77 / 102
ロストソードの使い手編
七十七話 帰ってきたイシリス
しおりを挟む
「……え? 今……なんて?」
口の筋肉が力なく動き、息が混じった細くて震えた声が辛うじて出せた。
「ソラくんはね、この世界でも既に亡くなっているのよ。そして霊となってこの世に存在しているわ」
「そんな……」
「隠していたわけじゃなかったの。ただ、言うタイミングがなくてね」
どうして気付けなかったのだろう。まだ会って間もなかったけれど、色々教わったりして少なからず関わってはいたんだ。
「それで林原さんは大丈夫なんですか?」
「ギリギリね。多少は時間は残っているけれど、余裕でもいられない。そんなところね」
嫌でも思い出してしまうのは、亡霊化したウルフェンの事。目の前でまたそれを繰り返したくはない。
「未練については何て?」
「それがまだわからないのよ。ソラくん、教えてくれなくて」
「じゃ、じゃあ、相手は?」
「それもなんとも言えなくて。あたしか……ミズちゃんかなって思っているんだけどね」
突然身近な存在が霊となって、さらに未練を持つ人になって。あまりの急展開に息がしずらくなって頭が痛くなってくる。
「ユウワさん、大丈夫ですか? よしよし……落ち着いてください」
「こ、コノ……」
心配したコノが僕の頭をゆっくりと優しく撫でてくれる。それで何となく安堵が押し寄せてきた。
彼女は幼馴染を失い霊となって向き合っていた。今の僕以上にショックを受けたんだ。落ち込む訳にはいかない。
「な、なぁ……! 見せつけてくれるじゃない……! ならあたしはこうよ」
「も、モモ先輩?」
コノとはまた違う滑らかで小さな手に両手を包まれる。ほんのり温かくて、かすかだけど確かに安心感が満ちてきた。
「心配は無用よ。ユーぽんが来てくれれば万事解決なんだから」
「どういう事?」
それは元気づける嘘ではなさそうで、確かな自信が言葉に宿っていた。
「あたしの予想ではね、今までソラくんが未練について言わなかったのは後任がいなかったからだと思ってるの。ソラくんはとっても良い人だし、人一番責任感があるわ。きっと、あたしやミズちゃんに負担をかけず、そしていずれ来る来訪者が適応できるよう、霊として居続けているのよ」
ほとんどモモ先輩の推測でしかないけれど、とても説得力があった。実際、僕に稽古をつけてくれたし。
「ユーぽんは、もう一人でロストソードの使い手として仕事をこなせたわ。だから成長したあなたの姿を見せればソラくんも話してくれると思うの」
「なるほど……それじゃあ早く行かないとだね」
「そろそろ着きそうだぞー」
サグルさんの呼びかけに、窓の外を見るともうゴンドラの発着場が見えてきた。あのウルブの島へと行く発着場と同じ場所で、遠回りしたけれど戻ってきたんだとより感じられた。
ゲートから出ると、一気に都会的な喧騒と人工的や建造物が感覚器官に押し寄せてくる。しばらく、自然に囲まれた世界にいたので、その落差に少し面食らってしまう。
「な、な、な、なんですか……これは……」
ただ僕以上に、コノはそのギャップに衝撃を受けていた。エメラルドの瞳と口をぽかんと開けて、キョロキョロと見回す。
「凄い……です。びっくりです。サグにぃの話は本当だったんだ……」
「びびるだろ。別世界だよな」
「見たことないものが沢山です……!」
段々と驚愕から好奇に目の色を変えて、様々な建物やバス、メカメカしい人力車などを目で追っていく。けれど、まだ怖がっているのか僕の側からは離れず、気になったものがあっても足を踏み出せないようでいる。
「それじゃ、まずは『マリア』に行くわよ、ユーぽん」
「そ、そうですね」
そう言うモモ先輩は、何故だがコノ以上の服と服が時々擦れるぐらいの距離に詰めて、そのまま歩こうとしてくる。
「ち、近くないですか?」
「あたしはユーぽんの先輩だもの。守ってあげなきゃでしょ」
「いや……ありがたいんですけど、ここまでしなくても」
「油断はダメよ。実際、ミズちゃんから離れてあんな事になったんだから」
「……」
反論できなかった。そこを言われてしまうともう受け入れるしかない。
「ははっ、ユウワくん両手に花だね」
「サグルさん……助けてください」
「が、頑張れ」
右にモモ先輩左にコノと、女性に至近距離で挟まれて非常に居心地が悪い。たまに触れる体温と良い香りが感覚をくすぐって、精神が乱されている。それをわかっているのか、サグルさんから憐憫の眼差しを向けられた。
「それじゃあ、そろそろ俺は行くよ。方向も逆みたいだしね」
「そっか……」
「コノハ、学び舎で学んだ事を忘れず頑張れ。それとたまに村に帰ってきてな。俺もこっちに来たらたまに顔を出すよ」
「うん!」
コノは一瞬寂しそうにするも、すぐに笑顔が戻る。サグルさんもそれを見て兄のように微笑む。
「ユウワくんもモモさんも、コノの事をよろしくな」
