ロストソードの使い手

しぐれのりゅうじ

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ホノカ編

二十八話 深い森

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「……どこに連れられるんだろ」

 澄み渡った青い空の中へとグリフォドールに連れられて、どのくらい時間がたっただろう。いつの間にかウルブの村のある島はもう遠くにあって、反対にイシリスの国がある島に近づいていた。高度としては島の表面の下の辺りで、ここからはその島が元は地上にあったのだと地層の断面がはっきりと確認できる。

「ピャピャピャー」

 グリフォドールは獲物を捉えらたからか、楽しげにゆらゆらと身体を揺らしながら、その島の周囲を旋回している。僕はその度に落ちそうになってヒヤヒヤしてしまう。

「ピャー!」
「あれは……」

 旋回している中、前方の少し下に深い緑が敷き詰められている島が見えてくる。位置としては、イシリスの国の北側だろうか。グリフォドールはそこへと一気に下降していく。するとその島の姿がはっきりと見えてきた。
 その島は、さっきの島の森よりも深くて葉の色も濃い緑でほとんどがそれに覆われている。ただ、所々ポッカリと開けた場所があって、そこには人が住んでいるような感じがあった。

「……」

 それを観察し終えた瞬間には、すぐそこに木の海があった。
 これからグリフォドールの住処にまで連れて行かれるのだろうか。もしくは、あのウルフェンのように殺されてしまうのだろうか。どちらにせよ、その前に何とか脱出しなくてはならない。

「この高さなら……」

 ある程度の高さから落ちる恐怖には耐性ができていた。それに、下には葉達のクッションもある。僕は慎重に腕を動かして、刃を生み出したロストソードを手に出現させる。そしてタイミングを見計らって。

「はぁっ」
「ピャ!?」

 僕を抱きかかえる右足の足首を連続で突き刺した。グリフォドールは驚いた声を上げると、痛みに掴む足の力が無くなった。

「うおっ」

 そいつから解き放たれ僕は重力に吸い込まれるように、緑の中へと落下する。ロストソードを仕舞ってから、迫る衝撃に目を瞑り全身に力を入れた。

「……ぐぐぅっ!」

 細かな葉と枝に滅多打ちにされながらも勢いを和らげてもらい、最後には腹部に激痛が走るも太い部分に止めてもらうことに成功。干されたタオルみたいな状態から、飛び降りて地面に足をつける。

「……いっつ」
「ピエエー!」

 木の傘で見えづらいが怒った様子のグリフォドールの鳴き声が上空から轟いた。うかうかしていられなそうだ。
 急いでこの場から離れ、僕は暗い森林をデタラメに走った。ほとんど陽の光は遮られていて最低限の明るさしかないせいで、何度も木の根っこに躓きながら。

「はぁ……はぁ……ここまで来れば」

 グリフォドールの声は反対側の方へと消えていき、まずは一安心し息を整える。
 周辺は見えなくはないが、念のためにリュックから懐中電灯のマギアを取り出して、それを用いて明かりを付けた。

「そろそろ行かなきゃ」

 落ち着いたので、僕は歩き出す。とりあえず空から見た開けた場所のある方へ、何となくの感覚で進んだ。
 この森はウルブの村があった森とは違って自然の騒がしさがあった。空にいる小さな鳥の魔獣の甲高い鳴き声や地上を歩く色んな種類の魔獣や虫の鳴き声、そして葉のさざ波など、自然の音で溢れかえっている。群生している植物も幻想的なものや不思議なものがいっぱいあり、色とりどりの巨大キノコや青白く光る大きなタンポポみたいな植物が目に入ってきた。他にも、足が生えていて動く大根や人参、小さな木みたいなのもいて。この世界に来て一番異世界を感じた。
 歩いていると魔獣ともすれ違い温厚なタイプばかりで襲われることはなく、何事もなく咲希へと進んだ。

「この道合ってるのかな……」

 凄く危険そうだけど意外と安全で、目先の事を思考の隅に置けるようになると、今度は目的地にたどり着けるか不安になってきた。
 そんなどこか足元が疎かになった時。

「キャー!」

 南側の方から女性の叫び声が聞こえ、急速にピンと緊張の糸が張り詰めた。マギアで先を照らすも、もっと遠くにいるらしくその姿は見えなかった。
 僕は再びロストソードを手に持つと、迷わず奥へ向かおうと地面を蹴った。
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