ロストソードの使い手

しぐれのりゅうじ

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ホノカ編

六十四話 村の子供三人組

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「そうだヒカゲくん」
「何でしょう?」

 サグルさんに別れを告げて、東側へと向おうとした時、僕だけ彼に呼び止められる。二人は先にいて楽しげに話していた。

「もし万が一の事があれば、村人全員で助けに向おうと思ってるんだ」
「み、皆さんでですか」
「そうだ。だから、どんな状況になっても諦めず耐えて欲しい。必ず助けに行く」
「わかりました。その時はお願いします」

 心強い言葉だった。いくらロストソードの力があっても多勢に無勢で、そこまで長く戦えるわけでもない。

「それと、決して無茶はするなよ。ヒカゲくんだって村の大事な一人でもあるんだから」
「……は、はい」
「その顔、無理しようとしてたみたいだ」
「あはは……」

 表情に出ているのだろうか、彼には気づかれていたみたいだ。サグルさんは全てお見通しといった感じで瞳の中に僕を映している。ほぼ毎日会っていたからだろうか。

「仮に彼女達を守れても君がいなければ意味がない。その結果は死と同等の悲劇だ。それを忘れないでくれ」
「わかりました、自分も大切にします」

 モモ先輩にもそう言われているのも改めて思い出し、そして悲しむコノの姿を想像すると無茶できそうになくて。僕の答えを聞いたサグルさんは満足そうに頷いてた。

「よし、これで話は終わりだ。じゃあまた明日」
「はい、さようならサグルさん」

 僕は少し離れた所で待っている二人へと急いで走った。

「お待たせ」
「おう。何の話をしてたんだ?」
「明日の事を少し。何かあればサグルさんや村の皆が助けてくれるって」

 合流して今度は村の東側、コノの家がある方に向かった。

「それは心強いです! それなら無敵ですね!」
「だな。それなら祈りに集中できそうだ」 

 神木をの横を通り抜け僕らはコノ東の遊具がある場所に訪れた。そこにはいつもの三人組の子達が遊んでいて。

「あっ、コノハお姉ちゃんだ!」
「やっほー」
「ホノカ姉ちゃんに、強い人もいる!」

 彼らはこちらを見つけるとちょこちょこと駆け寄ってきた。

「明日、神様にお願いするだろ? すっげぇな!」
「えへへ、そうでもないよー」
「神様と話せたらどうしたら祈り手になるか聞いて欲しいです」
「話せたらな。ついで次はお前らになるよう推薦しておくぜ」

 男の子二人は明日の主役達をまるでヒーローを見ているように目を輝かせて話している。それを受けている二人も満更ではない様子でいて。

「……」

ただ、コノ達には目もくれず、少しませた女の子は感情の見えづらい視線を僕に送ってくる。

「ど、どうしたの?」
「お兄さん、もしかして二人と付き合ってるの?」
「いやいやいや! 違うよ!」

 突然の爆弾発言に心臓が跳ねた。無表情でとんでもない事を言ってくるなこの子は。

「そうなんだ。二人と凄く仲良さそうにしてるところ見かけてたから」
「二人とは友達だよ。というか、仮に恋人になったとしてもどちらか一人とだし」
「でも、英雄色を好むって言うよ」
「……難しい言葉知ってるね。けど、残念ながら僕は英雄じゃないからさ」

 この子は色恋沙汰に興味があるのだろうか。そういう風には見えないのだけど、彼女からの質問はそれ系統のものばかりだ。

「いえ! コノはユウワさんは英雄に相応しい人だと思います」
「ちょっと待ってコノ。ややこしくなるって」
「お兄さん、もしかして二人のこと狙ってたり?」
「ち、違うからね? そんな事は一切な――」

 全否定しようとすると、コノが少し切なそうに瞳を伏せてしまって。つい言い切れなかった。

「否定しないんだね、お兄さん」
「マジか。ユウワ……まさかオレの事を」
「強い兄ちゃんって英雄レベルなの!?」
「ちょ、ツッコミ切れないって!」

 ヤバいもう混沌と化している。何から処理していけばいいのかわからなくなっている。
「僕は英雄じゃないし、まだ誰も狙ってないし、恋人もいないから」
「まだって事は今後はありえるんだ」
「いやそれは――」
「ユウワさん……」
「ぐぅぅぅぅ」

 あらゆる方面に配慮すると、何も言えなくなってしまう。それから変な誤解が起きてしまいそうで怖い。

「ふふ」

 そんな苦悩な状況を作り出した張本人は、冷えていた表情を少し溶かしていた。

「やられっぱなしだなユウワ」
「そうだね……ボロ負けだよ」

 もう勘弁して欲しい。僕は白旗を上げた。

「何か私勝っちゃった」
「強い人に勝ってんじゃん!」
「そういう戦法もあるんですね!」

 あまりその戦い方は真似して欲しくないのだけど。流行らせないよう何か言おうとするも、楽しそうな雰囲気を壊したくなくて口は挟まないでおく。

「あのユウワさん。コノはどんなユウワさんでも受け入れますから」
「嬉しいんだけど……今までの話は全部誤解だからね」

 それが優しさなのか勘違いなのか、それはもうわからなかった。
 ただ、コノが今まで一番慈しみのある微笑みを浮かべているは確かだった。
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