抱擁の旅人

桜木青嗣

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第二章

変わり果てた思い出に⑩

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 木村は中学に入り、新たなグループを形成した。元々付き合いのある新沢小出身者と、若干の笹原小出身者を含めた取り巻きのグループだ。次第に、他の笹原小出身者も木村をはじめとする新沢小出身者の雰囲気に呑まれていき、新沢小的な文化に馴染んでいった。

 丁度中学生という社会的にも「大人」であることが求められはじめる年代ということもあって、東中は新沢小出身者が主導権を握るようになった。
はっきりいって俺は不器用だった。中学校が小学校の延長だと思っていたから小学校のやり方をそのまま中学校に当て嵌めようとした。

 しかし、不幸なことに中学校の文化自体が新沢小的な文化に親和的だった。授業は高校受験を見据えたものとなり、小学校のゆるい雰囲気と比べて真面目な空気が漂っていた。教師の生活指導も厳しいものになった。小学校の頃なら笑って許してもらえるようなことも厳しく叱られた。部活を中心とした先輩後輩関係も発生し、学年の違う者同士が急に序列化され分断された。小学校の頃なら学年を問わず仲良く遊んでいたのに学年が上であるというだけで敬語を使わなければならなくなった。

 こうした中学校文化に新沢小の殺伐としてませた文化が加わり、小学校時代とは全く異なる環境へと一変したのである。その結果、俺は学校に行くのが苦痛になった。そして中学一年の七月、俺は、俺のその後の人生を縛り続けることになる「金属バット事件」を起こした。

 事の発端はクラスの給食費が盗まれたことだった。当然ながら犯人捜しが始まった。木村達は真っ先に俺が犯人なのではないかと決めつけた。根拠も何もなかったが、クラスの雰囲気も木村を中心とした新沢小のそれに呑まれていたため根拠はなくとも俺は疑われた。

 そんな中、唯一俺を庇ったのが美月だった。美月は自ら矢面に立ち、四面楚歌の状態の俺を守った。しかし、美月一人だけが庇ったところで誰も俺のことを信用しようとはしなかった。それどころか、美月が俺を擁護する姿を見て、木村たちは俺と美月が恋愛関係にあるとはやし立てた。

 俺は濡れ衣を着させられたことに加えて、美月とのありもしない関係をからかわれたことで我慢の限界を迎えた。木村たちからの日頃の嫌がらせや、学校への不適応のストレスが積もりに積もって、とうとう爆発してしまった。

 俺は教室のロッカー脇に置いてあった野球部の金属バットを手に取り、木村を殴りつけた。血しぶきが窓ガラスに飛び散り、木村は卒倒した。女子たちが金切り声をあげ、教室はパニック状態となった。
そして俺は教室の窓ガラスを一枚ずつバットで叩き割った。全てを粉々にしてしまうと今度は机と椅子を放り投げて暴れ回った。

 教室には阿鼻叫喚の嵐が吹き荒れた。いつもは威勢のいい木村の取り巻きたちもこのときばかりは尻尾を巻いて逃げ出した。その後、駆け付けた教師たちにより俺は取り押さえられ、事態は終息した。俺は文字通り木村を殺すつもりだったが、木村は急所から外れたため脳震盪で気絶しただけで済んだようだった。

 事件後、俺は学校一の有名人になった。事件の始末が済んだので学校に戻ると、俺は危険人物扱いされ、廊下を歩いていると他学年の生徒からも避けられ、後ろ指を指されるようになった。

 殺されかけたこともあり木村たちはそれから俺への嫌がらせをピタリとやめたが、俺はこの件を境に、美月の他は小学校の頃からの友達の畑中と村井、新沢小出身だが気の合った児島を除き、全校生徒から恐れられ、遠ざけられた。色のついていた教室は、その日灰色になった。



 気がつけば俺は木村の顔面に拳を叩きつけていた。木村は鼻血を舞い上げながら倒れた。ほとんど無意識の行動だった。それは俺の人生を蹂躙した男への本能的な衝動だった。失われた時間はそんなことでは取り戻せないことはわかっている。それでも、目の前のこの男を殴らずにはいられなかった。

 周囲は静まり返り、次の瞬間騒然となった。それを見て俺は、あぁ、あの時と一緒だな、と思った。

 俺は怒りに駆られた取り巻きたちに囲まれ殴る蹴るのリンチを受けた。取り巻きたちはすぐに周囲の人間に取り押さえられたためリンチからは逃れられたものの、俺は会場からつまみ出される格好でホテルから出た。そして俺は虚脱感のなかで痛む身体をさすりながら静かに帰路についた。
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