私は悪役令嬢なのか、脇役なのか、モブなのかを知りたい

千代子レイ子

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番外編3

 辺境伯当主カインは困っていた。

「カイン様、いってらっしゃいませ!」

 可愛い妻は出かける時は必ず頬にキスをしてくれる。夢に見た理想が今ここにある。

「じゅるい! あーも! あーも!」
「はい。はい」

 まだちゃんと喋れない息子が妻にキスをねだる。その光景はとても微笑ましいのに『俺以外の男にキスをするとは……』と、もう一人の俺が嫉妬する。

 自分の初キスは違う女だったと言うのに酷い我が儘だ。

「とーとも! ねっ! ねっ!」
「……またか……」
「うん!」

 ねだられて頬にキスをすれば満足したのかそのまま乳母の手を取って部屋に戻ろうとする。

「坊っちゃま! 旦那様のお見送りがまだですよ!」
「う?」
「ふふ。いいわ。好きにさせて」

 これが最近の我が家で見られる風景だ。たまにエスメラルダも加わって息子の頬はキスまみれになる。

 (将来キス好きにでもなったら困るな)

「じゃ、行ってくる」
「お気をつけて」




 俺は色々な事件があってからリコリスと家族以外の女性が駄目になり、しかも外出している時にリコリスが居なくなるかもしれない恐怖がいまだにある。

 きっと初恋が成就しているのに不安に思う原因は俺の外見だと思う。リコリスは一見手際よく何でもそつなくこなすように見えるが実は物凄く慎重に行動する人間だ。

 だから俺が1度でも浮気などすれば息子を連れて二度と帰って来ないだろう。(まぁ、そんな気持ち悪いことをする意味もないけど……)そしてきっと「やっぱりね」と言ってさっさと自立して次に行ってしまうぐらいの行動力もある。

 それくらい俺の外見は信用がない。女性に好まれる見た目が障害になるとは何とも皮肉だ。

 しかし最近はリコリスから「大好き」や「愛してる」と言う言葉を聞けて動揺しつつも感激していた。

 な・の・に!! 今までどうやって接していたかが分からなくなり、気付けば素っ気ない態度になってしまっている。

「嫌われたらどうしよう……リコリスぅ……」

 

 

 最近カイン様の行動が可笑しい。私が大好きだと告白するようになってから、動きがチグハグになるし、顔を合わせてはそっぽを向き真っ赤になって百面相するのだ。

 笑わないように我慢するのが一苦労で腹筋が鍛えられそうになっている今日この頃です。

 しかも最近息子がそれを真似する始末。

「んっ! むー……ふん!!」
「プッは!!」
「あははは!! お兄様そっくりだわ! ヘンリーは天才ね!!」

 まさかカイン様がそれに悩んでいるとも知らずに酷い嫁である。




「リコリス、ちょっといいかな……」

 ある日寝室にて急に顔を曇らすカイン様に私は何かあったのかと心配して寄り添った。

「えぇ、勿論です。何かありましたか?」
「…………ごめん……」
「えっ?」
「俺、最近リコリスに素っ気なかっただろ?」

 (? そうかな? ロボットダンスとかしてて面白かった記憶しかないからなぁ……)

「別に嫌っている訳じゃないんだ! ただリコリスから愛を返して貰って、その……う、嬉しくてどうしたらいいか分からなくなってたんだ!!」

 (うん。知ってる。カイン様以外、皆知っていると思う)

「……だから……捨てないで……」
「はぁ?!」
「俺、リコリスに捨てられたら生きていけない!!」
「?! ???」

 小さな子供のようにしがみつくカイン様に私はどうしてそんな思考になったのか、こちらが分からないずくしだった。

「……カイン様、話をしましょう。私たちは夫婦です。気を使う必要なんてないんです。家族なんですから甘えて下さい」
「……リコリス……」

 それからカイン様の気持ちを聞いて、私の長年築いた壁の罪にこちらが謝罪したくなった。

「カイン様、きっと昔の私ならば息子を連れて確かに消えていたでしょう。でも今は違います。そんな事になったら浮気したカイン様は勿論、女性も既婚者だと知って近付いたのなら、世にも恐ろしい罰を与えます」
「えっ?」
「トラウマが増えないようにしましょうね?」

 カイン様は顔を青ざめながらヘッドバンキングする。この笑顔の恐怖政治はお母様からの遺伝かもしれない。 



「? とーと! むー……ふん!! は?」
「えっ? 何それ?」
「むー……ふん!! よ!」
「? リコリス、ヘンリーは何を言ってるの?」

 (うっ、まずい!!)

「最近のお気に入りなの。きっと見て貰いたいんだわ!」
「そうか! ヘンリー、可愛いぞ!」
「むー……ちゃ! ちゃっ!」
「??」
「ヘンリー! お父様はもうお出かけなのだから、いつものキスをしてもらいましょう?」
「あっ! とーと!」

 思い出したのか息子は頬をカイン様に向ける。

「はいはい」
「きゃー!! かーも! かーも!」
「はい」

 そして仕事は終わったとばかりにさっさと乳母を連れて部屋に戻る。

「全くヘンリーは自由だな」
「ふふ。今だけですよ」
「では、行ってくる」
「はい。お気を付けて」

 チュッ!

 不意打ちで唇にキスするとカイン様は真っ赤になって挙動不審だ。

「リ、リコリスー!!!」
「ふふ」

 今日も辺境は幸せで満ちている。
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