【R18】『半人前』冒険者の僕が仲間のハニートラップにはまる話

黒うさぎ

文字の大きさ
4 / 6

4.優しい女

しおりを挟む
「ん……」

 どれくらい寝ていたのだろう。
 すっかり暗くなった室内は、ランプのわずかな明かりだけがゆらゆらと揺れている。

(……ランプ?)

 ギルドをあとにした僕は、部屋に戻ってきてそのままベッドに横になったはずだ。
 ランプなどつけた記憶はない。
 ではいったいなぜランプがついているんだ?

 僕は身体を起こすと、室内の様子をうかがった。

「起きたのね」

 声のするほうへと視線を向けると、ベッドの足元のほうにレイシアが腰かけているのが目に入った。
 いつの間に部屋に入ってきたのだろう。
 仮に寝ていた僕がノックに気がつかなかったのだとして、勝手に入ってくるようなレイシアではないと思うのだが。

 いや、そんなことよりも、だ。

「レイシアっ!? なんでそんな格好をっ!」

 僕は慌ててレイシアから視線を逸らした。
 薄暗い部屋の中。
 ベッドに腰かけていたレイシアは、なぜか下着姿だったのだ。

 レイシアは露出の多い服を着るタイプではない。
 怪我の危険性のある冒険中はもちろん、街中でも基本的に肌を晒すことはない。
 だから二年間一緒に活動してきた僕でも、レイシアの肌をこんなに見たのは初めてだ。
 それもただ肌を晒しているだけではない。
 明らかに人に見せるべき衣類ではない下着姿なのだ。

 なにが起こっているのか理解できず、僕の頭の中は真っ白になった。
 
 そんな僕の動揺を知ってか知らずか、ベッドの上をゆっくりと這ってきたレイシアが、覆い被さるように後ろから抱きついてきた。
 背中に感じる柔らかい感触と、ふわりと漂う甘い香りが脳を揺さぶる。

「レイシアっ……、いったいなにを……?」

「ライド、『深淵の牙』を抜けようとか考えてたでしょ」

「っ!?」

 顔のすぐ横。
 耳元で囁かれた、想像しなかったその言葉に身体が強ばる。

「ギルドを出てくとき、そんな顔をしてたわ。いつもの自信のないだけの顔じゃない。
 もっとなにかを諦めたような顔」

「……そんなことないよ。言ったでしょ、強い魔導士になるって」

「そうね。ライドは努力家だからきっと強い魔導士になれるわ。
 でもそのとき、あなたの隣に私たちはいるの?」

「……」

 抱きつく力が強くなる。

「……ほんと、ライドは嘘をつくのが下手ね。素直で優しくて真面目で。
 だから私たちのためだとか言っていなくなろうとする」

「だって……、だって仕方ないじゃないかっ!!」

 思わず語気が荒くなる。

「僕だって二人と一緒にいたいよ。『深淵の牙』の一員として、もっと冒険したい。
 だから努力だってしてきた。『半人前』だってわかってたから、置いてかれないように頑張ったよ。でも僕が一歩進む間に、二人はどんどん先に行っちゃうんだ。
 アレンに守ってもらって、レイシアにサポートしてもらって。
 一人じゃなにもできない自分が情けなくて……。
 二人のことが大好きだからこそ、足手まといになりたくないんだよ」

「私たちが一度でもライドのことを足手まといだなんて言ったことあるかしら?」

「それは、二人とも優しいから……」

「じゃあなんで私たちはライドに優しくするの?」

「……『深淵の牙』にいるのが僕以外の誰かでも、二人は優しくしてるよ」

「本当にそう思う? 私は背中を向けた相手に魔法を放とうとする女よ? きっとあそこにいたのが私じゃなくてアレンでも、殴りかかっていたでしょうね。
 でも結局、私たちはあの男を攻撃できないの。ライドが止めてくれるから」

「それは……、僕なんかのために二人が咎められるのは間違ってるから」

「ライドは私たちのことを優しいと言ってくれるけど、あなたも充分にお人好しよ。
 上っ面だけじゃない。
 心から私たちのことを考えてくれているもの。
 冒険者の仲間として必要なのは実力だけじゃないわ。
 そして実力以外の大切なものをあなたは持ってる。私たちにはあなたが必要なの」

 レイシアの言葉は、僕の柔らかい部分を遠慮なくえぐってくる。
 嘘ではない、というのはわかる。
 二人は本当にこんな僕を必要としてくれているのだ。

 でもだからといって、僕は僕が『深淵の牙』にいることを認められるわけではない。
 そんな僕の思いを感じ取ったのだろう。

「どれだけ言葉を重ねても、ライドを引き止めることはできないのね」

「……ごめん」

 不意にレイシアの両手が僕の顔を挟み、後ろを向かせた。
 まるで宝石のような碧色の瞳と視線が重なる。

「……もうひとつ、私が優しい女じゃないってことを教えてあげる」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

処理中です...