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19回目の未遂
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(やってやるぞ…絶対死んでやる…前進しろ…前進…前進……)
柵を握る手には血管が浮き、膝を曲げながら今にも学校の屋上から落下してしまいそうな少年がいた。
息を荒げ、独り言をブツブツ喋りながらその場に佇んで、約20分が経過していた。
(あと少し…あと…一歩…手を離せば…落ちて…骨が折れて…肺に刺さって…脊髄もぐちゃぐちゃになって…)
目をぎゅっと閉じ、歯を噛み締め、柵を握る握力が増していく。そして覚悟を決めたのか目をぐわんっと開くと、
「よし、今日はやめよう。そうだ、こんな時間に自殺なんてしたら部活中の嫌いな奴らに見られて、下校中の奴らの迷惑になるからやめよう。迷惑だけはかけちゃだめだ。そうだ、明日森に行こう。森で首吊って、それから…」
今日の自殺は断念し、明日の自殺に向けてシチュエーションを具体的に妄想しながら振り返り、柵を越えようとした瞬間
『ドンッ』
胸から突然衝撃を受け、バランスを崩し、背後から落下していく。
(あ、これ死んだ。)
ゆっくりと落ちている。すごく冷静だ。一体誰が押したんだろう。そんな思考がめぐる。落下中、ふと上を見上げると、制服のスカートと黒髪を目にする。
(女子がやったのか…高校入って初めて触れてもらえたかも…ラッキー…)
すると背中に細い棒のような何かがあたり、さらに姿勢が崩れると、足から着地し背中から倒れる。
呼吸ができなくなると、視界がブラックアウトしていく。左から声が聞こえるが、声の輪郭がぼやけ、いずれ聞こえなくなっていった。
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目が覚めると、病院のベッドに横たわっていた。自身の心電図の音とすすり泣く音が聞こえ、点滴と目が充血した母親と、心配そうにしている父が見える。左手にぬくもりを感じる。どうやら母親が握ってくれていたようだ。
母「!起きた!明が起きた!もう心配したんだから…」
明「そんな…クララじゃないんだから…」
父「本当に心配したんだぞ…」
申し訳なかった。こんなに心配してくれるのに自殺なんて考えた自分が情けなかった。
明「ごめん、大丈夫だよ。足滑らせただけだから。」
父「そうか、良かった。じゃあ父さん職場戻るから。」
母「ちょっと!明が両足折れてるのに、仕事優先なわけ?!」
父「本人が大丈夫って言ってるじゃないか」
母「だからって!もしかしたら心配かけたくなくてそう言ってるだけかもしれないじゃない!」
父「明がそんなことするわけないだろ!」
医「お父様、お母様。ここは院内ですので…」
母「…明、本当に大丈夫なの?」
明「う、うん。大丈夫、本当に大丈夫。」
母「じゃあ…一旦帰るわね。」
付近にいた医者が中に入ってくれたお陰で、収拾がついた。ホッと息を吐くと、入り口から、黒髪の少女がひょっこりと顔を覗かせ、こちらを見つめているのに気づく。
明「…誰ですか?」
「色々買ってきた。好きな種類教えて。」
明「いや…だれ」
「えびフィレオとベーコンエッグと、ダブチ。ドリンクはコーラとスプライト。あっ炭酸飲めない?それなら水買ってくる。それと、私ナゲット派だからナゲット買ってきた。マスタードとバーベキューソース、どっちがいい?」
明「あ、じゃあダブチ」
「私ダブチ好きだから、ダブチ以外で選んで。」
明「なんなんだ…じゃあえびフィレオと…コーラで。」
「おっけー」
自己紹介も無しに、唐突に会話を展開する少女に驚きつつも、自分のために何故ここまでしてくれるのか不思議でならず、バーガーを受け取ると袋を開けながら声をかける。
明「さっきも聞いたけど、君誰?記憶が正しかったら、俺の友達に女子はいなかったけど。」
中葉「私、樋口中葉。屋上から君を突き落とした張本人。」
明「え」
袋を開けるとレタスがこぼれるも、突き落とした犯人を目の前にして驚愕し、それどころではなかった。
明「ちょ、ちょっとまって。なんで落としたってかなんで落としたのにバーガー持って普通の顔して来れんの?」
中葉「だって君、毎日あそこから落ちようとしてたじゃん。じれったくて、一歩踏み出させてあげたんだから感謝してよ。」
明「はぁ?!一歩間違えれば死んでたんだぞ?!」
中葉「死にたかったんじゃないの?」
明「…いやそうだけど、それでも俺がどんな気持ちであそこに立ってたか」
中葉「理由は知らないけど、数は数えてる。19回。15回目の時が一番刺激的だった。しゃがんだかと思ったら片手で柵掴んで、ほぼ半身乗り出してた時。一番ダサかったのは4回目で」
