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14話 町へ向けて 5
しおりを挟むあらためて自分のいる場所を見回す。
周囲は完全に森に囲まれており、その中にポッカリと20mほどのほぼ円形の草地が広がっている。
家と逆の方向にある町方面の森を見る。
鬱蒼と木が茂り、中は昼間なのに暗い、細い木やいびつな木もあちこちに見られて、この森が町に近いのに、人の手が入っていない事をうかがわせる。
家の方向を見る。
こちらも背後は森だが、こっちの森は比較的木が少なく、中も明るい。その先は山々に覆われており、軽く雪化粧を施されている見た目から、そこそこの標高はあるんだろう。
家の周りを見る。
家の右手には寄り添うように薪の置き場が、その隣には小さな畑が見える。
家の左手には、木製の丈の低い柵に囲まれた場所。これは【オレが作った両親の墓】だ。
転生前に色々と、なるべく目立たない為の予防線を考えていた。
その中には、【転生者】には無いが当然存在するはずの【これまでの生い立ち】も含んでいる。ストーリーは、
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人付き合いの煩わしさから逃れる為、人の立ち入らない森の中に居を構えた、エルフと人間の夫婦と、その間に生まれたハーフエルフの子供。
両親が森で魔獣に殺され、一人での生活に限界を感じ、町に降りて来た。
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というものだ。
ストーリーに無理は無く、実際に目の前にある家は、隠れ住んでいた隠者の庵で、ティナが低級神に指示し、他所から運ばせた物だ。
墓に入っている両親も、実際に人里離れた場所に住んでいた夫婦で、身寄りも無く既に二人とも転生している事もあり、こちらに引っ越してもらった。
一応ストーリー的には【両親は2年前に魔獣に殺された】という事になっているので、死体にはそのように見えるよう"加工"が施されている。
…倫理観的にかなりグレーな気もするが、もしオレの来歴を勘ぐる者が現れて、墓を暴きでもされれば、辻褄が合わなくなってしまうので仕方がない。
外の確認は終わったので、家に入る。
家も調度品も全体的に古めかしいが、手入れがされていて【人のいた気配】を感じる。
台所には竈と水瓶、大きなベッドと隣に並んだ一回り小さなベッド、石を敷き詰めた床の小部屋はトイレと水浴び場?、ダイニングテーブルの隣には、作業テーブルが2つに本棚。
(……)
元々の内装は、これほどまでストーリーにぴったりハマるものだったのだろうか?
何となく下級神の苦労が偲ばれるが、主神様の命令だ。諦めて受け入れて欲しい。
ふと作業スペースの壁にあるそこそこ大きな鏡に目がいく。
そういえばまだ外見は未確認だった。
ゆっくりと近づき、ビクッとして足が止まる。半分放心しているが、それでも近づいていき鏡の前に立つ。
そこには【藍色の髪の少年】が映っていた。
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