つっこめ! ルネサンス ~脳筋ばかりの騎士物語! 結婚するまで帰れません!?~

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第9章 物語は綻びる

14 アンジェリカたちの決意

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 その日の夜のこと。
 ロジェロとの話を終えた放浪の美姫アンジェリカは、まず愛しき恋人メドロの下を訪れた。
 彼は今寝入っている。長旅で少しやつれただろうか。

 眠ったままのメドロの顔。アンジェリカは起こさぬよう注意深く、そして優しく手を添えた。

(やっぱり今でも、この人へのミンネは変わらない。
 錦野にしきの麗奈れなとしての記憶が蘇った今も、私の中ではメドロが全て。彼と一緒にいる事が、幸せなんだわ)

 物語世界を繰り返し、アンジェリカとして放浪し続け――その度に彼女はメドロと巡り合い、恋に落ちた。
 現実世界の記憶がある今でも、彼と過ごした時間と価値は、かけがえのないものだ。

 アンジェリカは満足げに微笑むと、その場を立ち去り――今度は尼僧メリッサの下へ向かった。

**********

「アンジェリカ様。どうなさいまして?」

 尼僧メリッサは、アンジェリカの来訪を快く迎えた。
 魔女の島で出会った当初は、そこはかとなく言動に棘を感じたものだったが……今はそんな事もない。

「教えて、メリッサさん。
 私やロジェロが『現実世界の魂』を宿している、と知っているのは……貴女の他にもいるの?」

 アンジェリカの問いに、メリッサは考えながら次のように答えた。

「そうですね……私やブラダマンテ、ロジェロ様と共に月旅行したアストルフォ様はご存知です」
「まあ、アストルフォ様も……!」

 アンジェリカの表情がパッと明るくなった。
 先ほどロジェロから聞いた、アトラントの遺言の真意について考えた彼女は――ある推論を思いついた。それが確かなものか見極める為には、アストルフォの協力が不可欠だったのだ。

**********

 アンジェリカはメリッサを伴い、アストルフォの天幕に赴いた。
 フランク騎士随一の美男子イケメンにしてイングランドの王子は、美女二人の来訪を笑顔で出迎えた。

「――こんな夜更けに麗しきご婦人方が揃って、何のご相談かな?
 来る者は拒まずがボクのモットーだけど、二人同時でしかも片方は人妻となると、何だか背徳的だなぁ」
「冗談のつもりでも、そんな寝ぼけた事おっしゃるなら……口と右肩の傷口、縫い合わせるわよ?」

 アストルフォの歯の浮くような軽口にカウンタートークを返すと、青ざめた彼は即座に土下座し謝罪した。
 呆れ顔で嘆息した後、アンジェリカは本題を切り出した。

 美貌の王子から笑顔が消え、見る間に引き締まった表情になっていく。
 彼はアンジェリカの話を聞き終えた後、呪文書を取り出し――善徳の魔女ロジェスティラから譲り受けた、あらゆる術を解除する方法を網羅している書物――中を読んだ。

「……アンジェリカの考え通りのようだね。ドンピシャだ。
 『解除する』方法も、この本の中に載っている。但しこれは――」

 呪文書に記された「解除方法」が彼の口から朗読・説明されると……メリッサもアンジェリカも衝撃を受けた。
 確かにこの方法を実行すれば、黒崎ロジェロの抱えている問題の対策となるだろう。
 しかし……

 三人の間に、しばらくの沈黙が続いた。が……

「……やろう。他に方法がないんじゃ、仕方ない事だ」

 最初に口を開いたのは、アストルフォだった。

「……! 仕方ない、で済む話ですの?」
「少なくともボクはそう思う。アンジェリカ――いや、麗奈れなさんの言葉が正しいのなら、他に選択の余地はない。後はボク達が覚悟を決められるかどうかだ」

 迷いなきイングランド王子の発言に、女性二人は目を見開いた。
 確かにこの状況では、彼の言い分は正論だが……よもや彼が「一番最初に」決心できるとは、思いもよらなかったのだ。
 やがてメリッサは、アンジェリカの方を向いていた。

「アンジェリカ様も、そう思いますの?」

 彼女も本当のところは、ショックから立ち直れていなかったが――それでも震えながら頷いた。

「ならば黒崎ロジェロ様には、お尋ねしましょう。私の方から」メリッサは言った。

**********

 翌朝、ロジェロ一行が旅を続けていると。
 ロジェロの妹マルフィサが、迫り来る気配を察知し、皆に警戒を促した。

「何だ……? 『怪物』か?」
「そうではない。しかし――こちらに来る。しかも複数だ」

 マルフィサは表情を引き締め、油断なく武器を構えて待ち受ける。

(『合図』を送ったのは昨晩でしたのに、思っていたよりずっと速いですわね)

 メリッサは来訪者の正体を知っていた。
 現れたのは黒いフードを纏った集団。魔術師マラジジに仕える隠密集団「アシュタルト」である。

「何だてめェら? 今更オレたちに何の用――」
「戦いに来た訳ではない。我らが用があるのは、メリッサに対してだけだ」

 「アシュタルト」は言い放つ。するとメリッサはロジェロの隣に立ち――そっと近づいて彼に囁いた。

「申し訳ございません、ロジェロ様。私が彼らを呼び出したんです。
 彼らやマラジジ様に会って――どうしても知りたい事が、できましたので」
「メリッサ、お前……」

 ロジェロ――黒崎くろさき八式やしきは、メリッサの顔が近い事もあって、年相応に気分が落ち着かなかったが……彼の言葉を遮り、彼女は続ける。

「黒崎様。本音をお聞かせ下さいませ。
 たとえどんな困難が待ち受けていたとしても――司藤しどうアイ様と共に、元の世界にお帰りになりたいですか?」
「…………ッ!?」

 黒崎は顔を強張らせた。こんな質問をしてくるという事は、すでにメリッサも「一人しか帰れない」という事実を知っているに他ならない。

「アンジェリカから……聞いたのかよ。その話……!」
「いかがです、ロジェロ様?
 本音を、本心を――どうかメリッサにお聞かせ下さい」

 重ねて懇願するように囁く尼僧。
 ロジェロは吐息が届く距離にどぎまぎしながらも、絞り出すように――言った。

「そんなの……当たり前、だろッ……みんなで帰れなきゃあよ……
 これまで一体何のために、命懸けで戦ってきたのか……わかんねえし……
 司藤しどうだってきっと、この話を知ればオレと同じように、思うハズさ」

 メリッサは満足げに微笑んだ。嘘偽りない、黒崎の魂の吐露だと確信した。

(そのお言葉を聞きたかったのです。これで私も――迷いが消えました)

「おい。どういう事だ、メリッサ……?」

 なおも問いかけるロジェロ。メリッサは――重ねた身体を離して歩き出す。

「私はこれから『彼ら』アシュタルトとの用事を済ませてきます。一旦ここでお別れです。
 ですが必ず戻ってきます。それまで待っていて下さい、黒崎ロジェロ様。
 ブラダマンテにもお伝え下さいませ。望みを最後まで、お捨てなさいませぬよう――」

 「アシュタルト」たちはメリッサを伴い、風のように消え、立ち去っていった。
 狐につままれた心地のまま、数日後――ロジェロたち5人は東ローマ帝国の国境にほど近い、ベオグラード(註:現セルビアの首都)に到達した。
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