私は悪役令嬢なのか、脇役なのか、モブなのかを知りたい

千代子レイ子

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19 誘拐された先は帝国でした

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 取り敢えずカイン様とは現状維持と言う事で婚約は続行された。

 ただ今回の事件で公爵家と言えど婚約解消されずにいたことで、「圧力をかけたのではないか」「金を握らせたのではないか」「伯爵が優位に動けるように仕掛けたのかもしれない」と様々な憶測が出回ってしまった。それほど今回の事件は根深いともいえるのだろう。



「リコリス様、そちらはこちらの資料と確認してからですよ!」
「あっ、そうでした! すみません!」

 今、私はそんなことよりも公爵家の婦人としての教育が大変過ぎて死にそうだ。

 あれから本格的に公爵家に訪れては勉強している私は学園を卒業するまでの間、行き来するようで目まぐるしい。

「まるでお妃教育みたいね……」
「高貴な家に嫁ぐとはそう言うことなんですよ」
「……分かっていたことだけど甘く見てたわ」
「ですが王家よりかは楽だと思いますよ」
「……そうね。今のご時世、王家に嫁ぐ女性は災難だと思うわ。今は政治が安定しているけど、いつ戦争になるかわからないものね」

 未だに宙ぶらりんになっているラビリンス公爵家のエリザベス様は留学先から戻っていない。きっと面倒事に巻き込まれたくないから、何とか向こうに留まっているのだとひしひし感じる。

 (まっ、私でもそうするでしょうね。わざわざ火中の栗を拾う真似はしないだろう。)

「はぁ、取り敢えず学園はちゃんと卒業したいわね」
「後1年と半年位は大丈夫だと思いますけどね」
「えぇ。切除に願うわ……それにしても私は長男の嫁でもないのにここまでするものなのかしら?」

 侍女と2人馬車で本音を漏らしていると、にわかに外が騒がしい。
「お嬢様! そのまま馬車内に! 賊です!」
「!!」
「お嬢様! 窓際から離れましょう!」

 そう言って侍女は私に覆い被さった。外では物騒な物言いと激しい戦いの音がする。

 (公爵家に付けて頂いた護衛もいるし、今は真っ昼間だ。直ぐに加勢が来ると分かっていても怖い!)

 その恐怖はある意味警告だったのかもしれない。

 わざわざ昼間の奇襲をすると言うことは、つまりそれが一番効率がいいと言うこと。成功確率が高いことを示すとなると私の安全が危ないことも同意で……。

 ガンガンと扉を壊す音がすると侍女の身体にも緊張が走る。普通の物語ではこう言うとき颯爽とヒーローが救いに来てくれるものだが、残念ながら私はヒロインではない。

「いたぞ!!」

 無常にも扉は破壊され、侍女共々私は担ぎ上げられた。視界には負傷した騎士たちが大勢倒れている。

 (し、死んでないよね……。お願い神様、彼らを私のせいで死なせることなどしないで!!)

 この時初めて私は自分のせいで人が死ぬことの恐怖を味わった。この身は確かに高貴ではあるけれど、それで他の人間が死んでも構わないとは思わない。

 何が狙いかは分からないが昼間の奇襲をかけるほどの手練れだ。ただの物取りではないだろう。

「よし、先に行くぞ!!」

 動物用の鉄格子檻に侍女と入れられると、物凄いスピードで馬車が発進する。

 中のいる人間のこと等何も考えていないのだろう。酷い揺れで鉄格子に捕まってないとあちこちにぶつかって怪我をすることは必然だ。

「成功か?」
「あぁ」
「よし、そのまま行け! 後は向こうが処理する」
「了解」

 暫く走った後、止まったかと思うのもつかの間。物騒な言葉を耳にする。

 (処理?! えっ! 殺されるの?! わざわざ何処かに行ってから?)

 不安が膨れ上がる中、どうやら転移装置にいるらしく一瞬浮遊感を味わう。

 (転移装置? どこに行ったの?)

「中を確認する」

 声と共に数人の兵士が私を確認する。

 (?!! て、帝国の兵士?!)

「よし、確かにアルファー伯爵令嬢だ」
「じゃ、サインを」

 誘拐犯と帝国の兵士が話し合ってる間に私と侍女は檻から出され、兵士にお姫様抱っこされて屋敷に入る。

 逃げない為なのか丁寧に扱いたいのか分からないが、とにかく歩く事もないまま、一室のソファーに下ろされる。

「夕食までにまだ時間がございます。先に湯浴みをなさいますか? それともお茶を入れましょうか?」

 どうやら丁寧な扱いはしてくれるみたいだ。不安だけど侍女も一緒だし、ここは檻の荷馬車でホコリまみれになった身体を綺麗にしたいので湯浴みを所望する。

 するとメイドが何人か即座に現れ、直ぐに湯浴みの用意がされた。

「それではまた晩餐の時に伺います」

 兵士は軽く会釈するとそのまま部屋を出ていった。意外と紳士的で拍子抜けする。

「……惚れましたか?」
「拍子抜けしただけよ。ストックホルム症候群にはまだ早いんじゃない?」
「すとっくほるむ?」
「誘拐事件や監禁事件などの被害者が犯人と長時間、共に過ごすことによって犯人に好意的な感情を抱くことよ」
「なるほど。それで何故すとっくほるむ? と言う名称が付けられたのですか?」

 (ヤバい。これは前世の症例名だ。知らないみたいだし誤魔化そう……)

「さぁ? ストック君とホルムさんがそう言う関係になったからじゃない? 詳しくは知らないわ。私も小説を読んだ時の話をしているだけだから」
「そうですか。それにしてもお嬢様は博識ですね。これも公爵家の婦人となられる素質をお持ちだからこそだと感服しました」
「……ありがとう」

 侍女には悪いけど博識なのは人生2回分の知識がある為だ。チート能力だから誉められると罪悪感の方が強いということは秘密にしておく。
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