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掌編小説

描いた夢

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 覚えてる?
 幼い頃に描いた夢を。
 ボクは幼い頃、【ウ*トラマン】か【看護師】になりたかった。

 でも、違ったんだよね。
 ボク等は大人になるにつれて、何がなんでも大切なものだったのかを忘れてしまうから。
 ボクは今、【小説家】か【保育士】になりたい。

 でも、それも違ったんだ。
 もしも“今日”がなかったら、ボクはずっと忘れてた。
 君たちに出会えたことを本当に感謝するよ。
 君たちがボクが幼い頃、最初に描いた夢を思い出させてくれたんだ。

 思い出したんだ、T先生……。
 ボクが幼稚園児だった頃の担任の先生で、こんなボクが唯一甘えられた存在だった。
 T先生はいつも優しくて笑顔が絶えない人で、ボクは大好きだった。

『T先生みたいな人になりたい』

 それがボクが描いた初めての夢だったんだ。
 でも、ボクの担任になってから一年後にはT先生は幼稚園の先生を辞めた。
 ボクの居場所は突然無くなって、ボクはずっと泣いていた。
 自分の殻に閉じ籠もったのは、それからだっけ?
 ―――ボクはT先生のことは忘れなくても、自分の夢を忘れてしまったんだ。

 だけど今日、君たち…子どもたちと触れ合って思い出せた。
 ボクは将来、T先生みたいな【幼稚園の先生】になりたい。
 子どもたちと触れ合って、いつまでも大切なことを忘れない為に―――…。

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