69 / 204
第67話 銀肢の風魔、文斬の八紋堀
しおりを挟む治療に成功したとはいえ、エネルギーが体を満たすまでまだ時間のかかるハーネイト。意識がまだ戻らない中襲来した脅威を全員が目の当たりにし、恐怖で足がすくむ者も少なくなかった。
「ちっ、こんな時に! 」
「あれをハーネイト様は1人で片付けたというの、私を助けてくれた時も……?でも、今度は私が、貴方を守るっ! 」
風魔はヴァンオーヘインの目を見て、昔あったことを思い出していた。それは風魔が任務でとある国を訪れていた時のことであった。諜報任務中に彼女は巨大な魔獣に遭遇し、応戦するも歯が立たず命を絶たれそうになっていた。その時に突然黒い巨大な檻が魔獣の動きを封じ、次の瞬間真っ二つに裂かれていた魔獣の死骸を彼女は見たのだ。
それこそがハーネイトであった。彼は大魔法で動きを封じ、魔眼の力で獣の胴体を斬るイメージを行いそれを実現させたのである。
彼女はその時に見た男の顔を忘れられなかった。余裕のある、美しい笑みを浮かべた彼の顔を。それから彼女は変わった。今まで怠け癖のあった彼女が心を入れ替えるように鍛錬に励み、自身に強大な創金術(イジェネート)能力があることを自覚し、いつしか里の中で最も優秀な忍になっていた。銀肢の風魔、そう呼ばれるようになった。
しかしここで問題が起きた。あまりに彼への思いが強すぎて、少々ヤンデレ気質になってしまったのだ。そして彼、つまりハーネイトのことを悪く言った他の忍たちを、彼女は4本のイジェネートブレイドで人だったものを別の何かに変えてしまったのである。
たまたまその忍たちが、裏で略奪や窃盗など悪事を働いており、里の犯罪者は同族が討伐するという忍の里の掟に彼女が従ったものとしておとがめはなかったものの、藍之進はその力の恐ろしさに戦慄したのである。彼は未だかつてこれほどの創金術士(イジェネーター)がこの里から生まれるとは思ってもいなかったのである。
そしてそこまで力を発揮できる彼女の力の源は、彼に認められたいという想いであった。あの試験は、実際はハーネイトにこの風魔の面倒を本気で見てほしいが為の形式的なものであったと否定はできない。
そもそも全員登用すると彼も最初から決めていたため問題はなかったのではあるがそれにしても、この風魔の力は格が違っていた。
「あの時の恩を返して、共に戦える力を、証明するわ」
風魔の顔が鬼のように険しく、その目の輪郭をさらに鋭くし魔猪を睨みつける。細目だが美しい彼女の顔は完全に別のものとなっていた。
「おい風魔! 少し待て」
「何よ、南雲! 」
「ここは、伯爵に少し任せてみようぜ」
南雲はそう言い、伯爵を見ていた。森の中で伯爵の恐るべき力を見ていた南雲は彼ならハーネイトと同じ活躍ができると期待していた。
「伯爵よ、今一度、その力を皆に見せつけてやれ」
「っ、しかし俺の技は、元々人間を始めとした生物には脅威でしかねえぞ」
「だが、誰かのために使うなら、力の意味も変わるのではないか?ハーネイトは、それに気づいていた」
夜之一とアレクサンドレアルは伯爵にそう諭す。そう、伯爵はこの巨大な魔獣に立ち向かわなければならなかった。
「確かに……そうかもしれねえなあ。っておい!待てお前ら! 」
伯爵の制止を振り切り、風魔と八紋堀が城の窓から飛び出す。そして風魔は両腕を創金術で変化させ、美しい金属の羽を作り空を飛ぶ。また八紋堀は城の外にすっと着地し、ヴァンオーヘインの方に向かって猛ダッシュを始める。
「おい、俺らも行くぞ」
「ええ!」
「やれやれ、血の気の多い若者たちだ」
「ユミロ、行きましょう。魔獣の足止めくらいはできるでしょう。霊量子で飛行出力を稼ぐので勢いよく走ってください」
