あなたのいるたった一つの世界

藤夜アキ

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#1 生まれない繋がり

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 本当に夢じゃないのかもしれない、と感じ始めていた。
 数Ⅱの授業を受けながら、そういえばここ、苦手だったな、とか考える私は、明らかに人生の二周目を送っている奴だった。
 色々と気にして見たものの、この世界は概ね私の記憶通りに進行している。大抵は覚えてもいないような些細なことばかりだけど、同じクラスの薮内君が自転車に跳ねられて骨折したり、大富さんが卓球の大会で優勝したりするとかいった大きな出来事は、確かに私の記憶と合致していた。
 ただ、明らかに覚えているはずなのに違うのが、涼真との距離だ。保健室で傍にいてくれなかった時点で、私と涼真との間には何の接点も発生せず、ただのクラスメイト以上の繋がりは生まれていない。本来なら、そこで色々と話して、距離を縮めるはずなのだ。今日だって、私の記憶が正しければ、お昼ご飯を食べたりするような接近まではなかったけど、会話の一つや二つはしたはずなのに、それが全くない。
 ここでの涼真との距離感は、未来と言ったら良いのか現実と言ったら良いのか知らないけど、そこでの涼真との距離感とほとんど一緒なのが少しおかしかった。目が合ったところで何かが生まれるわけでもなく、積極的に話しかけにいくようなこともない。冷静な視点で考えれば、その他大勢と何ら変わらない感じ。
 本当、私たちはもう恋人という肩書きがなければ、ただのクラスメイトになっていたんだな、と感じてしまった。
 二回目になる授業は、面白いほどするする頭に入っていく。予習、今からでもちゃんとすべきかな、なんて思うくらいには、授業の受け甲斐を覚えた。もしかして、夢が覚めたら、A判定も夢じゃないんじゃない?
 そこまで考えて、私は夢だと思いたいこの時間が、いったいどうしたら覚めるのか気になった。
 昨日、保健室で目を覚ましてから、もうしばらくで二十四時間が経とうとしている。
 家に帰って、ご飯を食べたりお風呂に入ったりしたけど、あまりにリアルで生々しい感触だった。夢の中で眠るのは酷く怖い気がしたけど、夜も更けると起きてられない私は、諦めて布団に潜った。きっと目が覚めたら、夢は終わってる、そう言い聞かせてみたけど、やはり訪れたのは、一年と少し前の朝だった。
 夢ってもっと漠然とした時間が流れてるはずなのに、ここでは一分一秒が正確に肌で感じられる。後どれほどここで過ごせば、元の時間に戻れるんだろうか。
 ぼーっと頬杖をついて考え込んでいると、右肩につんつん、という感覚を覚えた。
 目立たないように椅子に深く腰掛けて、身体を後ろの席のみどりに近づけた。
「ねえねえ、知ってる?」
 みどりは小声で話しかけてきた。
「倉谷君と内神田さんが付き合いはじめたって」
 それをなぜ今、数Ⅱの授業中に言おうと思ったのか。まあ、松戸先生は生徒が集中してなくてもそこまで気にしない先生だから、他のことをしたい気持ちになるのは分からなくないけど。
「そうなの?」
 みどりのこういう振る舞いは、今に始まったことじゃないから、適当に話を聞いた感じを出しておくに限る。
 倉谷君っていうと、あれか、テニス部の結構イケてる奴。内神田さんっていうのが誰なのか分からないけど、みどりの話題に上るくらいだから、それなりに注目が集まってる子、なのかな。興味が無かったせいでこの話を聞いたことを覚えていないのか、それとも私の知る由のない出来事なのかは、分からない。
「そうそう。でね、倉谷君、試合の応援に来てくれた内神田さんに、皆の前でキスしたんだって……!」
「凄い熱々っぷり。でも私がされたら、後で怒っちゃうかも」
「それがね、倉谷君が試合に勝った後、今度は内神田さんの方からキスしたんだって!」
 何となくだけど、内神田さんの見た目は分かっちゃったような気がした。多分、私とは住む世界が違う。
「はぁー、私も早く次の彼氏出来ないかなー。ねえ、菜緒は好きな人、出来た?」
「え?」
 思わず聞き返してしまった。頭に浮かんでいたのは、涼真だけだったのが、何だか悔しかったし、それでいて悲しくもあった。
「好きな人。前に聞いた時は、いない、って即答したけど、今は出来た?」
「ううん。いないかな。今は恋愛より、受験に専念したいっていうか」
「えー!? じゅ、受験!? 菜緒、受験って来年の終わりだよ? 今からそんなこと考えてるの?」
 適当に答えたつもりが、つい現実での感覚で答えたせいで、凄く真面目な感じの子になってしまった。高二の六月に受験とか言い出す子とも、私はあまり仲良く出来なかった覚えがある。ちなみに現実だと、みどりはちゃっかり推薦入試を終えていて、秋の時点で無罪放免だ。
「冗談だって。でも、気になってる人がいないのは本当」
 どうして胸がちくりと痛むのか、理由は考えたくなかった。
「えー、もったいないよ、恋しようよ」
「こらそこ、授業に集中しろ。お喋りなら休み時間に好きなだけしたら良いだろ」
 さすがにこれだけ話してると琴線にも触れたのか、ビシッと指をさされてしまった。
 でもこれが受験期なら、本当に受験生としての気構えが出来てるのかとお小言以上のものになっていただけに、私はあっさりとしたこの怒り方に、かえって安心感を抱いていた。変な話だけど、今の私は、どこか落ち着いた気持ちだった。

 昼食を終えた私は、手持ち無沙汰だった。五時間目は英単語の小テストがあるから、中には真面目に勉強してる子もいるけど、そこはさすがに受験生、これくらいの小テストに出てくるものなら、全部見たことがあるはずだ、と思ってあえて勉強しないことにした。
 私はぼんやりと教室を見回した。涼真の姿はない。多分、まだ食堂にいるんだろう。これが正しい過去だったなら、私は確か、保健室まで連れていってもらったお礼を、もう一度ちゃんと言おうと思って、帰ってきた涼真のところに行ったはずだ。何て言ったかは自分でも覚えてないけど、それをきっかけにして、私たちは密接になっていたように記憶している。
 昨日、私を保健室に運んでくれたのは誰だったんだろう。涼真なんだろうか。でも、そうだとしたら、近くにいてくれたような気がする。だから、別の誰かなんだろう。まどか先生に聞くべきだっただろうか。でも、傍にいてくれた涼真と比べてしまえば、お礼を言いに行きたいというつもりにはなれなかった。
 そう考えてから、数学の時間にみどりが言っていた話を思い出した。倉谷君と内神田さんが付き合った、って話。今になって、それは私が覚えていたものとは違っていたような気がしてきた。
 内神田さんが誰なのかは多分、私は知らない。でも、確か倉谷君は、他の誰かと付き合ってたような、そんな感じがするのだ。二年生の時、部活帰りの倉谷君が、明らかに付き合ってるような距離感で誰かと一緒だったのを見たことがあるような、そんな朧気な記憶が浮かぶ。しかもその相手は、私も誰だか知ってたはずで……。その時も確か、みどりが嬉しそうに話してくれたんじゃなかったっけ。
 そのままにしておくのはとても耐えられなくて、私は昼休みの残り時間を、その誰かを探すのに費やすことにした。
 まずは改めて教室を見回してみる。倉谷君はいない。熱愛中の内神田さんとでも一緒にいるんだろう。それから女子の顔を一人一人じっと見て、違う、違う、と当てはめていく。
 全員照合し終えても、その別の誰かに該当するような子は見つからなかった。同じクラスではないのかもしれない。そう思って、私は席を立った。
 他の学年の生徒はほとんど知らないから、同学年なのはほぼ間違いない。
 教室を出て、一組から順に見ていくことにした。あまりジロジロ見てたら変な人だと思われるに違いないから、誰かを探している、くらいの感じを装って、教室の前をそこそこゆっくりに通る程度に留めた。
 でも、六組まで全部見て回っても、それらしい人はいなかった。私の記憶の中のあの子が、実は内神田さんだった、ってオチなのかな。
 諦めて自分の教室に戻ろうと、踵を返した時だった。
 私のすぐ脇を、文庫本を読んだままの沖本さんが通り抜けた。そうだ、沖本さんだ。一年生の時にクラスが一緒だったけど、ほとんど話したこともなくて、それからは一度も同じクラスにならなかったから、ぼんやりとした印象しかない。だから、すぐには思い出せなかったんだ。
 綺麗な長い黒髪を、青い水玉模様のシュシュでくくっているのを見て、私の記憶はにわかに鮮やかに蘇った。そう、間違いない。あの時倉谷君と一緒にいたのは、沖本さんだった。みどりもそんなふうに言ってた。
 その瞬間、私に脳裏にはある仮説が立った。
 この夢は、もしかして――恋にまつわる関係だけが、違ってる世界を見てるんじゃないだろうか。
 だけどその疑問は、私の中に不可解な感覚を生じさせた。そうだとして、内神田さんって? そうおいそれといそうな名字じゃないし、私の頭が勝手に生み出したとは思いづらい。もちろん、沖本さんをすぐに思い出せなかったように、忘れてるだけ、って可能性はあるけど、でも多分、内神田さんはそうじゃない。
 この世界は、本当に夢なんだろうか?
 私がここに飛ばされたのは、信じられないけど、超常的な何かによって、ではないんだろうか?
「何ぼーっとしてんだ? 授業始まるぞ、教室戻れ」
 先生に言われて、ハッとした。
 そんなわけない、そんなわけはないんだ。
 これは、そう、思い詰めすぎた結果見てしまった、妄想逞しい夢。
 私は両手で軽く頬を叩くと、夢が覚めるまでだ、と言い聞かせて教室に戻った。

 翌日は雨だった。梅雨だから当然と言えば当然なんだけど、やっぱり夢にしては出来が良すぎるというか、ここまで凝った演出を出来る脳を、果たして私の頭が持っているかは怪しい。
 学校へ向かう途中で、例の階段を下から見上げた。途方も無い段数のおかげで、上の様子はよく分からない。こんな雨の日には、ローファーじゃあまりに危ないから、迂回せざるをえない。
 でも、待てよ、と思った。
 私がここに来たのは、あの時この階段から落ちたからなんじゃ。バランスを崩して、世界がぐるぐると回ったかと思えば真っ暗になって、気が付けば保健室で眠っていた。
 現実の私は、生きているんだろうか?
 これは覚める夢なんだろうか?
 もしかして、という思いが頭をよぎる。
 私は一種の仮死状態になってて、覚めない夢を見ている――
 夢の世界で三日目を過ごすことになるなんて、未だかつて経験もしたことがない。日を追う毎に、これは夢じゃないかもしれないという思いは募っていくばかり。
 好い加減は私は、現実を直視しないといけないのかもしれない。
 私はベッドの上にいて、延命措置が為されている。そんな光景が目に浮かんだ。
 この階段から転げ落ちたら、無傷で済むはずがない。ましてや、あれだけ激しく転がったんだ。打ち所が悪くて、致命傷を負ったとしてもおかしくはない。
 私、死んだのかな……。
 左手を真っ直ぐ伸ばして、手の甲と手のひらを何度もひっくり返してみた。感覚は、現実を生きている時とまったく同じ。透き通って向こうの景色が見えたりもしない。でも、ここにいる私が生きているということを、多分、誰も身を以て示すことは出来ないんじゃないだろうか。
 まるで全身から力が抜けていく、そんな気がして、私はその場に立ち尽くしてしまった。
「桜木さん?」
 声がした。
「やっぱり、桜木さんだ。どうしたの。体調でも悪いの?」
 中学の時の同級生、古沢君だった。こんな雨だというのに、カッパを着て自転車に乗っている。その快活なところに、一時期好きかも、って思ってたことがあったっけ。でも、すぐに古沢君には彼女がいるって知って、あっさり破れたんだよね。
「大丈夫。最近ちょっと寝不足で、ぼーっとしちゃってただけ」
 無理のある言い訳だとは思う。でも、古沢君はうんうん、と軽く頷いてくれた。
 その優しさにすがるように、私はさっき抱いた疑問について尋ねることにした。
「ねえ、変な質問、しても良い?」
 古沢君は首を傾げつつも、また小さく頷いた。
「自分はもしかして、死んじゃってるんじゃないか、って疑っちゃうような夢、見たことある?」
 こんなのもう、完全に変な奴だ。朝からぼーっと突っ立って、そんな質問をかましてくる。私だったら、近寄りたくない。
「あー……自分が死んでるっぽい夢なら、見たことあるかな。確かに目の前にいるはずなのに、誰にも気付かれないの。幽霊って感じ?」
 古沢君はこの雨なんてまるで気にならないのか、笑いながら話す。
「しかもさ、中学のみんなが揃ってるのに、僕だけいないことになってんの。最初は虐められてるのかと思ってヒヤヒヤしたんだけど、よく見てみたら、僕の葬式やってたんだよねー」
 心底おかしそうに語ってくれるのは良いんだけど、私としては若干顔を引きつらせて笑い返すことくらいしかできなかった。爽やかな顔をして、結構エグい深層心理を持ってるのかもしれない。
「まあでも、起きてたら今みたくピンピンしてたし、気にしなくて良いんじゃない? だってほら、死んだら夢なんて見ないよ、きっと。あんまり深く考えないで、楽しいことしてた方が身体にも良いね」
 でも、続くその言葉に、私の心はすごく救われた。
「ごめんね、変なこと聞いちゃって」
「寝不足だから、そんな変な夢見ちゃったんじゃないかな?」
「だろうね。今日はちゃんと寝る」
 それが良い、と言ってから、古沢君は大きくあくびをした。
 古沢君は、今もまだあの子と付き合ってるんだろうか。今も、当時のようなあたたかい関係でいるんだろうか。
 さすがにそこまでは聞けなかった。
 古沢君は階段に目をやると、
「今日は階段使うのやめときなよ」
 と言ってくれた。こんなに気遣いの出来る古沢君を、きっとフったりはしないはずだよね、あの子も。
「うん、遠回りする」
「それじゃ、気を付けてね」
 古沢君は勢いよくペダルを踏み込くと、すーっと行ってしまった。風邪を引かないだろうか。少し心配になった。
 私は階段に向き直って、大きく息を吐いた。
 そうだ。夢なんて、酷く不確かで、曖昧なものなんだ。これが夢か夢じゃないか、完全に結論を出し切れるまでは、夢だと思っておいて良い。ようやく吹っ切れられたような気がした。
 夢だろうと過去だろうと何だろうと、遅刻は嫌だから、私は早足で学校へ向かった。

「聞いて! 聞いて聞いて!」
 一時間目が終わったや否や、みどりが凄い勢いで私の背中を叩いてきた。
「何、痛いんだけど……」
「藤原さんが! 藤原さんが!」
 口だけがぱくぱくと動く。音ズレした動画を見てるみたいな気分だった。
「超イケメンの男の子と歩いてたの!」
 その手の話題に事欠かないな、とちょっと尊敬。いつか週刊誌の編集でもやったら良いんじゃないだろうか。
「藤原さんって、あの藤原さん? 生徒会長の?」
「そこら辺の藤原さんじゃここまで騒がないよ!」
 そこら辺の内神田さんで割とスクープ! みたいな反応してた気はするけど……。みどりの発言に正当性を求めたって仕方ないから、ツッコミはしなかった。
「あの藤原さんが、かぁ」
 才色兼備という言葉ががそれほどまでに似合う人は他にいない、みたいな人で、私の知る過去だと、並一通りの男子じゃこっちから願い下げ、みたいな凍てついた空気を纏っていた。浮ついた話も聞かなかったけど、やっぱりこの世界だと、恋愛方面に関しては別のベクトルが働いてるらしい。私の仮説は今のところ正しく機能している。
「しかもね、そのイケメンが麗音にそっくりな超美形だったの! もう羨ましくて、羨ましくて!」
 麗音はみどりがぞっこんな歌手だ。モデル顔負けな端整な顔立ちで、しかも曲も作れて絵も上手い、とかいう化け物。みどりのスマホは彼の写真でいっぱいで、じっと見つめてニヤニヤしてることが少なくない。
「やっぱり藤原さんくらい可愛くないと、あんなイケメンは無理かなぁ」
「あの人は別格だからともかく、みどりにもちゃんと、良い彼氏出来ると思うよ、私は」
 ごめん、みどり。一年後もまだ彼氏は出来てないよ……。あんまり適当なことを言ったら、あの時そう言ったじゃん! とか怒られてしまうかもしれない。まあ、良いか、ここは夢なんだし。
「あー、私も彼氏欲しいー! 欲しい欲しい欲しいー!」
 みどりは机に突っ伏して、こぶしでぱたぱたと机を叩いた。
「そうだ!」
 と思ったら、ガバッと顔を上げた。
「菜緒が彼氏を作って、菜緒のツテで私に男の子を紹介してくれたら良いよ!」
「は、はい? どういうこと」
「だから、まず菜緒が彼氏を作るでしょ。そしたら、その彼氏にお願いして、彼女を欲しがってるイケメンを教えてもらうと。で、私と引き合わせてくれる。オーケー?」
「ノ、ノットオーケー?」
「なんで、なんでよー!」
「どういう理屈で私にパッと彼氏が出来ることになってるの」
 ああもう、そう言いながら頭に涼真のことが浮かんでくるのが、凄く腹立たしい。なんでこんなに冷めちゃったのに、いまだに彼氏、ってワード一つで思い浮かぶんだろう。
「だって菜緒って、私ほどハードル高く設定してないじゃん」
「それは、まあ、そうだけど……」
「でしょ?」
 みどりはこっくりと頷いた。確かに、私はみどりほど高い要求はしてないと思う。それなりに優しくて、そこそこかっこよくて、まあまあ楽しければ、それで満足出来る。でも何て言うか、そもそもの時点で、私はみどりみたいにカタログの中から選ぶみたいな感覚よりは、運命というか、そういうちょっとロマンチックな感性で選んでしまいがちだと思う。
 涼真のことを好きになったのも、あの日、どうしてかは知らないけど、保健室で傍にいてくれたからだった。一応聞いてみた時には、気になって戻ってきたのと、私が目を覚ましたのが同時だった、って言ってたけど……。
