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第三話 天才狙撃手リシェル

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ハーネイト遊撃隊 3

 無事機士国の王と側近らを救いだし、久しぶりの再会を果たしたハーネイト。事の経緯を聞き、ハーネイトとエレクトリールは共に戦う仲間を探す旅を始める。そしてルズイークからリシェルという男の捜索を頼まれ、目撃証言のあったシャリナウ市で捜索を始めるが…?

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ハーネイトたちは、機士国王と側近らをリンドブルクまで移動魔法で送り、リノスで旅の準備をしていた。機士国王から発令された機士国奪還作戦。そのためにも優秀な人材をこちらに引き入れなければならない。その準備を2人はしていた。

 「エレクトリールはハルディナから貰った旅キットがあるからいいが、他はどうしようか。」

ハーネイトとエレクトリールは町の雑貨屋に来ていた。昔とは違い、今では各街にこういったお店があり、各地を旅する人間にとって必要な物資を補給できる重要な場所となっている。ハーネイトもこのような店をよく利用しており、よく買っていくものがあるという。

 「あれ、ハーネイトさん何が足りないものでも?」
 「いや、ここ最近は大体軽装備だったからね。何を買おうか少し迷っているだけだ。」
 「そうですね。ハルディナさんたちから頂いたアイテムは私が持っていますし問題ないでしょう。買うとしたら甘いものとかですかね?」

  エレクトリールが背中に背負っている荷物を目で確認しながら、間接的に甘いものが食べたいとハーネイトにそう伝える。

 「甘いものか、確かにあっても損はないか。飴とかナッツバーを買うとしよう。すみません店員さん、これとあれと向こうのナッツバーを6本頂きたいのですが。」
 「わかりました、少々お待ちください。」

 店の主人アイハに商品を頼んで出してもらい、4マルク(1マルク102円程度)をアイハに渡し、飴やナッツバーを購入した。

 「思ったより量が多いですね。んむ、このバーいい味してますね。ハーネイトさんは結構甘いもの好きですか?」

 店の外に出て、早速ハーネイトからナッツバーを貰い、それを口に頬張りながら質問する。

 「ああ。甘いものは昔から好きだ。エレクトリールは?」
 「大好きです!」

  ナッツバーを味わうようにかじりながら、エレクトリールは満面の笑みを浮かべる。

 「みたいだな。さて、装備の確認も済んだし次の目的地までそろそろ行こうか。」
 「はい、では行きましょう。しかし、ルズイークさんの言ったシャリナウ市はどこら辺にあるのですか?」
 「確かこのリノスから、南西に18キロぐらいだったはずだ。まだ街道が整備されているから移動自体は楽だ。魔法とか使わなくても余裕だ。」

  ハーネイトはキャラメル味の飴を舐めながら、エレクトリールに説明をする。魔法での転送を行えば、すぐに次の街に到着できる。しかしここは歩きを選択した。

 「そうですか、しかしハーネイトさん?移動魔法あるなら何故使おうとしないのですか?」

  折角便利な能力、魔法があるのに、敢えて使わずに行く理由をエレクトリールは尋ねる。

 「それは昨日説明した警戒網にひっかかかるのを防ぐためだ。しかしあと3つ理由があるんだ。1つ目は行ったことのない場所にはいけない、2つ目はたまに失敗する。3つ目が転送石がないと魔力消費が激しい。という理由だ。
 「意外と、制約ありますね。」

  ハーネイトは幼少期から自在に魔法を使用できる、いわば魔法使いの天才ではあったが実際に使用している頻度はそう多くない。大魔法はそれなりに未だも使用しているが、それ以外は日常生活で使用する程度か、または仕事で必要になる魔法ぐらいしか現在は使用していないのである。

 「ああ。魔法ってのはそういうものだ。一見万能のように見えるけど、数々の制約をどう工夫して利用するかってのも、大切な要素だ。」
 「へえ、そうなんですね。 使えるけども、制約と消費の面からおいそれと使用できないわけですか。」
 「そういうことだな。まだ行ったことのない場所もあるし、使いすぎると敵に行動を早期に探知されかねない。少し不便だが、なるべく歩きやすい道を選んでいくから。」
 「分かりました。ハーネイトさんに従います。」

 二人はそうこう話し込んでいるうちに、リノ街道をかなり歩き進めていた。リノス周辺の森林地帯を抜け、開けた荒野の道を歩く二人は、足早に道を駆けながら話を続ける。この先には、広大なガイン荒野があり、その先にヨーロポリス連合が管理するシャリナウという小規模の街がある。

  この世界では、明確に国を持つところと、そうでないところがある。機士国や日之国、かつて存在したグランダー国といったところは、1つの国家として、それぞれが複数の地域や街を管理している。それ以外の地域では、別世界から流れ着いてきた人たちが独自に集まって、共同体を組んで連合という存在を形成している。事務所のあるリンドブルクも、地球から流されてきたヨーロッパ系の人や日本人、アメリカ人などの一部が集まってできた連合、ヨーロポリス連合の枠組みに一応入っている地域である。

  ハーネイトとエレクトリールは、ガイン荒野に着くと、辺りを見回して確認する。

 「しかし、この一帯は見渡す限り荒野…町の気配無さそうです。」
 「ガイン荒野は東大陸の中では2番目の面積を誇る荒野だ。辺り一面茶色の景色は、緑鮮やかで涼しい森林地帯を抜けたあとでは物足りないか?」
 「そんな感じですね。しかし町とかこの一帯にあるのですか?今見ている限りでは期待できそうにないです。」
 「あるにはあるが、まだもう少し先だな。それにしてもこの銃は大きいな。」

