ロストソードの使い手

しぐれのりゅうじ

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ロストソードの使い手編

八十七話 アヤメの依頼

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「う……ん……」 
「すぅ……すぅ……」

 自然と心地の良い微睡みから引き上げられて、意識が覚醒する。身体の感覚も戻ってきて、同時に右手に繋がれた人の手の温もりも感じてきて。ぼーっとしていた頭の中に、モモ先輩との添い寝をしているという記憶が蘇ってきた。

「あ……うわぁ! って痛っ!」

 目を開けると、すぐそこにモモ先輩の寝顔があった。それに思わず首を後に仰け反らせてしまい、壁に後頭部がぶつかってしまい衝撃が走る。ジンジンと痛む部分を左手で押さえた。

「ユー……ぽん?」

 そのせいで穏やかな表情で眠っていたモモ先輩の瞼がゆっくりと開いてしまう。桃色の瞳はとろんとしていて、いつもよりもさらに幼く見えた。

「も、モモ先輩……おはようございます」
「おはよ……えっと、どうかしたの?」
「いや、ちょっと頭ぶつけちゃって」
「うふふ、おっちょこちょいね。ふわぁ……そろそろ起きなきゃよね」

 微笑んでから、可愛らしく欠伸をして身体を起き上がらせた。それによって僕の右手が少し引っ張られ、同じく上体を起こす。

「あ……ふふっ。ずっと繋いでいたのね。ちょっと恥ずかしいわ」
「……ですね」
「でもおかげで安眠出来たわ」

 まるで恋人みたいだ。そう意識すると、変な気持ちになりそうで、僕はすぐに思考を止めた。モモ先輩もはにかんで、するりと手を離す。手のひらが少し涼やかになるけれど、どこか心許なさがあった。

「もう少しこのままでいたいけれど、朝ご飯もあるし、もう行くわね」
「は、はい」
「ねぇユーぽん。良く眠れた?」

 モモ先輩はベッドから出て、こちらを振り返ってそう尋ねてきた。

「眠れ……ました」

 コノと何度も添い寝をしたからか、過剰な緊張はなくリラックスした心持ちで睡眠に入れた。

「ふふふ、それなら良かったわ。それじゃまた後でね」

 モモ先輩はにこりと笑ってから、部屋から出ていく。ベッドの隣を見ると、さっきまでそこに人が寝ていたシワと温もりが残っている。僕は意識が冴えるまで、しばらく温かさに包まれ続けた。



 アヤメさんが作ってくれた普通の朝食をモモ先輩とコノと一緒に食べて、完食してからしばらく今日何をするかを二人と会話していると、アヤメさんが僕達に話しかけてきた。

「遊ぶ予定を立ててるところ悪いんだけどさー。それは今度にして、今日にちょっとやって欲しい事があるんだー」
「な、何だか嫌な予感がするのだけど」
「だいじょーぶ。そんなに難しいものじゃないし、君達のデートの代わりにもなると思うから」

 いつものような軽い調子でそう説明してくる。モモ先輩経験からなのか少し、疑惑の視線を送っていた。

「うーん、ユーぽんはどう思う?」
「僕はそれでも大丈夫です。コノはどう?」
「コノはユウワさんとデートが出来れば何でも良いです!」
「二人がそう言うなら……わかったわ。それであたし達は何をすればいいの?」

 話がまとまり、僕達はアヤメさんの方を見てその先を促した。彼女は嬉しそうに頷くと、説明を始める。

「やって欲しいのは、ウルブの島にいるボアホーンの捕獲に森の調査だよ。最近、あそこの森のボアホーンの気性が荒くなってて、動きも活発になっているみたいなんだー。そのせいで村に行き来する人や狩りをする人達が困ってる。そこでその原因解明と狩りをして欲しいんだよー」
「内容は理解したけど……どうしてそれをあたし達に?」
「並の狩人よりロストソードの使い手の方が強いし、何よりその原因が霊の可能性があるみたいでさー。正直、今はミズアも空も動けないから心配ではあるんだけど、頼めるのは君達しかいないから」
「……霊絡みね。心配いらないわ、あたしがいるしユーぽんも強くなっているし。ね、ユーぽん!」
「は、はい。ロストソードの力を借りれば、戦えるので」

 僕にはギュララさんとホノカの力がある。能力は低くてもボアホーンとは渡り合えるはず。

「コノも戦闘力はあんまりですけど、お手伝いくらいは出来ると思います!」
「ありがとねー。頼りにしてるよ!」

 アヤメさんやモモ先輩からコノへと視線を送ってから、最後に僕を見てくる。

「ニヒヒっそれにしても優羽くん、成長したねー」
「そ、そうですか?」
「うん! 初めて会った時は、ミズアから聞いていた感じの優しそうだけど、弱々しくて危うさがある子って印象だったけど。今は、優しさはそのままに確かな強さと少しの自信がある。まぁ危うさはまだ感じるけれど、ある意味では、もうミズアよりも強くなっているのかもねー」

 片目を瞑って意味ありげな微笑みを浮かべる。

「さ、流石にアオよりは言い過ぎじゃ?」
「そうでもないよー? すごーく成長しているし、しかもその速度も驚いちゃうくらい。一連の二つの霊の問題がそうさせたのかな。それとコノハちゃんの存在も大きそうだね」
「……かもですね」
「コノにとっては、ユウワさんは初めから勇者様です。そしてこれからも!」
「……」

 コノは僕に純粋な笑顔と信頼を向けてくれる。この感覚はとても久しぶりで、ほとんど忘れていたもので。子供の頃のアオ以来だった。
 アヤメさんが言うように、大きく変われたのはそのおかげなんだと思う。守るものがある、そんな状態が強く背中を押してくれた。

「今の優羽くんならミズアを……速水葵を救えるかもね」
「……!」
「期待、してるよ」
「は、はい!」

 やっぱりまだアオの事を助けられるのか自信はない。けれど、そう言われてまた一つ背中を押してもらえた。僕は胸に手を当てて、その期待を刻んだ。
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