153 / 244
153話 伏魔殿へ 7
しおりを挟む「謎の行方不明?」
ランドルフ王が腕を組みながら語り始める。
「ああ、俺達がまだ新人に毛が生えたくらいの時期に、同じくらいのランクに"流れ"の斥候職の男がいたんだ、あいつ…なんて名前だっけ?」
"流れ"というのは、特定のパーティーに所属せずソロだったり、期間限定でどこかのパーティーに入ったりしながら活動する冒険者を差す言葉だ。
斥候職には意外と自らこのスタイルで活動している冒険者も多かったりする。
「なんだっけか?ケ…ケラスとかケレスとかそんな名前だった気が」
アレクトス伯爵は首をひねっている。
「ケラスじゃなくてゲラスですよ」
マリウス宰相が訂正する。
「ああ、ゲラスな。
でそいつはなんか陰気臭いヤツでな、同じ若い冒険者達で集まって飲み会しても来ないし話しかけてもボソボソ喋るもんだから、ちょっと周りから敬遠されててソロで潜ってる事が多かったんだ」
「はあ」
(コミュ障、ってヤツか…)
「で、そんなもんだから稼ぎもイマイチなんだろ、装備もボロで余計に目立ってたんだが、ある日から突然装備がみるみる高級になっていってな。
それまでと同じようにソロで潜ってたのにだぜ?」
「それは…何か見つけたんですかね?」
「まぁ、皆そう思うよな。
だから皆ゲラスに何か発見したのか聞いたんだが、薄気味悪く笑うだけで誰も教えてもらえなかったんだ。
ダンジョンで追いかけたヤツもいたんだが相手は斥候職だからな、撒かれちまって結局分からずじまいだったんだ」
「なるほど」
「で、ある日探索上がりに若いヤツらでいつものように飲み会しようとしたら急にゲラスがついてきてな。
珍しい事もあるなと思いながら発見した何かを教えてくれるのかと思ってたんだが、結局誰とも話さず少し離れたテーブルで一人薄気味悪く笑いながら飲みだして何かボソボソ独り言も言ってたし、何だアイツって皆で言ってたんだ」
「ほう」
「で、次の日だ。
いつものように夕方くらいに探索から戻ってきたんだが、いつも同じくらいに戻ってくるゲラスが戻ってこなかったんだ」
町に近いギルドの監視下にあるダンジョンでは、不慮の事故を防ぐ為、ダンジョン入り口にギルドの出張所があり、冒険者のランクや探索予定を聞いて行動を把握している場合がある、"コボルド街"もそうなんだろう。
「夜になってもっと深い所から戻って来た冒険者も見かけなかったって事になって、いよいよこりゃマズいか?って事で有志を募って探しに行ったんだ。
あそこは出るのはコボルドだけだからな、もしやられてても痕跡くらいは見つかるだろうとな」
魔獣のような大型の魔物が現れるダンジョンだと、丸飲みにされて痕跡すら残さない、なんて事もあるらしいが…
「で、痕跡も無く見つからなかった、と?」
「ああ、アイツが普段探索してた1階から9階を手分けして探したが結局何も見つからず、2日後に"ギルドカードが機能停止した"とギルドから発表があった」
ギルドカードには持ち主の魔力が蓄えられているが、死亡したり1年前後の長い期間手元から離しておくと本人確認や端末での受注などが出来なくなる。
2日という短い期間だし…まぁ、そういう事なんだろう。
「そんな事が…」
「で、そんな事が起きたからゲラスが突然羽振りが良くなった話が再燃してな。
やっぱり何処かに隠し部屋や隠し通路があって、そこを攻略中にやられたんじゃないかって皆血眼になって探したんだが、結局誰も見つけられなかったんだよな」
「最終的にはゲラスが羽振りが良くなったのは斥候の力で後ろ暗い事をしていて、返り討ちにあったんじゃないか、なんて話にもなってましたね」
マリウス宰相が言う。
「私あの人なんかちょっと怖かったなぁ、ふと気がつくとこっち見て笑ってるの見かけたし…」
リナ王妃もあまり印象が良くないみたいだ。
(で"謎の行方不明"って事か、ダンジョンだけに真相は闇の中、ってか)
「そういやアレクも一時期うるさかったよな?もうちょいゲラスの痕跡を探そうって」
静かに話を聞いていたアレクトス伯爵が口を開く。
「そりゃそうさ、俺はゲラスが"未探索エリア"を発見したって確信してたからな」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
535
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる