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第8章 ランペドゥーサ島の決戦
4 スペイン最強の騎士、フェロー
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三対三の決闘――原典とはメンバーが随分違うが、司藤アイ達が迷い込んだこの魔本世界においても、それは発生した。
心地良い陽光とそよ風が吹き、透き通るような美しい海に囲まれた――イタリア最南端の島・ランペドゥーサ。最南端すぎてぶっちゃけ北アフリカからの方が近いのは内緒だ。
余談だが北に位置する地中海最大の島・シチリアはこの当時、東ローマ帝国領である。
「このフェローの名を聞いても物怖じせず、決闘に参戦するその意気や良し!」
巨漢の髭面男――スペイン最強の騎士フェローは、褐色の巨馬に跨り、並みの男三人分の筋力は要るであろう巨大な戦槍を構えた。
彼はオルランドと同様、いかなる刃物にも傷つかない鋼鉄の肉体を持つとされる英雄である。
「あー、フェロー? 一応この決闘、皆で一斉に戦っていい形式だから」
アグラマンから声がかかる。
「勝ち抜き戦とかじゃないわよ? アタシもまだ武器とか準備してないし、そんな慌てなくても――」
「心配ご無用! 我が大王よ!」フェローは濁声でカラカラと笑って返した。
「先の戦も我が辣腕、存分に振るう機会がなく……俺も欲求不満だったのだ!
宿敵オルランドがここにいないのは残念だが、三対一なら丁度良いハンデとなるだろう!
貴様ら全員、まとめてかかってくるがいい! このフェローひとりで存分に相手して見せようぞ!」
「ちっ。完全にこっちをナメてやがるな、フェローの奴」
ロジェロ――黒崎八式は舌打ちした。実力を侮られたのが不満なのではない。
ここまで挑発的な態度を取られてしまうと、確実に黙ってはいられない人物が、こちらにはいるのだ。
「大した自信だな、フェロー殿!
よかろう、ならばこちらも我が全力を以て応えようではないか!」
マルフィサは心底嬉しそうに、巨大な黒馬アルファナに跨り――フェローの宣戦を受けて立つべく、戦槍を同じく構えた。
もともと戦いを希求する余り、実力ある三人の王をこの手で捕える、という誓いを立てたほどの女傑である。
「ロジェロ兄さんもブラダマンテも、手出し一切無用!
いかなスペイン一の強豪といえど、このマルフィサ逃げも隠れもせん!
いざ尋常に勝負だッ!」
予想通り過ぎる展開に、ロジェロもブラダマンテも肩をすくめた。
ロジェロにとって生き別れの妹ではあるが、こうなってはもう止めようがない。
「あ~~~~……こいつらホント、人の話ちっとも聞かないわねェ」
アグラマンは呆れ声を上げたが、やがて諦めたのか……ソブリノに後を任せ、己の天幕に一旦引っ込んだ。決闘前の装備の準備など、色々とあるのだろう。
「ほう……マルフィサ。そなたがあのインドの王女マルフィサなのか」
フェローは感心した声を上げた。
「同じサラセンの軍人として、そなたの武勇は聞き及んでいるぞ。
相手にとって不足なし――!?」
スペイン最強の騎士の言葉と動きが突如、止まった。
丁度マルフィサが不死鳥の兜の目庇を上げ、目元が露になっていたのである。
「……どうしたフェロー殿」
「…………ふつく、しい…………」
「……? 何をボーッとしている。さっきまでの威勢はどうした?
来ないのなら、こちらから行くぞ!」
「…………お、おう…………」
マルフィサが馬を走らせるのに合わせ、フェローも同じく馬を駆る、が……
先刻までと異なり、その動きには気合も覇気も全く感じられない。
「……ねえ黒崎。あのフェローって人、何か様子おかしくない?」
ブラダマンテ――司藤アイは怪訝に思ったのか、こっそり耳打ちしてきた。
黒崎も何となく事態の異常さを察してはいたが――彼が何か口を開く前に、もう戦いは始まり……そして終わっていた。
雄叫びと共にマルフィサが突き出した槍の一撃に、スペイン最強の騎士は為す術もなく突き倒され――無様に地面に転がっていたのだ。
辺りに漂う、気まずい沈黙。決闘の参加者はおろか、双方の従者たちですら何を言うべきかも判らず硬直している。
一番驚いているのは、全く手ごたえもなく勝利してしまったマルフィサ自身なのかもしれない。
当のフェローはといえば、激しく落馬したにも関わらず――持ち前の鋼鉄の肉体のためか、かすり傷ひとつ負っていない。
ただ幸せそうな表情のまま、うわごとをブツクサ呟いていた。
「なんと麗しき瞳と美しく健康的な肌であろうか……斯様なマラク(註:イスラム教圏で天使の意)の如き女人が世に存在したとは……!