「はい、任せてください」
「気が向いたらね」
その返答に満足そうに頷いた。
「じゃあな」
「バイバイ、サグにぃ。また会おうね」
「さようなら」
「……」
くるりと背を向けてサグルさんは歩き出す。モモ先輩も含めて僕達はしばらく手を振り続けた。
「そろそろ行くわよ」
「コノ、行ける?」
「はい!」
二人の距離感は変わらず逃げる隙もなくて、両側から体温を感じて、嫌な汗を流しながら『マリア』へと向かった。
口の筋肉が力なく動き、息が混じった細くて震えた声が辛うじて出せた。
「ソラくんはね、この世界でも既に亡くなっているのよ。そして霊となってこの世に存在しているわ」
「そんな……」
「隠していたわけじゃなかったの。ただ、言うタイミングがなくてね」
どうして気付けなかったのだろう。まだ会って間もなかったけれど、色々教わったりして少なからず関わってはいたんだ。
「それで林原さんは大丈夫なんですか?」
「ギリギリね。多少は時間は残っているけれど、余裕でもいられない。そんなところね」
嫌でも思い出してしまうのは、亡霊化したウルフェンの事。目の前でまたそれを繰り返したくはない。
「未練については何て?」
「それがまだわからないのよ。ソラくん、教えてくれなくて」
「じゃ、じゃあ、相手は?」
「それもなんとも言えなくて。あたしか……ミズちゃんかなって思っているんだけどね」
突然身近な存在が霊となって、さらに未練を持つ人になって。あまりの急展開に息がしずらくなって頭が痛くなってくる。
「ユウワさん、大丈夫ですか? よしよし……落ち着いてください」
「こ、コノ……」
心配したコノが僕の頭をゆっくりと優しく撫でてくれる。それで何となく安堵が押し寄せてきた。
彼女は幼馴染を失い霊となって向き合っていた。今の僕以上にショックを受けたんだ。落ち込む訳にはいかない。
「な、なぁ……! 見せつけてくれるじゃない……! ならあたしはこうよ」
「も、モモ先輩?」
コノとはまた違う滑らかで小さな手に両手を包まれる。ほんのり温かくて、かすかだけど確かに安心感が満ちてきた。
「心配は無用よ。ユーぽんが来てくれれば万事解決なんだから」
「どういう事?」
それは元気づける嘘ではなさそうで、確かな自信が言葉に宿っていた。
「あたしの予想ではね、今までソラくんが未練について言わなかったのは後任がいなかったからだと思ってるの。ソラくんはとっても良い人だし、人一番責任感があるわ。きっと、あたしやミズちゃんに負担をかけず、そしていずれ来る来訪者が適応できるよう、霊として居続けているのよ」
ほとんどモモ先輩の推測でしかないけれど、とても説得力があった。実際、僕に稽古をつけてくれたし。
「ユーぽんは、もう一人でロストソードの使い手として仕事をこなせたわ。だから成長したあなたの姿を見せればソラくんも話してくれると思うの」
「なるほど……それじゃあ早く行かないとだね」
「そろそろ着きそうだぞー」
サグルさんの呼びかけに、窓の外を見るともうゴンドラの発着場が見えてきた。あのウルブの島へと行く発着場と同じ場所で、遠回りしたけれど戻ってきたんだとより感じられた。
ゲートから出ると、一気に都会的な喧騒と人工的や建造物が感覚器官に押し寄せてくる。しばらく、自然に囲まれた世界にいたので、その落差に少し面食らってしまう。
「な、な、な、なんですか……これは……」
ただ僕以上に、コノはそのギャップに衝撃を受けていた。エメラルドの瞳と口をぽかんと開けて、キョロキョロと見回す。
「凄い……です。びっくりです。サグにぃの話は本当だったんだ……」
「びびるだろ。別世界だよな」
「見たことないものが沢山です……!」
段々と驚愕から好奇に目の色を変えて、様々な建物やバス、メカメカしい人力車などを目で追っていく。けれど、まだ怖がっているのか僕の側からは離れず、気になったものがあっても足を踏み出せないようでいる。
「それじゃ、まずは『マリア』に行くわよ、ユーぽん」
「そ、そうですね」
そう言うモモ先輩は、何故だがコノ以上の服と服が時々擦れるぐらいの距離に詰めて、そのまま歩こうとしてくる。
「ち、近くないですか?」
「あたしはユーぽんの先輩だもの。守ってあげなきゃでしょ」
「いや……ありがたいんですけど、ここまでしなくても」
「油断はダメよ。実際、ミズちゃんから離れてあんな事になったんだから」
「……」
反論できなかった。そこを言われてしまうともう受け入れるしかない。
「ははっ、ユウワくん両手に花だね」
「サグルさん……助けてください」
「が、頑張れ」
右にモモ先輩左にコノと、女性に至近距離で挟まれて非常に居心地が悪い。たまに触れる体温と良い香りが感覚をくすぐって、精神が乱されている。それをわかっているのか、サグルさんから憐憫の眼差しを向けられた。