 そういう些細なことで良いから、私には物語があってほしい。
「だから、ここは一つ、彼氏をお作りになってみてはいかがでしょうか」
 何その喋り方。いつまでも結婚しないお姫様に痺れを切らした老執事か何かか。
「って言われても……」
「分かる。よーく分かる。身近にそんな良い感じの男子っていないよねー。いたとしても、フリーじゃないだろうし。んー、じゃあさ、柳君は?」
「へ?」
 いきなり涼真のことを言うもんだから、凄いおかしな高さで声を上げてしまった。我ながら酷い失態だ。
「お? 何その反応! 新鮮! え、もしかして菜緒、柳君のことが……?」
「まさか。そんなんじゃないって。いきなりクラスメイトの名前を出されたら、ちょっとびっくりしない? どういうタイプなら良いの? みたいな曖昧な空気だったじゃん」
 私は早口にならないよう意識しながら、ないない、と手を振った。なぜか複雑な気持ちになったけど、理由は考えないようにした。あんなに冷たくなっちゃう奴は、そう言われたって仕方ないんだ。
「あーね、そういうこと。でもさ、柳君って私は好みじゃないけど、普通に人当たりが良いし、顔も悪くない感じだし、話してたらくすってするようなこともあるから、誰だって及第点は出せると思わない?」
 うわぁ、見事なまでに私の涼真への評価とぴったり……。きっと付き合いはじめた頃には色んな所に補正をかけてたはずだけど、冷静になって思えば、誰にだってそこそこ良い感じに映る、平均以上の相手なんだな、と改めて感じる。
「まあ、ね。そうかもしれない。でも、付き合ってみたら、実は思ってるほどそうでもなかった、ってなったりもしそうじゃない?」
 そう口にしてから、なんでそんなことを言ってるんだろう、という気になった。でも考えてもみれば、誰かに恋のことで相談をしたりしたことはなかった。付き合う前も、付き合ってからも、私は一人で恋に向き合ってきたし、それで何か躓くようなこともなかったから、困ったこともなかった。こうして恋が終わろうとしている今も、私は自分一人で結論を出して、それを実行しようとしている。
 だから、自分の口から相談めいた言葉が出てきたことに、凄い驚きを覚えた。
「んー、どうなんだろね。私は好きになったらずっと一途に好きだからなあ」
 私は思わず、みどりの好きと私のとは違う! なんて言いかけた。みどりの言ってる好きって気持ちは、アイドルとか、歌手とか、そういう象徴的な存在への思いだ。現実にいる、身近な相手への気持ちとは違う。
 湧き上がった怒りは、きっとみどりに向けたかったものではないにせよ、本当、自分が踏みとどまれる性格で良かったと、心底思った。こんな情緒不安定な友だち、私だったら絶対嫌いになってしまうから。
「菜緒って、元彼とかいたっけ?」
「ううん、いない」
 それは半分本当で、半分嘘だった。中三の時、付き合おうか、なんて言って始まったものの、三週間もしない内に相手には別の彼女が出来ていた。私自身、本気ではなかったとはいえ、あれをカウントに入れて良いかは、いまだに迷う。私が逆の立場だったら、カウントに入れてるのかもしれないけど。
「だったら、あんまり深く考えずに付き合ってみたら良いんじゃないの?」
「それは……そうなんだけど……」
「菜緒って心配症なところあるから、先だって考え過ぎちゃうけど、こう、勢いで行っちゃえー! みたいなのも、私は凄く大事だと思うなあ」
「勢いで行っちゃえー、か」
「そうそう、善は急げ、って言うしね!」
「それは何か、違うんじゃ……」
「違わない違わない!」
 その感じで行くと、むしろ私は彼氏が出来るどころか、その彼氏と別れることになるんだけどね、なんて心の中で呟いた。
 休み時間もそろそろ終わりが近付いていて、私は次の時間の準備を始めた。

 昼食を取り終えた私は、教室にいると何となく心が落ち着かなくて、図書室にいた。
 図書室というより、小さな図書館くらいの大きさを誇るここは、古い本の匂いで満ちていて、私はあまり得意ではなかった。よれよれになった背表紙や、薄汚れたラミネートを見てると、あまり良い気分にはなれない。ごくまれに興味本位で借りてはみたりするものの、最後まで読み終えたことは、ほとんどない。
