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アヒルはパパ?

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 ツンツン。ツンツン。
 何かがアヒルの頭をつついています。
 ツンツンツン。

 ――は……!

 アヒルは目を覚ましました。どうやら看病をしながらベッドに突っ伏して寝てしまっていたようです。
 寝不足のお目目を翼でこすると、ベッドから起き上がったカラスの子がいました。

「くぅわあ!」

 カラスの子は元気いっぱいです。アヒルも思わず笑顔になりました。

「元気になったくわか」

「くわ! くわ! あなたがかぁのパパですか?」

「くわ!?」

 アヒルは慌てて首を左右に振ります。

「違うくわ! くわはアヒル! おまえはカラスくわ!」

「アヒル? カラス?」

 カラスの子はよくわからないらしく首をかしげます。

「じゃあかぁのパパとママは?」

「知らないくわ」

 アヒルの冷たい言葉にカラスの子の瞳に涙が溜まります。

「くぅわあ! くぅわあ!」

 とうとうカラスの子は大声で泣きだしてしまいました。

「くわわ! わかったくわ! カラスの国の国境まで連れて行ってやるからパパとママを探すくわ!」

「くぅわ?」

 アヒルはカラスの子をどうにか泣き止ませると、彼を伴い国境へと続く森を歩きます。しばらく歩いているとカラスの子が言いました。

「……おなかすいた」

 アヒルは仕方ないなあと思いながらリンゴの木を探すと実をひとつ取ってやりました。それを半分に割ると片方を差し出します。

「ほら、朝ごはんくわ」

「くぅわ!」

 2羽はリンゴをしゃくしゃく食べながら森を歩きました。

「見えた。あれが国境くわ」

 国境付近にたどり着くと、アヒルはカラスの子の背中を軽く押しました。

「くぅわ?」

「ここからさきはくわはいけないくわ。1羽でいくわ」

「くぅわあ……」

 カラスの子はさみしそうに鳴くと、また瞳に涙を溜めます。また泣かれては敵わない! アヒルは慌てて逃げ出します。

「くぅわ……!」

 逃げ出したアヒルをカラスの子は必至に追いかけます。でも慌てて走ったからでしょう。脚が絡まって転んでしまいました。その痛みでカラスの子はまた泣いてしまいます。
 その姿を不憫に思ったアヒルは走るのをやめてカラスの子のところに戻るとケガの具合を見てやりました。

「くわ。ケガはしてないから大丈夫くわ」

「くぅわ……。かぁ……アヒルさんと一緒がいいかあ」

「くわわ……」

 アヒルは困ってしまいました。しかしやがて仕方ないと溜息をつくといいました。

「パパとママが見つかるまでくわよ」

「くぅわ?」

 アヒルはカラスの子を背負うとまた自分の家に向かって歩き始めました。

「おまえは名前は?」

「くぅわ? なまえ?」

「わからないのくわ? ……じゃあノワールと呼ぶくわ」

 ノワールとは、アヒル帝国がかつて戦った国の言葉で「黒」を意味しています。

「ノワール……かぁはノワール!」

 カラスの子はとてもうれしそうです。

「かあかあ。アヒルさんのなまえは?」

「くわは ブロンくわ」

 ブロンとは同じ国の言葉で「白」を意味します。

「ブロン! ブロン!」

 こうして、白と黒の共同生活が始まりました。
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