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17.悪役令嬢は王子の妨害を退けるようです
しおりを挟む「メリアさん、この後……」
「メリア、少しきてくれ」
お茶でもいかがですか。
その言葉はレイネスによって遮られてしまった。
講義が終わり、メリアをお茶会に誘おうとしたのだが。
困ったような表情をアリシアに向けたメリアは、会釈だけするとレイネスの元へといってしまう。
まただ。
以前から会話を遮られるようなことはあったが、それでも多少の雑談くらいはさせてくれた。
だが、最近はそれすらまともにさせてくれない。
それどころか、朝から放課後までメリアの自由時間には、常に自分の元へメリアを呼びつけていた。
(メリアと一緒にいたい気持ちはわかるけど)
やはり、先日レイネスに対して宣戦布告紛いのことをいったのが原因だろうか。
これでは、メリアと二人きりになる時間を確保できない。
(そちらがその気なら、こちらにも考えがあります)
レイネスがアリシアの邪魔をするというのなら、こちらも邪魔をすればいいのだ。
アリシアは悠然と二人の元へ歩いていく。
そんなアリシアに気がついたレイネスは、眉をひそめた。
「アリシア、なにか用か」
「いえ、殿下には。
私はメリアさんとお話をしたいだけですので、お気になさらず」
素っ気ない返答に、レイネスは顔をしかめる。
「メリアは今、私と大切な話をしているのだ。
後にしろ」
レイネスの言葉を聞いたメリアの表情に、僅かだが驚きの色がみえる。
おそらく大切な話などではなく、他愛ない雑談をしていただけなのだろう。
(確かに、メリアとの会話は雑談であろうとも全て大切ですが)
本当に大切な話なら、そもそも教室で話したりはしない。
「大切な話、ですか。
いったいどのようなお話をされていたのですか?」
「お前には関係のないことだ」
「関係ないとは、殿下も冷たいことをおっしゃるのですね。
これでも婚約していたことだってありますのに。
それで、なんのお話ですか」
苦虫を噛み潰したような顔をしたレイネスは、諦めたように溜め息をついた。
「……今度メリアに王城の庭園を案内する約束をしていたのだ」
「そうですか。
日程はお決まりですか?」
「それをこれから話し合うのだ。
もういいだろう、自分の席へ戻れ」
「まあまあ、そうおっしゃらずに。
そうですね、では今週末のお休みの日にしましょう。
私、来週末は用事がありますので」
「なぜ勝手に予定を決めるのだ!
まさかお前も来るなどと言い出すつもりではないだろうな?」
「私も久しぶりに王城の庭園を見てみたい気分でしたので。
メリアさんは、今週末はなにかご予定はあるかしら?」
「いえ、私は大丈夫ですけど……」
「なら、問題ないですね」
「話を進めるな!
メリア、来週末だ。
来週末は空いているか?」
「はい、空いています」
「なら、来週末で決定だ。
残念だったな、アリシア。
庭園はまた次の機会に見てくれ」
勝ち誇ったような笑みを向けてくるレイネス。
好意的な笑みではないが、それでもレイネスほど顔の造詣が整っている者がやると、美しく見えてしまう。
そういえば、レイネスから笑顔を向けられたことなどあっただろうか。
婚約者に笑顔すら見せない。
そう思うと、随分寂しい関係だったように感じる。
好意的なものではないが、それでもレイネスの笑顔を見ることができたのは、なんだか感慨深いものがある。
「そうですか。
では大切なお話も終わったようですので、失礼しますね。
さあ、メリアさんもいきましょう」
「おい、ちょっと待て。
なぜメリアも連れていくのだ!」
「庭園を案内なさる日程が決まりましたので。
それとも、他にもなにか大切なお話があるのですか。
それでしたら、私も微力ながら協力させていただきます。
元婚約者ですし」
公爵令嬢として身につけた、完璧な微笑みをレイネスに向ける。
すると、まるで嫌なものでも見たかのように、レイネスは視線を逸らした。
「……もういい、いけ」
「では失礼しますね」
優雅に一礼して、レイネスの席を離れる。
メリアもそんなアリシアに続く。
そのまま、既にいつもの場所となっていたサロンへ行き、お茶の用意をした。
「ごめんなさい、メリアさん。
殿下とのお話を邪魔してしまって」
「いえ、そんなことは。
……正直、助かりました。
最近の殿下の振る舞いは、いささか度を過ぎている気がして」
「そうですね。
私がメリアさんとお話をしようとするとすぐに横槍をいれてきますし」
「それもそうですが、他にもその……」
どうにも歯切れが悪い。
なにかいいにくいことなのだろうか。
「殿下になにかされたのですか?」
言い淀んでいたメリアだったが、紅茶を一口飲むと続きを話し始めた。
「……先日、殿下に招待されてお茶会をしたんです。
そういったお誘い自体は以前から何度もあったので、私もいつものように登城したのですが……」
「そこでなにかあったのですね」
「はい。
いつものようにお茶をしながら他愛もない話に花を咲かせていたのですが、突然殿下が迫ってきて、その、接吻をしようと……」
「せ、せ、せ、接吻!?
