悪役令嬢は美貌と権力でざまぁする

最終話 形骸化する王家と実権

一方、王子とリリアーナは、王と王妃として即位したものの、その権力は形骸化する一方だった。

「なぜだ！？なぜ誰も私に逆らうのだ！？私はこの国の王なのだぞ！」

王子は毎日のように苛立ち、王宮の執務室で怒鳴り散らしていた。リリアーナは、そんな王子の隣で憤り悲嘆に暮れるばかりだった。

「フェリシア様が……フェリシア様が全てを牛耳っていらっしゃいます……貴族たちは、皆、フェリシア様の顔色を伺っていますわ」

王宮の財政は逼迫し、重要な法案はことごとく貴族派によって否決された。王族が主催する公式行事には、ほとんどの貴族が欠席し、その代わり、ヴァレンシュタイン公爵邸で開かれるフェリシア主催の夜会は、連日大盛況だった。

たまりかねて、王子はフェリシアを王宮に呼び出した。

「フェリシア！貴様、一体何を企んでいる！？この国の政治を混乱させる気か！」

フェリシアは、王と王妃となったかつての婚約者と、その横で怯えるリリアーナを前に、静かに微笑んだ。隣には、同じくアルフォンスが静かに立っていた。

「何を仰いますの、陛下。わたくしはただ、この国の未来を案じ、貴族として当然の責務を果たしているだけですわ」

「責務だと！？貴様がしていることは、王権への反逆ではないか！」

フェリシアは首を傾げた。

「反逆……？いいえ、滅相もない。わたくしはただ、この国に必要な改革を推し進めているだけ。陛下が王位に就かれてから、この国の財政は悪化の一途を辿り、民も貴族も疲弊しております。これでは、国が滅びてしまいますわ」

その言葉は、まるで真実であった。無能な王がフェリシアとの婚約破棄を咎めた有能な家臣を解雇し、国政は滞るばかり。そんな状況に、飢饉も重なり、国中で飢えと治安の悪化が確認されているのだ。

一方、フェリシアは王宮から解雇された有能な人物を秘密裏に公爵家に引き入れ、飢饉への対策も素早く行なったため、公爵家の領地では民の生活もいち早く安定したものとなっている。

その事実は、王家の対応の遅さをより浮き彫りにしたのであった。

「黙れ！貴様は私を貶めようとしているだけだ！」

フェリシアは、まるで愚かな子供を見るような目で王子を見つめた。

「貶める？いいえ。わたくしはただ、事実を申し上げているだけですわ。殿下は、ご自身の生まれ持った権力を理解せず、権力をより拡大できる婚約を無為にされた。そしてリリアーナ様は、その美貌と才覚を利用する術を知らなかった。それだけの話ですわ」

彼女の言葉は、二人の心を抉った。彼らは「真実の愛」と信じたものを手に入れたはずだった。だが、フェリシアの言葉は、その「真実の愛」が、何の実りも生み出さなかった現実を突きつけた。

「結局のところ、生まれ持った権力と美貌、そしてそれを活用することがどれほど重要だったか。今、身をもって実感していらっしゃるのではないでしょうか、陛下」

フェリシアの冷たい笑みが、王宮の空気を凍りつかせた。王子は顔を真っ赤にして震え、リリアーナは涙を流しながらその場に座り込んだ。アルフォンスは、そんな王子たちを見つめ、フェリシアを絶対に敵に回さないようにしようと改めて誓いなおしたのであった。

もはや、この国はフェリシアの手中にあった。王と王妃は、ただのお飾りに過ぎず、彼らは二度と、権力を取り戻すことはできなかった。