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104話 幕間 時の狭間 2
しおりを挟む王都は騒然とし、不安に包まれている。
王都中でも一番人通りの多い平民街の大通りで昼日中に起きた凶行。
たくさんの人が現場を見ていた。
そしてそれは大神殿にも言える事だった。
参拝に来ていた一般人も多く、礼拝殿で起きた異常も、穏やかな人柄で知られる大司教が"神命"を口にして駆け出して行った事も多くの人が目撃していた。
目撃者、冒険者、参拝客、様々な情報があっという間に集まり、噂話とは言えないレベルの正確な話が王都を駆け回る。
人々は不安を口にする。
「神託を降ろしてまで守ろうとする人物を傷つけ、この国に神罰が落ちるのではないか?」
当然の事ながら関係者達の耳にもすぐにリルトの状況は耳に入ったが、大司教がリルトを大神殿の奥に運び込み、参拝も一時不可として厳重に閉じ籠ってしまった為に、面会が叶う者はほとんどいなかった。
ーーーーーーーーーー
「セリアナギルド長…」
片付け清められた礼拝殿の隅で祈りを捧げていたセリアナは、呼び掛けに振り向く。
「わ、ワーディル老…」
そこには、4000年を生きてさえ失われない強い眼力を携えたエルフの重鎮がいた。
ワーディルファルディール、"自然派"を束ねていると言っても過言ではない大国【ラートリア森林同盟国】の元宰相。
今でもその発言力は絶大で、
「外交の為この国を訪れたエルフの役人は、まずは王宮に行かず小さな魔道具店に赴く」
と言われるほどだ。
「冒険者ギルドともあろう組織が、ずいぶんと失態を犯したものだな。
…君の事も少し買い被っていたか?」
エルフの口調には明らかな怒りが含まれている。
「も、申し訳ございません、全ては私の不徳と致すところでございます。
ワーディル老は…リルトさんと面識が?」
「リルトとは先日偶然知り合ってね。
精霊に愛され、才覚に恵まれながらも増長しない、気持ちのいい若者だ。
魔法も、魔道具作りもこれから色々と教えていこうかと思った矢先に…」
「…本当に申し訳ございません」
「リルトには会ったのかい?」
「…いえ、ロンドル大司教は、
"リルトさんが目覚めてギルドの失態を許すか、ギルドが神に弓引く組織では無いと確認出来るまでは、ギルド関係者は面会させない"
と…」
「そうか…
君はもう仕事に戻るといい、祈るよりもギルドの体制の不備を見直すのが君のすべき仕事だ」
「…はい」
神官に案内され奥の扉へ消えていくワーディルを見送ったセリアナは、"血の涙を流していた"と言われるディメンティーナの像を見上げる。
「ディメンティーナ様…私が…全ては私のせいなのです。
一騎討ちを挑んできたガリオスをパルディオに屈伏させ、あの男の中にパルディオへの、精霊獣への消えない憎しみがある事を知りながら放置してきました。
私が真剣に向き合わなかった事が彼をねじ曲げ、関係の無いリルトさんが被害を受けてしまいました…」
「私は、一体どうすれば…」
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