君と僕と先輩と後輩と部長とあの子と宇宙人とメイドとその他大勢の日常

ペケペケ

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狼くんと赤ズキンさん

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 深い深い森の中を赤ズキンは歩いて行きます。

 手にバスケットを持って森を歩く姿はとても楽しそうです。
 バスケットの中には焼きたてのパンがギッシリと詰まっていて芳しい香りが辺りに漂っていました。
 そんな匂いにつられたのか青い小鳥が赤ズキンに近づいてきます。
 でも、小鳥は突然羽ばたくことを止めて地面に落ちてしまいました。

 それをみて、赤ズキンは可愛らしく微笑みます。


「これならきっとお婆様を殺せるわ」


 そんな赤ズキンの瞳は黒く深く、光すら届かない暗闇を思わせます。



 これは赤ズキンと言う名の魔女のお話。

 お題目は赤ズキン、それでは童話の一幕をお楽しみ下さい。








 風のように森の中を走る一匹の狼。

 口から血を流し、体毛の奥に出来ている傷からも血が止めどなく出続けている。
 傷が痛むのか時折足元がフラリとおぼつかなくなるが、それでも直ぐに体勢を立て直し先へと進む足を止めはしなかった。

 しかし、何度目かの激痛に気をやると、狼は足元の根に足を取られてしまい、二転三転しながら土と葉を巻き上げて転がった。

 息も絶え絶えに震える足に力をいれて何とか立ち上がると、傷口から更に血が流れ出す。


「グゥゥゥゥ」


 低いうなり声を上げながら狼は一歩、また一歩と足を進める。

 すると、こんなに深い森の中で鈴の音のような声が響いた。


「まあ怖い、こんな所に狼がいるなんて」


 突然響く人の声に狼は反射的に跳びのき声の方を向く。

 異様な雰囲気を醸し出す少女。
 頭に赤い頭巾を被り、その瞳は深い黒で見るもの心を不安にさせるような狂気の色。
 しかしその反面、少女の表情は柔らかく優しげな笑みを浮かていて、見るもの全てを虜にさせるような魅力があり、狼はそんなチグハグな少女に恐怖心を覚えていた。

 威嚇をしながらジリジリと後退りをする狼に少女は変わらぬ笑みを浮かべながら語り掛ける。


「あらアナタ、怪我をしているの?」


 傷口を見せてみなさいな、と言って赤い頭巾を被った少女が近づくと、狼は全身の毛が総毛立つ。

 狼は瞬時に思考を切り捨て本能に身を任せると、その顎門をもって少女の頭蓋を容易く噛みちぎった。

 少女の首からは噴水のように血が吹き出し、糸が切れたように体は仰向けに倒れた。
 狼は噛みちぎった首を無造作に落とすと無茶な動きのせいか呼吸が大きく乱れてしまう。


「フー、フッフッ、フーフッフッ」


 狼は必至に呼吸を整えようと大口を開けて呼吸をしようとするが思うようにいかず、遂には力尽きるように横這いになってしまった。


 ーーここまでか。


 限界を感じ、狼はゆっくりと眼を閉じると狼の体に変化が起きる。
 全身を覆う体毛はなりを潜め、人肌が露わになると狼は尻尾と耳を残して少年の姿へと成り変わっていた。


 柔肌から滴る自分の血は温かく、いつのまにか傷の痛みも疲労感も感じなくなり次第に意識が遠のいていく。

 薄れゆく意識の中で狼は蠱惑的な艶のある声を耳にする。


「元気な狼さんだこと、気に入ったわ。アナタは私が飼って上げる」


 そんな訳の分からない言葉を最後に、狼は意識を手放した。









 狼少年が目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。

 赤が基調の部屋、家具は全て木製で作られていて、それらの所々には手作りであろう箇所が見受けられる。

 ランプの灯りは消えているが、暖炉にくべられている火が淡い光を放ち、落ち着く雰囲気を出していた。


 ーーここ、は?


 そうして辺りを見渡すと、狼少年はフと自分が起き上がれない事に気づく。

 おかしいと思い、自分の体を確認してみると、気を失う前には確かにあった筈の手足が無くなっていた。


「!?!!??」


 狼少年は不意に訪れる激痛に声にならない悲鳴を上げる。
 燃えるような痛み、背中から槍を突き刺された時と同等かそれ以上の痛みに気が狂いそうになるが、意識は激痛のせいか余計にハッキリとしてしまい、胃の奥から胃液がせり上がってくる。

 ゲホッゲホッと少年が自分の胃液で溺れかけていると赤頭巾を被った少女があらあら、と困ったように顔を顰めて入って来た。


「もう薬が切れてしまったの? 本当に元気な子ね」


 何を言われているのかも理解できずに狼がもがき苦しんでいると赤ズキンはそっとその横に腰を下ろした。


「狼さん、痛い? アナタの苦しそうな顔はとっても唆るわ」


 恍惚とした表情を浮かべる少女。しかし、痛みにもがき続ける狼少年を煩わしいと思ったのか、少女は冷たい声音で一言告げる。


「静まりなさり」


 すると、もがき苦しんでいた狼少年の挙動はピタリと止まり、少年はその事に驚きを隠せないでいた。

 少女は笑みを浮かべて優しい手つきで狼の頭を撫でる。


「そう、良い子ねえ。食べてしまいたいくらいに」


 少女の瞳に見つめられると狼の背筋にゾワリと冷たい何かが走る、まるで化け物に心臓を鷲掴みにされているような気さえした。


「そう警戒しなくてもまだ食べたりしないわ、とりあえずお薬を飲みましょうか、痛みが和らぐわよ」


 いつの間にか手に持っていた水差しを少女が差し出すと狼少年はそんな物は要らないと言ったように鋭い眼光を向ける。


「やっぱりいいわねアナタ、絶対に私の思い通りになんかならないって、そんな表情をしてる」


 でも、と少女は静かに続ける。


「とりあえずは私の言うことを聞きなさい、戯れるのはその後にしましょう、ね?」


 少女とジッと視線を交わすと少年は不自然なほど素直に頷く。


「いい子ね、本当はこんな魔法なんて使いたくないけどアナタの為だものね」

「?」

「いいのよ、こっちの話し。さて、自己紹介しましょうか、私は赤ズキンって言うの、アナタの名前は?」


 いつの間にか不安や痛みや嫌悪感が消えている事が自覚出来ない狼少年は赤ズキンの言葉通りに自分が呼ばれていた名を告げる。


「いみご」

「いみご? 忌子のことかしら? でもそれは名前じゃないでしょう?」

「それ以外で、呼ばれた事がない」

「……そうなの、そんな所も私と同じなのね。まあいいわ、なら私がアナタに名を付けましょうか」


 そうねえ、と赤ズキンは考え込むが物の数秒で両手を叩いた。


「アナタの名前は白銀の獣の血を引いているようだし、ウルフェイなんてどうかしら?」

「ウル、フェイ?」

「ええ、安直だけどアナタにピッタリだと思うの」


 狼少年はボンヤリとした頭で答える。


「ウルフェイ。俺は、ウルフェイ」

「気に入ってくれたなら良かったわ! さあウルフェイ、お薬の時間よ、アナタの手足の血肉を使った物だからきっと元気になれるわ」


 こうして、赤ズキンと狼さんは出会い、一緒に暮らすことになりました。

 誰よりも不幸な出会いを果たしてしまった狼さんはきっと誰よりも辛い目にあう事でしょう。

 でも、きっと狼さんは最後のにはわらってしねるはずです。
 だれよりもつらく、ふこうなであいをしたならきっとそれよりひどいことにはならないからです。
 まいなすとまいなすをかけるとぷらすになるのはきっとそういうことなのでしょう。

 お題目、赤ズキン、第一幕はこれにて終了。

 次回に続く。
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