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第六話:断罪の時
しおりを挟む「ま、まさか……そんな、馬鹿な!」
アルベールは、信じられないというように叫んだ。
そんなアルベールに追い討ちをかけるように、周囲でひそやかに言葉が交わされる。
「まさかアルベール様はご存じなかったの?どうりで入婿の立場で愛人なんて言ってたのね」
「まぁ、てっきり愛人を邸宅に住まわせながらも、エレノア様に離婚されないでいられる秘策だとか弱みを握っているとかかと思いましたわ」
「それがただの無知だったなんて。自分から離婚届も用意しちゃって、もう終わりね」
その言葉にハッと気づいたアルベール。そう、今回、アルベールはすぐにでもエレノアを追い出すべく、記入した瞬間に効力が発生する、強制力の高い離婚届を用意していた。
記入されたら終わりだが、逆に離婚届さえエレノアに記入されず取り返してしまえば、この場での即時離婚は避けられるのだ。
醜聞にはなるものの、ここは一旦痴話喧嘩でしたで収めてしまえば、夜会のあとエレノアを説得できる自信がアルベールにはあった。
なんせこの3年間、エレノアは確かにアルベールのことを愛していたし、アルベールはその愛を肌身で感じていたのだ。
引き攣った笑顔を浮かべながらエレノアに向き直った。
「エレノア、この一連のことは全て嘘だったんだ。
ほら、結婚から3年経ったから何か刺激が必要かと思って驚かせようと思ったんだ。
だから、ね、その離婚届を返してくれないか?これからも一緒に伯爵家を盛り立てていこうじゃないか」
そんなアルベールに、未だ状況が理解できていないセシルが噛み付く。
「え、嘘だったってどういうこと!?私を伯爵夫人にしてくれるといってたじゃない!」
「いいからお前は黙ってろ!
な、セシル。これまで3年間愛し合ってきたじゃないか。離婚届だなんて物騒なものは破り捨ててしまおう」
エレノアは内心アルベールの変わり身の速さに驚き呆れ果てつつ、離婚届を大切に抱えているアガサに合図をした。
即座に、アガサは台紙と離婚届、そしてペンをエレノアに差し出し、アルベールが奪い取る隙も与えず、エレノアはサインを終えた。
「お前…!」
すぐさまアルベールが飛びかかろうとしたが、そこにモンブラン伯爵家の騎士団長が数人の騎士と共に、エレノアを守るように割って入った。
屈強な騎士達に怯んだアルベールにエレノアが告げる。
「アルベール様、わたくし離婚を受け入れますわ。
そして、皆様。本日はお騒がせしてしまい申し訳ございません。
当家の恥を晒してしまいお恥ずかしい限りではございますが、
モンブラン家を受け継ぐものとして、この通り、ここに当主が変更となりますことをお知らせ致します。
それでは、アルベール様、速やかにこの邸宅からの退去をお願い致しますわ。」
エレノアは一切の容赦なく告げた。アルベールは、まさに雷に打たれたような衝撃を受け、その場に立ち尽くした。
「そんな、嘘だ! 私は、私は伯爵だぞ!」
しかし、騎士たちは容赦なくアルベールの両腕を掴んだ。暴れるアルベールをよそに、彼は屈辱的な形で夜会の場から引きずり出されていく。
セシルもまた、茫然自失といった様子だった。彼女の夢見ていた伯爵夫人の座は、泡のように消え去ったのだ。それどころか、アルベールが伯爵でなくなった今、彼女の立場は、ただの「元伯爵の愛人」に過ぎない。
「ま、まさか……」
セシルは、震える手で口元を覆った。彼女もまた、騎士たちによって夜会からも伯爵夫人の部屋からも追われ、アルベールとともに邸宅を追い出されることになった。
エレノアは、壇上から、アルベールとセシルが引きずり出されるのを静かに見下ろした。
彼女の瞳には、かつての悲しみは微塵も残っていなかった。そこにあったのは、自信と、そして静かな勝利の光だけだった。
「アルベール様、セシル様。どうか、これからはお二人で、慎ましくお過ごしくださいませ」
エレノアの言葉は、皮肉に満ちていた。彼女は、淑女らしい言葉で、二人を社交界から完全に追放したのだ。
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