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103話 幕間 時の狭間 1

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ーーー冒険者ギルド長室ーーー

バァン!
 扉が音を立てて勢いよく開き、職員がなだれ込んで来る。


「なんですか!騒々しい!」

「が、ガリオス"元"教官が平民街大通りでリルトさんを襲いました!」


ガタァン!
 セリアナが勢いよく立ち上がり、椅子が倒れる。


「!! 状況は?!」

「見ていた冒険者の話では、リルトさんは防御したようですが間に合わず、手刀を左胸に受け使役獣と共に近くの店に吹き飛ばされたと。
 リルトさんは大量に出血していて、抱いたまま離さない使役獣と共に意識不明です!」

「なんて事なの…! 治療は?!」

「"神命を受けた"と言う高位神官が駆けつけて現在治療中です」

「"神命"?リルトさんは一体…

 あ! そういえば"あの子"はどうしたの? ガリオスを見張っていたんじゃなかったの?」

「いえ、現場に衛兵といました。
 まさか人だかりの中で突然凶行に走るとは思わず、取り押さえるのに一歩間に合わなかったようです」

「そう…」




ーーー王都大神殿ーーー

…ズ、ズズズ、ピシッ、パラ、パラ…



 シスターが駆け込んでくる。
「司教様!やっぱり外も大神殿の他の部屋も揺れていません!ここだけが揺れています!」

「な、何が、…一体何が起きているんだ!?」



 オルガスティア王国最大の礼拝殿は揺れていた。
 10mはある5体の大神像も揺れ、あちこちにヒビが入り、崩れた欠片が降り注いでいる。



「あああぁ!、し、司教様!あれを!」

 シスターが震える指で差す先、並び立つ像の一体、時間と空間を司る女神の像から血の涙が流れ出している。

「な、なんて事だ…神に涙、血の涙を流させるような事が起きているのか?」


 呆然と立つ司教の周囲では、泣きながら床に頭を擦り付け祈りを捧げる神官達の姿が。


「大司教様はまだ戻らないのか?」

「"神命を受けた"と言って飛び出して行ったまま、お帰りになってません」




「大司教様の行った先に、この答えがあるのか…」
 司教はただ外に繋がる窓を見上げる事しか出来ない。



ーーー???国・中央管制室ーーー

「ダメです!商船、軍船、全ての飛空艇が出力低下を起こしています!原因不明です!」

「とにかく全機高度を下げ、どこかに不時着するように伝えるんだ!」

「通信も不安定で上手く繋がりません!」

「とにかく全員で全てのチャンネルを使って呼び掛け続けろ!
 特に"未開大陸"に向かっていた特務部隊2機は何としても不時着した位置を聞き出すんだ。
 飛竜部隊で届く距離か分からんが、放っておけばどうなってしまうか…」


 騒然とした室内で、指示を出していた男に近づく職員の一人。


「室長、これを見て下さい【アイテムボックス】」

 職員がかざした手の先には、大きくなったり小さくなったりを繰り返す歪んだ楕円形の藍色の魔力。




「"空間属性"魔力に何かが起きている?」




ーーー神界ーーー

「ティナ様!ティナ!落ちついて!」


 マルティアルが揺さぶるが、ティナは画面に映る血の海に倒れるリルトを見ながら涙を流し続けている。
 ティナから勢いよく溢れる魔力が室内を満たし、ギシギシと音を立てきしませる。


「ティナ!リルトさんは大丈夫です!私があの大司教に魔力を送り続けていますから、回復魔法が途切れる事はありません!」


 ティナの魔力が揺らぎ、マルティアルを見る。


「あの悪意に晒されて、もし、もし死んでしまったら…傷付いた魂は…リルトは強制的に"輪廻の輪"に流されて…あ、あぁ…」



ピキッ!



 突然執務室の窓際の空間にクモの巣状にヒビが入り、窓も、床も、天井も全てがバラバラと崩れていき、そこにはポッカリと何も無い黒い穴が開く。

 その虚無の黒い穴の奥からゆっくり近づき現れたのは、2mはある巨大な瞳。


 瞳はキョロキョロと室内を見回すと、ティナを凝視する。

 と、突然糸が切れた人形のように膝から崩れて倒れそうになるティナをマルティアルが抱き止める。


 マルティアルは巨大な瞳に目線を合わせる。
「…父上」


「やられたね」
「え?」


「狙われたんだよ、ほら」
 瞳の方向をマルティアルが見ると、先ほどまでリルトが映っていた画面には、近くで捕らえられ鎖で雁字搦がんじがらめにされたガリオスの姿が、その画面にはいくつかの小さなウィンドウに何か表示されている。


「これは! "悪神"の波動!」

「意志の波動は"あそこ"に封じていても止められないからね、あの獣人の元々持っていた悪意を増幅させたんだよ。

 神界は僕が障壁を張ってるから覗かれないけど、あのオッサン…今はエルフ子供か、を神界からサポートしてたでしょ? アレに気付いて特に意味も無く嫌がらせ、ってトコかな?」

「そんな…」

「まぁ、悪神が引き起こした事態は創った僕の責任だからね、世界の調整は僕がしておくよ。
 キミはその娘を休ませてやって」

 空間に開いた穴は何も無かったかのように消え失せる。


「大丈夫、大丈夫だから…」
 マルティアルは意識を失ったティナの背中を優しく撫でながら画面を見る。
 画面ではリルトが担架に乗せられ運ばれている。




「大丈夫…」



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