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ホノカ編
三十七話 侵入者
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「コノ……」
彼女の顔は青ざめていて、自分のぬいぐるみを強く抱きしめる身体は震えていた。
「お前らは医療所に避難しておけ。オレは様子を見てくる」
「僕も行くよ、村の人を助けなきゃ」
僕にはギュララさんから貰った強大な力があって、すぐそこで人が苦しんでるのにそれを使わず隠れるだなんてできない。ロストソードを手に持った。
「ヒカゲはコノハを守ってくれ。それに、心配するほど村の奴らもやわじゃない」
ホノカはそう勝ち気に八重歯を見せた。それはハッタリを言ってる感じでもなく、それにコノが後ろから僕の服をぎゅっと掴んでいて離れそうにないので、救援は彼女に任せることにする。
「待って、やっぱりホノカも一緒に逃げよう?」
「何言ってんだよ。もうオレを心配する必要はないだろ」
「でも……ホノカが傷つく姿は見たくないよ」
ホノカは困ったような嬉しいような、二つの感情が入り交じった表情で、コノに寄ると頭をポンポンとする。
「大丈夫、無茶はしねぇよ。だから安心してくれ」
「本当? 約束だよ?」
「わかってる、約束だ」
そうホノカが笑顔で言葉を交わしてから、一瞬で真剣な面持ちになって僕達に背を向けて、ポニーテールを揺らした。
「コノハを頼んだぞヒカゲ」
「必ず守るよ」
「頼もしいこった。さーて、ちょっくらあいつらを……」
僕達の視線の先、坂道から銀色の毛皮と犬科の耳が見えて、そこから人と狼の間の顔が現れる。
「見つけたぜ、緑の祈り手」
「ひっ……」
そいつは前に会ったウルフェンよりも身体が小さく瞳の色も黒色だった。同じ部分は頭に虹の鉢巻を巻いていることだろう。
コノはその姿を見た途端に、恐怖に瞳を大きく見開いて、僕の服を掴む力も増した。
「ここまで来やがったか。オレがこいつとやり合ってる内に中に逃げろ」
「わかった。コノ……どうしたの?」
「はぁ、はぁ、はぁ」
コノは過呼吸になっていて、怯えに満たされたエメラルドの瞳はウルフェンを捉えて離さない。
「オラァ! オレが相手だぁ」
そのウルフェンの前に意気揚々とホノカが躍り出る。
「お前はあの時リーダーが……いや、そういうことか」
「はんっ。コノハに手は出させねぇぞ。オレが相手だ!」
「ちっ……お前はもう用済みなんだよっ!」
その声がゴングとなり二人の戦闘が開始される。ウルフェンは爪で襲いかかるも、ホノカは軽々避けて、隙があれば的確に拳や蹴りで反撃の一撃を与えていた。どうやら余裕そうで僕はコノの方を見る。
「コノ、歩ける?」
「はぁ、はぁ、ごめんなさい、思うように身体が動かなくて……魔法も無理そうで」
恐怖によって足が竦んでしまっているようだ。殺されかけたのだから当然の反応だろう。
「そうだ、この子も預かっていて。二体セットで抱きしめれば少しは楽になるかも」
「……はい」
ホノカぬいぐるみも手渡す。すると少し呼吸が落ち着いた。コノは左手でぬいぐるみや買った本を抱えて右手は僕の服の背の部分を握っている。
「ゆっくり、一歩ずつ後ろに下がろう」
「が、頑張ります」
走れない以上、背を向けるのは危険だ。彼女を持ち上げて逃げるという手もあるけど、この両側の深い森から敵が出る可能もある。ここは安全第一だ。
周囲を警戒して、コノ様子を確認しつつ、僕はホノカの戦闘方にも目を向けた。
「その程度かよ!」
「ふぎゃあ!?」
何度目かの攻防を繰り返した後、相手の攻撃を受け流すと、ホノカはウルフェンの股間を厚底のサンダルで蹴り上げた。さらに悶絶して動けなくなっても容赦なく追撃の足裏で蹴り飛ばす。
「フレイム!」
