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第三話 貴族派の女王
しおりを挟む数週間後、フェリシアは、国内で最も有力な公爵家の一つであるレヴィアタン公爵家の次男、アルフォンスをヴァレンシュタイン公爵家へ婿に迎える形で婚約を発表した。
レヴィアタン公爵家は、ヴァレンシュタイン公爵家と並び称されるほどの名門であり、広大な領地と強大な軍事力を有していた。
次男であるアルフォンスは、嫡男ほどの重責は負わず、比較的自由な立場にあったため、ヴァレンシュタイン公爵家への婿入りもスムーズに進んだ。
この婚約により、フェリシアは名実ともに国内で最高の地位に就いた。
ヴァレンシュタイン公爵夫人となったフェリシアは、その比類なき美貌と、元来持ち合わせていた冷徹な政治的嗅覚を遺憾なく発揮し始めた。
彼女はレヴィアタン公爵家の後ろ盾と、婿として迎え入れたものわかりの良いアルフォンスと共に、これまで中立派であった者達を次々と貴族派の味方につけていった。
「王家が弱体化した今、この国の未来は、私たち貴族が担うべきですわ」
社交界の奥まったサロンで、フェリシアは淑やかに微笑みながら語る。しかし、その瞳の奥には、確固たる意志と、時に冷酷なまでの計算が見え隠れしていた。
アルフォンスは彼女の隣で、ただ彼女の言葉に頷き、彼女の美しさを引き立てることに務めた。
彼女は、貴族たちの弱みを握ることを得意とした。裏で蓄えられた不正な財産、隠された不貞、あるいは些細な失言。彼女はそれらを巧妙に利用し、貴族たちを自身の意のままに操っていった。
「ロシュテ伯爵、御令嬢の件は、これ以上表沙汰にならないように私も手を回しましょう。ええ、もちろん、わたくしは貴方を信頼しておりますもの。ですから、どうか、わたくしの提案にご賛同いただけますよう」
囁くような声で、しかし有無を言わせない威圧感で、フェリシアは貴族たちを次々と懐柔していった。彼女の美貌は、時に男たちの警戒心を解き、その後の罠に陥れるための最高の武器となった。
そして、彼女の言葉を忠実に実行するアルフォンスの存在も、彼女の威光を増幅させた。
こうして、フェリシアは瞬く間に貴族派の盟主としての地位を確立した。
王都の政治は、もはや王宮ではなく、フェリシアのいるヴァレンシュタイン公爵邸で動いていると言っても過言ではなかった。
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