  ハーネイトは、背中に担いだ銃を、首を後ろに回して確認する。ルズイークから渡された、この大筒のような銃は、全長1.5メートル近くの長銃であり、全体的なフォルムも長方形の箱に近く、とても重たく見える。しかし、体感的な重量は12㎏程度と、見た目に反した軽さである。

 「確かに大きいですね。ルズイークさんから渡されたその銃、見た目からして重そうに見えますがどうです?」
 「ああ、でも意外と見た目に反しては軽い。どんな銃だこれ。こういうのは専門外だからね。」

  ハーネイトは少し困った表情でそう言った。もともとあまり銃器の類に興味がなく、飛び道具としてペン型投げナイフを所持しているため、銃に関する知識は機士国人よりも欠如している面がある。

 「確か多機能銃って言っていましたね。単純に弾丸を撃つだけではないのかも。」

  エレクトリールはハーネイトの背負った銃をよく観察する。かなり変わったモデルというか、この銃身の中にレーザーライフルや6連ガトリング砲が入っていることを知らなければ、ロケットランチャーにしか見えない。彼はその不思議な形状に関心を寄せていた。

 「銃ねえ…おい、エレクトリール。足を止めてくれ。」
 「は、はい。」
 「静かに。近くを魔獣の群れが通っている。」

  ハーネイトが、荒野をまっすぐ伸びる道の先で何かが動いているのを確認した。エレクトリールもそれにすぐ気づく。2人は気配を殺すように歩き方を変えて、小声で話す。

 「ハーネイトさん、あれは何でしょうか?」

  エレクトリールがそっと群れのいる方向を指さしながら話しかける。

 「オルガべス、のようだが珍しい色をしている。オルベリオンが3にオルガべス16、それと、ケルメか。」

  彼が群れをよく観察していると、その表情が次第に怪訝なものになる。それは、魔獣の組み合わせにある。オルガべスは4足歩行の、大型の肉食獣であり、数匹で群れを作るこの星の現住生物である。オルガべスだけならば、単に群れの移動として見てもよいのだが、問題はその中にケルメという魔物がいることである。

 「ハーネイトさん、どうかしましたか?」
 「ああ、あの群れはおかしい組み合わせだなと。」
 「おかしい、とは?」
 「それは後で説明する。先に向かおう。」

ハーネイトらが走り出した時、道の先では商人と、一人の男が魔獣の群れに襲われていた。魔獣が数匹、2人に向かってじりじりと距離を詰めていく。やや不安の表情を浮かべる商人に対し、もう一人の男は至って冷静であった。男は背中に担いだ銃を手元に持ってくると、起立したまま狙いを定め、素早く3発発砲した。放たれた弾は、強く吹き荒れた風に乗り、追い風とともに魔獣の頭部めがけて進み、3匹とも弾丸が頭部を貫き、その場に勢いよく倒れた。それでも魔獣の群れは止まることを知らず、二人の元に向かう。そして、その中に一際目立つ魔物が存在した。その男は、その魔物がこの群れのボスではないかと考え、狙いを変更する。そして男は、手にした銃をもう一度構え、素早く引き金を数回引き、連続で銃弾を放つ。しかし、目の前にいる魔獣に、その弾丸は効果を示していない。彼の放った銃弾はすべて、魔獣の目の前ではじかれたのだ。まるで見えない壁があるかのように。

 「っ、直撃したはずだが、効果なしとは。物理防御が固いのかこの個体は。」
 「ハハハハ効かぬわ。次は我の番だ、ゲルムボム!」

ケルメと呼ばれる魔獣は、銃弾を放った男に対しそういいながら、両手を前に出しそこから複数の光弾を放つ。幾つも放たれた、辺りを眩く照らす光弾がリシェルと商人に迫る。

 「く、ここまでかっ!銃使い殿、せめてそなただけでも!」

ヤカニという商人が男を光弾から逃がそうと動く。その時、2人の周囲に突然光の幕が現れ、光弾はそれに防がれ弾かれた。

 「封神の紙 祝詞秘めて、元素乱し鮮やかに乱反射せよ。護符の結界よ脅威から守れ、七天護符!」

  ハーネイトが、二人とケルメの間に光の壁を作りだし、2人を助けたのだった。大魔法第7号「七天護符」は属性を帯びた魔法や物理攻撃を数回はじき返すお札を任意の場所に設置する大魔法である。突然の紙のお札と光の壁の出現にケルメも目を丸くする。
 「な、なっ。バリアだと?魔力のない奴らが何故!」

 魔獣が驚くのも束の間、魔力を放出しつつ走ってきたハーネイトとエレクトリールが土煙を上げながらブレーキをかけ、二人の前に立つ。

 「間に合ってよかった。魔獣ケルメ、言葉は通じるな?何故人を襲うのだ。本来臆病な魔物で有名なお前らに何かあったのか?」
 「ガルルルルル!貴様か、壁を張ったのは。」

  ケルメはハーネイトの言葉に耳を貸さず、攻撃の邪魔をされたことに怒りの表情を見せていた。顔は血走り、目は赤く充血している。

 「ああ、確かにそうだが。人間を襲っても何の得にもならんぞ。」
 「邪魔を、が、するなあ!キサマから、クラってやるっ!あ、頭が!あ!」

ハーネイトにいきなり襲いかかるケルメ。頭を片手で押さえ、苦しみながらも獣の柔軟な筋肉を活かし、瞬時に間合いを詰めると、鋭い爪でハーネイトを切り裂こうとする。だが、ハーネイトはそれに瞬時に反応する。ブースターをイジェネートで背中に作り出し、その勢いで間合いを一気に詰めるとケルメの両手首を素早くつかみ、全身を使いながら、ケルメの腕をひねりつつ地面に叩きつけた。それに合わせ、エレクトリールが指で何らかの合図をする。すると雲一つない青空から稲妻がケルメに向かって落ち感電させた。事前に打ち合わせをし、彼は殺さない程度に電撃を浴びせたのである。。

