転生先は、BLゲームの世界ですか?

長野智/鬼塚ベジータ

文字の大きさ
15 / 23

第15話


 ティトは始業ギリギリに教室に入り、なんとか遅刻はまぬがれた。ニコラとリオールはやけに楽しげに笑っていたが、ティトにとっては笑いごとではない。しばらくは息を整えることに必死だったし、久しぶりに全力疾走なんて行儀の悪いことをしたから足も震えていた。
(公爵子息が入学してた……レンは僕に嘘をついたんだ)
 エミディオ・ブラックベンは入学していないとレンははっきりと言ったのに。
 エミディオが入学していると、反逆者だと疑われているティトに知られることがそれほどデメリットだったということなのだろう。つまりレンにも疑われているということになる。
 ずくりと、胸の奥が鈍く痛む。分かっていたと思っていたのだが、理解してしまうとやはり厳しい現実である。
(……仕方ない、レンも国の人なんだから……)
 疑いは晴らせばいいだけだ。
 今は傷ついている場合ではないだろう。エミディオが言っていた、レンの「呪い」も気になるし、何よりティトは今、毒と誘発剤を仕込んだ犯人を見つけ出さなければならない。
 その犯人が明るみになれば、エレアとの確執のヒントも、反逆者と疑われている理由も何か分かるかもしれない。
(そういえば……レンって昔、呪いのことを言ってた気がする……)
 ——内容はこれだけ? 恋の物語なら、王子様に呪いがかけられていることが多いみたいだけど。
 当時は子どもで、レンの言葉もただの疑問だと思って深くは考えていなかった。しかしあれが、ティトに「呪い」を知られているのではないかと恐れた言葉だとしたら。
(王家は呪いを隠してるんだ。……だから立太子まで第一子を隠してるとか……? 厄災から守るためにしてはなんだか違和感があるし)
 そこまで考えて、またレンのことを考えてしまったと首を振る。
 今はそんな場合ではない。ティトはとにかく、昨日伯爵邸で得たヒントをニコラとリオールに相談して、犯人探しに尽力しなければならない。
(隠し名が呪いに関係あるのかな……フォルテルディア先輩もそんな反応をしていた気がする。それに、先輩には『覚悟があるのか』とも聞かれたし……)
 その「呪い」は、レン一人ではどうにもならないのだろうか。たとえば、レンが選んだ相手にのみ隠し名を教えて何かをすれば呪いは解けるが、かなり覚悟が必要なこと、というものなら納得ができる。
 うんうんと頷いていたティトは、またしてもレンのことを考えてしまったと、はたと我に返った。いけないと首を振り、事件のことを考えようと頭をなんとか切り替える。しかしまたレンのことを考えてしまい、そのたびに首を振り、なんとか事件のことを考え、けれどもまたレンのことを考えて……何度かそれを繰り返したとき、ようやく視線に気がついた。
 遅れてやってきたティトは今日、ニコラとリオールの真ん中ではなく、一番端に座っていた。そのため、いつもとは違いティトの左側に座っている二人は、同じ角度でじっとティトを観察している。
「……な、なに?」
「いやー……すっごい百面相だったなって。なあ?」
「ああ。何を考えてたんだ?」
「え、あ、いや別に、何も……!」
 気がつけば担当教諭の話は終わっており、休憩時間となっていた。ティトはどうやら考えることに必死になっていたらしい。
「まああんまり悩むなよ。リオがオメガだってことは広まってないからさ」
「そうなんだよ、不思議だよな。むしろティトがまた巻き込まれたんだって噂されてるぞ」
「え! 何それ知らない! 詳しく教えて」
 三人で顔を突き合わせてコソコソと話し込む。目立つ三人であるからクラスメイトは興味津々だが、「何話してるの?」と寄って行く勇者はいないようだった。
「そっか、ティトは今朝遅れてきたもんな。実は僕たちもさっき聞いたんだよ。あのとき派手にフェロモンの匂いがしてただろ? あのフェロモンはティトが誘発剤で強制ヒートにされたんだって言われてる」
「そう。さらに襲われかけていたところを助けられたってことになってるぞ」
 全部リオの身に起きたことが、すべてティトにすり替わっている。もしかしてとティトが「それって仕向けた人は誰って言われてるの?」と聞いてみれば、ニコラもリオールも意味深に一つうなずいた。
「もちろん、エレア・ジラルドだってさ。……この間の毒の件も全部ジラルドが嫌がらせでやったんだって言われてるし、さすがにおかしいよな」
 ニコラの言葉に、ティトも同意するように「そうだね」と言葉を続けた。
「そこまで断定された状態での噂なら、誰かが意図的に流しているとしか思えない。だけど目的が分からないんだ。どうしてエレア様を悪者にして、僕を被害者にしようとするんだろう」
「……俺も予想でしかないんだけど、引き離したかったとかかなと思ってる。だってティト、ジラルドの姿を見ないだろ? あれ、クラスメイトやら同級生やらが二人が出会わないように動いてるからなんだよ」
「ああ、なんかなんとなくそうなのかなとは……いつからなの?」
「分からないけど、気がつけばね。でも、引き離すことが目的だったとして理由が分からないよな。結局犯人を探すしかないか」
 リオールも解決の糸口までは分からないようだった。
 ティトは二人からの情報を踏まえて、二人にぐっと顔を寄せる。すると何かを言おうとしていると察したのか、二人も顔を近づけた。
「昨日、家に帰ってから、兄様と父様に別々に聴取したんだ。今回の件の犯人と、僕が反逆者だと言われていることが分かるかなと思って」
「ほう、それで」
 顔を寄せているうえに小声で喋られては周囲にはまったく聞こえない。クラスメイトたちは耳ダンボにするのだが、何も聞こえず渋い顔をしている。
「残念ながら、父様からは何も得られなかった。僕に心配をかけたくないんだと思う。僕が疑われてるって話しても『気のせいだよ』って言われて終わりだった」
「さすがロタリオ伯爵だな」
 ニコラが納得したように数度うなずく。
「だけど兄様からは興味深い情報があったよ。今の二人の話を聞いて違和感もある。兄様ね、家に帰った僕に『またいじめられたんだって?』って泣きながら僕に抱きついたんだ。どうしてその日のうちにそんなことを言うんだろうって思ったんだけど、二人の話を聞いて、やっぱりおかしかったんだって分かった」
「……そのときに何かを聞き返したのか?」
「ううん。疑ってると思われて証言を得られなくなるのが怖かったから、深く聞けなくて」
 二人は何かを考えるように腕を組み、椅子に深くもたれかかる。
「ベルノー先生ってルギス先生と仲良いよな? ベルノー先生から一番に何かを吹き込まれていたとしたら、その耳の速さにも納得がいく気がする」
 言ったのはリオールだった。ニコラも「なるほどな」と、考えながら小さく同意する。
「ベルノー先生って平民だよね? ジラルド家とロタリオ家に関わってる記録とかあるのか?」
「あ、それは昨日父様に一応確認した。ベルノー・アルスレイって名前に覚えはあるかって。だけどないってさ」
「けど、明らかにジラルドを落としてティトを上げてるからなあ……」
 ニコラはさらに渋顔になってしまった。ティトも頭を抱えている。しかしすぐに「やっぱりベルノー先生に直接聞くべきかな」と結論を捻り出した。
「まあそうだな、直接的に聞いてみるべきか」
「僕らが一緒に居ればまあベルノー先生が暴れても大丈夫でしょ」
「……ベルノー先生は体格がいいから、一筋縄ではいかなさそうだけど……」
 リオールはどこか不安そうだった。
 三人の結論として、昼休憩に動く計画となった。それまではいつも通り、犯人に怪しまれないように過ごそうという話になり、三人は変わらず授業を受ける。
 昼休憩前の授業は、選択科目で移動教室である。ティトは二人とは違う科目を選択しているため、途中でにこやかに別れる。とはいえ教室の階が違うだけで遠く離れているわけでもない。昼休憩に動くことに気を急かしながら、ティトは教室へ急いでいた。
(今はとにかく、犯人を探そう。そうしたらレンに呪いのことを聞いてみて……)
 前の休憩時間に三人で長く話しすぎて、授業時間が迫っている。ティトはとにかく急いでいたが、気持ちはすでに昼休憩に飛んでいた。
 これで事件が解決すればエレアとも仲良くなれるかもしれない。ティトが疑われることはなくなり、レンにも何の気負いもなく接することができるかもしれない。
 はやる気持ちを持て余し、階段を駆け下りる。広い廊下にはすでに誰もおらず、ティトの足音だけが響いていたのだが。
 突然背後から、ドン! と強く背中を押された。突き飛ばされたのだと気付いたときにはすでに空に投げられていたが、ティトはなんとかぐるりと身を返す。
 次には頭と背中に強い衝撃を受けた。上も下も分からなくなる頃には、気がつけば意識を失っていた。
感想 1

あなたにおすすめの小説

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。

くまだった
BL
 新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。  金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。 貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け ムーンさんで先行投稿してます。 感想頂けたら嬉しいです!

【完結】家も家族もなくし婚約者にも捨てられた僕だけど、隣国の宰相を助けたら囲われて大切にされています。

cyan
BL
留学中に実家が潰れて家族を失くし、婚約者にも捨てられ、どこにも行く宛てがなく彷徨っていた僕を助けてくれたのは隣国の宰相だった。 家が潰れた僕は平民。彼は宰相様、それなのに僕は恐れ多くも彼に恋をした。

【完結】完璧アルファの寮長が、僕に本気でパートナー申請なんてするわけない

中村梅雨(ナカムラツユ)
BL
海軍士官を目指す志高き若者たちが集う、王立海軍大学。エリートが集まり日々切磋琢磨するこの全寮制の学舎には、オメガ候補生のヒート管理のため“登録パートナー”による処理行為を認めるという、通称『登録済みパートナー制度』が存在した。 二年生になったばかりのオメガ候補生:リース・ハーストは、この大学の中で唯一誰ともパートナー契約を結ばなかったオメガとして孤独に過ごしてきた。しかしある日届いた申請書の相手は、完璧な上級生アルファ:アーサー・ケイン。絶対にパートナーなんて作るものかと思っていたのに、気付いたら承認してしまっていて……??制度と欲望に揺れる二人の距離は、じりじりと変わっていく──。 夢を追う若者たちが織り成す、青春ラブストーリー。

【本編完結】異世界で政略結婚したオレ?!

カヨワイさつき
BL
美少女の中身は32歳の元オトコ。 魔法と剣、そして魔物がいる世界で 年の差12歳の政略結婚?! ある日突然目を覚ましたら前世の記憶が……。 冷酷非道と噂される王子との婚約、そして結婚。 人形のような美少女?になったオレの物語。 オレは何のために生まれたのだろうか? もう一人のとある人物は……。 2022年3月9日の夕方、本編完結 番外編追加完結。

憧れのスローライフは計画的に

朝顔
BL
2022/09/14 後日談追加しました。 BLゲームの世界の悪役令息に憑依してしまった俺。 役目を全うして、婚約破棄から追放エンドを迎えた。 全て計画通りで、憧れのスローライフを手に入れたはずだった。 誰にも邪魔されない田舎暮らしで、孤独に生きていこうとしていたが、謎の男との出会いが全てを変えていく……。 ◇ハッピーエンドを迎えた世界で、悪役令息だった主人公のその後のお話。 ◇謎のイケメン神父様×恋に後ろ向きな元悪役令息 ◇他サイトで投稿あり。

ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!

迷路を跳ぶ狐
BL
いつもドジで、今日もお仕えする領主様に怒鳴られていた僕。自分が、ゲームの世界に悪役として転生していることに気づいた。このままだと、この領地は惨事が起こる。けれど、選択肢を間違えば、領地は助かっても王国が潰れる。そんな未来が怖くて動き出した僕だけど、すでに領地も王城も策略だらけ。その上、冷酷だったはずの領主様は、やけに僕との距離が近くて……僕は平穏が欲しいだけなのに! 僕のこと、いらないんじゃなかったの!? 惨劇が怖いので先に城を守りましょう!

【完結】婚約破棄の慰謝料は36回払いでどうだろうか?~悪役令息に幸せを~

志麻友紀
BL
「婚約破棄の慰謝料だが、三十六回払いでどうだ?」 聖フローラ学園の卒業パーティ。悪徳の黒薔薇様ことアルクガード・ダークローズの言葉にみんな耳を疑った。この黒い悪魔にして守銭奴と名高い男が自ら婚約破棄を宣言したとはいえ、その相手に慰謝料を支払うだと!? しかし、アレクガードは華の神子であるエクター・ラナンキュラスに婚約破棄を宣言した瞬間に思い出したのだ。 この世界が前世、視聴者ひと桁の配信で真夜中にゲラゲラと笑いながらやっていたBLゲーム「FLOWERS~華咲く男達~」の世界であることを。 そして、自分は攻略対象外で必ず破滅処刑ENDを迎える悪役令息であることを……だ。 破滅処刑ENDをなんとしても回避しなければならないと、提示した条件が慰謝料の三六回払いだった。 これは悪徳の黒薔薇と呼ばれた悪役令息が幸せをつかむまでのお話。 絶対ハッピーエンドです! 4万文字弱の中編かな?さくっと読めるはず……と思いたいです。 fujossyさんにも掲載してます。