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223話 幕間 空船の守り人 3

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「よし、じゃあポラリス、レシアナさん、入って」

 リルトはストレージを開き、ポラリスとレシアナは移動を始める。


「リルトくん!もうパーティメンバーだから"レシアナ"って呼び捨てでいいって言ったでしょ!」

「ああ、ごめんついクセで。
 でもレシアナだって"リルトくん"って言ってるじゃん」

「!こ、これは…ついなの!」

 少し顔を赤らめ逆ギレしながらストレージへ消えてゆくレシアナ。


「おいリルト、ワシらは?」
 ワーディル老が立ち上がる。

「今日は最初だからパーティメンバーのみです」
「なっ!あれだけ手伝ってやったのに、この薄情者が!」


 ワーディル老の叫びを聞き流しながら空を見上げるリルト。

「よし、"アウラ"」
「はいパパ!」

 何処からか声が聞こえ、リルトが黄緑色の魔力を纏う。
 と、一蹴りで10mは進みながら、黄緑色の矢のように上空へ駆け上がっていく。
 飛空艇が降りた後は空を見上げていない観客達は全く気づかず、空の点のようになった所で姿が消える。


「…やっぱりあの風精霊の力、半端じゃないな…使役者の方の制御はまだまだだけどね」
 ウルリッヒ王は空を見上げながら呟く。

「あっ、あれは?」

 リルトが消えた方向の空にどこからか湧き出るように雲が現れ、その一帯の青空を隠し始める。

「開いたストレージを隠す目眩ましじゃな。
 そろそろ来るぞ」


…ザワザワ


 その頃には飛空艇に夢中になっていた一般の人々も、一行が上を見て、周囲の護衛や軍の者達が上を見ている為、雑談を止め段々と空を見上げ、不自然な雲に注目し始めている。





「…神様?」

 何処からか小さな子供の呟きが聞こえた。





 雲の間から現れたのは女神。

 髪をたなびかせ細い帯のような服で身体の一部を隠した扇情的な風貌でありながら、胸の前で合わせた手に持った正方形の物体が神秘的に輝き、空を見上げる涼やかな佇まいに誰もが畏敬の念を覚えた。

 ゆっくりと雲の合間からその全貌が現れ始め、見上げるぼぼ全ての人々の口は開いたままになっている。


 それは空に浮かぶ帆船はんせん、だった。

 始めに見えた女神は船首像フィギュアヘッドで、上半身に続いて現れたのは白い船体、そして黄緑色の魔力をなびかせた帆。

 普通の船と違う所は、船の横腹から斜め下後方へ向かって突き出した魚のヒレのような一対の白い翼、そして船尾から同じように突き出した一枚の尾ビレのような翼だ。

 白一色の船体には側面中央付近に、藍、金、黒、三色のラインで描かれた翼のマークがあり、控えめな大きさで"空船の守り人 号"と書かれている。

 先ほどの飛空艇とは違い、一切風を巻き上げずに静かに空を泳ぎ近づいてくる不思議な形の帆船に、誰もが目を奪われ言葉を発する事さえ忘れている。



「おお…やはり美しいな、うむ。 会心の出来だ」
 ワーディル老は自らも手を貸した作品に満足げに頷く。

「あの船首像は…ディメンティーナ様、ですよね?」
 教皇はロンドル大司教に訊ねる。

「…リルト様だけが使う事を許される船首像ですね」
 ロンドル大司教は軽い苦笑混じりで答える。


…ワ、ワァー!!


 何処からともなく波のように歓声が上がり始め、今日一番の喧騒が巻き起こる。

「すげー! なんだあれ!」
「なんて綺麗な船なの…」
「カッコいー!」
「さすが中央大陸一の大国アリルメリカだな!」


「やっぱり…作れたんだね…ウチの船見る必要無かったんじゃん…」
 ウルリッヒ王は船を見上げながら呟く。

「話し合いした頃は本当に必要だったようじゃよ?
 その後に"キッカケ"を掴んだようでな」
 ワーディル老が答える。


「あんなにゆっくり飛んで…墜落しないのですか?」
 ベアトリーチェが訊ねる。

「そこがアリルメリカの飛空艇と全く違う所でな。
 アリルメリカの飛空艇は"空間を押して"船体を飛ばせているが、あの船は"空中に固定して"滑らせているんじゃ。
 だから空中で止まっても落ちないんじゃよ」

「"空中に固定"…?」
 ベアトリーチェは首を傾げている。


「つまり、我が国の飛空艇とは設計思想が全く異なる、という事ですね。
 だからリルト様は先ほど"直せるか?"と問われた時に考え込まれたのですか?」
 ピグミア宰相がワーディル老に訊ねる。


「それもあるが一番は…けなしていると受け取らずに聞いて欲しいが。
 アリルメリカの飛空艇は性能、安全性、運転費用、全ての面であのリルトの船に劣るんじゃ」

「…そこまでですか?」


「ああ。

 風魔法の障壁により向かい風を受け流し推進力に活用する事でかなりの速度で飛べる…らしい。
 これはまだリルトが実験しただけでワシもまだ体験はしていないんだが。

 そして先ほども言ったように、そもそも"飛んでいない"上に、船体に【浮遊レビテーション】が付与されており墜落する事は無い。

 そこまでの性能でありながらも、…まぁ貴国の機密なので詳しい事は分からんが、恐らくあの飛空艇の10分の1も魔力を消費しないのではないかな?」


「なるほど。
 だからリルト殿は"そのまま直す意味があるか"という意味で考え込んでいたのですね?」
 マリウス宰相が聞く。

「まぁ、そういう事じゃ」


「…これからの時代、ウチの飛空艇は"型落ち品"か…」
 ウルリッヒ王は項垂れる。


「ウチの国は最新のをリルトに予約済だからな!
 くぅー!楽しみだぜ!」
 ランドルフ王は船を見ながら満面の笑顔だ。


 と、ワーディル老が教皇を見る。

「"教会にも一隻寄付する"、と言っておったぞ」

 教皇はビクッと身体を強張らせる。

「ひ、飛空艇を寄付…」

「もうスケールが大きすぎて何が何やら…」
 ファルーサは頭を押さえている。



「あー!リルトお兄ちゃんだ!」



 何処からともなく子供の大きな声が聞こえた。

 雑談していた一行も再度空を見上げると、リルトの船はアリルメリカの飛空艇の隣に着陸しようとしているらしく、かなり高度を下げて来ており、その甲板から手を降るリルト達の姿も小さくではあるが確認出来た。


「あの翼、船体より下へ出っ張ってるし、後方のヤツなんて船底から出ていてどうやって着陸するんだ?
 地面に刺さっちゃうでしょ?」

「お父様、そもそもあの船車輪がないですよ?」

「あの翼はな…」


 リルトの船はゆっくりと垂直に降り始め、それと同時に3つの翼はゆっくりと短くなっていき、船体が地面に接するギリギリの所で降下が停止する。


「見ての通り、あの翼は"魔力体"なんじゃ。
 だから長さは自由自在、というわけじゃ。
 そして、あの船はあれで着陸状態だ。ほぼ魔力消費無しで浮き続けるんじゃよ。 だからどんな地面の状態でも着陸出来るし、車輪はいらんのじゃ」

「ええ!?」

「めちゃくちゃな性能過ぎるよ…」
 ウルリッヒ王は頭を抱えている。



「…驚き疲れするのはまだ早いんじゃがなぁ…」



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