「うおおおおおお行くぞ! 」
2人の行動を見て、アルやルズイーク、リシェル達も部屋を出て自身の適したポジションに向かう。そしてユミロは肩にシャックスとリリエットを乗せて城から勢いよく飛び出した。そしてシャックスのフルンディンガーから白いエネルギー波が放出され、推進力となり空高く飛んだのであった。
「ったく、しゃあねえ。俺様がどれだけ危険な存在か、目に物見せてやる、みたけりゃ見せてやる!」
伯爵も窓から勢いよく飛び出し、空を舞うように飛びながら上空から徐々に落下するように滑空し、無害な微生物を噴射しヴァンオーヘインに突貫を仕掛ける。
そのころヴァンオーヘインは日之国の方を見て、その巨体を動かし始めた。異次元から物や人が飛ばされ、流れ着くこの星、世界。それは恩恵と災厄、両方の面を併せ持っていた。ヴァンオーヘインを始めとした魔獣、魔物たちはその負の面であった。この星に住む人たちは常にこのような試練にさらされていたのである。
「ハーネイト様、これが私の力です……! 」
風魔がいち早くヴァンオーヘインの元に駆けつけ、両足をそれぞれイジェネート化し白銀の美しい直剣を形成すると、素早く脳天を勢い良く数回斬りつける。
「はああ! 」
さらに風魔は両腕を足に形成した剣よりも巨大な剣を作り出しX斬りを繰り出す。
「グアアアアアア! 」
風魔の攻撃は一応効いてはいた。それもそのはず、風魔は純粋な古代人ではないのに、創金術能力のレベルが異常に高かった。イジェネートの血統遺伝が薄れゆく中、彼女は四肢をすべて金属で包み武器にすることができるほどに力を磨いていた。爆弾やその他の武器はあくまで補助的な扱いであり、彼女の真の武器はこれであった。しかし攻撃を食らったヴァンオーヘインは激昂し、風魔を鼻息で遠くまで吹き飛ばした。
「きゃあああ!このっ…っ!ぐはっ!、まだ、まだっ! 」
風魔は再度両腕を翼に変更し、吹き飛ばしを防ぐ。しかし巨大な木の幹に体をぶつけ彼女は苦痛に顔をゆがませる。その間に八紋堀が到着する。
「なんて、大きさだ。あの時よりもでかい。だが、文斬流の名に懸けて、引くわけにはいかぬのだ!」
八紋堀も簡易の魔法を使うことができ、それを移動に使用していた。足から魔力を噴射し、ヴァンオーヘインの鼻元に瞬時に飛ぶ。
「文斬流・大文字斬りぃ、往生せいや! 」
そう八紋堀が叫ぶと、腰に携帯していた二刀の黒い刀身の刀と白い刀身の刀を握り、限界まで腕を交差させ、それを内側から外に同時に切り払う。そして2刀を振り上げ、同時に切り下しながら人という文字を虚空に描くようにさらに切り払った。
するとヴァンオーヘインの鼻元に「大」という文字が刻まれた。これこそが文斬の八紋堀と呼ばれる所以である。隙はあるが、決まれば一撃必殺級の威力を持つ特殊剣術であり、さらには彼にしか使えない秘奥義もあるという。
「グオオオォォォ!ガルッウウウウウ! 」
ヴァンオーヘインは斬られた痛みでもがき、首から上を乱暴に振り回し八紋堀を吹き飛ばす。
「がっ!なんの!」
八紋堀は魔力を噴出し地面にぶつかることなく着地する。しかしヴァンオーヘインが口から何かを飛ばし着地した瞬間の八紋堀をそれで吹き飛ばした。
その時、上空から伯爵が勢いよく現れた。その手には、とてつもなく巨大な大剣。濃灰色の何の飾りもないグレートソードと呼ぶべきその兵器は、その刀身から異様な雰囲気を放っていたのであった。
0
あなたにおすすめの小説
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!
ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる