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ホノカ編
五十三話 好きの矢印
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オボロさんに連れられたのは、廊下を真ん中にして右側の手前と奥の二つある中の前者の方だった。
入ると全面畳になっていて、コノの部屋よりも一回り広さがあり、二人で使う分には十分そうだった。物もそこまで多いわけでなく、床に面してあるのは本棚や机に少し大きめな観葉植物、そして布団でくらいで、壁には先祖っぽい人の似顔絵が五つほど飾ってある。
僕が端っこに荷物を置いていると、その間に座布団を押し入れから出してくれて、机の前に置いてもらった。
「ありがとうございます」
「まぁ何もないのだがな、ゆっくりしていってくれ」
それからオボロさんは部屋から出て行ってしまい一人に。そんな誰もいない静かで落ち着いた状態になると、気が楽にはなるのだけど物足りなさも感じた。日本にいた頃は部屋で一人なんて当たり前だったのだけど、こっちに来てからは誰かといることが多くなっているせいだろう。少し前だとこんな感覚を覚えるなんて想像できなかった。
「……」
僕はリュックからコノとホノカのぬいぐるみを取り出し、ぎゅっとさせくっつけて眺める。可愛さに癒されつつも、色々と考えてしまいその二体を離した。それからコノの方に目をやる。
「好きになる……か」
僕はコノと恋愛関係にならなければならない。けれど、無理矢理や嘘じゃ未練は解決できないし、僕もそれはしたくなくて。ただ、彼女を心の底から恋愛的に好きになれるとは思えなかった。
確かに見た目も綺麗で性格も可愛らしくて魅力ではある。けれど、恋愛を意識する度に浮かぶのはコノではなくアオの方で。それは多分、小六の時から彼女を意識していたからだと思う。後にも先にも恋のような感情を持ったのはそれだけだったから。
今はアオをどう思っているのか、自分に問いかけてみるけど答えは出なかった。あの日以来彼女に対しては罪悪感で満たされて、こっちで生きていると分かってもそれは変わらなくて。
「無理だ……」
はっきりしない限り誰かを好きになる事はできそうにない。だとすれば、アオが傍にいない現状では恋愛関係になるという選択肢は消えることになる。
それに重要なのは僕とコノが互いに大切な人と認識する関係性になることで、必ずしも恋人である必要はないのだと思う。友人以上で恋人とは違うけど同レベルの関係というものを探すというのが現実的な気がする。それもコノが納得できる形で。
それをこの一週間で見つけ出して形にしないといけない。
「よし、戻るか」
案は思いつきそうもないので僕はさっきの部屋に戻ることにした。
「それでねお風呂に関しては断られちゃったんだー」
「はぁ。流石にやり過ぎだろ、いくら感謝していても」
「でも……あっユウワさん、休めましたか?」
二人は机を挟んで会話をしていて、内容から察するに僕との日々のようだ。冷や汗が出るも、ホノカは怒っている様子はなくて。
「うん、何か久しぶりに一人になった気がしたよ」
「ユウワさんっていっぱいお友達がいるんですか?」
「友達……まぁいっぱいではないけどいるよ。全員同じ使い手で仕事仲間でもあるけど」
現状のアオとモモ先輩との関係はどう形容すればいいのだろう。凄く曖昧で掴みどころがない。だから幼馴染や仕事仲間という客観的な括りでしか言葉にできなかった。
「そういや、ロストソードの使い手の中にオレ達と同い年くらいの凄い奴がいるんだよな」
「ミズアさんだよね。ユウワさん、ミズアさんってどんな方なんですか? 実はコノの憧れの人でして」
思わぬ所でアオの名前が上がって少し心拍数が上昇する。幼馴染としてはこっちまで知られていて誇らしい気持ちにもなってしまって。勝手で悪いけれど。
「アオはとても明るくて優しくて、でも戦闘力は桁違いで……良い所をあげだすときりが無いくらいに凄い子だよ」
「随分と嬉しそうだな。ユウワってミズアさんと仲が良いのか?」
そう指摘されて口元が緩んでいる事に気づく。我ながら気持ち悪いと思ってしまう。
「幼馴染……だからね」
