へルマンのお嫁さん

千代子レイ子

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5 番外編1

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 その日は唐突に訪れた。

「へルマン!! 居るんだろ!! 開けな!!」
「居るのは分かってるんだ!! 居留守なんて使うんじゃねぇ!!」

 知らない年配の男女が怒鳴り声を出して玄関前にいる。リナは恐怖で慌ててへルマンに抱き付いた。

「……はぁ。大丈夫だ、リナ。あの声は親父たちだ」
「親父って、へルマンのご両親?!」
「あぁ。相変わらずうるせぇなぁ……」
「えっ? でもいないって……」

 リナが小さな声で困惑しているとへルマンは息子が泣き出す事を危惧して扉を開けた。

「うるせぇ! 息子たちが起きるだろ!!」
「なら、さっさと開けりゃ良かったのさ!」
「お前は結婚も孫のことも知らせないで! あれほど手紙は書くように言っただろ!」

 扉を開けてもまだ口論する3人にリナはどう対処していいのか分からない。

「? おや? あんたがへルマンの嫁さんかい? まぁ! こりゃえらいべっぴんさん捕まえたねぇ」
「おっ、しかも異国の人かい! こりゃ凄いじゃないか!」
「へいへい。分かった! 分かった! ちゃんと説明するから落ち着けって!」

 こうして居間に通したへルマンは改めてリナと両親について説明と挨拶をした。

「この可愛い嫁さんが俺のリナだ! この通り異国の人間」
「は、初めて。へルマンの妻リナです。よろしくお願いいたします」
「ひぇぇ! なんて上品な嫁さんなんだ! しかもこっちの言葉がペラペラとは、才女か?!」
「おい、へルマン! まさかてめぇ……異国の美女だからって貴族のお嬢様を誘拐したんじゃねぇだろうな……」
「ち、違います! 私は貴族ではないです! 平民です! それに私がへルマンさんを前からお慕いしていて結婚してくれたんです!」

 リナが慌てて否定するとへルマンはさっと、リナの腰を引き寄せると頬にキスを落とした。

「リナ、それは違う。俺もお前が好きだから結婚したんだ! そんな妥協したような気持ちはねぇ! むしろ俺から頼んだくらいだ!」
「……へルマン……」
「あー! 分かった! 分かったから、目の前で盛るな!」
「……誰が盛るか!!」

 (いや、今のは危なかったわ……)

「へルマン、私にもご両親を紹介して?」
「……両親って言うか育ての親だ」
「なんだお前、俺達のこと嫁さんに教えてなかったのか! 薄情者め!」
「タイミングが無かっただけだ!」
「嘘つけ! 孫まで居るのにタイミングなど何時でもあっただろう!!」
「ちっ」

 やはり実の両親は既に亡くなっているのは事実らしい。

「舌打ちなんぞしよって!!」
「いいのか? 孫の面倒を見させてくれたらこれをやるぞ?」

 懐から出したのは超有名なリゾート地のホテルだった。

「?! なっ、何で持ってるだ?!」
「ふふ。ちと伝でな……さぁ、どうする?」
「いや、でも子供たちを、置いて旅行なんて……」
「? 置いてなんてしないぞ? これは家族・・旅行券だ。皆で親睦を深める為にも行こうじゃないか!」
「子守りをさせろ!!」
「それが本心だろ……」

 だがあまりにも魅力的な旅行にへルマンはしぶしぶ頷いた。





「孫じゃ、孫じゃ! 可愛いらしい家の孫じゃ!」
「ほれ、じぃじと呼んでくれ!」
「? じじゃ!」
「おぉ! この子は天才じゃ!」
「僕も呼べるよ! じぃじ! ばぁば!!」
「おぉ! おぉ! 凄い! 凄い! 天才じゃ! しかも良い子じゃな!」
「へへっ!」

 旅行中の馬車では終始孫を可愛がるへルマンのご両親はとても嬉しそうだった。そして初めての祖父母にリナの息子たちも懐いた。


「すっ、すっげぇ!!」
「そうじゃろ! そうじゃろ!」
「おぉ!」
「わぁ……」

 それぞれが詠嘆するほどその一流ホテルは立派だった。

「わぁー!! アスレチックがある!! 行ってもいい?」
「よし! 行くか!!」

 へルマン父親と一緒に長男が出掛けるとリナは次男のオムツを変える。

「終わったのならプレールームに行くぞ!」
「プレールーム?」
「長男が父親なら次男は母親とじゃ!」

 連れてこられたのは日本でも有名な幼児用の可愛らしい遊び場だった。

「こんな場所まであるなんて……」

 リナが感動しているとへルマンの母親が違う部屋へと連れて行く。

「あ、あの……心配せんでもいい! そこの窓を見てみぃ」
 
 言われるがまま覗くとそこは先程のプレールームに繋がっていて次男は早速祖父と楽しそうに遊んでいた。

「今回は家族旅行じゃ! リナさんも疲れを取らにゃいけん!」

 そう言われて行くと見覚えのある寝台。日本でも1度だけ友人と行ったエステティックサロンそっくりだった。

 (もしかしてここを作った人は日本人?)

 リナがそんな事を考えている間にエステは始まり、気付けば次男を祖父母に任せて爆睡してしまった。

「母ちゃん! 母ちゃん! 飯の時間だよ!」
「……えっ?」

 長男に起こされて目を覚ますとリナはいつの間にか部屋に帰っていた。

「ふふ、母ちゃんイビキかいてたよ」
「えっ、やだ!!」
「それだけ疲れていたということじゃ! 家族旅行はゆっくり身体を休めることが仕事じゃ!」

 祖母の言葉に「何それ!!」と笑う子供たちとは対照的にリナはあまりの優しさに感動して泣きそうだった。

「どうしたリナ?」
「……へルマンの優しさはご両親から受け継いだのね。いつもありがとうお父さん!!」
「!! そ、そんな可愛い顔で今、言うなよ!」
「あっ! 父ちゃん、顔真っ赤だ!!」
「い、いいから食事に行くぞ!!」

 息子にからかわれながらもへルマンは嬉しそうに笑った。
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