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222話 幕間 空船の守り人 2

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 飛空艇内部の見学におもむいたリルト、ウルリッヒ王、ベアトリーチェを除いた一行は雑談に興じていた。


 一方のテーブルでは中央大陸屈指の大国の宰相、教会の最高指導者である教皇、そしてこの国の王が同席して、世界の情勢について意見交換が行われている。


「…ということで、調べた限り我が国だけでなく東側沿岸諸国のほとんどで、"統率派"の諜報部隊は撤退しているようなのです」
 外見は子供にしか見えないピグミア宰相が渋い顔をする。
 

「そりゃまたキナ臭えな。
 コッチ側じゃ伝え聞く程度で被害は無いが、ハイエルフのジジイ達がまた何か企んでんのか?」
 ランドルフ王は相棒であるマリウス宰相を見る。

「まぁ、そう見るのが妥当なんでしょうが…
 各国に放った"目や耳"をわざわざ引かせる意味が不明過ぎますね…」


「あの方達は自分達以外の権威を基本的には認めていませんから、教会もあの国々では勢力が弱く情報もほとんど無いですね…」


「「……」」
 統率派の国々で起きている異常について、真実を知るワーディル老とロンドル大司教は何とも入り辛い話題になってしまった。


「ワーディル老。
 永年あの国々と相対してきた貴方なら何か予想が付くのでは?」
 ピグミア宰相から話を振られてしまった。

「…老獪ろうかいなヤツラの事だ。
 また何か企んでいるのかも知れんが…案外国元でトラブルでも起きて慌てておるのではないか?」

「…それならいいのですが…」

 ワーディル老の意味深な発言に訝しげなピグミア宰相だが、追求も出来ない為それ以上言葉が出ない。






「キュ♪」
「クルルル」
「レシアナ!美味しいぞこれ!」

「アーくんそんながっつかないの」


 もう一方のテーブルは緩い空気が流れていた。

 テーブルの中央に引いたマットの上に、ラテル、リナ王妃の精霊クィーラ、レシアナのアーロウスが陣取り、ポラリスが出したクッキーを食べているのをお茶しながら皆で観察している。

「はぁ~…ラテルちゃんも、クィーラちゃんも、アーロウスくんも可愛いなぁ」
 ファルーサはとろけそうな顔でその光景を眺めている。

「リナ王妃はあちらの会話には混じらなくていいのですか?」
 レシアナがリナ王妃に訊ねる。

「いいのいいの。
 王妃なんて大層な肩書きだけど、 私なんて元々冒険者のさすらいエルフだから、ああいうのは苦手なのよ」


 ポラリスはテーブル中央に置いた皿のイチゴをジッと見ている。


「…むう、やっぱり瑠璃は出て来てくれない」

「リルトさんのもう一体の使役獣ですよね?
 私いまだにちゃんと見た事無いんですよねぇ、見たいなぁ…」

「可愛いんだけど人見知りが激しいコだから。
 これだけ知らない人が多いとちょっと難しいわねぇ」

「残念です…」




「あっ、リルト」

 ポラリスの視線の先には飛空艇の後部から現れたリルト達一行がこちらへ向かって来るのが見える。


「あれ?ずいぶん早くないですか?」
 ファルーサは不思議そうにそれを見る。

「行く前にリルトが、
"たぶんけっこう早く帰って来る"
って言ってた」

「ああいうのは調べるのに時間がかかるものじゃないの?」
 リナ王妃も不思議そうだ。


「あはは…」
 理由を知るレシアナは笑って誤魔化すしかない。
 




「ただいま戻りました」
 リルトが皆に挨拶する。

「リルト…予想は付いていたが、もう少しゆっくり見てくればよかろうに」
 ワーディル老は呆れた表情で見る。

「いやだって、びっくりするほど単純な構造なんだもん。
 まぁでも故障の理由もだいたい分かったよ」


「「えっ!」」
 アリルメリカ陣営の驚きの声が重なる。


「リルト様、機関部の"核"を見て、少し歩き回っただけでしたよね? あれだけでもう?」
 ベアトリーチェは訊ねる。

「うん。 原因はたぶん単純な"経年劣化"だよ」

「経年劣化…」

「そう。
 飛空艇の様々な機能を統括している"核"に始祖王の持っていた空間属性の力が込められてるんだけど、核は純度の高い宝石で出来てるんだ」

「ふむ…」

「だけど宝石っていうのは自然の生成物だ。
 いくら純度が高いって言っても限度がある、どうしても目に見えない小さな不純物が存在していて、そこから劣化が起きていってるんだよ。
 で、その劣化が起きた箇所から空間属性の力が漏れている」

「なるほど。
 で、その箇所に接続していた機能が働かなくなる、と」

「そういう事だね。
 だから今見たあの船は、核の劣化部分がどことも接続していないから、たぶん少し出力が落ちる程度で留まってるけど。
 推進力に直接関係している箇所に接続している船は飛ばなくなってるんだろうね」


「で…な、直りそうかい?」
 ウルリッヒ王が恐る恐る訊ねる。


「うーん…」
 リルトは腕を組んで考え込む。


「…やはりそう簡単にはいきませんか…」
 ピグミア宰相は諦めの表情だ。


「リルトや、そろそろもったいぶるのはやめんか」
 ワーディル老が呆れたように言う。



「じゃ、直るかの答えの前にお披露目といこうか?」




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