このフェロー、槍を交える前からすでに敗北していた……あの素晴らしい瞳が、我が心を射抜いてしまったのだ……!」
スペイン最強の騎士フェロー。彼は美姫アンジェリカが初登場した御前試合で、彼女の弟を打ち破り求婚したものの――その見た目からすげなくお断りされ、逃亡されたという経験を持つ。
鍛え抜かれた鋼の肉体と絶倫の武勇を以て、最強騎士オルランドとも互角の戦いを繰り広げるほどの猛者であるが……実は見目麗しい女性にとことん弱かった。
「ええい、何だ今のへっぴり腰はッ! 貴様それでもスペイン一の騎士かァ!?」
治まらないのはマルフィサである。こみ上げる怒りを隠そうともせず、仰向けに倒れたままのフェローを足蹴にした。
「気に入らんぞ! やり直しを要求する!
こんなふざけた戦いを我が誉れなどと、言える訳がないだろうッ!」
「ああッ……特に痛くないけど……美女に足蹴にされる屈辱……癖になりそうだッ……!」
目も当てられない程、緊張とは無縁の空気が蔓延し――フェローは彼の従者が、マルフィサはロジェロがそれぞれ戦場から引っ張り出し、無理矢理に退場させた。
「…………えぇえ…………」
ブラダマンテが呆れ果てたのは言うまでもない。
**********
しばらくして、天幕に引っ込んだアグラマン大王が外を見やり、呑気そうな声を上げた。
「……あら? フェローの奴もしかして、もう負けちゃったの?」
「はい、大王様。敵方のインド王女マルフィサ殿、卓抜した武勇にてフェロー殿を下しました故」
一部始終をハッキリ見ていた筈なのに、老将ソブリノは顔色ひとつ変えず、事実のみを報告した。ある意味肝が据わっている。
「まァいいわ。気を取り直して第二ラウンドと行きましょうか――」
天幕から現れた、完全武装のアグラマンの偉容に――ブラダマンテとロジェロは思わず息を飲んだ。
アフリカ大王は白馬に跨り――なんと両の手に一本ずつ槍を携えていた。二刀流ならぬ二槍流、という奴である。
心地良い陽光とそよ風が吹き、透き通るような美しい海に囲まれた――イタリア最南端の島・ランペドゥーサ。最南端すぎてぶっちゃけ北アフリカからの方が近いのは内緒だ。
余談だが北に位置する地中海最大の島・シチリアはこの当時、東ローマ帝国領である。
「このフェローの名を聞いても物怖じせず、決闘に参戦するその意気や良し!」
巨漢の髭面男――スペイン最強の騎士フェローは、褐色の巨馬に跨り、並みの男三人分の筋力は要るであろう巨大な戦槍を構えた。
彼はオルランドと同様、いかなる刃物にも傷つかない鋼鉄の肉体を持つとされる英雄である。
「あー、フェロー? 一応この決闘、皆で一斉に戦っていい形式だから」
アグラマンから声がかかる。
「勝ち抜き戦とかじゃないわよ? アタシもまだ武器とか準備してないし、そんな慌てなくても――」
「心配ご無用! 我が大王よ!」フェローは濁声でカラカラと笑って返した。
「先の戦も我が辣腕、存分に振るう機会がなく……俺も欲求不満だったのだ!
宿敵オルランドがここにいないのは残念だが、三対一なら丁度良いハンデとなるだろう!
貴様ら全員、まとめてかかってくるがいい! このフェローひとりで存分に相手して見せようぞ!」
「ちっ。完全にこっちをナメてやがるな、フェローの奴」
ロジェロ――黒崎八式は舌打ちした。実力を侮られたのが不満なのではない。
ここまで挑発的な態度を取られてしまうと、確実に黙ってはいられない人物が、こちらにはいるのだ。
「大した自信だな、フェロー殿!
よかろう、ならばこちらも我が全力を以て応えようではないか!」
マルフィサは心底嬉しそうに、巨大な黒馬アルファナに跨り――フェローの宣戦を受けて立つべく、戦槍を同じく構えた。
もともと戦いを希求する余り、実力ある三人の王をこの手で捕える、という誓いを立てたほどの女傑である。
「ロジェロ兄さんもブラダマンテも、手出し一切無用!
いかなスペイン一の強豪といえど、このマルフィサ逃げも隠れもせん!
いざ尋常に勝負だッ!」
予想通り過ぎる展開に、ロジェロもブラダマンテも肩をすくめた。
ロジェロにとって生き別れの妹ではあるが、こうなってはもう止めようがない。
「あ~~~~……こいつらホント、人の話ちっとも聞かないわねェ」
アグラマンは呆れ声を上げたが、やがて諦めたのか……ソブリノに後を任せ、己の天幕に一旦引っ込んだ。決闘前の装備の準備など、色々とあるのだろう。
「ほう……マルフィサ。そなたがあのインドの王女マルフィサなのか」
フェローは感心した声を上げた。
「同じサラセンの軍人として、そなたの武勇は聞き及んでいるぞ。
相手にとって不足なし――!?」
スペイン最強の騎士の言葉と動きが突如、止まった。
丁度マルフィサが不死鳥の兜の目庇を上げ、目元が露になっていたのである。
「……どうしたフェロー殿」
「…………ふつく、しい…………」
「……? 何をボーッとしている。さっきまでの威勢はどうした?
来ないのなら、こちらから行くぞ!」
「…………お、おう…………」
マルフィサが馬を走らせるのに合わせ、フェローも同じく馬を駆る、が……
先刻までと異なり、その動きには気合も覇気も全く感じられない。
「……ねえ黒崎。あのフェローって人、何か様子おかしくない?」
ブラダマンテ――司藤アイは怪訝に思ったのか、こっそり耳打ちしてきた。
黒崎も何となく事態の異常さを察してはいたが――彼が何か口を開く前に、もう戦いは始まり……そして終わっていた。
雄叫びと共にマルフィサが突き出した槍の一撃に、スペイン最強の騎士は為す術もなく突き倒され――無様に地面に転がっていたのだ。
辺りに漂う、気まずい沈黙。決闘の参加者はおろか、双方の従者たちですら何を言うべきかも判らず硬直している。
一番驚いているのは、全く手ごたえもなく勝利してしまったマルフィサ自身なのかもしれない。
当のフェローはといえば、激しく落馬したにも関わらず――持ち前の鋼鉄の肉体のためか、かすり傷ひとつ負っていない。
ただ幸せそうな表情のまま、うわごとをブツクサ呟いていた。
「なんと麗しき瞳と美しく健康的な肌であろうか……斯様なマラク(註:イスラム教圏で天使の意)の如き女人が世に存在したとは……!
このフェロー、槍を交える前からすでに敗北していた……あの素晴らしい瞳が、我が心を射抜いてしまったのだ……!」
スペイン最強の騎士フェロー。彼は美姫アンジェリカが初登場した御前試合で、彼女の弟を打ち破り求婚したものの――その見た目からすげなくお断りされ、逃亡されたという経験を持つ。
鍛え抜かれた鋼の肉体と絶倫の武勇を以て、最強騎士オルランドとも互角の戦いを繰り広げるほどの猛者であるが……実は見目麗しい女性にとことん弱かった。
「ええい、何だ今のへっぴり腰はッ! 貴様それでもスペイン一の騎士かァ!?」
治まらないのはマルフィサである。こみ上げる怒りを隠そうともせず、仰向けに倒れたままのフェローを足蹴にした。
「気に入らんぞ! やり直しを要求する!
こんなふざけた戦いを我が誉れなどと、言える訳がないだろうッ!」
「ああッ……特に痛くないけど……美女に足蹴にされる屈辱……癖になりそうだッ……!」
目も当てられない程、緊張とは無縁の空気が蔓延し――フェローは彼の従者が、マルフィサはロジェロがそれぞれ戦場から引っ張り出し、無理矢理に退場させた。
「…………えぇえ…………」
ブラダマンテが呆れ果てたのは言うまでもない。
**********
しばらくして、天幕に引っ込んだアグラマン大王が外を見やり、呑気そうな声を上げた。
「……あら? フェローの奴もしかして、もう負けちゃったの?」
「はい、大王様。敵方のインド王女マルフィサ殿、卓抜した武勇にてフェロー殿を下しました故」
一部始終をハッキリ見ていた筈なのに、老将ソブリノは顔色ひとつ変えず、事実のみを報告した。ある意味肝が据わっている。
「まァいいわ。気を取り直して第二ラウンドと行きましょうか――」
天幕から現れた、完全武装のアグラマンの偉容に――ブラダマンテとロジェロは思わず息を飲んだ。
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