私は悪役令嬢なのか、脇役なのか、モブなのかを知りたい

千代子レイ子

文字の大きさ
5 / 33

5 トラウマ マーガレット令嬢

 (エスパーか?! 心を読めるとか?)

 一瞬そんな考えが頭をよぎったが、急にびちょびちょに濡れた私は自分自身の事よりもピアノが浸水したかもしれない恐怖のほうが先立っていた。

「ピアノ!!」

 私が慌ててピアノを拭こうと布を探すが、その行動を無視されたと捉えたのか令嬢は物凄い憤怒した形相で私に近付き、いきなり頬を躊躇無く引っ張叩いた。

 13歳と10歳。私の体格はそれほど大きく成長しているわけでもないし今日は正装までしている。だからその場で踏み止まれずに反動がついてしまい、勢いよく窓ガラスに体当りしてしまう。そして運悪くガラスが大破してしまった。

 ガラス音はとても大きく響き、近くにいたであろうカイン様たちが慌てて部屋に入ってきた。

「!! 何をしてるんだ!!」
「!!!!」
「!! リコリス嬢!! 大変だ! 大人を呼んでくれ!」
「! マーガレット嬢を捕まえろ!! 犯人だ!!」


 それからは大変な騒ぎとなり、私は直ぐに治療されそのまま眠ってしまった。


 後から聞いた話ではマーガレット様は私が自らガラス窓にぶつかり自分を悪役に仕立てたと反論したそうだが、何人もの男の子やカイン様が現場を見ていたのと、まだ魔法が使えない私がびしょ濡れになっていたことでマーガレット様の言い分は信憑性がない。

 そしてカイン様の婚約者である私が初めて会った彼女に無礼を働く理由もないことから嘘だと結論付けた。

 今回の事件は年下の子へあまりにも暴力的過ぎるとカイン様の両親も今回の事は見過ごせないとお怒りだと言う。




「……なるほど……」

 寝起きにメイドから今回の話を聞いていると母親が慌てて部屋にやって来たかと思ったら抱きしめられた。

「リコリス!! もう大丈夫ですからね。本当にごめんなさい!!」
「……あの、お母様そういえばここはどこですか?」
「カルフィシファー公爵家よ」
「カル……はっ! そう言えばピアノはどうなりましたか?」
「えっ? ピアノ?」
「はい。私が濡れたせいで、もしかしたらピアノが駄目になってしまったかもしれません……」

 私の落胆に流石のお母様もビックリして固まってしまう。

「……あなた襲われたのよ? ピアノの心配をしている場合じゃないでしょう?」
「? 私は人間です。だから傷は治ります。でもピアノは作られた物ですから壊れたら美しい音が奏でられません。あんなに素晴らしいピアノを廃棄するようなことがあったら悲しいです」
「……悲しいって……昔から変わった子だと思ってたけど……リコリスはたくましいわねぇ……」
「?」
「後で聞いといてあげるわ。だから心配せずもう少し休みなさい」
「はい。ありがとうございます」

 その後医者に体調を調べられ、リコリスは発見と治療が早かったためか特に何もなく回復した。


 そして体調が戻った私の所にカイン様は見舞いと称して事件のその後を話してくれた。

「今回のことで辺境伯とは縁を切ることになったよ。マーガレットにも、もう2度と会うことはないってさ!」
「……すみません。楽しい誕生日に出来なくて……」
「リコリスが謝ることなんて無いだろ!! 全部意地悪マーガレットのせいなんだし! それにある意味これでもうマーガレットと会うこともないんだ。そう思えばこんなにラッキーな誕生日はないよ!!」

 (満面の笑顔だ。よっぽど嬉しいんだろうな。……それにしてもマーガレット様は恋心をすねらせ過ぎて相手の印象は憎悪しか残さなかったとはまるで悪役令嬢の断罪みたいだ。まだ13歳だけど……)

 カイン様は何でもないように話すが、やっぱり血生臭い事件になってしまった誕生日は良くないだろう。

「では、今度我が家でカイン様の誕生日パーティーを改めてさせてください!」
「えっ? 俺の誕生日を?!」
「はい! 上塗りです! もうマーガレット様も居ませんし、楽しい誕生日になりますよ!」

 笑顔でカイン様の憂いを晴らそうとするが、カイン様は何故かうるうると涙目だ。ヤバい!! 失敗か?!!

「…………ありが……とぅ……」

 相当悲しかったのか、マーガレット様がトラウマだったのかは分からないがカイン様はその後も泣き続けた。



 そして体調も万全となり、屋敷に帰る馬車の前でカイン様と別れの挨拶をする。

「リコリス!! これからはもっと会いに行くから!!」
「はい。やり直ししましょうね」
「いや、そうじゃなくて!! えっと、それもあるけど……とにかくありがとう!!」
「? はい」



 よくわからないカイン様との別れを終えて、とりあえず悪い印象は与えなかったので安心しながらミッションコンプリートを心のなかで唱えてみた。

「よし! 今度はカイン様が喜ぶ完璧なパーティーにするぞ!!」

 今こそ前世の記憶をフル活用して婚約者と険悪にならないように努力し、乙女ゲームだった場合のフラグをなるべく消そうと思った。
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

仮面王の花嫁

松雪
恋愛
婚約者を腹違いの妹に奪われ、新しい相手も見つからず修道院に行く覚悟を決めたルチア。修道女となるため髪を切った日の夜、王城から「国王がルチアを妻に望んでいる」という書簡を持った使者がやって来た。 しかし、従兄弟であり恋仲だったニールが国王のせいで死に至った過去を持つルチアは、国王からの求婚を喜べずーー。

元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!

楠ノ木雫
恋愛
 貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?  貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。  けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?  ※他サイトにも投稿しています。

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?