距離ができた状況になった時に、ホノカは短めな呪文を唱えると、前方に伸ばした右手から小さめな火球魔法を放った。
「あっぢいい!」
銀の毛皮は地面に転がされたことで、汚れだらけでさらに炎の魔法で所々が黒ずんでいる。それを後ろに下がりつつ眺めていると、ちょくちょく彼の痛みを想起してしまう。特に股間の攻撃はこちらも少しひゅっとした。
「何だか余裕そうだよ」
「う、うん」
過呼吸も収まり顔色も良くなってくる。これなら、すぐにでも平常に戻って逃げられそうで。
「がぁ……やっとたどり着ついぞぉ」
左手から声がしてそっちを見ると、森の奥から新手のウルフェンが現れる。そいつは彼と同じ鉢巻を巻いて、瞳の色は水色でさっきの人と同じような体格をしている。何故か疲れ切っているものの、毛並みは綺麗なままだった。
「……?」
彼の姿に少し違和感を覚えた。何だか色素が薄いというか、儚げな感じで。
「嘘……」
「大丈夫。背に隠れてて」
あいつを見たことでまたさっきの状態に逆戻り。けど、動けないコノを守るのはこれが初めてじゃない。
「緑の祈り手見つけたぞぉ。覚悟ぉぉぉ」
「ぐっおおお……」
叫びながら走り、勢いのまま間合いを詰めてその鈍く光る爪が僕の首へと強襲。それに真っ向から剣をぶつけ、鍔迫り合いになる。
「……いける!」
「な、何!?」
剣に伝わった衝撃、そしてジリジリと加えられる圧力。それはたいしたことがなかった。あのストロングベリーを食べた事で得たパワーは、それを凌駕している。
「うらぁぁぁ!」
「ぬおっ!」
競り合っていた攻撃を弾き飛ばし、がら空きになった身体に横一線に斬り裂いた。
けどその手応えは薄く、その感覚はギュララさんに攻撃を与えた時と似た感じで。
「くぅっ」
相手は大きく後ろに飛び退いて距離を取られてしまう。コノがいる以上追撃はできない。再び相対して剣を構えた。
「まさか、あんたがリーダーの言ってた使い手か。厄介だな」
その言葉から察するに森で戦ったあいつがリーダーなのだろう。グリフォドールにさらわれていたけど、無事だったようだ。
「それに、あいつもヤバそうだし」
彼が目を向けたのは、ホノカにボコボコにされているウルフェン。再び炎の魔法を浴びせられ、熱に絶叫しながら苦しんでいる。
「こりゃ駄目だな。撤退するよ!」
「あ、あぁ」
「逃がすかよ!」
水色の瞳のウルフェンはまた森の奥に逃げ込んで、黒色の方は狼のように四足歩行で村の入口へと尻尾を巻いて逃げ出した。
「オレはあいつを追いかける。二人は早く中に!」
それだけ言い残して、空を飛ぶ魔法で飛んでいってしまった。
「コノ、もう敵はいないよ。走れる?」
「その……無理そうです」
「わかった。なら今は許してね」
「な、何を……ってもしかして」
片膝立ちになった僕の動作に気づいてくれたようで、太ももの上に座り両腕を首の後ろに回す。僕は彼女の腰の部分に手を当てて反対の手は彼女の太ももの下に。身体を寄せてから持ち上げる。お姫様抱っこというやつだ。
「……重くないですか?」
「全然そんなことないよ。じゃあしっかり捕まっててね」
「は、はい!」
あの食べ物のおかげで強化されているからか、余裕で運べた。視界にはコノの表情も良く見え、恥ずかしそうに目を泳がせている。
「よし着いたから下ろすね」
「あ、ありがとう……ございます」
大した距離でもなくすぐ一階のドアの前に。彼女をゆっくりと丁寧に手を離した。
それから扉を開けて中に入った。玄関は幅があり、一足の見覚えのある靴が置いてあった。内装の雰囲気は普通の民家という感じだ。
先には木の通路が続いていて、左に広いふすまがあり、右手には小さなふすまがそれぞれ二つ。
「おや二人共良く来たね」
右手前のふすまからリーフさんが現れた。家とは違って、茶色の着物を着ている。ここがリーフさんの仕事場なのだろう。
「お父さーん!」
「おおっと……よしよしもう大丈夫だからな」