「うぇぇぇぇぇ!? ミズアさんと幼馴染なんですか!?」
コノは今まで一番の大声を出した。勢い良く立ち上がりこちらに迫ってきて。
「えと、コノはその、尊敬してて……カッコいいなって思ってて、あわわわ」
「お、落ち着いて」
まさに溢れる思いが言葉に出ているという感じだ。好きなのが伝わってきて、自分も嬉しくなるし会わせてあげたい。
「って、それじゃあ前にユウワさんが教えてくれた幼馴染も、そういうことですよね」
「ああ、うん」
「つまりコノのライバルはミズアさんってことで……」
小声でそう呟いた。コノは興奮にほっぺを赤くしながらも、同時に顔を青ざめさせていて。何だか器用だなと思ってしまう。
「もう駄目だ……勝てないよ……」
「こ、コノ?」
彼女は頭を抱えて考え込んでしまう。
「……あのユウワさん」
「な、何?」
そして少ししてから顔を上げると背伸びをして耳打ちしてくる。
「……その未練に関してちょっと考え直そうかなと」
「え……」
「ちょっと一人になってきます」
それだけ言い残してそのまま扉の向こう側に行ってしまう。
「騒がしくなったり静かになったり、忙しかったな」
ホノカは心配するような素振りは見せず、呑気に微笑を浮かべている。
「そういえば、用って何?」
そもそもこっちに戻ってきたのは呼ばれたからで、完全に話が脱線していた。
「あー悪い。もういいや」
「へ?」
「コノハとの関係について問いただそうと思ったんだが、コノハが色々話してくれてな。それに、あんまりに楽しそうにユウワの事を話すから、気持ちも収まったんだ。随分と気に入られてるみたいだな」
八重歯がキラリと光る。どうやら殴られずに済むようだ、コノに感謝しないと。しかも怒っていないから告白の件も言っていないようだし。
「てか、コノハはどこ行ったんだ?」
「部屋じゃないかな、考え事するって言っていたから」
「なら夕食まで一人にしてやるか。ユウワ、せっかくだし、ミズアさんの事を教えてくれよ。オレも噂の強さに興味を持ってたんだ」
僕は頷いてから座布団の上に。それからホノカの質問に答えるような形でアオについての話をした。
その時間はあっという間で、すぐに夕食の時間になってしまう。アオの事を語っていると、つい早口になってしまうし楽しかった。
入ると全面畳になっていて、コノの部屋よりも一回り広さがあり、二人で使う分には十分そうだった。物もそこまで多いわけでなく、床に面してあるのは本棚や机に少し大きめな観葉植物、そして布団でくらいで、壁には先祖っぽい人の似顔絵が五つほど飾ってある。
僕が端っこに荷物を置いていると、その間に座布団を押し入れから出してくれて、机の前に置いてもらった。
「ありがとうございます」
「まぁ何もないのだがな、ゆっくりしていってくれ」
それからオボロさんは部屋から出て行ってしまい一人に。そんな誰もいない静かで落ち着いた状態になると、気が楽にはなるのだけど物足りなさも感じた。日本にいた頃は部屋で一人なんて当たり前だったのだけど、こっちに来てからは誰かといることが多くなっているせいだろう。少し前だとこんな感覚を覚えるなんて想像できなかった。
「……」
僕はリュックからコノとホノカのぬいぐるみを取り出し、ぎゅっとさせくっつけて眺める。可愛さに癒されつつも、色々と考えてしまいその二体を離した。それからコノの方に目をやる。
「好きになる……か」
僕はコノと恋愛関係にならなければならない。けれど、無理矢理や嘘じゃ未練は解決できないし、僕もそれはしたくなくて。ただ、彼女を心の底から恋愛的に好きになれるとは思えなかった。
確かに見た目も綺麗で性格も可愛らしくて魅力ではある。けれど、恋愛を意識する度に浮かぶのはコノではなくアオの方で。それは多分、小六の時から彼女を意識していたからだと思う。後にも先にも恋のような感情を持ったのはそれだけだったから。
今はアオをどう思っているのか、自分に問いかけてみるけど答えは出なかった。あの日以来彼女に対しては罪悪感で満たされて、こっちで生きていると分かってもそれは変わらなくて。
「無理だ……」
はっきりしない限り誰かを好きになる事はできそうにない。だとすれば、アオが傍にいない現状では恋愛関係になるという選択肢は消えることになる。