「それじゃあ、そろそろ俺は行くよ。方向も逆みたいだしね」
「そっか……」
「コノハ、学び舎で学んだ事を忘れず頑張れ。それとたまに村に帰ってきてな。俺もこっちに来たらたまに顔を出すよ」
「うん!」
コノは一瞬寂しそうにするも、すぐに笑顔が戻る。サグルさんもそれを見て兄のように微笑む。
「ユウワくんもモモさんも、コノの事をよろしくな」
「はい、任せてください」
「気が向いたらね」
その返答に満足そうに頷いた。
「じゃあな」
「バイバイ、サグにぃ。また会おうね」
「さようなら」
「……」
くるりと背を向けてサグルさんは歩き出す。モモ先輩も含めて僕達はしばらく手を振り続けた。
「そろそろ行くわよ」
「コノ、行ける?」
「はい!」
二人の距離感は変わらず逃げる隙もなくて、両側から体温を感じて、嫌な汗を流しながら『マリア』へと向かった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』
アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた
【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。
カクヨム版の
分割投稿となりますので
一話が長かったり短かったりしています。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります
はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。
「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」
そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。
これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕!
毎日二話更新できるよう頑張ります!
異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】
異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。
『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。
しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。
そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。
魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。
音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、
幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。
魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。
そして再び出会う幼馴染。
彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。
もういい。
密かにやってた支援も打ち切る。
俺以外にも魔道具職人はいるさ。
落ちぶれて行く追放したパーティ。
俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。
神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由
瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。
神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。
鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~
今田勝手
ファンタジー
平安時代の日本で魑魅魍魎を束ねた最強の鬼「酒呑童子」。
大江山で討伐されたその鬼は、死の間際「人に生まれ変わりたい」と願った。
目が覚めた彼が見たのは、平安京とは全く異なる世界で……。
これは、鬼が人間を目指す更生の物語である、のかもしれない。
※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ネオページ」でも同時連載中です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる