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第二話 機士国王救出作戦!

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ハーネイト遊撃隊 2

 リンドブルクを離れ、旅を始める2人。街道を歩き続け、森林都市リノスに辿りつこうとしたその時、機士国の王、アレクサンドレアル王を早くも見つける。しかし彼らは敵の集団に包囲されていた。2人は王を助けることができるのか?
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 街の住民に見送られ、リンドブルクを離れたあと、目的地であるリノスに向かい、最短で向かうことのできるリノ街道を歩いているハーネイトとエレクトリール。真昼なのに、薄寒く感じるのは緯度が高いせいだろう。東大陸の中でも、北の方にあるこの一帯は、夏でも気温がなかなか上がらない。ましてや今は春の中旬であり、時折強い風は、2人の体を冷やしていく。

 このアクシミデロン星は、星の直径や大陸と海の割合の比率など幾つか異なる点があるが、環境全般は地球によく似ている星である。そういった条件が、異世界から流れ着いた人類が生存しここまで文明を栄えさせたといっても過言ではないだろう。そのため、北に行けば行くほど寒くなり、その逆は暑くなるといった法則も、地球型惑星と変わらない。

 しかし違う点も数点存在する。例えば太陽と言うものについては2つあり、陽光星アルキリスと、妖光星オベフィリスというものがある。この星は互いにおよそ2年周期で片方の活動が強くなり、もう片方が弱くなるといった現象があるため、同じ土地同じ地域でも、年ごとに若干日照量に変化が生じるという。地球世界で月と言う存在も、この世界においてはテコリトル星の他に2つ存在しており、夜でも月が3つ見える場所では夜でも普通に本が読めるという。

 「やはり、風がまだ寒いな。エレクトリールは寒いのは大丈夫か?」
 「それは問題ないです。上着もありますし平気です。故郷の星は、いつの時期も気温が高かったので、ここは過ごしやすいと感じます。暑いのは苦手ですね。」
 「ならいいのだが。春先とはいえ今年はなかなか気温が上がらない。風邪を引くなよ?」

 2人は時々、北から来る強い北風に少し体を震わせながら、街道を歩き続ける。春先なのに気温が上がらないというハーネイトの言葉は、先述した2つある太陽の関係によるものである。

 「しかし、こんなに整備された道があるなんていいですよね。すごく歩きやすいですよ。」
 「この道は、100年ほど前に出来たとされているんだ。この辺りを通っていく商人や運送屋の人たちが、長年の努力で開拓した道なんだ。」

  エレクトリールは、その言葉に反応し、歩いてきた道をもう一度振り返りながら目で確認した。

 「100年も前にできたのに、この道は整備が行き届いて本当に歩きやすいですね。私の故郷なんか、岩とかが礫が多くて、歩くのも大変でしたから。」

 「そうなのか、故郷の星はそういうところなんだな。この星は、標高の高い山脈に囲まれていて、その上危険な猛獣、魔獣が出やすい森など、他の所に行くにしても苦労するものでな、あるとき、ガーディーンという男が、数名の商人と、技士を連れて、行き来のしやすい道を各地に作ったのさ。そして、今でも商人や土木系の仕事を行っている人が、道の整備を定期的にしている。彼等に感謝しないとな。」

  ハーネイトもこの街道について感謝をしている。だからこそ、その一帯に魔獣が現れ警告を聞かなかった場合素材として解体し、商人たちへ間接的な護衛の役割をしているのだ。

 「そうですね。先代の人の努力と精神、そして今も整備している人たちに感謝です。にしても思ったより人がいませんね。」

 2人は一度立ち止まり、周囲をぐるっと見渡す。確かに、人の気配がない。本来このリノ街道は、商人が多く通行するため、特にハーネイトが違和感を覚えていた。通常1時間で多い時に50人ほどが、必死に重い荷物を背負いながらこの街道を歩いているため、今の状態がどうしても違和感を覚えてしまう状況であった。

 「確かに昼間だというのに、すれ違う人は1、2人ぐらいしかいない。何があったかもしれんな。」
 「 そうかもしれませんね、この先気を付けて行きましょう。」

  2人は警戒しながら、先を急ぐ。できれば夜になる前に町にはついておく必要があるからだ。この街道が整備されていて、比較的安全とはいえども、護衛を付けていなかった商人が魔獣に襲われる、なんて話は今でも少なくはないのだ。いくら彼が監視にあたっても、1人で行うには限界がある。つい最近も、若い商人が魔物に食い殺されたという悲惨な事件も起きている。ハーネイトも、気軽に話しつつ、意識は常に周囲を警戒していた。

 「少し急ぐか。夜は魔獣に魔物が出やすいからな。」
 「魔物ですか?」
 「そうだ。異世界から来た獣や半獣人、悪魔とかな。度々街や村を襲ってくるのが多いし、面倒な奴らだよ。」
 「私の故郷にはあまりそういうのがいなかったので新鮮ですね。しかしなぜ襲うのですか。魔物たちは。」

リラムから貰った干し肉を、2人はかじりながらハーネイトが質問に答える。

  彼は、やつらは、自らの飢えを満たすために、無差別に人間のいるところを襲撃するということ、別世界からくる魔物や魔獣が長い漂流で飢えており、凶暴化しやすいことをエレクトリールに説明する。それを聞き、複雑な顔をする。

 「この星って、思っていたよりも生きていくのが大変なんですね。」
 「そうだな。生きるためには、襲い掛かる脅威と常に戦う必要がある。だから、全員で力を合わせ、居場所を守らないといけない。

  ハーネイトは、この星特有の事情と、魔獣への対策について説明を重ねていく。規模の大きい国や街単位だと、戦士や魔法使いなどを雇う資金や地力があるが、そうでない町や村では資金や人材不足で思うように対策が進まなく、魔獣の被害が後を絶えない状況であった。そこで、格安で魔獣退治を引き受けて各地を回っていたのが彼自身であるという。そして倒した魔獣などから素材を頂き販売する。実にうまく回ったシステムであった。

 「そうなのですね。商売上手と言うものですか?尊敬しちゃいます。」
 「はは、しかしそうはうまくいかないのが常ってものさ。」
 「なぜですか?」


  ハーネイトは、星の地形がもたらす人や物の交流の難しさに触れる。
 この星は起伏の激しい土地や、並の人間では突破が難しい場所が多くあることと、アクシミデロ星自体が巨大なため人同士、街や国同士の交流が希薄な状態であったこと。その状態では、余所者が来てもなかなか心を開いてくれず、本来の旅の目的である遺跡の発見や調査などにも悪影響があった。それならば街の人から信頼を得ることで認められ、それにより、情報を集めやすくできるのではないかと彼は考えた。そこで何でも町の仕事やトラブル解決を引き受ける、いわば解決屋として活動をしていくことになったと説明する。

 「そうだったのですか。ハーネイトさんのやることって、人のためにすごく役に立っていると思いますよ。」
 「結果的にはそうかもな。家の掃除修理から雑用、人探し、トラブル解決、魔物や盗賊退治、色々やって来た。リンドブルクを拠点にする前は機士国の元で働いていた時期もあったよ。その経験が生きているが、私は自分のためにやってきたから誉められてもねと。」

  エレクトリールの好意的な発言に、ハーネイトは少し困った顔をする。そもそも自分がやりやすいようにやったことが先駆者として、結果として全員を幸せにしていることに複雑な感情を抱いていた。

 「でも、自身も周りも幸せになるプラスの関係、はあ、うらやましいです。私は軍人として長く働いてきましたが、人のためにそうまでして動けたかというと、自信はないです。」
 「でも、きっと役に立っていると思う。誰かを守るためにそういう道に行く。守りたいものがある。それは俺にはあまりないから、エレクトリールも立派だと思うよ。」
 「ありがとう、ございます。ハーネイトさんは優しいですね。」

