ロストソードの使い手

しぐれのりゅうじ

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ホノカ編

七十一話 亡霊の力

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「アアアア」

 亡霊は狙いを定めたように僕に爪を向けてくる。どうやらターゲットはホノカから僕へと移ったようだ。

「もしかして攻撃した相手に反応してるのかな」
「みたいだな。今はお前を狙ってるぞ」
「それなら攻撃をしなければ無害なんじゃ?」
「いや、今はそうだが亡霊はいずれあらゆる生命体を破壊し尽くす怪物となる。被害を抑えるため倒すなら今しかないだろう……」

 振り返るとオボロさんが苦しそうに片膝立ちになっている。

「じいちゃん大丈夫か」
「魔力を使いすぎたようだ。すまぬが回復するまで頼んだぞ」
「わ、わかりました」
「ユウワさんは心配せず相手の事を。コノが回復魔法をかけますから」

 そう言って彼女はオボロさんに触れて回復魔法を発動。ホノカも強力な魔法の反動からか直ぐ側で呼吸を整えている。
 僕も休みたいところだけど、そうも言っていられない。身体に鞭を打って力を入れ直し立ち上がった。

「……はぁ!」

 地面を強く蹴って亡霊との距離を縮める。そのリアクションで亡霊も同じく走り出した。

「アアァァァ!」

 強くなってるとはいえ、動きに変化はない。見切って最小限の動作で回避し、反撃の拳をぶつける。

「オオ?」
「くっ」

 だけど怯む様子もなく再び襲いかかってくる。そしてまたカウンター、再起、カウンター。そう繰り返す。
 しかし効かない。まるで手応えがなくてまるでゾンビだ。まぁ亡霊はそれと同じような存在だろうけど。

「ぜぇ……ぜぇ……」

 ギュララさん状態は長くは持たない。このままだとジリ貧で負けてしまう。

「アアアア!」
「デス……クロー!」

 意志のない突撃に身体を後ろに傾けて避けて、間髪いれずに赤黒い爪を振り下ろした。

「オオォォォォ!?」

 少しの手応えと共に亡霊を地面の上を滑らせる。

「がぁっ!?」

 技を終えると同時に心臓に鋭い痛みが走る。思わず座り込んでしまう。

「ユウワさん!」
「き、来ちゃ駄目だ。まだあいつは……」
「ウウウゥゥ?」

 案の定普通に起き上がってしまう。ただ多少のダメージは入っているのか、身体を気にしている素振りを見せた。

「デスクローを当てても駄目なんて……」
「ユウワ、オレが引き付ける。その内に少し休んどけ」
「た、助かるよ。無理はしないでね」
「フレイム! こっちだ、亡霊野郎!」

 復活したホノカが僕の前に出る。それから魔法をぶつけて注意を引くと、僕達から亡霊を離すように動き回り攻撃し続けた。

「ユウワさん、どこが痛みますか、」
「し、心臓の辺りが少し。それに結構な疲れがあって」
「ええと、効くかはわからないですけど魔法かけますね。ハイヒール!」

 コノの手が僕の左胸にそっと置かれて、そこから出る優しい緑の光に包みこまれる。少しすると、疲労感の方は和らいできて、荒くなっていた息も整ってきた。

「どうですか?」
「少し楽になった。ありがとう」
「その、無茶はしないでくださいね」
「わかってる。生きて必ずコノを守るから」

 深呼吸を一つ。気を入れ直して僕は再度足腰に力を込めた。

「ぐぉ!?」
「ホノカ!」

 そして戦線に復帰したその入れ替わりにホノカがコノの方へと吹き飛ばされ、地面を転がった。

「オレは大丈夫だ、気にせず戦え!」
「うん!」
「オオォォ」

 生半可な攻撃じゃあ通用しない。限りある回数のデスクローを確実に当てていって倒すしかない。
 今はホノカの方にヘイトが向かっていて、目の前に立つ僕には無防備でいる。チャンスだ。

