悪役令嬢は美貌と権力でざまぁする

第二話 途方もない求婚ラッシュ

婚約破棄から一週間。ヴァレンシュタイン公爵邸は、予想だにしなかった事態に見舞われていた。ひっきりなしに届くのは、国内外の有力貴族たちからの求婚状だった。

「お嬢様！本日はロドニー侯爵家、ベルンシュタイン伯爵家、そして隣国ラウゼンブルク王国の第二王子殿下からでございます！」

執事が山のような求婚状の束を抱え、困惑した顔で報告する。

「まさか、婚約破棄された直後から、これほどの数の申し出があるとは……」

公爵夫人が呆れたように呟く。だが、フェリシアは優雅に紅茶を傾けながら、冷静に言い放った。

「当然ですわ。彼らにとって、わたくしはより価値の高い存在になったのですもの」

彼女の言葉は、まるで真理を語るかのようだった。婚約破棄されたとはいえ、彼女の家格と美貌は微塵も揺らいでいない。むしろ、王家との縁が切れたことで、より多くの者が彼女を手に入れようと動き出したのだ。

「ヴァレンシュタイン公爵家は、この国の筆頭公爵家。わたくしと結びつくことは、すなわちこの国の貴族社会における揺るぎない地位と権力を手に入れることと同義。そして、この美貌。権力欲と色欲にまみれた愚かな男どもが、放っておくはずがありませんわ」

公爵夫妻は、娘の冷徹な分析に顔を見合わせた。確かに、フェリシアの言う通りだった。王家の王位継承者と婚約していた時には、他の貴族は手を出せなかった。しかし、その婚約が破棄された今、彼女は「最高の獲物」として、あらゆる貴族の標的となっていた。

フェリシアは、届いた求婚状を一枚一枚、冷静に査定していった。相手の家格、財力、政治的影響力、そして当主の人柄（利用できるかどうか）。

「ロドニー侯爵家は、確かに有力ですが、どうも王家寄りのようね。ベルンシュタイン伯爵家は悪くないけれど、この国の貴族派をまとめるには力不足かしら」

そして、ラウゼンブルク王国の第二王子からの求婚状に目を留める。

「ふむ。隣国の王族ね……悪くないわ。でも、もう少し素直な方がいいわね。」

彼女の頭の中では、すでに新たな戦略が練られ始めていた。王家への復讐、そしてヴァレンシュタイン公爵家のさらなる盤石化。そのためには、今、最も強力な後ろ盾が必要だった。

その頃、王宮では、王子とリリアーナが、フェリシアの動向に焦りを感じ始めていた。

「な、なんだと！？あのフェリシアに、これほどの求婚が殺到しているだと！？」

王子は信じられないといった顔で叫んだ。リリアーナも、顔を青ざめさせていた。

「そんな……わたくしが、わたくしこそが、殿下の真実の愛の相手だと持て囃されるはずなのに……それなのに、なぜあの人が、より一層輝きを増しているのですか……？」

リリアーナの言葉に、王子は何も答えられなかった。婚約破棄をすれば、フェリシアは失意の底に沈み、王家との縁も得られず、公爵家の力は減退するものだと思っていた。しかし、現実は真逆だった。フェリシアは、まるで嵐の後の太陽のように、以前よりも強烈な輝きを放ち始めていたのだ。

フェリシアは、届いた全ての求婚状を熟読し終えると、執事に命じた。

「この有力候補達3名についての詳細を明日までにまとめてちょうだい。そして、来週には、彼らを公爵邸へ招く手配を」

彼女の瞳は、すでに未来の支配を見据えていた。