転生した俺は傷だらけの少年らしい？

2

どうやら俺はとんでもない誤解をしていたようだ。
ただの強盗だと思っていた奴は街の偉い人だったらしく、連れてこられた街の大きな屋敷に俺はガチガチに緊張した身体でソファーに座らされる。
（ま、まさか偉い奴が商人を誘拐するなんて・・・）
こんな大きな館に住めるという事は貴族の筈だし、お抱えの商人がいるのに誘拐された理由は分からないが、とにかく怒らせないようにしないといけない。ちょぉっと断っただけで誘拐するような奴だ。今度は切り捨てられるなんて事になりかねない。
（とにかくイエス、全てに対してイエスと言っておけば問題ない。頑張るのよ。俺！！）
俺は頭の中で何度もシュミレーションをしていると、戻ってきた男は鎧姿から整った服へと変わり表れた。
見た目は相変わらず顔つきは恐ろしいが、少なくても鎧姿よりは理性的に見える。


服を着替えて戻ってくると少年は、相変わらず憂いを帯びた表情で椅子に腰掛けていた。
全てを拒絶するような悲しげな瞳は宝石が波を打つように揺れながら、ゆっくりと俺を映し出す。
「その・・・急に連れてきて悪かったな」
「・・・は・・・はい」
余計な真似をされた事への怒りなのか、優しそうな顔とは裏腹にはっきりと返された。
「お詫びと言っては何だが、何かして欲しい事があったら何でも言ってくれ」
「・・・・・・・すいません」
普通の奴なら、俺の家を見た時点で、今の言葉を聞けば嬉々として要求してくるだろうに、少年はただ謝るだけで、その表情は悲しみのまま変わらない。
表情が悲しげな色を帯びる度に締め付けられる胸の痛みを感じると同時に放っておけない気持ちがわき上がる。
「そうか・・・なら、どうか俺の元で働いてくれないか？」
人手は十分に足りているし、むしろ多すぎるぐらいだから、彼一人増えても問題ないだろう。
執事長にはまた文句を言われるかもしれないが・・・
「・・・・・・・・は・・・・はい」
拒絶されたかと思ったが、すぐに頷いてくれる少年に安堵するが、即答された事に疑問が浮かぶ。
しかし、すぐに少年には帰る場所がもうないのだと分かり、頷いたのだと気づく。
少年を抱きしめて慰めてやりたかったが、それをするのは時期尚早だと感じて、俺はぐっと手を握りしめて笑う。
「じゃあ、君は今日から俺の小間使いという事になる。よろしくな」
「はい・・・・」
少しでも一緒にいて、少年の心が癒える事を祈りながら・・・・
ここが彼の居場所だと思えるようになって貰えるように頑張ろう

「その・・・連れてき・・・・かった」
「・・・は・・・はい」
正面の椅子に座るやいなや、俺を連れてきた理由を教えてくれる。
どうやら連れてきたかったから連れてきたららしく、そんな報告を俺にされても困る。
たぶん貴族の気まぐれなんだろうが、俺としては堪った物ではない。
（でも言えない・・・言ったらやばい・・・）
そんな感情で動くような奴に言った日には、その日が俺の命日になる事は想像に固くない。
「お詫び・・・・して欲しい・・・・言って・・・・」
「・・・・・・・すいません」
お詫びの言葉で済むなら、無料だからいくらでも言いますから、おうち帰してプリーズ
というか、無理矢理連れてこられたの俺なのに俺が謝るの？　泣くぞ、こら
「なら・・・・俺の元で働いて・・・・」
「・・・・・・・・は・・・・はい」
その言葉に俺は少しだけ納得する。
確かに、こんな勝手すぎる奴に仕えたい奴なんて早々いないだろう。
きっと年中人手不足なんだ。だが、これは良い情報を得た。
人手がいないという事は夜の見張りも最低限になっているというわけで、隙さえあれば逃げる事も・・・
「今日から俺の小間使い・・・・よろしくな」
「はい・・・・」
だというのに、よりにもよって最も離れたい相手の小間使い・・・
絶対に逃げきってやる！！