  エレクトリールは、ハーネイトの言葉に心を打たれ、彼の優しい心を感じる。魔獣と戦う時とは違い、今の彼は穏やかで理知的な、彼にとってタイプの人物であった。自身がなく、少しうつむいていたエレクトリールに笑顔が戻った時、進行方向に複数人の叫び声がする。

 「エレクトリール、急いで向かうぞ。嫌な予感がする。」
 「はい!大変なことが起きているかもしれませんね。急ぎましょう。」

  2人はその声にすぐさま反応し、先にハーネイトが街道を走り出す。それに続きエレクトリールも追いかける。

 「そろそろですよ。ってわああ!何ですかこれ、無数の機械兵と生物らしきものが人間を囲んでいます。」

  エレクトリールが若干慌てながら、道の先に指を指す。その先をハーネイトはよく見て、敵の戦力を素早く確認する。

 「軽く100は確認した。しかも魔獣の群れまでいやがる。エレクトリール、あの包囲網を切り崩すぞ。」
 「はい!早く囲まれた人たちを助けないと!」

 2人は敵性集団を肉眼で捕らえた。少しづつハーネイトの纏う雰囲気が鋭くなる声が低くなる。解決屋として、そして魔獣殺しの異名を持つハーネイトは刀を鞘から少し抜き、居合の構えになりながら魔力を背中から放出、エレクトリールはイマージュトリガーを使い、見た目が厳つく重たそうなな銃を召喚し、タイミング良く素早く突撃を仕掛ける。全速力で道路を疾走し30秒もしないうちに、魔獣と機械兵の群れに辿り着いた。

その少し前、一方の包囲されている方は、圧倒的な数の前に逃げ道を失っていた。

 「一体なんなのよ!機械兵だけでなく魔物まで、数が多すぎるわ。」
 「泣き言を言うな、アンジェル。身を盾にしてでも王を御守りせねば。」
 「分かっているわよ兄さん、さあ、かかってきなさいこの化け物たち!」

 2人はそれぞれそう言いつつ愛用の武器を構える。髭を生やした男は大剣を、長髪の少女はリボンのような剣を手にしっかりと握る。この2人こそ、ハーネイトが探していた人物、その部下であり、男の方をルズイーク、女の方をアンジェルと呼ぶ。機士国王の近衛兵であり、最も王が信頼を置く人物である。 
  代々王を守護する家系に生まれた二人は、ハーネイトの教えで魔法も使いこなせる機士国の人間としては貴重な存在である。歴戦の戦士である二人。しかし多勢に囲まれ二人は正常な判断がしづらくなっていた。

 「私も、剣を振るうしかないな。こんなところで、倒れるわけにはいかないのだ。」

  そして、貴族が着るような紫色の、荘厳な衣装に身を包んだ青年が剣を抜き、天に掲げる。

  この青年こそ、機士国王アレクサンドレアル6世である。11歳の時に先代の王であり、父が病に倒れ、王の地位を引き継ぐことになった。争いを好まず、民に好かれる良き国王でもあり、そのため、クーデターが起きて以降も機士国にいる多くの人間は、王の帰りを待っているのである。ハーネイトも、以前機士国の下で2年働いており、王の人柄や性格について高い評価をしていた。争いは好まないものの、王族に代々伝わる特殊剣術を習得し、魔法剣技「王国剣」は、最大解放した場合、城ごとすべて吹き飛ばすほどの威力を持つ。しかし彼は、周りへの被害を考え、魔獣と機械兵に囲まれても、その力を使わずに倒そうと考えていた。

 「しかし、誰か助けが来ないものかしら…。」

  アンジェルがあまりの敵の多さに少し弱音を吐く。

 「期待せん方がいいなアンジェル。取りあえず、包囲さえ抜ければいい。」
 「2人とも、来ますよ。構えてください、ここを突破します。」

  アレクサンドレアル王が剣を抜き、鋭い眼光で敵を睨み付ける。そして魔物が一斉に、彼ら三人に襲いかかろうとしたとき、彼らの目の前で異変が起こる。突然の雷光と鎌鼬が魔物たちに襲いかかり、あっという間に魔物の半数を瞬時に死に追いやったのだ。3人はあまりの突然の出来事に動きが止まる。

 「何だと?一体何が起きた?」
 「まさか助けが来てくれたの?」
 「アンジェル、まだそう判断するのは早い。しかし一瞬でここまで頭数が減るとは、もしかするとあやつかもしれないな。」

ルズイークが、突然の事態に驚きながらも、雷光と鎌鼬が飛んで来た方角をみる。そして国王はある男の姿が脳裏によぎる。すると猛スピードで3人の前に、2人の男が走って来たのだった。2人の顔を見て、ルズイークは思わず彼の名を叫んだ。

 「ハーネイト!ハーネイト・ルシルクルフ!お前だったのか。はは、勝ったな!伝説の解決屋ここに降臨ってな!」
 「間一髪で、間に合ったか。国王はご無事ですか?」
 「やはりハーネイトか。久しいな。助太刀感謝する。私は無事だが敵の数が多い、どうにか突破したいのだが。」

 襲われていた3人は、ハーネイトの顔を見て安堵の表情を見せた。国王は無事であることを伝えるも、この包囲網突破をハーネイトに依頼する。

 「ハーネイトの方から出向いてくれて助かった。礼を言う。」
 「ハーネイト!ずっと探してたのよもう!話したいことたくさんあるけど、まずはこいつら片付けるのを手伝って!あんなのに食べられたくないわ!」

  ルズイークとアンジェルがそれぞれそう言い、ハーネイトは早急な事態の解決が必要と判断する。

 「無論だ、話は終わったら聞かせてもらう。さあ、突破とか生温いことよりも、殲滅と洒落込もう!次いでに素材も頂きにいくぞ。」
 「久しぶりに戦士の血が疼きますね。行きますよ!」

  ハーネイトは、わずかに下がり、姿勢を低くしながら、突きの構えになる。ハーネイトの刀身が黒く染まり始め禍々しい雰囲気を出す。

  ハーネイトが通常所持し装備している日本刀は「根黒乃御魂刀 藍染村雲」といい、イジェネート能力者専門の武具の一つである。特徴としては、魔導伝導力の特に高い金属を数種合わせ、地獄の業火で幾度も鍛えた妖刀である。この剣を持たないと扱えないイジェネート剣術もあり、彼は手入れを怠らず大事にしている。

 「行くぞ!創金の理はあらゆる運命を切り開く。イメージは「針の筵」解き放て!イジェネート剣術「剣陣(ブレイドサークル)」 

そう叫び彼は、剣先に力を込め左右に回転させた後、その刀を垂直に、地面に突き刺す。すると機械兵や魔物たちの足元が影よりも黒くなり、そこから無数の金属でできた剣が敵対するものを貫き命を奪う。 イジェネート剣術「剣陣」は地下に自身が持つ金属を液体にして流し込み、地下から剣を形成し敵を貫く。死角からの攻撃をよけるのは困難である。

 「何て技だ、あれだけの軍勢が一瞬で…。相変わらずだな、そのおぞましいまでの力は。」
 「さっすが容赦ないわね。」
 「ああ、本当に強い、圧倒的だ。このピンチをあっさりひっくり返す。技術衰えを知らず、さらに成長する。」

 3人がハーネイトの実力を久しぶりに見て驚嘆するのも束の間、再度敵陣を稲妻が貫き、複数に分かれたのち、機械兵をまとめてバラバラにする。

 「この電池銃の前にはなすすべもないでしょ?サービスにもう一発行きます!」

エレクトリールが電池のような物を銃に込めて、トリガーを引く。すると銃口から無数の電撃とけたたましいほどの轟音が周囲に広がり、それらは残りの機械兵やわずかに残った魔物すべてを正確に捉えると無慈悲な一撃を与える。直撃を受けたものはすべて黒焦げになり、体を地に伏せたまま動かなくなった。

  こうして、2人の力により数分たたずに、魔物を計約200体、機械兵100機を倒すことができた。辺り一面は魔物の血や機械が焦げた臭いがたちこめ、鼻に侵入してルズイークとアンジェルはむせこむ。

 「終わったな。さて、素材を集めてから、場所を移してゆっくり話そうか。リノスと離れていないようだし、一旦街に戻ろう。」
 「そうですね。日も大分落ちてきましたし、リノスに戻りましょう。」

  そう言いながらハーネイトは、さっそく倒した魔獣を鮮やかに解体し、素材をまとめる。

 「確か宿屋があったはずだわ。そこで話をするわねハーネイト。」
 「分かった。エレクトリール、それでいいか?」
 「異論ありません。早く休みたいです。」
 「では、リノスに行こう。」

  一行は日が沈む前に、リノスに無事到着した。アンジェルが先に宿が空いているか確認を取るといい、街の中に消える。しばらくして彼女が戻ると街の中の宿屋にハーネイトらを案内する。アンジェルが宿の受付で部屋を取る。

 「お金は後払いだって。5人部屋でいいよね?」
 「ああ。ではひとまず休むか。」

ハーネイトらは階段を登り、宿屋の2階の部屋に入ると、5人はそれぞれのベッドに腰を掛けて座る。そして荷物をどさっと床やベッドの上に置く。

 「先ほどは、本当に助かった。もしハーネイトと、そこの青年が駆けつけていなかったら命運は尽きていただろう。」
 「結果的に無事でしたから、それでいいでしょう。それに王なのだからもっと堂々と。」
 「その話だが、私はもう機士国の王ではないのだ。ハーネイトよ。」
 「どういうことですか?アレクサンドレアル6世。」

ハーネイトは驚く。アクシミデロ星で最も巨大な国の王だった男に何があったのだろうか、すぐに質問する。そしてアレクサンドレアルは、自身に起きたことをゆっくりと説明し始めた。

  今から約3ヶ月前、機士国で軍事クーデターが突如発生したこと、国王はジュラルミン国防長官らに命を狙われ、幸いルズイークとアンジェルが王を救出し、命からがら逃げてきたという。もしものために、重要な王としての証拠品は手元にあり、そして他の国々の代表も私の事情は概ね把握しているということを説明する。

 「何があったのか、これで改めて理解できた。ジュラルミン。あれほどの人格者がなぜこのような暴挙に出るか。」
 「ああ。彼の影響力は軍関係者を中心に大きく、結果として私は失脚してしまった。争いのない他の国々の人と仲良く暮らしていける世界を作りたかったが、これではもう…。」


  ハーネイトはそのジュラルミンと言う男と面識があった。機士国に仕えていた時偶然話をしていた。魔獣に家族を殺され、魔獣管理政策と軍備増強を訴えていたのを覚えている。そしてえらくハーネイトのことを気に入っており、面倒をいろいろ見てもらったことを思い出す。アレクサンドレアルも彼の変貌ぶりに困惑しつつも自身の掲げる理想の世界をもう作れないのかと半ば諦めかけていた。そんな王様の姿を見て、エレクトリールは一言述べる。

 「諦めるのは、まだ早いのではと思いますよ王様?機士国を乗っ取った奴らを倒して、また王として返り咲けばよい、それだけの話ですよ。」
 「確かに、そなたの言うとおりかもしれないな。取り返さなければ、奴等は周囲の国を攻め始め、その戦禍が星をいずれ蝕むだろう。それだけは阻止せねば。ジュラルミンに何があったのかも調べないといけないが。」

  エレクトリールの突然の提案に驚き、一瞬言葉を失うも、その行動が必要であると考えた彼は語気を強め、現状の打開を考える

「エレクトリールの言う通りだ。事態を放っておけば、取り返しのつかないことになるぞ。」
 「そうだな。…どうにかして機士国を取り戻さなければな。しかしそなたの一声で決心が付いた。名前は何と言うのか?そこのお主よ。」

  ハーネイトの言葉に覚悟と決心を決めるアレクサンドレアル6世。そして力強い提案をしてくれた青年の名前を聞く。

 「私はエレクトリール・フリッド・フラッガと言います。」
 「先ほどは本当に助かった。ありがとう、エレクトリール殿。勇敢なるその言葉、私も決心がついた。」
 「本当に助かったわ。あの敵の数、3人じゃ幾らなんでも切り抜けるのは難しかったわ。ありがとうエレクトリール。」

  3人はエレクトリールの働きに感謝の言葉をかける。

 「いえいえ、よかったですよ。助けが間に合って。」
 「そうだな。エレクトリール、よくやった。今日はよく休みな。」
 「そうですね、ゆっくりさせていただきます。」

エレクトリールは水をコップにいれて飲む。戦いの後で相当喉が渇いているのか、何倍もコップに注いでは飲んでいる。

 「しかして、エレクトリールはどういう経緯でハーネイトと共にいるのだ?一匹狼で有名なこの男がなぜ。」

アレクサンドレアル王の質問に2人は今までのことを話す。エレクトリールが、故郷の星を別の宇宙人に襲撃され、命からがらこの星にやってきたこと。星の秘宝を持っていること。ハーネイトに助けられた後、事務所が襲撃を受けたこと。そして、襲ってきた敵が、機士国の開発した機械兵だったことを詳細に説明した。

 「そうして、今私は、ハーネイトさんと行動を共にしています。」
 「それは、大変な苦労があっただろう。しかも故郷を襲撃され逃げて来たとは、一体何が起きているのだ。クーデターといい、増加している魔物、クーデター軍による他国への侵略行為、機械兵の襲撃。いずれも、好ましくないことだらけだ。」

  アレクサンドレアル6世は、エレクトリールを再度ねぎらいながら、今起きている事件について確認する。

 「それとな、ハーネイト。ドグマ・ジェネレーションは聞いたことはあるか?このエンブレムとかに見覚えは?」

  ルズイークは、服のポケットから一枚の写真を取り出す。その写真には、事務所を襲った機械兵と全く同じマークが写っていた。

 「あの事件の首謀者たちが名乗った組織名か。それとその写真に写るのは事務所を襲った機械兵のマークだ、間違いない。」
 「そうか、国王を連れて逃避行中に敵の一人を打ち取ったのだが、そいつの服についていたものだ。それと、少し前に耳に挟んだのだが、ジュラルミンはとある男と接触していた。その会話をこっそり聞いていたが、その中にドグマ・ジェネレーションというワードがあった。」
 「ドグマ・ジェネレーションか、この写真の服は機士国軍、しかしエンブレムは2つか。そうなると、機士国のクーデターもエレクトリールの故郷襲撃も、少なくとも間接的にそのドグマ・ジェネレーションが1枚以上噛んでいるのは、もう確定事項だな。」

  ハーネイトはこの事件は思ったよりも厄介であり、解決に時間がかかるかもしれないと考えた。と言っても本来の力を開放すれば一日足らずで事件解決できる代物である。問題は彼の体に忍び寄る限界であったが。

 「そういうことになる。ドグマ・ジェネレーション。全容はほとんど掴めておらぬが、機士国を奪還するにしても圧倒的に兵力が足りない。」

  国王は、両手を組みながら力なさげにそういう。DGは圧倒的な数の暴力で周辺の国家を占領するということを逃避行の中で確認していた。そして、こちらの戦力不足を実感していた。

 「そうなのよね。あれから3か月以上立って、クーデター軍は恐ろしいスピードで周囲の国家をいくつか侵略しているわ。かなり兵も装備も揃ってきていそう。いくらハーネイトがいてもこれだけではつらいわ。」
 「敵の戦力が未知数な以上、俺でも迂闊には攻めることはできん。あの2人がいるなら話は別だけどな。話によれば、私のかつての仲間たちが武装蜂起しているというが。」
 「うーん、まだ侵略が来てない所を回って、仲間、同胞と情報を集めつつ、一気に攻めるのはどうですかね?」

  突然のエレクトリールの提案に、他の3人は一瞬言葉が詰まった。しかし、ハーネイトがそれに答えた。

 「その策は使えるだろうな。侵略を食い止め兵力を集め、情報も頂いて機士国を取り戻す。いい案だが、仲間集めが問題だな。」
 「向こうの戦力とこちらの今の戦力、集められうる戦力を鑑みて作戦を立てないとね。」

  ハーネイトはエレクトリールの提案に乗る。そしてアンジェルも戦力差を埋めるためにそれは必要だといった。とはいっても機士国側の人間としては、彼が伝説を作ったとある戦いを見ている以上、あのときに使用した能力で一気に解決してほしいとも内心願ってはいるのだが。

 「どれだけ強力な仲間を集められるか、か。一騎当千級の実力者がいればよいだろうが。ハーネイト、旧友に手紙を出してみてはどうだ?私たちも第一特殊部隊のメンバーは手元に置くことができているし、あの変態集団をまとめていけばどうにかなるかもしれん。」

  ルズイークも少し考え、作戦に乗ることにした。

 「確かにな。手紙か、使い魔たちを総動員させるしかない。そいつらから更に人材について聞けばいいかもな。」
 「そうですね。私たちで仲間集めやりましょうよ、ハーネイトさん?」

  エレクトリールはもう一度、ハーネイトに確認をする。ハーネイトも、この状況から逆転するにはそういった作戦でなければ、事態の収拾にはつながらないと考えた。

 「そのつもりだ。忙しくなるが、やるしかない。国王、そういう作戦になりましたが、問題はないですかな?」
 「いや、それがいい。戦力が圧倒的に不足している以上、どうにかして共に戦う仲間を増やさなければいけない。この星の存亡に関わる事態、皆の力が必要だ。ハーネイト、エレクトリール、ルズイーク、アンジェル。私に力を、剣を預けてくれますか?」
 「最初からそのつもりだ、解決屋として目的を達成して見せよう。ガムランの丘のようにいけばいいのだがな。」
 「私もです。故郷を襲ったドグマ・ジェネレーションを倒すためにも、一生懸命やります。」
 「私らは王に代々忠誠する一族、異存なぞありませぬ。この体、アレクサンドレアル王のために捧げます。」
 「私もです。王様の手となり足となり、王様の望むように働きます。お任せください、王様。」

  ハーネイトから順番に、作戦に関して全力で実行する意思表明を国王の前で行う。

 「ありがとう、私はそなたらのような者に出会えたことを誠に嬉しく思う。私も、出来るなりのことをする。エージェントたちからの情報も合わせ、効率よく進めよう。」
 「アレクサンドレアル王、此度の戦いは長く、険しいものになるかもしれませぬ。しかし敗退は許されない。だからこそ粉骨砕身してでも敵を倒します。」
 「分かった。しかし私からも願いがひとつある。各員、死ぬな。生きてまた元通りの暮らしをしよう。そしてこの男に大好きな休暇を上げないとなははは。みんな、よろしく頼む。」

