つっこめ! ルネサンス ~脳筋ばかりの騎士物語! 結婚するまで帰れません!?~

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第8章 ランペドゥーサ島の決戦

3 三対三の決闘

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 アグラマン大王の出迎えに、ロジェロは警戒しながらも挨拶を返した。

「お久しぶり……っていうほど時間は経ってませんが、元気そうで何よりです。
 島にいるのは、あなた方三人とその従者たちだけですか?」

 立場上、上司にして総大将たる人物である。
 普段は口が悪く、ぶっきらぼうな物言いをするロジェロ――黒崎くろさき八式やしきかしこまってひざまずいた。

 そんな彼の様子を見て、隣にいたブラダマンテ――司藤しどうアイはアグラマンを注意深く観察した。
 何気に彼女は、このサラセン帝国軍の首魁と直に会うのは初めてなのだ。

(この人がアフリカ大王アグラマン……不思議な雰囲気の持ち主ね。
 でも分かる……飄々ひょうひょうとしてるけど、両隣にいる騎士たちよりも遥かに強い)

 老将ソブリノも、スペイン最強の騎士フェローも、サラセン武者を代表する歴戦の強者だ。
 常識的に考えて、彼らよりも年若い、総大将の地位を父より引き継いで間もないアグラマンに、これほどの王者の風格が漂っている事など……あり得ない話の筈、なのだが。
 アグラマンは跪くロジェロに「楽にしていいわよ」と促した。

「うん、ここにいるのはソブリノとフェローだけよ。会えて嬉しいわ。
 手紙に書いた通り、三人で来てくれたのねェ~。マルフィサもお久しぶり!
 そしてアナタが……ロジェロの想い人、クレルモン公エイモンの娘ブラダマンテね?」

「えっ……あ、はい。お初にお目にかかります、大王」

 急に名指しされ、ブラダマンテは一瞬戸惑ったが――すぐに気持ちを切り替え、フランク騎士に相応しい儀礼の挨拶を行った。

「結果的に見て、アナタにはロジェロを取られちゃった訳だけど……
 怪訝そうな顔しなくていいわよ。アタシとしては、アナタ達二人には感謝してるのよ」

 アグラマンの口から、意外な言葉が出てきた。
 呆気に取られているロジェロとブラダマンテに、アグラマンは説明を続けた。

「もともとアタシ、この遠征には乗り気じゃあなかったの。
 敵地に進めば進むほど、補給が滞って大軍を維持できなくなってジリ貧になるの、目に見えてたからねェ。
 でもサラセン帝国内にいる、戦利品と武功に目のくらんだ主戦派どもと、エジプトの帝君スルタンの意向で、仕方なくってカンジ。
 要するにアタシも、しがない中間管理職の一人でしかないワケよ」

 アグラマンの告白に、とりわけマルフィサの驚きは大きかったようで……大きく目を見開いたまま沈黙している。

「今は亡きガラマントの爺さんが、ロジェロを『救国の騎士』と予言した理由……やっと分かったわ。
 アナタとブラダマンテが、ウチの主戦派――ロドモン、マンドリカルド、グラダッソ――たちを次々と討ち取ってくれたお陰で、攻勢限界が近づいていた我が軍の説得もやりやすくなった。
 他にも、本国からの補給は滞りがちで、継戦能力もないってお寒い台所事情が、解放された捕虜の口から知れ渡っちゃったせいもあるけどねェ」

 解放された捕虜とは、アストルフォの活躍によってアルジェリアから救出されたデンマーク騎士ドゥドンの事だろう。
 オルランドの正気が戻り、グラダッソが死亡して後――終戦協定の締結はお互いの利害に一致した。
 サラセン側は遠征の限界が来ていたし、フランク側は北イタリア・ランゴバルド王国の不穏な動きに対処しなければならない。手打ちとするには潮時だったのだ。

「まァそんな訳で。ロジェロにマルフィサ。アナタ達をサラセン軍属から、正式に解任するわ。
 もう戦争も終わったワケだし、どこへなり好きな所に行けばいい。但し……」

「ほ、本当か!? 感謝する、アグラマン大王――」

 思っていた以上に円満に解決しそうな話の流れに、ロジェロは顔を輝かせて礼を述べようとした。
 しかしアフリカの大王はその言葉を遮り、指を振った。

「話は最後まで聞いてちょうだい?
 コレでアナタ達は、サラセン側の人間でなくなった。つまり味方じゃあない。
 心置きなく刃を交える事ができるわねェ……」

「ンなッ……どういう事だよ!?」
 豹変したサラセン人たちの態度に、ロジェロは思わず気色ばんだ。

「欲求不満、ってヤツなのよ」アグラマンは言った。
最初ハナから勝ち目のない戦いや、自分勝手な味方連中に振り回されて、ストレスが溜まっちゃってねェ。
 ここらで一発、バーンと発散したいワケ。フェローにもその話をしたら、喜んでついてきてくれたわァ。
 アナタ達も三人、こちらも三人。正々堂々と勝負するには、ちょうどいい人数だと思わない?」

 一国の軍隊を預かる人間にあるまじき、恐ろしく身勝手な言い分である。

「ちょ……いきなり何言ってんのよ!? ここでいきなり決闘始める気?」
 ブラダマンテも雲行きの怪しい展開に、思わず口を挟んだ。
「第一、お互い受ける理由がないわ。ここで一騎打ちとかして、勝った負けたってやった所で、戦争はとっくに終わっちゃってるのに」

「終わってるからこそ、よ。ブラダマンテ。
 単なる私闘なら、お互い国に迷惑かける事もないでしょう?
 ま、互いの合意が無ければ勿論成立しないけれど……断るかしらァ?
 名だたるフランクの勇者として、臆病風に吹かれて決闘を断った……なんて悪評が立たないといいけれど」

 アグラマンは意地悪く言った。
 確かにフランク騎士は決闘の名誉を重んじる。貴婦人からの頼みを断れないのと同様、挑まれた勝負は拒まないのが常識だ。
 不名誉というのもあるが、物語世界の騎士にとって戦いはライフワークであり、娯楽であり、存在証明でもあった。

「あたしもフランク側のメンバーとして数えられているのだな!?」
 この突然の事態に、予想通りギラギラ目を輝かせて嬉しそうなマルフィサ。
「も、もちろんブラダマンテやロジェロ兄さんの意向を優先すべきだが……
 あたし個人としては決闘を受ける事、ちっともやぶさかではないぞ!」

 よもや戦いが起こるとは思っていなかったのだろう。
 降って湧いた好機に、あからさまに目が眩んでいるのだった。

(クソ、こうまで言われちゃ受けざるを得ねえけど……マジでどういう事だ?
 原典じゃ確かに、この島で3対3で決闘する。でもそれは戦争が終わる前の話だったハズだ!
 今この状況で戦う理由もメリットも、アグラマン側にあるとは思えねえ。こいつ一体……何を企んでやがる!?)

 相手の真意が掴めず、黒崎は心の中で歯噛みした。
 決闘の理由は語られはしたものの、余りにもぞんざいな話で、額面通り受け取る事はできない。何より全く彼らしくない。

 だが結局、アグラマンの申し出は受け入れられる事となり――ランペドゥーサ島の遺跡にて、ブラダマンテ・ロジェロ・マルフィサvsアグラマン・ソブリノ・フェローの決闘が始まるのだった。
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