ロストソードの使い手

しぐれのりゅうじ

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ホノカ編

三十一話 コノハ

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「ゆ、勇者って僕のこと……ですか?」
「もちろんです! コノのピンチに颯爽と駆けつけて、圧倒的な力で襲撃者を退治してくださいました。そのお姿はまさしく勇者様のようでした!」

 キラキラとした羨望の眼差しを送られる。照れもあったけど、何より過大評価に居心地の悪さがあった。

「その、お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「日景優羽、です」
「ヒカゲユウワ様。なんて素敵なお名前なのでしょうか」
「は、はぁ」

 もう何を言っても褒められそうな感じがあった。ほとんど会ったばかりの人にここまでのテンション感で来られるのは経験がなく、どう接すればいいのかわからない。

「あのヒカゲ様とお呼びしてもいいでしょうか」
「いや、様はちょっと……」
「そうですか……。ええとそれならヒカゲさん、ならどうでしょう」

 別に呼び捨てがいいのだけど、それは受け入れられる感じがしなかったので、とりあえず頷いておいた。

「わかりました。コノの事は気軽にコノって呼んでくださいね。それと、タメ口で全然良いので」
「なら、僕にも敬語はいいよ」
「それは出来ませんっ。だって、コノの命の恩人ですから」

 そこは絶対に譲らないという強い意思があった。

「わ、わかった。それじゃコノに色々訊きたい事があるんだけど」
「はい、何でも聞いてください!」

 グイッと近づいてきて、正座している彼女の膝がギリギリ触れないぐらいの距離に。その積極性に少し気圧される。

「えっと、ここは?」

 周囲を見回す。ここは畳の部屋になっていて、広さは四畳半ぐらいで二人でいるには少し手狭だ。布団は真ん中に敷いてあり、北側壁の上に四角い木の枠がありそこから白い陽が射し込んで、東側には絵本などの本が敷き詰められた本棚や小さな丸机があり、西側には押入れのふすま、南側には部屋から出るための木のドアがあった。

「ここはコノのお部屋です。ヒカゲさんが倒れてしまってから、友達のホノカとコノの家まで運んでから、ここで横になってもらったんです」
「そうだったんだ。ありがとう助けてくれて。それと、面倒をかけちゃったみたいでごめん」
「そんなことはないです!」

 一生懸命に両手をぶんぶん振って違うということを伝えてくれる。見た目は美人系だけど言動やその仕草が子供っぽくて、そのギャップに微笑ましい気持ちになった。

「ちなみに何だけど、どのくらい寝ていたかな」
「えっと、丸一日くらいですかね」
「一日って……」

 だから一緒に寝ていたのか。それにずいぶんと長く夢を見ていた気がしたし、空気も朝の新鮮さがあった。
 長時間寝込んでしまうなんて、どうやらあの力には相当な負担があるのかもしれない。都合良く強くはなれないみたいだ。

「お身体の方は大丈夫ですか? 傷は魔法で治っていると思うのですけど」
「もしかしてコノが魔法を?」
「はい、回復魔法はちょっぴり得意なので」

 そういえばと、彼女の足を見ると昨日の傷は完全になくなっていた。

「じゃあ僕にとってコノは命の恩人だね。本当にありがとう」
「そ、そんな……恐縮です」

 コノは少し顔を俯かせつつはにかんだ。それから少し無言の時間が挟まると、髪をくるくると弄りだした。

「コノハ、開けるわよー」

 ドアの向こうから穏やかそうな女性の声がして、僕は反射的にコノからちょっと離れた。
 言葉の通りに開けられ、部屋に入ってきたのは二十代後半くらいのエルフの女性。黄色の着物とロングスカートが合わさったような服を着ている。髪はコノと同じ色でミディアムロング、顔もコノと良く似ていてより大人っぽくした感じだった。
 緑の瞳が僕を映すとコノと同じように破顔して。

