137 / 244
137話 幕間 希望の行方 1
しおりを挟む「いゃあ、最初に申請してから半年なんだって?
待たせちまって悪かったなナザリオ殿。
あの時はこっちもバタバタしててなぁ」
「いえいえ陛下、私共の方でもその時はごたごたしておりましたので。
半年経ったのは私共の都合ですのでご心配なく」
オルガスティア城、その最奥に近い場所にある応接室。
通常の応接室とは違い王族が肩肘張らずに語らう為のみに使用される部屋で、権威などを気にする事なく華美ではないが質の良い調度品で落ち着いた雰囲気にまとめられている。
部屋にはナザリオ、その背後には執事が控え、向かいの席には国王ランドルフ、宰相マリウス、そして王妃リーナフェルエルート、通称リナ王妃が座っている。
「王妃様もお久しぶりでございます」
強い風属性に光る若草色の長い髪を煌めかせながらエルフの王妃が笑顔で応える。
「久しぶりねナザリオ殿、私、パリエルス商会が謁見許可を取ってまで自ら商品を紹介しに来ると聞いてずっと気になっていたのよ」
「そうでしたか、それはお待たせして申し訳ございませんでした」
ナザリオは軽く頭を下げる。
「確かに今までそんな事なかったからな」
「ある素晴らしい職人と、その作品に出会いまして、是非とも王家の方に見て頂かなくてはと。
といっても、実は最初にその職人を見つけたのは私共ではありません。
ある商会が偶然出会い、その素晴らしい作品を見出だしたのです。
それだけであれば大変けっこうな話なのですが、その職人には問題があったのです」
「問題ですか?」
マリウスが問い返す。
「はい。
その職人は名を売る事に一切の興味が無く、それどころか名が売れて呼びつけられたり催促されるようになるならこの国を出ていく、とまで言うのです」
「それは、かなりの変わり者…いや、職人ならではと言うべきなのでしょうか?」
マリウスは納得したようなしないような微妙な顔だ。
「ですがその商会は即座に魔法契約紙まで使い契約しました。
名前を公表しない、顔繋ぎをしない、催促しない、という文面で。
そしてその商会はこれを売るなら王都だと職人を連れて私共の所に参りました、そして作品を見た私も即座に全く同じ条件で契約を行いました」
三人は少し驚いた顔で固まっている。
「そ、そこまでのモノなの?」
リナ王妃は少し怯えたように問う。
「はい。
必ず貴族様の間で噂になり、呼びつける事も叶わないとなれば騒動になると。
なのでまずは陛下に見て頂こうと」
ランドルフも少し引いている。
「なんかそこまで言われると逆に怖ぇな」
「ふふふ、そうですな。
少し引っ張りすぎのようですから、早速見て頂きましょう」
ナザリオが背後を振り返ると、既に執事が1つのトランクをナザリオに差し出していた。
それを受け取り懐から出したカギで解錠すると、開かないまま三人の前に向きを変えて置き、ゆっくりと開いた。
「「おお!」」
トランクの中にはイヤリング、ペンダント、指輪でセットになった金属と宝石の溶け合うデザインの見たことが無いアクセサリーが。
ナザリオは三人にそっと薄手の手袋を差し出す。
「手に取ってよくご覧になって下さい」
三人は無言で素早く手袋を着けると、そっと手に取りアクセサリーを眺める。
「これは…すげぇな。
アクセサリーなんて良し悪しは分かんねぇけど、これがものすげぇモノだって事はさすがに俺でも分かるぜ」
ランドルフは生まれて初めてアクセサリーに見入っている。
「宝石で模様を描いている…削ったりしてこんな緻密な事が出来るものなのですか?」
マリウスも初めて見るものに興味津々だ。
「?? 王妃様?どうかされましたか?」
ナザリオが気づくと、リナ王妃はアクセサリーを手に置いたまま、肩を震わせ深く俯いていた。
ポタ、パタ…
そして王妃の膝の上に涙が落ち始める。
突然の事にランドルフもマリウスも血相を変え、素早くアクセサリーを戻すとリナ王妃に向き直る。
「リナ!どうしたんだ?」
ランドルフは優しく肩を掴み自分の方へ向かせる。
リナ王妃の瞳は涙に濡れ、頬を伝う涙は未だに止まる様子が無い。
「ランドルフ…つけた」
「え?」
「見つけたの、私の希望…やっと見つけた」
ランドルフは最初何が?という顔をして眉をしかめていたが、電流でも走ったかのように身体を震わせ目を見開いた。
「これが?!この職人が"そう"なのか?!」
「ええ、間違いないわ」
二人は感極まった様子で抱きしめ合う。
マリウスもやっと合点がいった様子で、
「なるほど、そういう事ですか。
それならこの見た事が無い技法にも納得です」
「あの…」
一人状況の掴めないナザリオは三人を見回す。
リナ王妃が涙を拭きながらナザリオへ向き直る。
「ああ!ナザリオ殿ごめんなさい。
私達だけで盛り上がって放っておいてしまって」
「いえ、突然涙されたので驚きましたが、なにやら嬉し涙だったようで安心しました」
「ええ、ですが…」
リナ王妃が気まずそうにランドルフを見る。
ランドルフはいつになく真面目な表情でナザリオに訴える。
「ナザリオ殿…頼む!この職人を紹介してくれ!」
ランドルフはナザリオに大きく頭を下げる。
ナザリオは三人を見回し、その真剣な様子から只事ではない事を感じ取った。
「お話を、聞かせて頂けますかな?」
11
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ホームレスは転生したら7歳児!?気弱でコミュ障だった僕が、気づいたら異種族の王になっていました
たぬきち
ファンタジー
1部が12/6に完結して、2部に入ります。
「俺だけ不幸なこんな世界…認めない…認めないぞ!!」
どこにでもいる、さえないおじさん。特技なし。彼女いない。仕事ない。お金ない。外見も悪い。頭もよくない。とにかくなんにもない。そんな主人公、アレン・ロザークが死の間際に涙ながらに訴えたのが人生のやりなおしー。
彼は30年という短い生涯を閉じると、記憶を引き継いだままその意識は幼少期へ飛ばされた。
幼少期に戻ったアレンは前世の記憶と、飼い猫と喋れるオリジナルスキルを頼りに、不都合な未来、出来事を改変していく。
記憶にない事象、改変後に新たに発生したトラブルと戦いながら、2度目の人生での仲間らとアレンは新たな人生を歩んでいく。
新しい世界では『魔宝殿』と呼ばれるダンジョンがあり、前世の世界ではいなかった魔獣、魔族、亜人などが存在し、ただの日雇い店員だった前世とは違い、ダンジョンへ仲間たちと挑んでいきます。
この物語は、記憶を引き継ぎ幼少期にタイムリープした主人公アレンが、自分の人生を都合のいい方へ改変しながら、最低最悪な未来を避け、全く新しい人生を手に入れていきます。
主人公最強系の魔法やスキルはありません。あくまでも前世の記憶と経験を頼りにアレンにとって都合のいい人生を手に入れる物語です。
※ ネタバレのため、2部が完結したらまた少し書きます。タイトルも2部の始まりに合わせて変えました。
初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!
霜月雹花
ファンタジー
神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。
神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。
書籍8巻11月24日発売します。
漫画版2巻まで発売中。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる