち目はない。
「お主は――クレルモン家のブラダマンテだったな?
よくここまで来れたものだ。マンドリカルドはどうした?」
「あいつなら……死んだわ」
女騎士は出来うる限り冷徹に言い放つ。
落馬したとはいえ、相手は7フィート(約2.1メートル)近い。体格差から来る威圧感は相当なものだ。
「マンドリカルドを退けるとは……噂よりも腕が立つようだな、女騎士よ!
だがこのグラダッソに挑戦する以上、覚悟を決めてもらうぞ。
女好きの彼奴と違い――儂はお主に対し手加減などする気はない」
「でかい図体の割には、口ばかり達者なのね。セリカンの王様?」
ブラダマンテの挑発に、グラダッソのこめかみに青筋が浮かび上がった。
「よかろう――お主を退けねば、オルランドを殺せぬようだからな!
言葉ではなく、この不滅の刃にて相手をしてやろうぞッ!」
セリカンの荒ぶる王は、オルランドの所有物であった武器を掲げた。
鎧では防げず、絶対に砕けぬという恐るべき聖剣。まともに戦えば彼女とてただでは済まないだろう。
(でも、負けられない。ここまでの活路を切り拓いてくれたロジェロやメリッサ、そしてマラジジさんの為にも!)
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十数分ほど前。
暗黒空間を脱した直後、グラダッソ兵に囲まれ絶体絶命に陥ったブラダマンテ達を救ったのは……意外な事に、先刻まで敵に回っていた魔術師マラジジであった。
「マラジジ、様……? 私たちを、助けて下さいますの?」
予想だにしなかった援軍の申し出に、尼僧メリッサも目を丸くしていた。
「ワシの目的はあくまで、ブラダマンテ様に憑く『悪魔』を退けるというものだ。
今この状況を捨て置けば、ブラダマンテ様はおろか、将来結ばれるロジェロ殿も命を落としかねん。
ならば助勢する他はあるまい?」
灰色ローブの老人マラジジはそう言って、悪戯っぽく微笑んだ。先刻まで死闘を繰り広げていた敵とは思えない、茶目っ気のある顔だ。
彼の立場はシャルルマーニュの血縁であり、れっきとした十二勇士の一人。フランク勢に味方するのが本来の役目であった。
ブラダマンテはロジェロに近づき、囁くように言った。
「ロジェロ……いえ、黒崎。悪いけど、ここは任せられる?」
「……グラダッソを追うのか? 司藤」
黒崎の問いに、ブラダマンテ――司藤アイは頷いた。
「ええ。あいつは今、リナルド兄さんの馬バヤールに乗っているんでしょう?
あの化け物馬に跨っている限り――例えオルランドでも、まともに挑めば勝ち目はないわ。
今のグラダッソに対抗できるのは……恐らくは、わたしだけ」
「そうか、分かった。それなら――」
黒崎は笑みを浮かべて、快く彼女を送り出してくれた。
かくしてグラダッソ兵の包囲を突破し、ブラダマンテはひた走ったのである。
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オルランドの正気を取り戻すため、あるいは殺すため。
数多くの人々の思惑と力、そして命が絡み合い――今はとうとう、単純な事象に落ち着いた。
すなわち、女騎士ブラダマンテとセリカン王グラダッソの一騎打ち。
この戦いに決着がついた時――大勢は決するだろう。
「後悔するなよ、クレルモン家の小娘ェ!」
先に仕掛けたのはグラダッソだ。聖剣デュランダルの力を頼みに、無造作に踏み込んでくる。
ブラダマンテのスピードに比べれば幾分緩慢な動きだが、その巨体と怪力を利用し、彼女の逃げ場や反撃を封じる構えだ。
加えてデュランダルに備わる力――並みの鎧兜では防ぐ事すらできぬ斬撃。
女騎士に有利な要素は何一つないかに思えた。
ところが――
鋭い金属音と共に、グラダッソの一撃が斜めに逸らされた。
ブラダマンテが手にした両刃剣で切り払い、軌道を曲げたのだ。
「……何、だとォ!?」さしものセリカン王も驚愕する。
並みの鎧兜で防げぬという事は、剣を使って受け流すのも至難の業なのだ。
しかしよく見れば――ブラダマンテの携える武器は、ただの剣ではなかった。
「当てが外れた? これは魔剣ベリサルダよ。ロジェロから借り受けてきたッ!」
かつてロジェロ自身、オルランドに挑んだ際に互角の戦いを可能にした、魔女ファレリーナの鍛えし剣。
黒崎はアイを送り出す際、魔剣を彼女に譲り渡したのだ。
「この魔剣とて、いかなる魔法の防護も貫く魔力を秘めている! いざッ!!」
今度はブラダマンテが魔剣を振るい、グラダッソに攻勢をかける番であった。
大振りなセリカン王と違い、小刻みな突きの連続。きめ細やかな女騎士の攻めは敵の反撃を寄せ付けない。
力任せにデュランダルを振るおうにも、隙の大きい動きはブラダマンテの格好の標的となる。
「……調子に、乗りおってェ!」
グラダッソは業を煮やし、強引に前に出て聖剣を振るおうとした。
それを見逃す彼女ではない。素早く踏み込み、懐近くに跳び上がるような動きで、魔剣を振るった!
鮮血が舞う。女騎士の剣は王の首を斬り裂いた。
(手ごたえはあった。でも浅いッ……これは、誘い込まれた!?)
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