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8.随分安っぽい剣を使っているのね
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男は幼女を下ろすと、腰に差していた短剣を抜いた。
奴隷商人という裏の世界の仕事をしているのだ。
剣の腕にはそれなりに自信がある。
女も帯剣しているが、未だに手を掛ける様子はない。
この間合いなら確実に勝てるだろう。
「こりゃあいい土産が転がり込んできたもんだ。
おい、女。お前も奴隷として一緒に連れてってやるよ。
大人しく武器を捨ててこっちに来な」
今日はついている。
ガキは小さくて攫いやすいが、大人の女は担いで運ぶのも一苦労だ。
故に普段はあまり扱わない商品なのだが、向こうから来てくれるとは願ってもないことである。
それにしても見れば見るほど、美しい女である。
これをそのまま売ってしまうのは少しもったいないかもしれない。
少し楽しませてもらってから売ることにしよう。
それくらいの役得はあってもいいはずだ。
「その子を解放するつもりはないのね?」
「当たり前だろう。こいつは俺たちの大切な商品だからな」
「あら、そう。なら、助けるしかないわね」
「はあ……」とため息をつきながら女が近づいてくる。
武器を捨ててはいないが、抜いてもいない。
短剣を構えている俺に対して、素手で近づいてきているのだ。
(何を考えてやがる?)
奴隷になりたいわけではないだろう。
かといって助けたいのならば、剣を抜かない理由がわからない。
馬鹿なのか、それとも素手で十分だと思われているのか。
後者だとしたらなめられたものだ。
過酷な裏の世界で生きてきた男の剣技は、並の冒険者のそれを優に凌ぐ。
こんな女に負けるはずがない。
「おいおい、俺の話が聞こえなかったのか?
奴隷になるんだったら武器を捨ててからこっちへ来いって言ったんだよ!」
しかし、女の歩みが止まることはない。
仕方ない。
少し痛い目に遭わせれば、己の無力を理解するだろう。
男は間合いに入った女に向けて、右手に持ったその短剣を横薙ぎに振り切った。
殺すつもりはない。
浅く腕を切り裂いてやるだけだ。
そのつもりだった。
ピタッ
「なっ!?」
だがしかし、男の短剣が女を切り裂くことはなかった。
いつの間にか伸ばされていた女の左手が、親指と人差し指の二本の指で挟むように短剣を受け止めていたのだ。
素手で短剣を受け止められる。
その衝撃に男は狼狽えていた。
そんなこと本当に可能なのか。
だが、実際に目の前で男の斬撃は止められている。
ひょっとして、とんでもない相手に目をつけられたのでは。
そんな考えが脳裏を過り、冷や汗が背中を伝う。
慌てて距離を取るために、短剣を女の手から引き抜こうとする
しかし、まるで岩にでも差し込んであるかのように、短剣はピクリとも動かなかった。
「随分安っぽい剣を使っているのね」
たいして興味もなさそうに女が呟くと、まるで小枝でも折るかのように、つまんでいた二本の指でパキッと短剣を折った。
「……はっ!?」
目の前の光景に思わず間抜けな声が漏れる。
(鋼鉄製の短剣だぞ!?それを指で折るだと!?
そんなこと、本当に人間にできるのか?)
この女はヤバイ。
太刀打ちできるような相手ではない。
ようやく男は理解した。
だが、それはあまりにも遅すぎた。
「別に殺したりはしないから安心して」
スッと女の右手が男の顔に迫る。
「ひいっ……」
短剣を素手で止めるような奴の手だ。
それが顔面に迫っているということは、男にとって死と同義といっても過言ではなかった。
伸ばされた女の手が、男の顔の少し手前で止まる。
そして手甲を上に向け、丸めるように曲げた中指を親指に引っかけた。
「……デコ、ピン?」
「正解よ」
ズバコオォォォォン
おおよそデコピンでは考えられないような音と衝撃に包まれ、宙を舞った男の意識はそこで途切れた。
奴隷商人という裏の世界の仕事をしているのだ。
剣の腕にはそれなりに自信がある。
女も帯剣しているが、未だに手を掛ける様子はない。
この間合いなら確実に勝てるだろう。
「こりゃあいい土産が転がり込んできたもんだ。
おい、女。お前も奴隷として一緒に連れてってやるよ。
大人しく武器を捨ててこっちに来な」
今日はついている。
ガキは小さくて攫いやすいが、大人の女は担いで運ぶのも一苦労だ。
故に普段はあまり扱わない商品なのだが、向こうから来てくれるとは願ってもないことである。
それにしても見れば見るほど、美しい女である。
これをそのまま売ってしまうのは少しもったいないかもしれない。
少し楽しませてもらってから売ることにしよう。
それくらいの役得はあってもいいはずだ。
「その子を解放するつもりはないのね?」
「当たり前だろう。こいつは俺たちの大切な商品だからな」
「あら、そう。なら、助けるしかないわね」
「はあ……」とため息をつきながら女が近づいてくる。
武器を捨ててはいないが、抜いてもいない。
短剣を構えている俺に対して、素手で近づいてきているのだ。
(何を考えてやがる?)
奴隷になりたいわけではないだろう。
かといって助けたいのならば、剣を抜かない理由がわからない。
馬鹿なのか、それとも素手で十分だと思われているのか。
後者だとしたらなめられたものだ。
過酷な裏の世界で生きてきた男の剣技は、並の冒険者のそれを優に凌ぐ。
こんな女に負けるはずがない。
「おいおい、俺の話が聞こえなかったのか?
奴隷になるんだったら武器を捨ててからこっちへ来いって言ったんだよ!」
しかし、女の歩みが止まることはない。
仕方ない。
少し痛い目に遭わせれば、己の無力を理解するだろう。
男は間合いに入った女に向けて、右手に持ったその短剣を横薙ぎに振り切った。
殺すつもりはない。
浅く腕を切り裂いてやるだけだ。
そのつもりだった。
ピタッ
「なっ!?」
だがしかし、男の短剣が女を切り裂くことはなかった。
いつの間にか伸ばされていた女の左手が、親指と人差し指の二本の指で挟むように短剣を受け止めていたのだ。
素手で短剣を受け止められる。
その衝撃に男は狼狽えていた。
そんなこと本当に可能なのか。
だが、実際に目の前で男の斬撃は止められている。
ひょっとして、とんでもない相手に目をつけられたのでは。
そんな考えが脳裏を過り、冷や汗が背中を伝う。
慌てて距離を取るために、短剣を女の手から引き抜こうとする
しかし、まるで岩にでも差し込んであるかのように、短剣はピクリとも動かなかった。
「随分安っぽい剣を使っているのね」
たいして興味もなさそうに女が呟くと、まるで小枝でも折るかのように、つまんでいた二本の指でパキッと短剣を折った。
「……はっ!?」
目の前の光景に思わず間抜けな声が漏れる。
(鋼鉄製の短剣だぞ!?それを指で折るだと!?
そんなこと、本当に人間にできるのか?)
この女はヤバイ。
太刀打ちできるような相手ではない。
ようやく男は理解した。
だが、それはあまりにも遅すぎた。
「別に殺したりはしないから安心して」
スッと女の右手が男の顔に迫る。
「ひいっ……」
短剣を素手で止めるような奴の手だ。
それが顔面に迫っているということは、男にとって死と同義といっても過言ではなかった。
伸ばされた女の手が、男の顔の少し手前で止まる。
そして手甲を上に向け、丸めるように曲げた中指を親指に引っかけた。
「……デコ、ピン?」
「正解よ」
ズバコオォォォォン
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