 純粋な気分で来てる人たちからしたら、はた迷惑な存在なんだろうな、と思いつつ、私は適当に文庫本を引き抜くと、閲覧スペースに腰を下ろした。
 タイトルにも作者名にも、まるで心当たりのない本だった。作者概要に目を向けると、明治時代の作家らしい。パラパラとめくってみれば、旧漢字や古典的仮名遣いが用いられてて、そのまま読み進めてみるか、という気分にはとてもなれなかった。
 本を開いたまま、そういえば、涼真はあれでいて読書が好きだったな、と思った。どちらかと言えば、所属するグループはそういう物静かなところより、活発なところなのに、デート中私がちょっとトイレに行ったりした隙間の時間なんかは、よく本を読んで待っていた。
 涼真も図書館の本じゃなくて、自分で買った本を読んでたっけ。
 今、涼真から気持ちが遠くなったことで、自分と涼真との共通点みたいなのが分かったような気がした。ちゃんと付き合ってた頃には、必死になって探してもなかなか見つからなかったのに、それがこう、気を楽にした頃にぽんと出てくるなんて、皮肉なものだと思う。
 結局私は、涼真と別れたい、ってわけじゃないんだろう。ただ寂しくて、でもそれをもう涼真が解消してはくれない気がするから、最後の手段に訴えることに決めただけ。
 でも涼真は、私が別れるって伝えたら、きっとすんなり了承してしまうに違いない。私と違って、さっぱりしてる奴だから。
 別れを告げるって決めてから、もうかなり時間が経つ。現実では明日必ず言うんだ、って意気込んでただけに、この夢の中で時間が経てば経つほど、私の決心は綻んでいくように思えてならない。
 何だって私は、こんな夢なんて見てるんだろう。
 本を開いているのも嫌になって、私は図書室の大きなガラス戸の向こうに目をやった。
 廊下にはそこそこ人がいて、ノートを持って先生に質問をしている子もいれば、小突き合ってじゃれる男子たちも見えた。みんな、有意義な時間の使い方をしてるように思えてならない。私だけが、無駄にしているように。
 と、向こうからみどりが歩いてくるのが見えた。携帯を弄っていて、前は全く見ていない感じだった。ちょうどそこに、じゃれていた男子の一人が飛び退いて、案の定ぶつかった。みどりは思い切り突き飛ばされて、驚くほど遠くに倒れた。
 廊下はにわかにざわついた。衝撃的な事態に、私は目を見開くばかりで、身体は強張ったように全く動かない。
 続いて私の目に映った光景が、私を更に驚かせた。
 みどりのやってきた方から、男子が一人走ってきたのだ。涼真だった。みどりの傍に駆けよって、何やら声をかけている様子だった。みどりの反応がないのか、涼真が近くにいた男子たちに声をかけると、彼らは急いで保健室の方へ走っていった。
 すぐにまどか先生や他の保健の先生がやってきて、みどりの様子を確かめた。意識がないのか、先生は携帯を引っ張り出すと、おそらく救急車を呼んだ。
 救急隊員が駆けつけて搬送するまで、私はみどりのことを遠巻きに見つめるばかりで、その場を全く動こうとしなかった。私があの場に行って、心配の一つでもしたところで、きっと邪魔になるだけだ、そう思ったのも確かに事実だ。でもそれ以上に、怖かった。あまりに見知った人が、ぐったりと横たわっているのが、私にはあまりに恐ろしく思えてならなかった。ましてや、近寄ってその様子を間近に見ようなんてものなら、平常心でいられる自信は全くなかった。
 でもそれと同時に、私はとてつもなく冷たい心の持ち主だ、と思わずにもいられなかった。あんなにも大事な友だちがすぐ近くで倒れたというのに、真っ先に駆けつけることもしないで、離れたところで見ているだけ。動揺するばかりで、みどりが少しでも楽になるようなことを何一つしてやれない。最初から最後まで見ていたのに、私のしたことといえば、突然の事態を前に、胸元をきゅっと握って息を荒げたことだけ。
 騒動が収まって、みんなが何事もなかったかのようにそれぞれの行動に戻った頃になって、私の心はやっと落ち着きを取り戻した。そしてようやく、初めてみどりのために自分に何かできることはないか、と考えられるようになった。