 「ガ、ガウゥゥゥゥッ…」
 「ふう、気絶させたが…あれ、これは何だ?」

ハーネイトはケルメの体についていた小さい機械を強引に引き剥がす。エレクトリールの電撃で機械はショートし、煙をプスプスとあげていた。アンテナと、本体、そして魔獣の体に食い込み、がっちりと離さない4本の爪が特徴であった。 

ハーネイト:これは、機士国で仕事をしていた時に同じようなものを見た覚えがある。

  ハーネイトが手に持つ、壊れた機械をエレクトリールと銃を手にした男も確認する。男はこの装置について何かを知っているようで、ハーネイトに声をかける。

 「それは、電波を受信する装置だ。アンテナの形状から機士国製と見て取れる。」
 「誰だ、そんな悪趣味なもの作るやつは。」
 「風の噂だが、機士国の極秘技術計画の一つに、そういった技術を用いたものがあったという。」

  商人の男が、受信装置を見ながら口を開き、その技術計画について説明をする。

  その男の話によれば、機士国のクーデター事件後、魔獣による被害が続発しており、それに関連するのか、魔獣退治をしていた友人が暴走している魔獣の中に、ハーネイトが手にしているような装置を付けられているものが一定数いると手紙を送ってきたという。  
また、その友人は昔機士国に住んでいたのだが、その時に偶然魔獣を操り、町への被害を減らす計画や研究の話を耳にしたのだという。その話を聞き、銃を持った男は複雑な表情をしている。

 「機士国の裏の技術、ルズイーク隊長が話したあれのことか。」
 「そして、今の機士国は異常事態です。敵は戦争で利益を設ける奴ら。魔獣を操り、それを商売にするのでしたら、そのような装置は魅力的でしょうね。」

  エレクトリールは魔獣を操ることによる利益を幾つか挙げた。わざと街を襲うようにして、住民にその際武器を売って利益を稼ぐことや、魔獣自体を軍事的に利用し、兵隊として運用するなど、実現した場合恐ろしいことを淡々と上げていった。

 「仮に、それが敵の手に落ちていたとすれば…悪用する可能性がありまくるな。」
 「ましてや、臆病で有名、本来人畜無害なケルメですら先ほどのように凶暴化させる。敵の研究次第では、未曽有の災害が起きかねないだろうね。」

  ハーネイトが先ほど違和感を覚えたのが、ケルメという魔物の性格であった。人語を話し、知能も高い彼らは、実に臆病であり、通常人のいる場所には決して近寄らないのだ。他の魔獣とも関わることもないのに、群れを率いて移動していたこと自体が、彼にとっては違和感の原因であった。


 「何としてでも、計画を絶対に阻止しなければ。しかし、そこの男よ。ルズイークという言葉を先ほど発したが、ルズイーク隊長と面識があるのか?右手に持つ銃も、長距離用のように見えるが。」

  彼は右手に銃を持つ男が、ルズイークという言葉を発したことについて、質問をした。その反応に、銃を持つ男も目を大きく開き驚く。

 「あんたこそ、隊長のことを知っているのか?確かに俺はルズイーク隊長の元で訓練を受けていた。」
 「そうか、1つ訪ねたいことがある。ルズイークから、これをリシェルという人に渡してほしいと依頼を受けたのだが、まさかお前がリシェルではないのか?」

  ハーネイトが、背中に背負った銃を下ろし、目の前の男に見せながら訪ねた。

 「そうだ、リシェルは俺だ。ルズイーク隊長が生きている、だと?クーデターの後行方が知れないと聞いて心配でたまらなかったんだ。隊長は無事なんだな?」

  リシェルと名乗った男は、ハーネイトの腕を掴み、彼の体を軽く揺さぶりながら隊長の無事を聞こうとする。

 「おいおい、いきなり体を揺さぶるな。ルズイークも王様も無事だ。俺と隣の男が救出して保護している。」

  ハーネイトの言葉を聞き、男は涙を浮かべている。

 「ああ、隊長も王様も生きているなんて。良かった、本当に良かった!」

  男は、荒野に響き渡るほど大声で泣き叫びながら、ルズイークや王様の無事を喜んでいた。

 「ふう、それでリシェルというのは、本当にお前さんで間違いはないのだな?」

  泣き叫ぶ男に、本当にリシェルかどうか確認をする。

 「いかにも、この俺がリシェルだ。リシェル・トラヴァコス・アーテンアイフェルト。機士国出身の元軍人だ。」

 「ああ、確かにルズイークから聞いた名の通りだ。ではこちらも紹介しようか。名をハーネイトという。ハーネイト・ルシルクルフ・レーヴァテインだ。」

その名前を聞いたリシェルはしばらく口が開いたまま塞がらなかった。、まるで雷に打たれたように、直立不動のまま立っていた。

 「どうした?銃使い殿。」
 「な、なんと…!あの解決屋として、かつて機士国に仕えていた生ける伝説、ハーネイトさんなのか?マジかよ…すげえ!ここで会えるとは思わなかった。こんな運命的な出会いってあるのかよ!」

  リシェルは、ハーネイトの自己紹介を聞き、また大泣きしながらハーネイトに対し、強引に握手をする。若干引き気味だが、勢いに押され彼も握手を仕方なくした。

 「お主が解決屋ハーネイトか。実際に顔を見るのは初めてだが、お主の噂はよく聞くぞ。各地を周り魔物退治から掃除人探しと何でもこなすカリスマ的な存在か。私はヤカニ。ヤカニ・ノルガ・リーガティだ。旅商人をしている。よろしく頼む。」

  旅商人の男も、改めて自己紹介する。ヤカニは、東大陸の各地を回り、商品を売買している男であり、ゼルベット商人連合の一員でもある。ゼルベット商人連合はリンドブルグにいる香月も所属している、ヨーロポリス内で商人たちが各街を行き来をしやすいように取り計らったり街道の整備を行うのを主な活動としたギルドである。

 「とにかく、お前があの狙撃手リシェルであることは間違いなさそうだな。これで依頼は完了だ。リシェル、これを受け取れ!」

ハーネイトは背中に背負っていた巨大な銃と説明書、手紙をリシェルに渡す。

 「これは、兄貴と姉貴が作った銃だ。銃身の裏に、俺の家、もとい研究所のマークが入っている。それとこれは手紙か。」

リシェルは銃を地面にそっと置き、封書の封を開けて中から手紙を出して読む。そしてしばらくするとリシェルは手紙を読み終え、涙を流していた。このリシェルと言う男は一体何回涙を流せばよいのだろうか。エレクトリールが不思議そうにリシェルを見ていた。

 「すまねえ、兄貴、姉貴…っ!勝手に家を出てよお!絶対兄貴と姉貴助けるからな!待っててくれ…っ!
 「何か事情があるみたいですね。」
 「そうだな。人にはそれぞれ事情がある。そっとしておこう。」

  手紙を見て泣いているリシェルを1人にしておいて、3人は話を続ける。

 「ハーネイト殿、先程はありがとうございました。それと隣にいる可愛らしい金髪の人、名前を聞きたい。」
 「エレクトリール・フリッド・フラッガです。皆さんご無事で何よりです。」
 「エレクトリールか、本当に2人には助けられた。ありがとう。しかしそなたらは何故ここを?」
 「機士国の噂は聞いているだろう?」
 「ああ。他国に侵略して勢力を拡大していることだな?」
 「そうだ。そして私たちは、各地で機士国を乗っ取った輩を倒すため力を貸してくれる仲間を探している。」

  ハーネイトはヤカニに仲間を集めていることを話した。 

 「それはまことか?乗っ取られたとは初耳だな。友人もそれまでは言っていなかったぞ。それで取り返すために仲間集めか。」

  ヤカニは機士国が乗っ取られたという事実は知っていないようで、その言葉に驚いていた。

 「そうです。」
 「そういうことか。確かに、今の機士国のせいで商売がやりづらい。奴ら交通の要衝を抑えてやがるし、検問も厳しい。だから今回の恩も含めて、なにか欲しいものがあれば優先的に回そう。これくらいしかできないがな。ゼルベット連合の仲間たちにも連絡しておこう。」


 「はは、それはありがたい。少しでも補給面をしっかりしておきたいからな。よろしく頼む、ヤカニ。」
 「ああ。こちらこそだ。連絡先を渡そう。」

ヤカニはハーネイトに連絡先を渡す。

 「では私はリノスに向かう。そろそろ失礼するぞ。作戦の成功を祈ろう。」
 「分かった。気を付けてくれよ。ではまた、ヤカニ。」

ハーネイトたちとそうして別れを告げ、ヤカニはリノスの方向に歩き出して行った。

 「リシェルさん、落ち着きましたか?」
 「あ、ああ。しかし一つ気になることがある。誰があの魔獣にあんなものをつけたのか、だ。」
 「そうですよね。奴らの狙いは武器を売って利益を稼ぐだけではないのかもしれないかも。さっき話したように、魔獣を兵器利用するのかもしれませんがね。」
 「確かに、可能性は大だと思うぞ。操作装置は、実は私もその話を聞いたことがある。もとは魔生物による被害を押さえるためのものだったらしい。だが研究費の削減で、予算が減り、研究者が行方不明になったと聞く。そうすると、ヤカニの友人の話と一致する。ジュラルミンの推し進める政策の目玉だったな。」

  ハーネイトは先ほど集めた情報を整理しながら、敵の狙いについて考察を深める。魔獣、魔物の被害を抑えるため、ジュラルミンが推し進めていた魔獣抑制計画について話をした。それに関してリシェルが二人に魔獣の研究度について考えを述べる。

 「まだ奴等もここの生物、魔獣などについての理解は深くないと考えてもいいと思いますね。完全にコントロールすることはまだできていないんじゃないかと。出来れば実験段階のうちにどうにかしたいですね。」
 「もしさっきのように装置で操られた魔獣が、街や人を襲う事件が増えれば大変ですよ。」
 「 尚のこと、ドグマ・ジェネレーションの蛮行を防がないと。しかしまだ、何か別の目的があるような、そうでないような…。思ったより事態は複雑かもしれん。」

  ハーネイトは、クーデターや魔獣に関して直感的に、別に目的があると考えていた。それはまだ漠然としていたものの、この先更に恐ろしい事件が起きるのではないかという予感が体を満たしていた。

 「そういうのは直に分かることもあるかと思いますね。とにかく、機士国を取り返し、クーデター起こしたやつを締めないとな!」

  リシェルは勢い良く、クーデターを起こした連中をとっ捕まえると宣言した。

 「ということは、俺らに同行してくれるか?」
 「ああ。憧れの解決屋と共に旅ができるとは、何が起こるか分からないな。改めて、俺はリシェル。リシェル・トラヴァコス・アーテンアイフェルトだ。得意なことは狙撃や重火器、あとはナイフ格闘だ。遠距離からの支援は任せてください。」

リシェルが多機能銃を軽々と担ぎながら、ハーネイトに自己紹介する。

 「ああ、改めてよろしくなリシェル。」
 「よろしくお願いしますね、リシェルさん。」
 「ああ。よろしくなエレクトリール。」

リシェルは2人に力強く握手をする。

 「では日が暮れる前に、フラフムに向かおうか。エレクトリール、リシェル。行けるか?」
 「はい、いつでも。」
 「ああ、準備できている。行こう。」

ハーネイトとエレクトリールは、新たな旅の仲間リシェルを加えて、今日の泊まる宿を探しに、ヨーロポリス連合の勢力下にあるシャリナウ市、そしてその東にあるフラフムという町に向かう。夕方ごろフラフムについた彼らだが、どうも町の雰囲気がおかしい。それをハーネイトが最初に察知する。

 「折角町に着いたのに、人がいないとは。ん…何やら町の中心が騒がしい。」
 「さてさて、俺のバイクは…あったけど、あれはなんだ?人の集団が何かを囲ってやがる。どれどれ。」

リシェルはライフルのスコープで人の群れを見る。

 「げっ、あれは。まずいな。町のやつらを真ん中に集めてやがる。幸い気づかれてはないが。」

リシェルの言葉を聞き、ハーネイトが2人を連れて建物の影に隠れる。彼は盗賊団らしき集団が、武器を持ちながら町の住民を囲んでいるのを見ていた。ハーネイトも状況を理解し、盗賊団に気づかれないよう、建物の影に2人を連れ込んだ。

 「あれはまずいですね。直に殺られそうです。ハーネイトさん、やりますか?」
 「迂闊に範囲攻撃をしてもだめだ。住民を巻き込むぞ。うーん、あれが頭だな。リシェル、早速仕事だ。あの頭に変な装飾したやつを撃て。それで周りが驚いたら切り込む。範囲系のは使うなよ!」

ハーネイトが建物から顔をわずかに出し、敵の頭を確認すると、小声で指示をした。それに従い、リシェルは建物の屋上に静かに上り、ハーネイトとエレクトリールは刀と槍をそれぞれ用意する。

 「出来れば気絶させて遠いところに飛ばしたいが、今回は事態を争う。仕方ない。」
 「今回は住民に手を出そうとしたやつをメインにすればどうでしょう。私は全員仕留めたいところですが。
 「 エレクトリールも好戦的だね。住民は一人残らず助ける。ではいくぞ。リシェルの弾が着弾後仕掛けよう。」

  2人は、建物の屋上に上ったリシェルの発砲を待っていた。

 一方のリシェルは多機能銃を構えて、体内で弾薬が炸裂する特殊な弾丸を装填して、狙いを定める。狙撃において、アイアンサイトだけでもかなりの命中精度を誇るリシェル。ルズイークも、その天性の才能に驚くほど、リシェルは狙撃の神に好かれているようだ。

 「あれが頭か。動くなよ…。っ!」

リシェルは銃の引き金に指を入れ、目標の動きが止まる瞬間を狙い、引き金を引く。それと同時に、弾丸が風を切り、目標へと飛翔する。事前に風の流れ、人の動きを読み切り、それでかつ勘で銃を撃つ彼は、そういう点で人間離れした神業の持ち主だ。

その頃、盗賊たちは金目の物を奪い集め、住民をすべて虐殺しようとしていた。

 「ど、どうか命だけは、命だけは!」
 「あ?俺らは物も命も奪う盗賊だ。俺らと出会ったことが不運だったな!んじゃ、バイバーイ。」

 盗賊の頭が住民の頭に斧を振りかぶろうとしたとき、盗賊頭の後頭部に何かが当たる。それと同時に、盗賊の顔中の穴から血が噴き出し、直ぐに地面に倒れ絶命した。

 頭をやられた盗賊たちは統制が取れなくなり混乱している。突然の狙撃、それだけで打たれた男の周りにいる連中は足がすくんでいた。その盗賊たちを見逃さずハーネイトとエレクトリールは瞬時に突撃する。

 「行くぞ。」
 「早く逃げないと命の保証ないですよ。さあ死になさい!」

ハーネイトが素早く盗賊の群れの中を縫うように、走りながら刀で切り抜ける。そして振り返ると、掌から銀色の、しなやかに伸び進む剣を出して蛇のように柔軟にそれを伸ばしつつ、数人の盗賊の体を貫き串刺しにする。一方のエレクトリールは、高く飛び上がると上空からロックオンした目標だけに電撃を撃ち下ろす。

 「これで終わりか。人の命はあっけないものだ。」

ハーネイトは倒れている盗賊らから盗まれた金品を回収して、住民らに渡すと、命を落とした盗賊らを集めてから、魔法の詠唱を始める。すると、白く光る魔法陣が盗賊らの中央から展開され、無数の鎖が肉体を縛ると、それを地中に引きずり込んだ。そう、大魔法とは違うイジェネート能力による技「天鎖縛門」により、盗賊たちは跡形もなく消えたのである。



 「仕方ないですが因果応報ですよ。住民の皆さんはご無事ですか?」

エレクトリールはそう言いながら、住民たちの方を見て確認した。盗賊らを倒した彼らを、住民たちは怯えながら見上げる。

 「は、はい…あ、あの。ありがとう、ございました。」
 「うわーーーん!怖かったぁ!!」
 「助かったの、か?」
 「無事みたいですね。ハーネイトさん?」
 「おーい!首尾よく行ったか…ってありゃ。盗賊が一人残らずいない。」

  リシェルがハーネイトとエレクトリールの元に駆けつけるも、既に盗賊たちの姿はなく不思議に感じた。

 「はあ、やれやれ。殺しというものは、できれば極力したくないのだが。しかし、非道な連中には、致し方ないのだろう。せめて自然に帰るがいい。」
 「リシェルさん、住民たちは全員無事ですよ。あいつら火炎放射器とか持っていましたよ。町とかを焼くつもりだったのかも。」
 「なんて奴らだ。しかし二人とも背筋が凍るほど強いっすね。ハーネイトさんはもちろんとしても、エレクトリールも引けを取っていない。さすがだ。」

 「私も、一応戦士ですからね。」
 「しっかし、本当に容赦ないですね。盗賊が全員やられるとか。まあ住民たちを助けられるなら別にいいですが。」
 「できれば、盗賊も生かしておきたかったが。」

  ハーネイトは、少し残念な表情をする。今まで数え切れないほどの魔獣や魔物を仕留め、魔獣殺しの異名を持つ彼だが、人に手をかけたことは今まで数えるほどしかない。しかもそれは誰かを殺そうとしたり辱めようとしたりした人に限ってである。そもそもこの異世界の特徴からして、少しでも多くの人が一致団結し脅威に立ち向かわなけばならないのにそれを乱す人たちがいることが彼には理解できなかった。
  国や街、4つの連合という枠組みはあれど法と言う物に関して、厳格な体制を敷いているところはほんの一握りであり、無法地帯である地域も少なくはない。そのため治安がいいかと言えば、大体の場所は悪いと言った方がいい。それに関してもハーネイトは目を光らせており、時に犯人に手痛い一撃を浴びせることもあった。

  そうしてしばらく3人で戦果について話していると、一人の女性が、ハーネイトたちに話しかけた。

 「あなた方は一体何者ですか?旅のお方ですか?」

  助けられた住民の一人が、ハーネイトたちに話しかけた。恐怖からか、その女性の腕や足が若干震えていた。

 「そうですよー。今日泊まる宿を探しているのです。」
 「そうです。しかし助けが間に合ってよかったです。」

  エレクトリールの気抜けした言葉と、ハーネイトの仕事人としての振る舞いがその女性の緊張を少しだけ解かす。その声を聴いたのか、群衆の中から一人の男性の声がする。

 「それなら、私の宿で休めばよい。貴殿方は命の恩人だ。案内しよう。」

  町の人の中から、ハーネイトたちに向かって歩いてくる老人が声をかけた。老人の名はリュジス・クライロ・フォンゼルといい、このフラフムで街長をしているという。

 「どうしますか?」
 「お言葉に甘えよう。リシェルもいいか?」
 「ああ、早く休みたい。」
 「では、案内の方、よろしくお願いします。」
 「ああ。こっちじゃ。ついて来てくれ。」

リュジスは、ハーネイト達を宿屋まで案内し、部屋まで連れていく。

 「部屋の作りこそ簡素だが、ゆっくりはできるだろう。先程は助かった。住民を代表してお礼を申し上げる。ハーネイト様、それとリシェル、エレクトリール殿。ありがとうございました。」

リュジスが深々と頭を下げる。

 「いえいえ、頭を上げてください。偶然通りがかっただけですから。しかし危なかったですね。」
 「そうですか、噂にたがわぬ謙虚ぶりですなあ。ああ。前はこんなことはなかったのだがな。この前も似たようなことがあってね、その時はそこのリシェル殿が追い払ったからよかったが、報復で今回は来たようだったな。」

  リュジスは三人に、ここ最近の出来事を話しながら、温かいココアを3人に振る舞う。

エレクトリール: でも盗賊たちは全員地中です。あれで全部のようですし、当分安全だとは思いますが。
 「あの一撃食らって生きている方があり得ないっすよ。ハーネイトさんは本当に魔法使いだったのですね。」
 「それでも一応、名前が通っているからね。」

  ハーネイトは優しくそう言いつつも、リシェルとエレクトリールに分からないように、複雑な顔を見せる。先ほど盗賊を地中に埋葬した技も、魔法ではなく違う種別の能力であり、彼自身は使用についてあまりいい気分がしないのであった。

 「しかし済まなかった。外に出ている間にこの様とは…解決屋としてまだまだだな。猛省せねば。」

  リシェルは、至らないところがあったと反省してややうつむいている。

 「解決屋として?リシェルさん?」
 「あ、ああ…。実はな、数年前旅に出たのは、ハーネイトさんのような解決屋になりたくてそれで旅を始めたんだ。」
 「私のような、か。ファンは仕事を始めてから、かなりいるみたいだ。そしてそれを目指す者も現れたか。懐かしいな、あいつらのことを思い出す。」

  ハーネイトは本格的に解決屋の仕事を始めてしばらくして、4人の男と1人の少女に会い親交を深めた。そのことを思い出し、少し目を瞑る。

 「私、ルズイークさんの部隊に配属されてから、彼に気に入られて可愛がられました。そのなかで貴方の話を嬉しそうに、そして寂しそうに話すのです。ガムランの戦いやエルブ海戦の話から、王とハーネイトさんの関係についてまでを。」

  リシェルはニコニコしながら、ルズイークから聞いたハーネイトの活躍について、口を止めずに話し続けた。

 「ルズイークさんはハーネイトさんを気に入っているようですね?」
リシェル: そうですね。ハーネイトさんがフリーになってからも、解決屋として活躍している話もよく聞きました。あの鬼のルズイークが、笑いながら貴方のことを楽しそうに話すのを見て、どんな人なのだろうか気になりました。そしてハーネイトさんの生き方に惹かれていきました。そんな偉大な人が今傍にいて共に活動する。本当に、言葉が出ないほど嬉しいのです。

  リシェルは目を閉じ、今までの想いを馳せながらハーネイトに今日起きたことについて、人生の中で一番感動したと伝える。

 「そこまで、とはな。リシェル、解決屋としても活躍したいなら、私と共に活動を続ければよい。何が必要で何が足りないかが理解できるだろう。この先の戦いも含め、きっと貴重な経験になる。」

  そう優しくリシェルに話しかけ、ハーネイトは右手をリシェルに差し出す。

 「何より、遠距離戦に対応できる仲間が欲しかったからな。どうだ?リシェル?」
 「はい。これから戦わなければならない敵がいます。ハーネイトさんと共に戦いながら修行したいです。どうか、お願いします。ハーネイト師匠!」

リシェルは、差し出された右手に、自身の右手をガシっと重ね、握手をしたあと、ハーネイトに深く礼をする。

 「ああ。了承した。常に精進だ、リシェル。」
 「はい!ご指導ご鞭撻、よろしくお願いします。」
 「リシェルさん。本当によかったですね。」
 「未来の世代が育つ、か。良いことですな。ハーネイト様、そういえば戦いとは?」
 「いや、ここ最近の異変について調査などを行っているのですがね。何か気になることでもありますか?」
 「いやな、若い人たちがこうして各地を回っているのはあまり見たことがなくてのう、気になったのだ。」

リュジスの言葉に返すように、ハーネイトはリュジスに、事の経緯を詳しく話す。

 「そのような事態になっていたとは。あれは噂ではなかったのだな。ハーネイト様、機士国を取り戻すために、乗っ取った奴等を倒す、ということですな?」
 「そうだ。早く奴等の蛮行を止めないといけないのです。」

  ハーネイトの静かに、しかし力のこもった声を聴きリュジスは少しだけ考え込んだ。そして口を開けてこういう。

 「そうか、その話を聞いて、私らも無関係ではないと感じた。もしまたこの村を訪れるのであれば支援を致すとしよう。実は私の親族が、機士国の近くで暮らしているのです。今は無事のようですが、この先どうなるかわかりませぬ。支援くらいしかできないのが歯痒いのですが、できることをこの街を上げて行いたい。」
 「 ありがたい話ですね。必要に応じて、物資の面などで協力をお願いしてもよろしいですか?」
 「うむ。明日にでも街の住民に伝達しよう。さて、今日はこのくらいにして、あとはゆっくり疲れを取ってください。では失礼する。良い眠りを。」

リュジスはドアを開け、部屋を出る。

 「では、そろそろ寝ましょう。」
 「ああ。今日もお疲れさまだ。おやすみなさい。」


  その頃、ボルナレロは再度実験を行うため、今度はフラフムの近くまで足を運んでいた。しかし、魔獣たちの死骸を見て彼は絶句した。
 「またも研究を邪魔するか、あやつら。」

  憤っているボルナレロのもとに、一人の男が向かってくる

「また奴らの仕業か?」

  先日リンドブルクの近くにいたフューゲルが、ボルナレロの様子を見に来たのだ。

 「あ、ああ。歴戦の戦士でも手を焼く魔物に、臆病だが強力なケルメまで手下にしたのだが、奴らにやられてしまった。」
 「本当に、脅威となりうる存在ですね。」
 「はあ、とにかく次は、制御系と、命令に関する実験を行わないとな。人を魔物にする実験だけは、許可を通してはならん。」

  ボルナレロは、同じ組織で、別の研究をしている者たちに触れ、怒りを覚えていた。

 「ならば、結果を示せ。それと、俺も北大陸の方での仕事があるのでな、しばらく会えない。」
 「そうか、気を付けていくのだぞ。さてもう一仕事するか。」

  ボルナレロは、フューゲルと別れると、フラフムの町内に移動し、忍び込む。せめて、魔獣を手にかけた奴らの顔を、彼ははっきりと見ておきたかったのだ。遠くからでは詳しく見ることができなかったため、音を極力立てず侵入する。しかしこの時、すでに彼の脳裏にとある男の姿が浮かんでいた。

 「確か、フューゲルの話によるとこの宿だったはずだな。」

  彼は忍び足で窓際に近づくと、若い男3人が寝ている部屋を見つけ、気づかれないようにそっと覗く。

 「こ、こいつは。かつて国王の下で働いていた解決屋。やはりか。そうでない、あれほど的確に魔獣を殺すことはできない。しかし、様子がおかしいぞ。」


  心の中でボルナレロはそういいながら、ハーネイトの様子を見ていた。ハーネイトはその時、心の中から聞こえる声に悩まされ眠りを妨げられていた。彼は夢の中で広大な空間の中に立っていた。透き通る紫や水色で構成された、奥行きが不明瞭な空間である。その空間の中に、あの幻聴と言える声が響き渡るのであった。

 「う、うぅ、また声がする…。またここか。何なんだこれは。」
 「力、チカラヲ求メヨ。汝ハ我ラト共ニアリ。」
 「:ぐっ、じゃあその力とは何だ。」
 「秘メタル、貴様ノ中ニアル7ノチカラダ。汝ハ世界ノ理、在リ方ヲ変エル者、努々忘レルナ。」
 「世界の在り方を変える、だと?まさか、あの力と関係があるのか?答えろ!答えるんだ!」

  しかし、謎の声はそれ以降響き渡ることなく、ハーネイトは夢の世界から引き戻され、目を覚まし、起き上がる。

 「はあ、はあ。あの空間は一体…。それと、世界を変える力か。はっ、訳が分からないな。」

  ハーネイトが、気分を良くするため、部屋の窓を開けようとする。ボルナレロはそれに気づき逃げようとするが、窓を開けたハーネイトと目を合わせてしまう。

 「あっ…。」
 「貴様は、電波技術の研究者ボルナレロか。久しぶりだな!しかしなぜここに?」
 「い、いや。失礼したハーネイト。」

  ハーネイトが少し驚きながら声をかけるも、ボルナレロは慌てて逃げようとする。幻聴のせいで追いかける気力のなかったハーネイトは、消えていく彼の姿を見ながらかつて電波で魔獣の被害を減らしたいといっていたボルナレロの言葉を思い出す。

 「こんなところにいるとは、まさか奴もDGと手を組んで技術を研究してはいないだろうか。はあ、研究者まで敵の手に落ちているとはな。大方、ボルナレロは騙されているとは思うが。」

  そう推測しながら、ボルナレロの身を案じるハーネイト。しかし、崇高なる技術も、使い方を間違えれば最悪の事態を招く。ハーネイトは、次に会った際は全力で彼を止めようと誓った。そして彼の持つもう一つに技術について彼は関心を寄せていた。