「っ……デスクロー!」

 ホノカへと迫る亡霊に全力の一撃を叩き込んだ。こちらに眼中にない亡霊に当てるのは簡単で確実にぶつけられ、吹き飛ばした。

「がぁぁ……!」
「ゆ、ユウワさんっ!」

 焼きつくような心臓に激痛が走り、声を出した時血を吐くのではないかと思うほどだった。全身に脂汗がダラダラと垂れて、意識も揺らいだ。

「……オォ」
「まだ……だめか」

 技を喰らった亡霊は余裕そうに地面を両足で踏みしめていて、ぶつけた方であるこっちが膝をついて痛みに苦しんでいて。
 そんな僕に狙いを変えたように影が迫ってくる。

「ま、まずい」
「我が援護する。サンダー!」
「アァ?」

 稲妻がほとばしる。それを受けた亡霊は光の源流の方へと意識がそれた。

「ち、チャンスだ……」

 よろよろと真っ直ぐに身体を立たせた。すでに意識にモヤがかかりだして、息もしづらくなっている。それでも、これでないと止められないんだ。

「ユウワさん、無茶は駄目です!」
「で……デス……クロー」

 コノ声を振り切ってエネルギーを溜め込んだ。絶大な力に染まっていく。

「うぉぉぉ!」
「オオォ?」

 更に威力を高めるため加速して亡霊に肉薄。そして、隙だらけの身体に右腕を大きくアッパーに振りかぶって。

「なっ」
「ムダ……ダ」

 オボロさんを見ていた顔が僕の方に向いた。その一瞬、デスクローは空を切った。

「シルバークロー!」
「しまっ……」

 闇に飲まれていた爪が鈍く銀色に瞬き、それが恐ろしい速度で襲いかかってくる。

「ぐぅぅぅぅぅ」
「ユウワ!」
「ユウワさん!」

 反射的に左腕でそれをガード。引き裂かれ意識がショートしたかのように真っ赤に点滅する。身体が衝撃に弾かれて、地に転がされ全身を打ちつけた。

「があぁぁぁぁ!」

 それと同時に受けた傷を消し飛ばす、心臓を握りつぶされたような苦痛が脳天を貫いた。瞬間、力が失われて身体が元に戻ってしまって。

「ぁぁぁぁ……」
「オワリダ」

 亡霊が僕を見下ろす。でも、もはや何も考えられない。痛い、痛い、痛い、苦しい、苦しい、苦しい。それだけが思考を満たした。

「させるかよ! バーニング!」
「恩人を死なす訳にはいかぬ! スパーク!」
「チッ……メンドウナ」

 意志を持ち出し亡霊は連続で放たれる魔法のダメージを嫌って後ろに飛び退いた。

「今助けます! ハイヒール!」
「うぅぅ……」
「今度はオレ達の番だ。どうやらあいつは面倒な状態になったらしい」
「うむ。破壊の怪物になりかけのようだ」

 コノに再び回復魔法をかけてもらい、次第に意識がはっきりしてくる。そして腕の出血とその痛みも段々と弱まる。ただ、ギュララさんの力の反動の疲れと痛みは健在で。

「こ、コノ……早く戻らないと……」
「む、無理ですよ! もう身体がボロボロです!」

 僕を見るコノは泣きそうな顔でいて、全力で止めようと頭を横にふる。

「でも……このままだと」
「ぐはぁっ!」
「ぬぉぉ!」

 亡霊に立ち向かったホノカとオボロさんが、僕と同じようにやられて近くに倒れ込んでしまう。

「コノテイドカ。後は……」
「ひっ……」

 亡霊は、次はお前だとコノを指で指し示した。そして、一歩ずつ死をもたらそうと迫ってくる。

「させない!」
「う、動いちゃ……」
「僕はコノの勇者なんだ。命に代えてでも守る!」

 僕は気合で身起き上がりロストソードを手に持って、亡霊と対峙した。

「駄目……逃げて」

 ギュララさんの力が使えない僕が真っ向から戦えば間違いなく負ける。それに、ホノカとオボロさんの援護も期待できないそんな絶望的状況。

「大丈夫、必ず勝つ」

 だけど唯一で、そして確かな勝ち筋を僕は信じていた。

「……来たっ」
「ナニ?」

 亡霊の背に水の魔法が放たれた。まさに冷水を浴びせられた亡霊は、後ろを振り返る。

「またせたな!」

 そこにはサグルさんを含めた多くの村の人達がいた。信じていた応援が来てくれた。
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