「うん……!」
コノは思いきり抱きついて、リーフさんはしっかりと受け止める。そうされているコノはようやく恐れから開放されたように、安堵の表情を浮かべた。
彼女の顔は青ざめていて、自分のぬいぐるみを強く抱きしめる身体は震えていた。
「お前らは医療所に避難しておけ。オレは様子を見てくる」
「僕も行くよ、村の人を助けなきゃ」
僕にはギュララさんから貰った強大な力があって、すぐそこで人が苦しんでるのにそれを使わず隠れるだなんてできない。ロストソードを手に持った。
「ヒカゲはコノハを守ってくれ。それに、心配するほど村の奴らもやわじゃない」
ホノカはそう勝ち気に八重歯を見せた。それはハッタリを言ってる感じでもなく、それにコノが後ろから僕の服をぎゅっと掴んでいて離れそうにないので、救援は彼女に任せることにする。
「待って、やっぱりホノカも一緒に逃げよう?」
「何言ってんだよ。もうオレを心配する必要はないだろ」
「でも……ホノカが傷つく姿は見たくないよ」
ホノカは困ったような嬉しいような、二つの感情が入り交じった表情で、コノに寄ると頭をポンポンとする。
「大丈夫、無茶はしねぇよ。だから安心してくれ」
「本当? 約束だよ?」
「わかってる、約束だ」
そうホノカが笑顔で言葉を交わしてから、一瞬で真剣な面持ちになって僕達に背を向けて、ポニーテールを揺らした。
「コノハを頼んだぞヒカゲ」
「必ず守るよ」
「頼もしいこった。さーて、ちょっくらあいつらを……」
僕達の視線の先、坂道から銀色の毛皮と犬科の耳が見えて、そこから人と狼の間の顔が現れる。
「見つけたぜ、緑の祈り手」
「ひっ……」
そいつは前に会ったウルフェンよりも身体が小さく瞳の色も黒色だった。同じ部分は頭に虹の鉢巻を巻いていることだろう。
コノはその姿を見た途端に、恐怖に瞳を大きく見開いて、僕の服を掴む力も増した。
「ここまで来やがったか。オレがこいつとやり合ってる内に中に逃げろ」
「わかった。コノ……どうしたの?」
「はぁ、はぁ、はぁ」
コノは過呼吸になっていて、怯えに満たされたエメラルドの瞳はウルフェンを捉えて離さない。
「オラァ! オレが相手だぁ」
そのウルフェンの前に意気揚々とホノカが躍り出る。
「お前はあの時リーダーが……いや、そういうことか」
「はんっ。コノハに手は出させねぇぞ。オレが相手だ!」
「ちっ……お前はもう用済みなんだよっ!」
その声がゴングとなり二人の戦闘が開始される。ウルフェンは爪で襲いかかるも、ホノカは軽々避けて、隙があれば的確に拳や蹴りで反撃の一撃を与えていた。どうやら余裕そうで僕はコノの方を見る。
「コノ、歩ける?」
「はぁ、はぁ、ごめんなさい、思うように身体が動かなくて……魔法も無理そうで」
恐怖によって足が竦んでしまっているようだ。殺されかけたのだから当然の反応だろう。
「そうだ、この子も預かっていて。二体セットで抱きしめれば少しは楽になるかも」
「……はい」
ホノカぬいぐるみも手渡す。すると少し呼吸が落ち着いた。コノは左手でぬいぐるみや買った本を抱えて右手は僕の服の背の部分を握っている。
「ゆっくり、一歩ずつ後ろに下がろう」
「が、頑張ります」
走れない以上、背を向けるのは危険だ。彼女を持ち上げて逃げるという手もあるけど、この両側の深い森から敵が出る可能もある。ここは安全第一だ。
周囲を警戒して、コノ様子を確認しつつ、僕はホノカの戦闘方にも目を向けた。
「その程度かよ!」
「ふぎゃあ!?」
何度目かの攻防を繰り返した後、相手の攻撃を受け流すと、ホノカはウルフェンの股間を厚底のサンダルで蹴り上げた。さらに悶絶して動けなくなっても容赦なく追撃の足裏で蹴り飛ばす。
「フレイム!」
距離ができた状況になった時に、ホノカは短めな呪文を唱えると、前方に伸ばした右手から小さめな火球魔法を放った。
