上 下
14 / 244

14話 町へ向けて 5

しおりを挟む

 あらためて自分のいる場所を見回す。
周囲は完全に森に囲まれており、その中にポッカリと20mほどのほぼ円形の草地が広がっている。
 家と逆の方向にある町方面の森を見る。
鬱蒼と木が茂り、中は昼間なのに暗い、細い木やいびつな木もあちこちに見られて、この森が町に近いのに、人の手が入っていない事をうかがわせる。

 家の方向を見る。
こちらも背後は森だが、こっちの森は比較的木が少なく、中も明るい。その先は山々に覆われており、軽く雪化粧を施されている見た目から、そこそこの標高はあるんだろう。

 家の周りを見る。
家の右手には寄り添うように薪の置き場が、その隣には小さな畑が見える。
 家の左手には、木製の丈の低い柵に囲まれた場所。これは【オレが作った両親の墓】だ。



 転生前に色々と、なるべく目立たない為の予防線を考えていた。
 その中には、【転生者】には無いが当然存在するはずの【これまでの生い立ち】も含んでいる。ストーリーは、

ーーーーーーーーーーーーーーー
 人付き合いの煩わしさから逃れる為、人の立ち入らない森の中に居を構えた、エルフと人間の夫婦と、その間に生まれたハーフエルフの子供。
 両親が森で魔獣に殺され、一人での生活に限界を感じ、町に降りて来た。
ーーーーーーーーーーーーーーー

というものだ。

 ストーリーに無理は無く、実際に目の前にある家は、隠れ住んでいた隠者の庵で、ティナが低級神に指示し、他所から運ばせた物だ。

 墓に入っている両親も、実際に人里離れた場所に住んでいた夫婦で、身寄りも無く既に二人とも転生している事もあり、こちらに引っ越してもらった。
 一応ストーリー的には【両親は2年前に魔獣に殺された】という事になっているので、死体にはそのように見えるよう"加工"が施されている。

 …倫理観的にかなりグレーな気もするが、もしオレの来歴を勘ぐる者が現れて、墓を暴きでもされれば、辻褄が合わなくなってしまうので仕方がない。

 外の確認は終わったので、家に入る。
 家も調度品も全体的に古めかしいが、手入れがされていて【人のいた気配】を感じる。

 台所には竈と水瓶、大きなベッドと隣に並んだ一回り小さなベッド、石を敷き詰めた床の小部屋はトイレと水浴び場?、ダイニングテーブルの隣には、作業テーブルが2つに本棚。

(……)

 元々の内装は、これほどまでストーリーにぴったりハマるものだったのだろうか?
 何となく下級神の苦労が偲ばれるが、主神様の命令だ。諦めて受け入れて欲しい。



 ふと作業スペースの壁にあるそこそこ大きな鏡に目がいく。
そういえばまだ外見は未確認だった。


 ゆっくりと近づき、ビクッとして足が止まる。半分放心しているが、それでも近づいていき鏡の前に立つ。



 そこには【藍色の髪の少年】が映っていた。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

秘密宴会

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:163pt お気に入り:8

交差点の裸女

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:220pt お気に入り:1

グローリーホール(ラッキーホール)寝取らせ

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:177pt お気に入り:32

【完結】真実の愛はおいしいですか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,681pt お気に入り:210

無敵チートで悠々自適な異世界暮らし始めました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:454pt お気に入り:2,518

処理中です...