ロストソードの使い手

しぐれのりゅうじ

文字の大きさ
56 / 102
ホノカ編

五十六話 新しい一面

しおりを挟む
「とりあえず、これを元にさらに改良していくわ。また頼む事があるかもだけどその時はまたよろしくね」
「はい」

 十体以上の優羽ぬいぐるみが生み出された末に、ようやく一つの完成形が誕生した。それは一目見れば僕と認識できるレベルにまでなっている。しかし、僕の見た目に近づくにつれて何だか微妙な気持ちになってきて、所有したいという欲もなくなっていて。逆に未完成品の方が魅力的に思えて、僕はそれらをありがたく貰ってリュックに詰めた。

「それとホノカ。明日からこのくらいの時間に来てくれれば教えてあげるから」
「ありがとうおばさん」

 僕達は店主さんにお別れを言ってさっきの場所に戻った。

「良かったねホノカ。プレゼント絶対喜ばれるよ」
「ああ! 後は普段からどうアピールするかなんだな……何をすればいいか見当はつかないが」

 確かに互いの事を知り尽くしているだろうから、改めて魅力を出すというのも難しい。

「何か長くコノに隠している事とかってないの? まだあまり知られてない一面とか見せると新鮮でいいかも」
「そんな事言っても、長く一緒にいるからなぁ。恋愛的に好きって思ってるくらいしか思いつかないな」
「好き……か。ねぇ、だったらそれを沢山表に出してみるってのはどうかな?」
「はぁ!? いやいやそれは無理だって!」

 ホノカは顔を赤くして頭を左右に振って否定する。

「他にも、今までとは反対の事をして、意外性を出すとギャップでアピールになるかも」
「無理に無理な提案すんなし! そんなの恥ずかし過ぎるだろ」

 想像したのか赤い瞳は動揺に泳ぎまくって、挙動もおかしくなってしまう。

「でも、変化を起こさないと今まで通りのままになっちゃうと思う」
「ぐっ、それはそうだが、でも理想と現実は違うというか……」
「気持ちはわかるけど……けどやれるだけやらないときっと後悔すると思う。そうなったら本当の意味で未練の解決にならないんじゃないかな」

 僕のように悔恨を残して欲しくないし、レイアちゃんやギュララさんのようにスッキリと終わらせて欲しい。

「……ううう、はぁ」

 ホノカは悩ましげに髪を無造作にかいてから、深くため息をつく。まだ熱を帯びている頬のまま彼女は僕の目を見てきて。

「が、頑張ってみるが、絶対に笑うなよ」
「もちろん」
「それと色々アドバイスとか協力してくれよ?」

 僕が力強く頷くと、照れるように微かに微笑んだ。その表情は、真新しい一面のように新鮮さを感じた。

「二人共、ちょっといいかな?」
「こ、コノハ……」

 そう覚悟を決めた瞬間にコノが駆け寄ってきてしまい、ホノカの顔は硬くなって瞳も彼女の方に固定された。

「……どうかしたの、ホノカ? コノの顔に何かついてる?」
「いや……その……コノハ、が……かかか、かわ、可愛いなってて思って……」

 あからさまに顔全体が赤に色づく。声も上ずっていて、声も徐々に小さくなっていった。

「かわっ!? ど、どどうしたのホノカ。熱でもあるの? 何か顔凄い赤いし」

 コノは心配してしまい、熱を測ろうとホノカのおでこに手を当てようと近寄る。

「待て待て! 大丈夫、さっき走ってただけだから!」
「ほ、本当? でもさっきはそんな赤くなかったような」
「気のせい気のせい。結構本気で走ってたからその疲れとか熱さとかが一気にきたのかも」

 その手から逃れようと後ろに下がりつつ制止を試みる。それでもコノは心配そうで。

「ほ、本当? もし辛かったらちゃんと言ってね。ホノカってすぐに無理するから」
「わかったから、もう気にしないでくれ」

「はーい。けど、珍しくホノカに可愛いって言われて嬉しかったな……えへへ」
 そうはにかんで無邪気に気持ちを表現されたホノカは、ダメージを喰らったように胸を抑える。

「そ、そんなことより用って?」
「そうだった、ちょっと来てほしいんだ。ユウワさんもお願いします」

 そうしてコノに連れられたのは、雑貨なんかを売っているお店だった。

「これなんだけど、ホノカに凄く似合うなって思ったんだー」

 その中から指差したのは、緑色の葉っぱの柄のヘアピンだった。

「コノはこれにしようと思ってて。色は違うけどデザインは同じでお揃いになって良くない?」

 もう一つは赤色の葉のヘアピンで、コノは緑の方をホノカに手渡した。

「いや、わかってると思うがオレはこういうのに興味は……」

 そう否定しようとしたホノカに向かって、考え直すようジェスチャーを送る。それに気づいて言葉を止めた。

「やっぱり、駄目……だよね」
「いや! よく見たらかわ、可愛いいしつけよう、かな」
「本当っ! ありがとう、ホノカ。すっごく嬉しい!」

 コノは幸せそうに声を弾ませた。よほど嬉しかったのだろう、身体も喜びを表すように動いている。

「じゃあ買おっ」
「お、おう」

 二人はそれぞれ店主さんに商品を渡してお金を取り出そうとする。

「三つまとめて買ってくれたら安くするよ」
「もう一つ……あのユウワさん欲しいものありますか?」
「僕はいいよ。お金ないし、二人のどっちかが欲しいものを買って」

「何度も命を救ってもらっているので、少しでもお礼がしたいです。だから、ユウワさんが選んでください」

 譲らないといった様子で、コノの善意を受け取らないのも悪いと思い、僕はざっと商品を眺めた。しかし、割と女の子向けな物が多くてピンとくるものは見当たらなくて。

「……これ」

 そんな中、青白い花柄のヘアピンが目に止まった。それを見た瞬間に、アオが付けている姿が浮かんだ。

「お、お前もつけるのか?」
「いや、あげたい人がいて。人に買ってもらったものを渡すのはどうかと思うけど……欲しくて」

 こういう事になるならアオかアヤメさんにお願いして少しでも貰っておくんだった。

「大丈夫ですよ、コノのお金を自分のお金だって思ってください。それなら気にならないですよね。それに、欲しいものがあればいつでも言ってください、買いますから」
「あ、ありがとう」

 流石にそう割り切れはしないけど、おかげで罪悪感は和らいだ。

「じゃあこの三つでお願いします」
「毎度!」

 コノとホノカはお金を出して、それぞれの物を手に持った。花のヘアピンは僕の手元に。
 用が済んだため僕達はその場を後にして、帰り道を歩き出した。その間にコノは早速買ったばかりのヘアピンをつける。緑の髪の上に赤い葉ということで、目立つ上に良い感じにマッチしていた。

「ホノカもつけてみて」
「あ、ああ」
「うわぁ! 可愛い!」

 ホノカのは逆に赤い髪に緑の葉で、同じくそのヘアピンの存在が引き立たされている。そして、それをつけた事でキュートさも出て、それこそ普段とのギャップがあり印象的に映った。

「……そ、そうか?」
「うん! やっぱり似合うよ。コノ目に狂いはなかったね」
「そっか……」

 照れくさそうに頬をポリポリとかく。コノの方は、新しいホノカの姿に瞳を輝かせていた。

「こういうお揃いをやってみたかったんだー」
「……お揃いとか興味なかったけど、意外といいなこれ」
「でしょー! ねぇもっと色々なのも一緒にしようよ!」
「……ああ!」

 どうやら起こした変化は良い方向に向かったようで、僕は胸を撫で下ろした。
 二人から一旦目を離して買ってもらったヘアピンを眺める。青白い花は儚さがあり透き通るような綺麗な感じは、どこかアオみたいだなと思って。ミズアじゃなくて、速水葵に受け取ってもらえるかはわからないけど、きっと似合うんだろうなと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【長編版】悪役令嬢の妹様

ファンタジー
 星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。  そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。  ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。  やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。  ―――アイシアお姉様は私が守る!  最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する! ※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>  既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

志位斗 茂家波
ファンタジー
想いというのは中々厄介なものであろう。 それは人の手には余るものであり、人ならざる者にとってはさらに融通の利かないもの。 それでも、突き進むだけの感情は誰にも止めようがなく… これは、そんな重い想いにいつのまにかつながれていたものの物語である。 ――― 感想・指摘など可能な限り受け付けます。 小説家になろう様でも掲載しております。 興味があれば、ぜひどうぞ!!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...