ロストソードの使い手

しぐれのりゅうじ

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ロストソードの使い手編

八十一話 林原空の未練

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「ねぇソラくん。そんな二人をだなんて……ありえるの? 確かにあたしはソラくんに、未練があるけど……」
「アヤメさんに尋ねた。そこで俺ならその可能性かまあると言われた」
「ソラくん……ならって……。それはソラくんが凄すぎて世界の理から逸脱したって事?」
「え、世界の理を? す、凄いですね……物語の人みたいです……」
「ふふん、それはそうね。ソラくんはスーパーなんだから」

 重めの空気がモモ先輩のいつもので一変して、コノがそれに乗ることで雰囲気が切り替わってしまう。

「ええと、林原さんスーパーだからなんですか?」
「いや、どうやらロストソードの使い手だからの可能性が高いらしい」
「それって……?」
「俺達はイレギュラーな存在だ。一度死んで生まれ変わっている」
「え? え?」

 一名、とても驚いて僕達の様子を伺うようにキョロキョロとする。ただ、今は説明する余裕はなく話を続けてもらう。

「一度目でなく、二度もとなると生に対する未練が強まるだろう。そしてこれは仮説なのだが、一度目にあった思いが今回に爆発した、という可能性もある。つまり、二回目の死というのがポイントらしい」
「……」

 何となくだが理解は出来た気がする。とりあえず、僕らという特殊事情が絡んでいるのだろう。

「あたしは、少しだけどわかったわ。……それで、ソラくんは一体どんな未練を?」
「……俺はそのままのお前を残したまま終わりたくなかった」
「ふぇ!?」
「……そ、それはもしかして……」

 言われたモモ先輩はその言葉に大きく目を見開いて、急速に顔を赤くする。同時にコノも憧れセンサーが強く反応して前傾姿勢に。

「……お前は俺を依存先として求めた。そして俺はそれを了承した。しかし、結局そのままで変わる事なく終わってしまった」
「ソラ……くん」
「心配なんだ、俺がいなくとも生きていけるのか。愛理が依存せずとも良いようにする事ができなかった、それが未練だ」
「そう……だったのね」

 あの日にモモ先輩が語ってくれた事を思い出す。依存しやすい自分をアオと林原さんが受け入れてくれたという。彼は、ただそうしただけじゃなく改善させようとしていたんだ。

「愛理の方はどうだ?」
「あ、あたしは……」
「?」

 モモ先輩は林原さんから視線を外して、何故かコノの方をちらりと見て、もう一度戻した。

「実はあたしも同じ……なのよ」
「同じ?」

 いつものハキハキと話す彼女とは違い、ポツポツと語りだした。

「自分でもこのままじゃ駄目だってずっと思ってて。……いなくても大丈夫だよってそんな姿を見せたかった。それがあたしの未練」

 二人の未練は同じ方向性を指していたみたいだ。そこに二人の密な関係性を感じられて、そしてそれが生前に叶わなかった事に胸が強く締め付けられた。

「愛理も……か」
「モモナさん……」

 それを聞いたコノは、同じような未練を持っていたからか悲しげで少し心配そうにモモ先輩を見つめる。

「ソラくん。心配をかけてごめんなさい。あたし、自立できるように頑張るわ」
「俺も最後まで協力する。責任を果たす」
「僕も手伝います!」
「ソラくん、ユーぽん……」

 モモ先輩の方を向いて、安心してもらえるよう目を見てそう言葉にする。後ろからガタッと席を立つ音が聞こえると、コノがモモ先輩の方に歩み寄り、隣に腰を落として目線を揃えると、彼女の両手を優しく掴んだ。

「その、コノもお手伝いさせてください。同じじゃないかもしれませんけど、コノも近い気持ちを共有出来ると思うので」
「あ、ありが……とう」

 さっきまでバトルをしていたとはいえモモ先輩は、コノの純粋な気持ちを受け取った。そして少しの間無言になる。それから顔を上げてコノを見た。

「……あのね。多分、あたしユーぽんやあんたの話を聞かなかったら言えなかったわ」
「へ?」
「怖かったの。やっぱり、ソラくんと離れるなんて無理だって。……ロストソードの使い手で、散々切り離してきたのにね」

 情けないと言わんばかりに肩を竦めて薄く口角を上げる。
 少ない経験だけれど、その状況なら僕も同じ事を思うのだろう。そして、それを乗り越えているカイトさん、クママさん、コノはとても強い。

「けどそれじゃあ駄目だって、あんたを見て逃げちゃいけないって思ったわ。それに、直近でそれを解決したユーぽんがいて、背中を押されたの」
「モモ先輩……」
「モモナさん!」
「ちょ……抱きつかないでよ……」

 コノにぎゅっと身体を包み込まれ、苦しそうにするもどこか表情が緩んでいた。

「ユーぽん、頼りにしているからね」
「はい! 任せてください!」

 そうしてモモ先輩との未練の話が一旦終わると、コノは自分の席に戻る。二人の間には、僕を挟まなくても隣合えるような、心の距離が縮まったようだった。

「あの林原さん。もう一人の……アオの未練について教えてください」

 正直、聞くのは怖い。でも、モモ先輩が勇気を出していて、それが追い風になっていた。

「俺は葵に過去を乗り越えて欲しいんだ」
「……っ」
「この世界に来た時、あいつは過去に縛られてずっと苦しんでいた。それを打開するために、アヤメさんは全てを忘れ新しい自分になるよう提案した。そして、それになれるよう、理想の別人になるよう、努力した」
「それが……ミズア……なんですね」

 明るく皆に元気を振りまいて最強の強さを持っている女の子。そんな作り出されたミズアという存在はアオと限りなく同じで一致していると僕は思っている。決して偽物ではない。でも、違う部分もあって。それは過去が無い事だ。

「ミズアになり、彼女は前を向いた。いや、前しかなくなった。だが、それには危うさがあり、長期的に彼女のためになるとは思えなかった。だから、どうにか出来ないかずっと考えていた」
「林原さん……アオの事をそんなに……」

 やはりクールだけれど本当に優しく温かな人だ。幼なじみの事なのだけど、自分のように嬉しかった。

「俺の未練は、葵が本当の意味で前を向けさせられず、見られなかった事だ。……最近までは何とかなっていたが、日景くんが来た事で、向き合わなくてはならなくなっている。今が変わるチャンスだと思っている」
「……はい」
「そして、それを後押し出来るのは日景くんだ」
「僕が……」

 林原さんから託された。それはとてもプレッシャーがあって、本当にできるのか不安だらけだ。弱い自分は逃げたいと言っている。でも、僕自身がやるべき事なのだと強く感じてもいて。
 僕はコノとモモ先輩を見て、覚悟を決める。

「自信は全くありません。けど、全力でぶつかろうと思います。アオと一緒に過去に」

 過去から目を背けているのはアオだけじゃない、僕だってそうだ。微かな闘志のようなものが点灯した。
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