「あら! 起きていたのね」
「は、はい」
「あなたー! ちょっと来てー目が覚めたみたいよー!」

 さらに向こうの部屋に呼びかけた。僕は彼女についてコノに疑問の視線を投げかける。

「お母さんです」
「え? お姉さんかと」
「エルフは人よりも長生きで、見た目も二十代後半からしばらく変わらないんです」

 そういえばゲームや漫画でもそうだったなと思い出す。それに、アヤメさんという実例が存在していて簡単に飲み込めた。

「本当かい? おおっ!」

 お母さんの隣からこれまた若い見た目で、爽やかそうなお父さんが出てくる。顔つきはお母さんと並んで立っても遜色ない高身長な美男だ。髪は緑色でおでこを出して清潔感のある髪型をして、服は青色の着物に短パンというセットだった。
 彼は僕を見るなり足早に近づいてくると、ハグをしてきて。

「ありがとう、娘を助けてくれて」
「い、いえ……無事で良かったです」

 少し筋肉質な身体に一瞬強くぎゅっとされる。何となくだけど、コノの性格や行動はお父さん似なのかなと感じた。

「私からも、ありがとうございます」

 お父さんがハグを止めると、目の前に正座で座って、その隣にお母さんも。両親とコノに挟まれる形になった。

「そんな、僕もコノさんに助けられた身なので、お礼を言うのはこちらというか……」
「うふふっ、謙虚な方ね」

 こんなにもお礼を言われると、どんどん心が苦しくなってくる。僕はそんな人間じゃないって反論したくなってきて。

「まだお疲れだろう、家でゆっくりしていってくれ」
「そうね、実家のように寛いでいって」
「す、すみません。お気遣いは嬉しいのですが、早く仲間の元に帰らないといけなくて」

 そう言うと二人は不思議そうに顔を見合わした。何かおかしなことを言ってしまっだろうか。
 後ろからちょんちょんと肩を突かれる。

「そういえばヒカゲさんってどうやってこのイングリの島に?」

 そう尋ねられ僕はウルブの島からグリフォドールに連れ去られたということを説明した。

「そんなことがあったのか……。残念だけど、今はイシリスの街に行けないんだ」
「へ?」
「近日に祈りを捧げる儀式があって、それが終わるまでは通行止めになっているの」
 つまり、それまではアオ達に会えないということか。途端に孤独感が押し寄せてき
た。
「いつ頃それが行われるんですか?」
「予定は二週間後くらいだな」
「そう……ですか」

 思ったよりも長くてガックシときてしまう。日本にいた三人がいないと思うと、不安が押し寄せてくる。

「そんなに悲観しないで。さっきも言った通り自分の家のようにしばらく家に過ごして」
「いいん、ですか?」
「ええ、娘の恩人だもの。それに村の人達にもあなたのことが伝わっているから歓迎してくれると思うわ」

 その言葉が凄く心強かった。三人共に良い人そうだし、何だか命拾いした気分だ。

「ありがとうございます。その、お世話になります」

 そう言って僕は頭を下げた。本当に頭が下がる思いだ。

「あの、ヒカゲさん」

 背後のコノに少し興奮気味な声で呼びかけられる。

「どうしたの?」
「コノとヒカゲさんの出会い、これって運命だと思うんです!」

 彼女は前傾姿勢になって、僕の両手を握る。瞳は爛々と煌めいていて、頬は紅潮していた。

「だから、その……コノの恋人になってください!」
「……え?」

 とんでもない爆弾が投下された。その衝撃に思考が停止。理解が追いつかず感情がほぼ無になっていた。

「コノの恋人に……」
「いやいやいや! ってか親御さんがいる前で……」

 恐る恐る二人を見る。でも何故かどちらもにこやかに微笑んでいて、サムズアップしていた。

「「オッケー」」
「ええええええ!」

 僕は完全にこの家族の包囲網に捕まっていた。
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