ロストソードの使い手

しぐれのりゅうじ

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ロストソードの使い手編

八十九話 森での再会

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「ぜぇ……ぜぇ……」
「ユーぽん、お疲れ様。これで八匹目ね」
「順調ですね! コノもマギアの操作にも慣れてきました!」

 結局僕の囮作戦は続けられて八匹を捕獲した。しっかりと成果も出たので止めることも出来ず、役割を遂行することに。始めてから一時間は経っただろうか、通常は能力の低い僕は、当然体力も少なく今にも横になりたかった。

「ちょっと……休憩させてください……」
「そうね。少し休まないとユーぽんが倒れちゃう」
「水飲みますか? 魔法で出せますよ」
「お……お願い」

 近場にあった木を背もたれにして地面に腰掛ける。そしてコノが片膝立ちで目の前に来て。

「お口、開けてください」
「う、うん」

 少し恥ずかしいけど、大きく開けると手のひらをこちらに向けてコノは呪文を唱える。すると、チョロチョロと水が口の中に入ってきた。カラカラだったから喉は強く喜んで、その水はとても美味しく感じる。

「どうですか?」
「た、助かったよ……ありがとう」

 身体の力が一気に抜けて生き返ったような心持ちになる。呼吸の速度も次第に落ち着いて楽になった。

「その……美味しかったですか? コノのお水は」
「え……っと……良い感じだったよ?」
「えへへ、良かったです! 欲しくなったらいつでも言ってください。コノ水、あげちゃいます!」
「う、うん……」

 役に立てたと無邪気に喜んでいるのだけど、コノの言葉が変な意味に聞こえてしまっていた。いけない、汚れた思考は捨てないと。

「ユーぽん、何か変な想像していなかった?」
「し、してないです……」

 モモ先輩からジト目でチクチクする視線を送られる。的確な指摘で心拍数がまた上昇して目も泳いでしまって。
 近づいてくるモモ先輩を見ることが出来ず、そらしたままでいると。

「……えっち」
「いや……違くてですね」

 少し不機嫌な口調でそう耳元で囁かれた。言い訳を試みるも聞いてもらえず、離れていってしまう。

「お二人共、どうしました?」
「いいえ、何でもないわ。もう少ししたら再開するわよ」
「はい!」
「了解……です」

 それから続けて僕は黙って身体を休めた。その間に二人は色々と談笑していて、チームプレイでやっていたからより距離が縮まっているようで。それに嬉しさを感じると共に、二人だけの空間が作られたような気がして微かな寂しさもあった。

「そろそろ行きますか?」
「ユーぽん、もう大丈夫なの?」
「問題ないです」
「わかったわ。それじゃ行くわよ」

 僕達は再び行動を開始する。再開から少しして、一体のボアホーンと遭遇して、危なげなく捕獲した。

「残りは一匹ね。ノルマの達成は楽勝ね」
「けど、原因はまだ良くわからないですよね」
「……そうね」

 歩き回っていても、何か特別な事が起きているかは分からずじまいで。普通ののどかな森って感じだ。魔獣はいるのだけど。
 それから僕達は周囲を注意深く見ながら森の中を進んでいく。

「ねぇ、コノハ。森と親密なエルフ的に、何か感じることはある?」
「……ごめんなさい、あんまりわからなくて。コノ、お外には出てなかったので」
「謝らなくていいわ。ありがとう」

 目の前に開けた空間が見えてくる。それはとても既視感のあるもので。

「……そんな前じゃないのに、少し懐かしい感じしちゃいます」
「そう感じるくらい、濃い時間を過ごしたからじゃない?」
「ですね。……ここに寄っていきますか?」

 隣にいるコノの様子を見ると、行きたそうに瞳を輝かせていた。新しいものには目がない。

「まずは、ノルマを終えてからね。それから、ちょっと寄る感じでいいんじゃない。コノハも行きたいみたいだし」
「モモナさん……ありがとうございます!」
「ちょっ……くっつかないで……わ、わかったから!」