 けれど、どれだけ考えても、今すぐ駆けつけたところで、私は邪魔でしかないと思ってしまうばかりで、翌日担任の先生から検査入院で済んだという話を聞くまで、具体的な行動に移すことはできなかった。
 放課後になってすぐ、私はみどりのいる病院へ足を運んだ。でも、いざ病室の前にまで来たところで、私はみどりに合わせる顔がないと感じてしまった。すぐ近くにいながら、何一切することなく呆然とするだけだった私。平然と「大丈夫?」なんて口にできるはずがなかった。
 扉のすぐ傍で立ち尽くしていると、段々思考が冷静になってきて、この出来事が現実では記憶にないことに思い至った。これほど大きな事件を覚えていないほど、私も馬鹿じゃない。これまでは、恋愛に関わることだけが違っていた。だけど、これは恋愛と何ら関わりがない。
 そう思うと、私は自分の頭が余計に嫌になった。私が作り出したこの夢の世界で、私は何が気に食わないからといって、みどりを傷付けたんだろう。現実には何の干渉もないとしても、私が今から会おうとしているみどりは、辛い思いをしている。夢だから、と割り切れるほど、私は鈍感ではいられなかった。
 このまま帰ってしまおうか、そう考えても、明日以降合わせる顔がいよいよなくなってしまうと思えば逃げ出すこともできなくて、八方ふさがりの心が軋むばかりだった。
「桜木」
 声をかけられて、ハッとした。
「りょ――柳、くん」
 ――涼真だ。この夢が始まって、初めての距離感。いや、現実でさえ、こんな距離で面と向かったのは、いつ以来だろう。その表情は確かに恋い焦がれていた頃のそれで、私は胸がきゅうとなるのを感じた。
「入らないのか」
 いきなりそこを突かれて、私は息を詰まらせた。私がすぐに答えないのを、涼真は不思議に思っただろうか。その顔からは、何もうかがい知ることはできなかった。
「私に……私に、みどりと会う権利があるのかな、って思って」
 涼真にだったら言える。そんなふうに思う自分がいた。ここにいる涼真は、私が好き勝手によりかかれる涼真ではないのに、私は心を許すつもりでいた。
「ここじゃあれだから、もう少し話しやすいところに行こうか」
 私は静かに頷いた。
 待合室のソファに腰を下ろすと、涼真は私が話しはじめるまで、何も言わずに待っていてくれた。ようやく口を開いた私は、病室の前でまごついていた理由を洗いざらい、淀みなく語った。現実ではした覚えのないほど、不安な気持ちを心の限り吐き出した。
「そんなに自分を責める必要はないんじゃないのか」
 優しい声。私はこの優しさに、心を寄せていた。
「でも、柳君は、みどりを助けた。私は、離れたところでただ呆然としてるだけだったのに……」
 こんなことを言っても、何にもならないって分かってる。慰めの言葉は私の心奥深くまでは沁みわたらない。だから次から次へと言葉が溢れ出して、
「近くにいたら、桜木もそうしたさ」
「ううん、そんなはずないよ」
 せっかくかけてくれた言葉を否定して、
「なりもしてないことなんだから、誰にも分かんないだろ」
「分かるよ、自分のことだから……」
 聞いてくれた相手を、嫌な気持ちにさせる。
 そんな自分のどうしようもなさを痛いほど分かってるから、辛いことも苦しいことも、言わないようにしてきた。でも、夢だからか、私の心の紐は緩い。
「俺は、自分がどんな自分かは、分かってるようで全然分かってないと思うな。だからさ、そんな自分を責めてやるなよ」
 私は、かつてしてたみたいに、涼真の肩にもたれかかりたくなってしまった。言葉では救われないと決め付けてしまってるから、肌のぬくもりで悲しみを淡くしてもらいたかった。でも、この涼真は、そうする権利をくれる前の涼真だ。だから、私は涼真の肩にちらりと視線を向けるだけに留めた。
「柳君は、どうしてそんなすぐに誰かを助けたりできるの」
 私の時もそうだった。考えるより先に身体が動くような、力強い優しさを持っている。
 涼真は視線を遠く廊下の先へ向けた。
「別に、誰かを助けたい、とかは思ったことないな。俺だって、電車で席を譲らないことはたくさんあるし、困ってる人を無視したこともたくさんある。誰かのためを思うとか、俺にはそんな高尚な考えはないよ」