それに重要なのは僕とコノが互いに大切な人と認識する関係性になることで、必ずしも恋人である必要はないのだと思う。友人以上で恋人とは違うけど同レベルの関係というものを探すというのが現実的な気がする。それもコノが納得できる形で。
それをこの一週間で見つけ出して形にしないといけない。
「よし、戻るか」
案は思いつきそうもないので僕はさっきの部屋に戻ることにした。
「それでねお風呂に関しては断られちゃったんだー」
「はぁ。流石にやり過ぎだろ、いくら感謝していても」
「でも……あっユウワさん、休めましたか?」
二人は机を挟んで会話をしていて、内容から察するに僕との日々のようだ。冷や汗が出るも、ホノカは怒っている様子はなくて。
「うん、何か久しぶりに一人になった気がしたよ」
「ユウワさんっていっぱいお友達がいるんですか?」
「友達……まぁいっぱいではないけどいるよ。全員同じ使い手で仕事仲間でもあるけど」
現状のアオとモモ先輩との関係はどう形容すればいいのだろう。凄く曖昧で掴みどころがない。だから幼馴染や仕事仲間という客観的な括りでしか言葉にできなかった。
「そういや、ロストソードの使い手の中にオレ達と同い年くらいの凄い奴がいるんだよな」
「ミズアさんだよね。ユウワさん、ミズアさんってどんな方なんですか? 実はコノの憧れの人でして」
思わぬ所でアオの名前が上がって少し心拍数が上昇する。幼馴染としてはこっちまで知られていて誇らしい気持ちにもなってしまって。勝手で悪いけれど。
「アオはとても明るくて優しくて、でも戦闘力は桁違いで……良い所をあげだすときりが無いくらいに凄い子だよ」
「随分と嬉しそうだな。ユウワってミズアさんと仲が良いのか?」
そう指摘されて口元が緩んでいる事に気づく。我ながら気持ち悪いと思ってしまう。
「幼馴染……だからね」
「うぇぇぇぇぇ!? ミズアさんと幼馴染なんですか!?」
コノは今まで一番の大声を出した。勢い良く立ち上がりこちらに迫ってきて。
「えと、コノはその、尊敬してて……カッコいいなって思ってて、あわわわ」
「お、落ち着いて」
まさに溢れる思いが言葉に出ているという感じだ。好きなのが伝わってきて、自分も嬉しくなるし会わせてあげたい。
「って、それじゃあ前にユウワさんが教えてくれた幼馴染も、そういうことですよね」
「ああ、うん」
「つまりコノのライバルはミズアさんってことで……」
小声でそう呟いた。コノは興奮にほっぺを赤くしながらも、同時に顔を青ざめさせていて。何だか器用だなと思ってしまう。
「もう駄目だ……勝てないよ……」
「こ、コノ?」
彼女は頭を抱えて考え込んでしまう。
「……あのユウワさん」
「な、何?」
そして少ししてから顔を上げると背伸びをして耳打ちしてくる。
「……その未練に関してちょっと考え直そうかなと」
「え……」
「ちょっと一人になってきます」
それだけ言い残してそのまま扉の向こう側に行ってしまう。
「騒がしくなったり静かになったり、忙しかったな」
ホノカは心配するような素振りは見せず、呑気に微笑を浮かべている。
「そういえば、用って何?」
そもそもこっちに戻ってきたのは呼ばれたからで、完全に話が脱線していた。
「あー悪い。もういいや」
「へ?」
「コノハとの関係について問いただそうと思ったんだが、コノハが色々話してくれてな。それに、あんまりに楽しそうにユウワの事を話すから、気持ちも収まったんだ。随分と気に入られてるみたいだな」
八重歯がキラリと光る。どうやら殴られずに済むようだ、コノに感謝しないと。しかも怒っていないから告白の件も言っていないようだし。
「てか、コノハはどこ行ったんだ?」
「部屋じゃないかな、考え事するって言っていたから」
「なら夕食まで一人にしてやるか。ユウワ、せっかくだし、ミズアさんの事を教えてくれよ。オレも噂の強さに興味を持ってたんだ」
僕は頷いてから座布団の上に。それからホノカの質問に答えるような形でアオについての話をした。
その時間はあっという間で、すぐに夕食の時間になってしまう。アオの事を語っていると、つい早口になってしまうし楽しかった。
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