 コノにぎゅっとされてモモ先輩が困ったような声を出す。何だか懐いた犬のような感じだ。微笑ましくもあり、妙なざわつきもあって。僕はそれをすぐに振るい落とした。

「二人共そろそろ……っ!」

 北の方から大きな雄叫びが聞こえた。心なしかそれに驚くように木々も揺れている。

「な、何の声でしょうか……」

 それに怯えた様子のコノは自然と僕の傍に寄ってくる。

「……モモ先輩、この声ってもしかして」
「ええ……ちょっと様子を見に行くわよ」

 その凶暴そうな雄叫びの声の中には、どこか聞き覚えのある声音が混ざっていて。僕達はその音の元へと進んだ。

「あのあの、危なくないですか?」
「多分大丈夫だよ。知り合いかもしれないんだ」
「お、お知り合い……?」

 怖がる彼女の手を繋いで奥へと歩む。すると眼前に、少し木々が少ない日当たりの良い場所が広がった。そしてそこには二つの大きな姿がいて。

「……」
「ブグモォ」

 僕達に背を向けているのは、藍色の毛皮を持つ二足歩行の巨体。二本の角や丸太のような腕、殺意が光る五本の爪を持っている。デスベアーだ。対峙しているのは紅の毛皮を持つボアホーン。なのだけど、今までのとは二回りも大きい。さながら怪物同士の戦いで、僕達は離れた地点から見守る。

「大きい、ですね」

 コノは僕の後に隠れて、顔を少し出してその光景を眺める。

「そうね。あの大きさのは初めて見たわ」
「もしかしてあれが原因だったり?」
「どうかしら。ただ大きい個体って可能性もあるわ」
「あのボアホーンさんは、これで捕まえられるでしょうか……」
「まぁ、多分いけるんじゃない? 霊もいけるって言ってたし」

 そんな風に会話していると、ついに睨み合いが終わりを迎えて動きが出てきた。

「ブグ……モォォォォ!」
「……」

 重低音を響かせながらボアホーンはその体躯で突進。普通の個体よりもスピードはないが、確かな圧力とパワーがそこにあった。それに対して、デスベアーは左の爪を血の色に輝かせていて。

「デスクロー……!」
「ブモ……!?」

 その爪の間合いまで引きつけると、身体を貫かんとするボアホーンの一本角を掬い上げるようにデスクローを放った。

「ブグゥ……」

 それは僕が理想としたやり方であり、ボアホーンはその身体に似つかわしくないほど、軽々宙を舞い後方に飛ばされた。
 もろに地面を揺らしながら衝突し横たわる。だが、すぐに立ち上がると、背中を向けて奥へと猛スピードで逃げてしまった。

「……ふぅ」

 デスベアーは息をつくと、変身を解除。そこに巨体はなく、痩身で長身の猫背の男が立っていた。

「クママさん」
「あ……ヒカゲさん! それにモモナさんも!」

 僕は彼の名前を呼びかけながら、さっきまで戦いの場だったそこに。陽の光を直接受けられてとても温かった。
 クママさんは僕達だと気づくと嬉しそうに微笑んだ。

「その……見てましたか、今の」
「ええ。勇敢に戦っていたわ。もう戦うことには慣れた?」
「……まだ少し怖いですけど、ギュララのことを思い出して背中を押してもらっています」
「クママさん……」

 遠くを見るその瞳はどこか寂しそうだけれど、強い光をたたえて前を向いていた。

「そういえば……そちらの方は……エルフ?」
「あ……えっと……こ、こんにちは。コノハです……」

 怖ず怖ずと僕の背から離れて、コノはクママさんに挨拶する。

「コノハさん……ですね。僕はクママって言います。前にお二人には亡霊の件でお世話になりまして。よろしくお願いします」
「こ、こちらこそっ」

 種族も背丈も全然違う二人が緊張した感じで頭をペコペコしあっているのは、少し微笑ましかった。

「コノも実は、同じく亡霊の事でユウワさんに助けてもらっていて」
「そうなんですね……では僕達は同じですね」
「はい、同じです」

 互いに深くは語らなかった。けれど、二人はしっかりと目を合わせて、心を通わせているようでもあった。もうコノから怯えは無くなっていた。

「そういえば、どうして森に? もしかしてボアホーンの件かしら?」

  自己紹介が終わると、モモ先輩からそう切り出した。

「そうなんです。最近彼らの気性が荒くなっていて、気になって調べていたんです」
「実はあたし達もそうなの。依頼を受けててね。それと、ボアホーンの捕獲もついでにやっていたの」
「そ、そうだったんですね。すみません、逃がしてしまいました」

 クママさんは申し訳ないといった感じで目を伏せる。

「き、気にしないでください。また探せばいので」
「……まだ調査するんですよね。では、僕もお供してもいいでしょうか? 同じく原因は調べているので」
「もちろん大歓迎よ。一緒にいてくれると心強いわ」

 偶然にも良い出会いがあった。クママさんが仲間になれば安心だ。

「では少しの間ですが、よろしくお願いします」
「はい、お願いします」
「よろしくです!」

 そうして僕達は、クママさんを加えてあの大きなボアホーンが逃げ出した方へとさらに進んだ。
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