 そう、そんなところが良かった。良い人過ぎないところが、完璧すぎないところが、すごく魅力的に映った。現に今も、同じようなときめきを覚えかけている。私は自分の「好き」という感覚が、ぐらぐらと揺らいでいるのを感じた。
 涼真はすっと立ち上がった。
「会って来いよ。後回しにすればするほど、どうしようもなくなるってのは、分かるだろ?」
 少しだけ口角を上げて、僅かに首を傾けて微笑むのが、涼真の癖で、私の一番好きな涼真だった。
 ああ、ここにいるのは――私が恋をした涼真だ。
「うん、そうする。ありがとう」
 涼真と繋がりを持たない時間を過ごすつもりでいたのに、今の私の心を占めていたのは、涼真に嫌われないよう、聞き分けの良い女の子を演じようとする気持ちだった。
「行ってくるね」
 私は涼真が行ってしまおうとするより先に、みどりの病室へ足早に向かった。
 はっきり言って、私の心の内は涼真と会う前と何も変わっていなかった。病室の戸を前にすれば、同じように固まるだけだった。頑なな私の感情は、涼真の優しい言葉でさえ、解かしきることはできない。
 ドアの取っ手を掴んでも、腕に力を込められない。これは夢だ、夢なんだ、と言い聞かせてさえ、震えるばかりで前に進めない。
「頑張れよ」
 声がした方には、帰ったはずの涼真がいた。帰らずに、最後まで見届けてくれようとしたんだろう。やっぱり涼真は、私からしたら優しすぎる人だ。
 私は静かに、でも確かに頷くと、大きく息を吸い込んでからドアを開けた。
 その音に気付いてか、みどりはこちらを向いていた。
「みどり……」
「びっくりさせちゃった?」
 みどりは頬を人差し指でかきながら、ばつが悪そうに笑った。
「大丈夫、なの……?」
 少なくとも、傍目には大きなケガを負った様子のないみどりを見ると、自然と涙が溢れてくるのを感じた。
「うん、頭を打って気を失ったみたいなんだけど、特に目立った異常は今のところないみたい。もうちょっと様子見て、何の問題もなかったら、すぐ退院出来るって」
 安堵のあまり、私は大きく息を吐いた。
「良かった……」
「ごめんね、心配させちゃったよね」
 みどりが申し訳なさそうな顔をする度に、胸が締め付けられる思いがした。押し隠せない罪悪感が、ジクジクと責めてくる。
「何言ってるの。みどりは自分のことだけ心配して」
 ただ、その辛さをみどりの前で出すような真似はしなかった。それは私の取り柄かもしれないし、ずるいところかもしれない。
「お見舞いなんてほとんどしたことないから、これで良いのか自信無いけど……」
 私はとりあえずで選んだ果物の詰め合わせを、入り口近くの棚の上に置いた。
「入院もしてみるもんですなぁ、色んな人から美味しいお見舞いをもらえるわけだし!」
「その様子じゃ、どこも悪くはなさそうね」
「うん、この通りぴんぴんしてるよ!」
 そう言うと、みどりは両手でガッツポーズをしてみせた。
 良かった。でもその思いは、何に対してのものなのか、はっきりとは分からなかったし、考えたくもなかった。
 私はベッド近くの丸椅子を引き寄せると、そこに腰を下ろした。みどりと目線が同じになって、また緊張の度合いが増すのを感じる。
「あ、そうだ。菜緒、柳君に会った? 今さっき出ていったから、すれ違ってそうだけど」
「う、うん。会ったよ」
 お見舞いに来てたんだから、涼真の話が出るのは自然なはずなのに、私はなぜか胸の奥がちくりと痛むのを覚えた。
「私が倒れた時、真っ先に介抱してくれたのが柳君だって聞いたから、お礼を言いたいってまどかちゃんにお願いしたんだよ。で、さっき来てもらったんだけど、じっくり話してみたら、柳君、良い男かも、って思ったの」
 ああ。今さっき感じたばかりの胸の痛みは、このことだったんだ。
 今回のことは、恋愛とはまるで関わりがないと思っていた。でもそれどころか、最大級の異変を伴っていたんだ。
 みどりの頬が僅かに染まっていたのは、逆光でも確かに分かってしまった。
「意外と私、柳君に惚れちゃったりするかも」
 この夢は――
 私と涼真とが繋がらない世界――
 みどりの表情と言葉は、このいつ終わるともしれない夢が、私に何を見せようとしているのかを告げている気がした。
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