  その頃、ハーネイトから逃げてきたボルナレロは、町の外に置いてあった車に乗り込む。

 「ハーネイトか、魔獣を鮮やかに狩り、その素材を有効利用する男。彼も、根っこの部分では、私と考え方が似ているところはあるが、皮肉なものだな。まあいい、昔のよしみだ。もう少し様子を見よう」

  ボルナレロはそう思い、車のエンジンを掛けて真夜中の荒野を車で疾走する。

 「しかし、彼のあの呻き様はただ事ではないな。幾ら今は敵とはいえ、気にはなる。魔獣の被害を減らしたいといった時、彼はそれはいいことだといってくれた。そしてあろうことか研究費用まで気前よく出してくれた。あの事を思い出すとどうも敵として見れない。やはり最初からハーネイトのところを訪れていればよかったな。仕方ない。せめて計画をずたずたにしてから離れることにしよう。そうすれば貢献したと言えなくはないか。」

  彼は長考しながら、ハーネイトが昔言ってくれたことを思い出しつつ、拠点に戻るのであった。彼との再会が、ボルナレロの心の中にある初心を思い出させ、かつてハーネイトが言った何気ない一言が、敵に属する、一人の心境を次第に変えていくことになった。そして彼自身も騙されていることにはうすうす気づいており、ならばせめて罪滅ぼしに妨害工作を行う腹積もりではあったという。


ハーネイトはその後もう一度寝て、一夜を過ごした。幻聴やボルナレロのことが気になるものの、それを2人に悟られるのが嫌で表情を調節した。翌朝、リュジスの用意した朝食を部屋で食べながら3人は話をしていた。

 「この星の料理はどれもおいしいですね。ふふふ。ハーネイトさん、ルズイークさんからの依頼は達成したので、次はどうしますか?」
 「そうだな…日の国辺りでも行ってみるかな。この星では珍しい、1つの国家を持つ所だから、情報がほかの地域よりも多く入ってきやすい。」
 「えーと、マジですか?それは。」

リシェルは日之国という言葉を聞き、青ざめている。昨日見せてくれた、とびっきりの笑顔や泣き顔とは違う、恐怖に怯えた表情である。

 「リシェルさん?顔色悪いですよ。」

  エレクトリールがリシェルの顔を見て、心配になる。

 「わ、悪い。ある事を思い出してな。」

  少し機嫌が悪いリシェル。ハーネイトはなだめつつ、何があったのかを聞く。

 「何があったのだ?日之国絡みで嫌なことがあったか?」

  その言葉に、リシェルは多少言葉にならないことを言いながらも、ゆっくり説明してくれた。

  彼の話をまとめると、4年前にリシェルがルズイークさんの下にいた頃起きた事件があり、ある日彼が訓練中に、謎の忍者が軍の敷地内に入ってきたという。そうするとその忍者は狂ったように暴れだし、隊長とルズイークら数名で忍者を捕らえたはいいものの、ルズイークと彼以外の隊員が、全員全治一ヶ月の重傷を負い、軍の訓練施設も被害を受けたという。

 「それでその後は何が起きたのですか?」
 「無事だったルズイークさんと二人で忍者の尋問をしてな、その忍者、何て言ったかわかるか?道に迷って帰れなくなったでござるテヘペロとな!ぶちぎれた俺らはその忍者をロケットに縛り付けてお空のお星さまにしたわけだが…。」

  かなり切れ気味に、その忍者が捕まった際に述べた言葉を再現しながら、ため息をついて脱力する。

 「なら多分出会うことはないだろう。しかしやることが派手だなお互い。」
 「しかし日之国の近くに、忍の里があると聞いたら、またあんなヤバイやつがいると思うと胃が痛む。」
 「そうそうそんなやつはいないだろって。安心しな、そんな奴等いたら私が追い払う。」
 「はあ…。お気遣い、ありがとうございます。一応、相性があまりよくないということだけは覚えて頂けるとありがたいのですが。」
 「覚えておこう。それとここから日之国は少し距離がある。リシェル、お前のバイクに乗せてもらえないか?」
 「座席にまだ空きがあったから、あと3人くらいまでなら行けるはずです。エレクトリールはサイドカーの方に乗ってくれるか?」
 「分かりました。」
 「では、食べ終わったら出発だ。」

  食べ終わり、各自身支度を済ませた3人はリシェルの用意したバイクに搭乗する。リシェルが運転し、その後ろにハーネイト、サイドカーにエレクトリールと白い大きな銃を載せる。

 「短い間だったがまたこの町に来てくれ。その時は盛大におもてなしをしよう。」

  町を離れるハーネイトたちに、住民たちが一堂にお礼の言葉を述べる。そしてリュジスはハーネイトに握手を求め、彼もそれに応じる。

 「分かりました。物資の件よろしくお願いします。」
 「任せておけ。商人たちにも話をつけておく。」
 「なんで日之国に‥。だが気分を切り替えないとな。ハーネイトさんがいれば、どうにかなるはずだよな。あの国にあるという温泉は気になるし。」
 「どんなところだろう、わくわくしますね!」

  ハーネイトとリュジスの会話を横目にリシェルはやや憂鬱、エレクトリールは満面の笑みを浮かべており、2人の表情の違いがよく分かる。

 「そういや、この先の道で翼竜の群れがいると、警備のものから話を聞いた。用心していってくれ。」
 「ありがとうございますリュジスさん。後でハントしておきますよ。では、行ってきます。」
 「気を付けてな、解決屋よ。勝利はあなたの元にある。ご武運を!」

  そうして、リュジスら住民と別れを告げ3人は日之国に向かい大型バイクで街道を突っ走っていった。
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