接吻ということはつまり、キ、キ、キスのことよね!?
まさか、殿下とキスをしたの!?」
衝撃の告白に、思わず身を乗り出して迫る。
メリアが若干引いている気がするが、それどころではない。
「い、いえ。
どうにか説得して、思いとどまっていただきました」
「そ、そう。
それは良かったわ」
安堵から体の力が抜ける。
まさかレイネスがそんな行動をとるとは。
「マジラプ」ではそんな展開はなかった。
やはりここはゲームの中ではないようだ。
「メリアさんは殿下のことをどう思っているのかしら」
アリシアにとって最優先事項はメリアだ。
もし仮に、万が一にもメリアがレイネスのことを慕っているのなら、その気持ちを応援しないこともないでもない。
(……いや、応援しないわね)
だが、メリアがレイネスのことを慕っているわけではなく、レイネスに迷惑しているのなら力になりたいのだ。
「……アリシア様にこのようなことを相談するべきではないのかもしれませんが」
「どんなことでも相談してください。
私たちは友人ですもの」
優しく微笑むと、メリアも返してくる。
「ありがとうございます。
……殿下は素晴らしい方だと思います。
殿下からの好意に対して、私としても不快に思うわけではありません。
ですが、私には覚悟がないのです」
「覚悟、ですか?」
「はい。
殿下のお気持ちに応えるということは、つまり未来の王妃になるということです。
……私は自分が王妃の器だとは、とても思えません。
もし私が殿下のことを心からお慕いしているのであれば、たとえ無茶だとしても、立派な王妃になれるよう足掻こうと思えるのかもしれません。
ですが、そこまでの強い気持ちは今の私の中にはない。
そんな中途半端な気持ちで殿下のお気持ちに応えてしまっては、殿下はもちろん、国民の皆さんにも申し訳が立ちません」
苦しむようにメリアが漏らす。
王子との婚約は、貴族の令嬢であれば誰しもが憧れ望むものだ。
それは自分のためであり、また家のためでもある。
もしレイネスが他の令嬢に求婚でもしようものなら、一つ返事で了承されることだろう。
しかし、生粋の貴族ではなく、また真面目で優しいメリアはそうは思わない。
自分のことだけではなく、レイネスや国のことを考えてしまう。
まあ、そこがメリアの良いところなのだが。
「私のハッキリとしない態度が、殿下にそういった振る舞いをさせてしまっているのでしょう。
ですが、孤児だった私を見いだしてくださったアレスティア子爵様のことを思うと、どうしても迷いが生じてしまって」
「それは、アレスティア様がメリアさんと殿下の婚約を望んでいるということかしら?」
「直接尋ねたことがあるわけではないですが、貴族様ならそうなのではないでしょうか。
それに、もし殿下のお気持ちにお応えしなかった場合に、アレスティア家にどのような迷惑をかけることになるか」
メリアの懸念ももっともだろう。
アリシアのように、レイネスから婚約破棄を言い渡された立場でも、周囲からすれば王妃の器ではなかったというレッテルを少なからず貼られてしまっている。
アリシアとしてはそんなもの気にもならないが、ローデンブルク家の名に傷をつけてしまったことは事実だ。
貴族社会で生きていくうえで、周囲からの悪い評価というものは、場合によっては死活問題になりかねない。
もし、メリアが次期国王になるだろうレイネスとの婚約を拒もうものなら、周囲から貼られるレッテルの過激さはアリシアの比ではないはずだ。
それこそ、国への忠誠心を疑われ、反逆者だと言い出す輩が現れるかもしれない。
アレスティア家は子爵家であり、貴族としてそこまで力のある家ではない。
もし敵対する貴族から国賊として仕立て上げられでもしたら、抵抗は難しいだろう。
まだレイネスからメリアへの婚約の申し込みはないが、キスを迫ってきたという事実がある以上、猶予はないのかもしれない。
メリアの立場が弱い以上、レイネスから婚約を迫られたら、おそらく断ることはできないだろう。
婚約が成立してしまえば、アリシアがメリアと結ばれる道はより困難なものになってしまう。
ここは早急に手を打つべきなのかもしれない。
「メリアさんさえよろしければ、一つ作戦がありますよ」
アリシアは口角を上げた。
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