明「わかった!わかった!俺が悪かった!」
中葉「いや、別に君は悪くないよ。逆に君をそこまで追い込んだ環境が悪いというか」
明「もうどうすればいいんだ」
どうやら彼女は、1回目からずっと屋上で終始見届けていたらしい。なら声をかけてくれと言いたいところだが、何を言っても早口でニヤニヤしながら恥ずかしい事を直接突いてくる。
明「おまえなんなんだ…バーガーはありがとう。」
中葉「いーえ。」
スプライトを飲み干したのか、ストローをズゾゾッと鳴らす。
中葉「君、人生退屈でしょ。」
明「…」
ナゲットを食べながら、少し真面目な顔で尋ねてくる。目線はあくまでナゲットに向いているが、こちらの反応を目の端で伺っているのに気づく。
明「…そんなことないけど。」
中葉「なにいまの間~。君、昼休憩になると飽きもせずに毎日屋上来て、友達いるならそんなことしないし。それに、私と話してる時の目、すごい泳いでるからどーせ彼女もいたことないんでしょ。」
ケラケラと笑いながら見透かしてくる。
畜生。
明「おまえになにがわかるんだよ。」
中葉「そういえば私のことお前呼びする様になったね。仲良くなれたってこと?」
明「いやそう言うわけじゃなくてお前が馴れ馴れしいから…」
中葉「こうでもしないと君、会話続かないじゃん。」
明「うぐ」
その通りである。
しかし、いちいち明の反応にニヤつく彼女が癪に触り、声を荒げてしまう。
明「もう出てけよ!バーガーは感謝してる。ありがとう!さような」
中葉「私と付き合わない?」
明「ぁ"」
突然の告白に変な声が出てしまった。それに対しても彼女はニヤついている。彼女はとても欲しいが、ここでYESと答えてしまえば、プライドに傷がつくので気持ちを押し殺し答える。
明「いやだ。お前と付き合ってなにするんだよ。だいたい性格も終わってr」
中葉「セックスとか?」
明「付き合ってください」
しまった、リトル明に主導権を握られた。
誤解を解こうと噛みながら必死に言い訳をする姿を面白がる彼女が少し可愛く見えてしまう。
中葉「絶対楽しいよ。多分。そしたら自殺なんて考えなくなるかもね。」
明「…たしかに、気を紛らわせるかも。」
中葉「セックスしたいもんね?」
明「うるせぇ!」
ニヤニヤと笑う彼女に苛つくが、少し嬉しい気分だった。認められたような気がした。認めてくれているわけではないのは承知しているが、自分のことを気にかけてくれる人がいてくれるのが嬉しかった。
柵を握る手には血管が浮き、膝を曲げながら今にも学校の屋上から落下してしまいそうな少年がいた。
息を荒げ、独り言をブツブツ喋りながらその場に佇んで、約20分が経過していた。
(あと少し…あと…一歩…手を離せば…落ちて…骨が折れて…肺に刺さって…脊髄もぐちゃぐちゃになって…)
目をぎゅっと閉じ、歯を噛み締め、柵を握る握力が増していく。そして覚悟を決めたのか目をぐわんっと開くと、
「よし、今日はやめよう。そうだ、こんな時間に自殺なんてしたら部活中の嫌いな奴らに見られて、下校中の奴らの迷惑になるからやめよう。迷惑だけはかけちゃだめだ。そうだ、明日森に行こう。森で首吊って、それから…」
今日の自殺は断念し、明日の自殺に向けてシチュエーションを具体的に妄想しながら振り返り、柵を越えようとした瞬間
『ドンッ』
胸から突然衝撃を受け、バランスを崩し、背後から落下していく。
(あ、これ死んだ。)
ゆっくりと落ちている。すごく冷静だ。一体誰が押したんだろう。そんな思考がめぐる。落下中、ふと上を見上げると、制服のスカートと黒髪を目にする。
(女子がやったのか…高校入って初めて触れてもらえたかも…ラッキー…)
すると背中に細い棒のような何かがあたり、さらに姿勢が崩れると、足から着地し背中から倒れる。
呼吸ができなくなると、視界がブラックアウトしていく。左から声が聞こえるが、声の輪郭がぼやけ、いずれ聞こえなくなっていった。
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目が覚めると、病院のベッドに横たわっていた。自身の心電図の音とすすり泣く音が聞こえ、点滴と目が充血した母親と、心配そうにしている父が見える。左手にぬくもりを感じる。どうやら母親が握ってくれていたようだ。
母「!起きた!明が起きた!もう心配したんだから…」
明「そんな…クララじゃないんだから…」
父「本当に心配したんだぞ…」
申し訳なかった。こんなに心配してくれるのに自殺なんて考えた自分が情けなかった。
明「ごめん、大丈夫だよ。足滑らせただけだから。」
父「そうか、良かった。じゃあ父さん職場戻るから。」
母「ちょっと!明が両足折れてるのに、仕事優先なわけ?!」
父「本人が大丈夫って言ってるじゃないか」
母「だからって!もしかしたら心配かけたくなくてそう言ってるだけかもしれないじゃない!」
父「明がそんなことするわけないだろ!」
医「お父様、お母様。ここは院内ですので…」
母「…明、本当に大丈夫なの?」
明「う、うん。大丈夫、本当に大丈夫。」
母「じゃあ…一旦帰るわね。」
付近にいた医者が中に入ってくれたお陰で、収拾がついた。ホッと息を吐くと、入り口から、黒髪の少女がひょっこりと顔を覗かせ、こちらを見つめているのに気づく。
明「…誰ですか?」
「色々買ってきた。好きな種類教えて。」
明「いや…だれ」
「えびフィレオとベーコンエッグと、ダブチ。ドリンクはコーラとスプライト。あっ炭酸飲めない?それなら水買ってくる。それと、私ナゲット派だからナゲット買ってきた。マスタードとバーベキューソース、どっちがいい?」
明「あ、じゃあダブチ」
「私ダブチ好きだから、ダブチ以外で選んで。」
明「なんなんだ…じゃあえびフィレオと…コーラで。」
「おっけー」
自己紹介も無しに、唐突に会話を展開する少女に驚きつつも、自分のために何故ここまでしてくれるのか不思議でならず、バーガーを受け取ると袋を開けながら声をかける。
明「さっきも聞いたけど、君誰?記憶が正しかったら、俺の友達に女子はいなかったけど。」
中葉「私、樋口中葉。屋上から君を突き落とした張本人。」
明「え」
袋を開けるとレタスがこぼれるも、突き落とした犯人を目の前にして驚愕し、それどころではなかった。
明「ちょ、ちょっとまって。なんで落としたってかなんで落としたのにバーガー持って普通の顔して来れんの?」
中葉「だって君、毎日あそこから落ちようとしてたじゃん。じれったくて、一歩踏み出させてあげたんだから感謝してよ。」
明「はぁ?!一歩間違えれば死んでたんだぞ?!」
中葉「死にたかったんじゃないの?」
明「…いやそうだけど、それでも俺がどんな気持ちであそこに立ってたか」
中葉「理由は知らないけど、数は数えてる。19回。15回目の時が一番刺激的だった。しゃがんだかと思ったら片手で柵掴んで、ほぼ半身乗り出してた時。一番ダサかったのは4回目で」
明「わかった!わかった!俺が悪かった!」
中葉「いや、別に君は悪くないよ。逆に君をそこまで追い込んだ環境が悪いというか」
明「もうどうすればいいんだ」
どうやら彼女は、1回目からずっと屋上で終始見届けていたらしい。なら声をかけてくれと言いたいところだが、何を言っても早口でニヤニヤしながら恥ずかしい事を直接突いてくる。
明「おまえなんなんだ…バーガーはありがとう。」
中葉「いーえ。」
スプライトを飲み干したのか、ストローをズゾゾッと鳴らす。
中葉「君、人生退屈でしょ。」
明「…」
ナゲットを食べながら、少し真面目な顔で尋ねてくる。目線はあくまでナゲットに向いているが、こちらの反応を目の端で伺っているのに気づく。
明「…そんなことないけど。」
中葉「なにいまの間~。君、昼休憩になると飽きもせずに毎日屋上来て、友達いるならそんなことしないし。それに、私と話してる時の目、すごい泳いでるからどーせ彼女もいたことないんでしょ。」
ケラケラと笑いながら見透かしてくる。
畜生。
明「おまえになにがわかるんだよ。」
中葉「そういえば私のことお前呼びする様になったね。仲良くなれたってこと?」
明「いやそう言うわけじゃなくてお前が馴れ馴れしいから…」
中葉「こうでもしないと君、会話続かないじゃん。」
明「うぐ」
その通りである。
しかし、いちいち明の反応にニヤつく彼女が癪に触り、声を荒げてしまう。
明「もう出てけよ!バーガーは感謝してる。ありがとう!さような」
中葉「私と付き合わない?」
明「ぁ"」
突然の告白に変な声が出てしまった。それに対しても彼女はニヤついている。彼女はとても欲しいが、ここでYESと答えてしまえば、プライドに傷がつくので気持ちを押し殺し答える。
明「いやだ。お前と付き合ってなにするんだよ。だいたい性格も終わってr」
中葉「セックスとか?」
明「付き合ってください」
しまった、リトル明に主導権を握られた。
誤解を解こうと噛みながら必死に言い訳をする姿を面白がる彼女が少し可愛く見えてしまう。
中葉「絶対楽しいよ。多分。そしたら自殺なんて考えなくなるかもね。」
明「…たしかに、気を紛らわせるかも。」
中葉「セックスしたいもんね?」
明「うるせぇ!」
ニヤニヤと笑う彼女に苛つくが、少し嬉しい気分だった。認められたような気がした。認めてくれているわけではないのは承知しているが、自分のことを気にかけてくれる人がいてくれるのが嬉しかった。
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