コチョウノユメに無愛想のっぽの怒りん坊

藤瀬すすぐ

文字の大きさ
2 / 11

【2.謎の二人】

しおりを挟む
 ミチルは固まったまま目だけで化け物の消えた方を見やる。それは、そう遠くない所でバタバタとのたうち回っており、化け物と再び目が合いそうになって慌てて後ずさったミチルは、勢いその場にへたりこんでしまった。

 化け物の体の中央には矢がささり、暴れるほどに緑色の体液が流れ出している。命の終焉の、やや白っぽく濁った目には相変わらず表情がなく、苦しそうな姿に反して声も音も発せられることのないことがやけに不気味に感じられた。空を掴む太く鋭いカギ爪を見て、今さらながらに体が震える。

「新人さん、いらっしゃーい!」

 背後から脳天気な男物の声が聞こえ振り返ると、やたらと背の高い男と、ともすれば白に近い程の金髪の男の、細身の二人の姿があった。

「わーおラッキー! セーラー服だぞタケルッ」

 首に双眼鏡をかけた金髪の男がそんな歓声をあげ、その雰囲気とピッタリの軽い調子で口笛を吹いた。タケルと呼ばれた背の高い男はミチルなど目に入らないかのように無視し、さっさと化け物のほうに歩いていく。

「大丈夫? ビックリしたでしょ」

 金髪の男は唇の両脇をクイっと上げた、猫を連想させる独特の笑顔を浮かべてミチルに手を差し伸べる。

 わー、女子にモテそうー。


「あ、ありがとうございます」

 差し伸べられた手をとり、立ち上がり際にタケルの方に目をむける。タケルは化け物と同じくらいの無表情で、手にした日本刀を化け物の首元深くつきさしていた。迷いのない所作に思わずミチルのほうがグエッと声を上げそうになる。

 急所をついたのだろう。のたうち回っていた化け物はその一刺しによって完全に動きを止めた。

 タケルは動かなくなった化け物に足をかけてその体から刀を抜くと、腰にかけた布で切っ先の体液をぬぐってから、驚くほど無造作にベルトに差し挟んだ。
 化け物の背中に刺さった矢も同じ要領で抜くと、今度はそれを金髪の男に投げてよこす。受け取った金髪はそんなタケルをみて苦笑した。

「悪いねー。無愛想な子で」

 無愛想と言われた男は、それでも完全にこちらを無視したまま手慣れた様子で化け物を縛り始める。その整った容貌からは、無愛想を通り越し、いっそ冷たそうな印象をうけた。

「お、斜め前方に砂煙発見!」

 20代も中頃と思われる金髪の男は、ふと手をかざして遠くを見るように目をすがめると、手にした双眼鏡を目に当てた。

「うーんと…、今度はおっちゃんぽいかな? 手にしたゴルフクラブで応戦中。あ、ヤバイ、すっぽ抜けた」

 ヤバイという割には悠長な口調ではあったが、それでも行動は迅速で、彼らが引いていたらしいソリの中から大きな弓のようなものを手に取ると一度こちらを振り返る。

「お下げちゃんは無愛想ノッポ君と一緒においでッ!」

 そう言い残すと、かすかに見える砂煙の方へ駆けだした。

「あ、あのッ……」

 必然、置いていかれたミチルは無愛想ノッポ君に目をやることとなる。ミチルの視線など全くおかまいなしに無言で化け物を縛り終えたタケルは、そのロープの端をソリを引くロープと繋ぎ合わせ、ひきずりながら歩き出した。
 
 155センチのミチルよりゆうに30cmは高く当然歩幅も広いので、グロテスクな死体と木製のソリを牽いていてもミチルは置いていかれそうになる。
 元よりミチルの存在など頭から無視しているタケル。赤い砂に足をとられながらも極力死体を見ないようにしながら必死に後をついていった。

 無愛想なんてレベルじゃなくない?!
 なっ、何、いったいっ? 何なのこの状況はっ!! ワケのわからない場所にワケのわからない化け物にワケのわからない無愛想なデカ男ッ!
 
 そりゃ確かに命を助けてもらったかも知れないけど、あまりにも感じ悪いんじゃないのッ? 
 あー、靴に砂入って気持ち悪いーっ! 
 でも絶対こいつは待ってなんてくれないだろうし、とはいえこんなムカツク奴でも現状いないよりマシだしっ!

 心の中で必死に折り合いをつける。
 前を向くと引きずられる化け物の死体と目があってしまう為に地面を見ながら歩いていたミチルは、タケルが立ち止まったことに気づかず、すんでのところで化け物につまずきそうになった。

「ひぎゃッ!」

 10代の乙女らしからぬ悲鳴に初めてタケルが視線をよこす。仮面の無表情でこちらを見下ろす様に、あざけりが見えたのは決して気のせいではないだろう。

 タケルは一目くれただけで何も言わず、間近となった金髪の男に視線を戻す。金髪の男は手にしていたゴルフクラブとスーツを掲げ、タケルに向かって大袈裟に肩をすくめた。

「残念。一歩及ばず。ウネウネ虫くんにショック受けちゃったみたい。しかもウネウネ虫くんまで取り逃がしちゃった」

 金髪の男は手にした品をソリの中に放り込むと、おもむろにミチルに向き直り片手を差出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】 積み上がった伏線の回収目前!! 夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。 長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。 待っていたのは、凍てつく絶望。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。 「夫は愛人と生きればいい。  今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」 それでも私は誓う―― 「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」 歪で、完全な幸福――それとも、破滅。 “石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

処理中です...