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138話 幕間 希望の行方 2
しおりを挟む一旦仕切り直しと言う事でお茶の時間をしながらアクセサリーを眺める一同。
「しかし何度見てもすげぇな」
「ええ、確かにこの美しさ、珍しさなら貴族の間で争奪戦が起きてもおかしくないですね」
「おお、忘れるところでした。
仕入れ元の商会が王都へ来る途中ゼニアスを通った際に、アレクトス伯爵から王への伝言を頂いていたようで、
"1セットキープで"
という事だそうです」
「あのやろう…相変わらずちゃっかりしてやがる」
「アレクらしいわね」
リナ王妃は先ほどまでの涙の名残りも無く微笑んでいる。
「そういえば侍従がナザリオ殿に頼まれたとかで式典用の衣装を用意していましたが、あれはどうするんですか?」
マリウスが指差した部屋のスミには王の正装と王冠が衣装立てに飾られている。
「そうですね、先にこちらもご紹介しておきましょう」
そう言うと同時に執事から1つのトランクが手渡され、ナザリオがそのトランクを開けている間に執事が慎重に衣装立てを皆が良く見れる位置へ置き直す。
「では少々失礼いたします」
と言ってナザリオが衣装の前に立ち何かした後そこから下がると、ランドルフ達三人は目を見張る。
「これは?!」
「おおぅ、すげぇ!」
「素晴らしいわね!」
三人はすぐさま立ち上がり、式典衣装に掛けられた国章入りのペンダントに近づき見入る。
「職人が、"謁見するのであればこれを献上品に"と」
三人の反応を見たナザリオは満面の笑みだ。
「これは…代々王家で受け継ぎ国宝にするレベルの品ですね。
職人に勲章を授与する必要がありますよ」
マリウスがそう言うと、
「ふ、ふふふ」
ナザリオが小さく笑う。
「ナザリオ殿?」
マリウスが訝しげな様子で訪ねる。
「失礼、実は仕入れた商会でも職人にそう言ったそうです、"勲章が頂ける可能性さえある"と」
席に戻ったマリウスが問う。
「で?職人は何と?」
「"そういった事を勘弁してもらう為に献上するのだ"と笑って言っていたそうです」
「マリウス!勲章授与はナシよ!
その代わり報奨金は弾まないと、あ、でもどうかしら、何か他の物がいいとかあるのかしら?」
リナ王妃が畳み掛けるように話しだす。
「リナ、落ち着けって」
「でもランドルフ、もしご迷惑かけたらこの国から出ていってしまうって…」
「だいたいまだ"例の話"すらしてねぇだろ、他の話はその後だ」
「そ、そうよね、ごめんなさい…」
リナ王妃は興奮を落ち着けるように居住まいを正す。
また三人の雰囲気が真剣になったのを感じ取り、ナザリオも落ち着いたトーンで話す。
「それではそろそろお聞きしましょうか。
私が魔法契約までして守ると言った直後でもその職人を紹介して欲しいと陛下がおっしゃる理由を」
ランドルフも真剣な表情で返す。
「ああ、…ナザリオ殿も御用商会という立場上、貴族社会で囁かれている噂なんかも耳に届くだろ?」
「そうですね。
そういった所から商売に繋がる事もありますので」
「その中でもリナの噂を聞いた事は?」
リナ王妃は小さく俯いている。
「…ございます」
ナザリオは居たたまれない様子で答える。
「…俺たちが結婚してもう3年経つ、そして未だに子供が出来ない事でリナは子供が作れない身体なのでは?ってな噂だろ?」
ランドルフは軽めに話しながらも、何かを堪えるように拳を握っている。
「ええ、確かにそのような噂を耳にします。
しかし、確かエルフと人間は…」
「そうです、昔から民間でも言われている事でもあるのですが、いくつかの研究や書物も確認しましたが、人間とエルフの間に子供が出来る確率は人間同士の三割ほどしかないと言うのが通説です」
マリウスが淡々と説明する。
「では…」
「そうだ、三割しか確率がないなら未だに出来なくても別におかしくないんだ。
ただ、どこかでさっきの噂を広めようとしてるヤツがいるらしくてな、なかなか噂が下火にならねぇんだ」
「おそらくどこかの高位貴族が自分の血筋から第二夫人を入れたいと画策しての事でしょう。
こんな事をしてランドルフが受け入れる訳が無いのに、貴族社会全体を動かせばどうにかなると思っているのです」
マリウスが嘆かわしいと言った様子で説明する。
「……」
重苦しい沈黙が室内に広がる。
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