ロストソードの使い手

しぐれのりゅうじ

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ホノカ編

七十二話 皆の力

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「み、皆……来てくれたんだ」
「おせーよ」
「だが助かったぞ。流石は我が村のエルフ達だ!」
 
 ホノカもオボロさんも無事のようでゆっくりと立ち上がり、コノも含めて救援に来てくれた村人達を安堵の瞳で映していた。

「スベテケス!」

 亡霊は方向転換して村人の集団に突っ込んでいく。だが彼らはそれに怯む様子は一切なくて。

「放て!」
「「「おおっ!」」」

 サグルさん凛々しいかけ声と共に、村人達は一斉に色とりどりの魔法を亡霊に放った。

「グォォォォ」

 炎、水、氷、風、雷、地とあらゆる属性の魔法の雨あられが亡者に降り注いだ。

「ォォォ……」

 流石の亡霊も全ての魔法を受ければ相当なダメージが入ったようで、苦悶のうめき声とバランスが崩れ地面に膝をついた。

「ヒカゲくんこれを! ウインド!」
「うわわっ」

 サグルさんの風魔法で飛ばされたのは虹色のストロングベリーだった。僕はすぐさまそれにかぶりつく。緊張状態でもそのとろける甘さを感じれて少し心身がリフレッシュ。そして少しすると反動で起きていた痛みや疲れが体内から減っていき、同時に力がみなぎってくる。

「今の内に回復を!」
「ツ、ツブス……」
「また動き出したぞ! 皆、魔法を撃て!」

 亡霊がまた態勢を整え出している中、反撃を許さないよう全員で高速で魔法を詠唱して、一人一人が各々のタイミングで発動。

「ウゴォォォ……」
「オレ達も加勢するぜ!」
「我も最後の力を振り絞るとしよう!」

 目の前で闇を消し去ろうとカラフルで恐ろしい破壊力が猛威を振るっている。僕もその一つになりたいけど、まだロストソードの力を発動するには足りなくて。

「ユウワさん、まだ駄目ですか?」
「うん。もう少しなんだけど」
「……わかりました。少しじっとしていてください」

 コノはエメラルドの瞳を閉じると、深呼吸を挟んで集中。次第に強力な魔力がある時に感じる空気の振動が起き出して。

「リ命シイ生ヲ癒ノスヨ魂カ休ミ……」

 その呪文はとても長くて、それは今まで聞いたことがなくて。ただ、相当高度な魔法だと直感的に理解できた。

「ウルトラヒール!」

 コノの両手が僕の胸に触れると、大きな緑の光に僕の身体が満たされていく。くるまれたような安心感と温かみに覆われて、心身が癒される。そしてその光がなくなると、まとわりついていた疲労や苦痛を吹き飛ばされていて、晴れやかで清々しい。今なら全力を出せる気がしてくる。

「こ、コノ!」
「うぅ。や、やりました。成功……しました……」
「今のって?」

「ふふっ。密かに、練習していたんです。難しい回復魔法」

 魔法が終わると力が抜けたように僕の方に倒れ込んできて、両肩を掴んで受け止めた。

「大丈夫?」
「は、はい。魔力を沢山使ったからちょっぴり疲れちゃったみたいです」
「ゆっくり座って」

 急に倒れないよう彼女を支えて地面に座らせる。相当な力を使ったのだろう、完全に脱力してしまっていた。

「どう、です? コノの魔法、役に立てましたか?」
「もちろんだよ。おかげで全力を出せるようになった」
「良かった……」

 表情筋にも力を込められないのか、ほわっとしてゆるゆるの安堵の笑みを浮かべた。

「コノの分まで頑張ってください……コノの勇者様」
「いってくるよ」

 コノの力を借りて僕はようやく戦線に復帰する。すでに亡霊は繰り返し総攻撃を喰らっていて身体も徐々に薄くなっていた。
 とどめを刺すなら今だ。僕はロストソードを自分に突き刺し再度ギュララさんの力を纏った。

「ココデ……オワル……ワケニハ」
「……ごめんなさい。もし、森に入りあなた達と交流を深めようとしていたらこんな結果にはならなかったかもしれません」

 コノを守るのに必死で彼らにまで手を差し伸べられなかった。これは僕が無力だったせいで。これからずっと背負っていかなくちゃいけないんだ。

「終わりにしましょう」

 右の爪が血のように赤黒く染まっていく。破壊的なエネルギーが溜まっていく。胸に残った悔恨が溢れていく。

「デス……クロー!」

 地面を蹴り飛ばし瞬時に距離を詰めた。亡霊は度重なる攻撃の嵐にふらふらと動けないでいる。

「はぁぁぁぁ!」

 そんながら空きの身体に下から上へと腕を振り上げた。爪が亡霊を斬り裂き、そして空へと吹き飛ばす。

「グゥゥゥ……」
「くっ……あ、あれは」

 技を放ってから反動として再び大きな疲労感に襲われ、変身を解除。空を見上げ亡霊の様子を見ると、青の上を翔ける影が見えて。

「ピャーッ!」
「グリフォドール……」

 またこのタイミングで現れたのは、鷹の顔と翼を持ち、ライオンのような身体と猛獣の手と鋭い爪を持ち合わせるグリフォドール。僕をこの島に攫ってきた元凶。随分とリーダーを気に入っているのか、何度も連れ去ろうとしている。

「まずい、このままだと逃げられる!」
「させるかよ! 炎カ獄ラシ絶レヤガ煉シヨイ熱リ灼ス……」

 ホノカが両手をグリフォドールに向けると、強大な魔力を身に宿し、長い呪文を唱える。

「インフェルノぉぉぉぉ!!!」

 全身全霊の叫びと共に人間を何十人も飲み込めそうな巨大な深紅の火球が天に放たれた。

「ピャッ……」
「オワ……ル」

 着弾。瞬間、青い空に真っ赤な爆発が彩られた。その爆風はこちらまできてジリジリとした熱が伝わってきた。

「や、やったぜ……」
「ホノカ、大丈夫?」
「ああ。ちょっと全力出しすぎたわ」

 コノと同じくホノカも地面に倒れ込んだ。でも、やり切ったと清々しい表情で空を見上げている。

 魔法の余韻が消えると、空から真っ暗焦げのグリフォドールと亡霊が落下。前者はもう動く気配がなく、後者は徐々に身体の輪郭が崩れていった。

「ミンナ……イマ……ソッチニ」

 そしてその一言を最後にソウルとなって空へと昇っていった。

「……」

 僕はソウルが見えなくなる最後まで顔を上げ続けた。ロストソードの使い手としてこの経験を忘れないようにするために。
 記憶に焼け付けた情景は美しく朱に染まっていた。
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