「あっぢいい!」
銀の毛皮は地面に転がされたことで、汚れだらけでさらに炎の魔法で所々が黒ずんでいる。それを後ろに下がりつつ眺めていると、ちょくちょく彼の痛みを想起してしまう。特に股間の攻撃はこちらも少しひゅっとした。
「何だか余裕そうだよ」
「う、うん」
過呼吸も収まり顔色も良くなってくる。これなら、すぐにでも平常に戻って逃げられそうで。
「がぁ……やっとたどり着ついぞぉ」
左手から声がしてそっちを見ると、森の奥から新手のウルフェンが現れる。そいつは彼と同じ鉢巻を巻いて、瞳の色は水色でさっきの人と同じような体格をしている。何故か疲れ切っているものの、毛並みは綺麗なままだった。
「……?」
彼の姿に少し違和感を覚えた。何だか色素が薄いというか、儚げな感じで。
「嘘……」
「大丈夫。背に隠れてて」
あいつを見たことでまたさっきの状態に逆戻り。けど、動けないコノを守るのはこれが初めてじゃない。
「緑の祈り手見つけたぞぉ。覚悟ぉぉぉ」
「ぐっおおお……」
叫びながら走り、勢いのまま間合いを詰めてその鈍く光る爪が僕の首へと強襲。それに真っ向から剣をぶつけ、鍔迫り合いになる。
「……いける!」
「な、何!?」
剣に伝わった衝撃、そしてジリジリと加えられる圧力。それはたいしたことがなかった。あのストロングベリーを食べた事で得たパワーは、それを凌駕している。
「うらぁぁぁ!」
「ぬおっ!」
競り合っていた攻撃を弾き飛ばし、がら空きになった身体に横一線に斬り裂いた。
けどその手応えは薄く、その感覚はギュララさんに攻撃を与えた時と似た感じで。
「くぅっ」
相手は大きく後ろに飛び退いて距離を取られてしまう。コノがいる以上追撃はできない。再び相対して剣を構えた。
「まさか、あんたがリーダーの言ってた使い手か。厄介だな」
その言葉から察するに森で戦ったあいつがリーダーなのだろう。グリフォドールにさらわれていたけど、無事だったようだ。
「それに、あいつもヤバそうだし」
彼が目を向けたのは、ホノカにボコボコにされているウルフェン。再び炎の魔法を浴びせられ、熱に絶叫しながら苦しんでいる。
「こりゃ駄目だな。撤退するよ!」
「あ、あぁ」
「逃がすかよ!」
水色の瞳のウルフェンはまた森の奥に逃げ込んで、黒色の方は狼のように四足歩行で村の入口へと尻尾を巻いて逃げ出した。
「オレはあいつを追いかける。二人は早く中に!」
それだけ言い残して、空を飛ぶ魔法で飛んでいってしまった。
「コノ、もう敵はいないよ。走れる?」
「その……無理そうです」
「わかった。なら今は許してね」
「な、何を……ってもしかして」
片膝立ちになった僕の動作に気づいてくれたようで、太ももの上に座り両腕を首の後ろに回す。僕は彼女の腰の部分に手を当てて反対の手は彼女の太ももの下に。身体を寄せてから持ち上げる。お姫様抱っこというやつだ。
「……重くないですか?」
「全然そんなことないよ。じゃあしっかり捕まっててね」
「は、はい!」
あの食べ物のおかげで強化されているからか、余裕で運べた。視界にはコノの表情も良く見え、恥ずかしそうに目を泳がせている。
「よし着いたから下ろすね」
「あ、ありがとう……ございます」
大した距離でもなくすぐ一階のドアの前に。彼女をゆっくりと丁寧に手を離した。
それから扉を開けて中に入った。玄関は幅があり、一足の見覚えのある靴が置いてあった。内装の雰囲気は普通の民家という感じだ。
先には木の通路が続いていて、左に広いふすまがあり、右手には小さなふすまがそれぞれ二つ。
「おや二人共良く来たね」
右手前のふすまからリーフさんが現れた。家とは違って、茶色の着物を着ている。ここがリーフさんの仕事場なのだろう。
「お父さーん!」
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