 王の言葉に、4人は、はっ!と返し、敬礼をする。

 「国王、一度私の拠点に身を隠してはいかがですか?再度代わりの拠点を見つけるまでの間ですが。
 「うむ、そうだな。まだしばらくは身を隠さなければならん。ミィスティルシティが敵の手に落ちていなければ、そこを拠点に出来ればして欲しい。安全を確保できれば、あとは私がなんとかする。やれるか?」
 「問題ないですよ。早急にいって参ります。しかし敵に魔法使いがいると読むと、大掛かりな移動魔法は極秘作戦がばれそうだ。」

ハーネイトがそう言ったとき、部屋のドアからノックがする。

 「誰だ!名を答えろ。」
 「ダグニスです!ハーネイトの兄貴はいますか?町の人から聞いてきました。」
 「ダグニスか、ここがよく分かったな。ご苦労だった。大丈夫だルズイーク。彼は私の仲間だ。」
 「わ、分かった。」

ルズイークがドアを開けると、ダグニスが荷物を持って部屋に入ってきた。

 「ふう、頼まれていた地図や食糧持ってきましたよ。あ、ハーネイトさん、写真の人と合流出来たのですね?」
 「貴方は誰?ハーネイトの知り合い?」
ダグニス: 私はダグニス・ルーウェン・アリスと言います。ハーネイト兄貴のファンでバイザーカーニアの一員です。情報屋としても動いています。あなた方を見かけた同士のお陰でハーネイトさんはあなた方のもとまで来られたのです。微力ですがよろしくお願いします。

  ダグニスはそう言い、礼をする。

 「そうだったのか、やるじゃないか。礼を言うぞ。ダグニス。」
 「えへへ。そういや他の地域からの同士の報告によれば東大陸にも幾つかやつらの拠点がありそうです。それと、噂に聞く忍者と呼ばれる人たちも、敵に関して探っているような素振りみたいです。仲間に引き込んでおきたいですよねこの際。あとやはり機士国が設置した魔法感知系の警戒網を奴ら使っているらしいすよ。それを潰さないと魔法でまともに移動できませんね。」

 「あーあ、いやな予感はすぐ当たる。」
 「東大陸にもか、早めに片付けなければ。そうだな、考える時が来たかもな。」
 「たしかルズイーク、忍者に前に会ってなかったかしら?ちょっとあれだけど、彼らの力は必要になるわ。良かったらどう?」
 「しかし、あいつの顔だけはもう見たくない。あの方向音痴腐れ忍者にだけはな!」

  ルズイークは、昔出会った忍者と言うものに、いい印象を抱いておらず、強調しながらそう言った。

 「そうだな。あの事件か、あれは災難としか言えないな。ダグニスの話も聞いた。うまく行けたらそうするよ。ダグニス、本当にご苦労だった。君の働きにはつくづく驚かされる。褒美をあげないとな。」

ハーネイトは鞄からバッジと紙をダグニスに渡す。

 「これよりダグニス・ルーウェン・アリスはハーネイトファンクラブの名誉会長であることをここに確認する。つまり、ダグニスらのファンクラブが公式になったわけだ。元からダグニスは弟子みたいなものだがな。ただあまり妙なニュースは流さないでくれよな?」
 「な、なんと…!言葉がでない。ハーネイトの兄貴からそこまで認められるなんて、分かりました!ハーネイトの兄貴に一生ついていきます。」

  ダグニスはハーネイトの前で大きくお辞儀をしてから、バッジを胸につける。

 「これからも私はハーネイト様のために全身全霊をかけて仕え、今まで以上に支える所存であります。ハーネイト様、何なりとお申し付けください。」
 「分かった。頼りにしているぞ。今日はもう下がって休むとよい。ありがとうダグニス。」
 「はい、では私はこれにて失礼します。」

ダグニスは部屋を出て、ゆっくりとドアを閉めた。

 「いつの間にか、ああいった俺のファンも増えてきたが、あいつらにいいとこ見せないとな。それに反比例する俺の休暇の日数。」
 「そうですね。みんなが更に応援してくれるように精進しないとですね。って何でそれを付け加えるのですか?」
 「あれから5年かあ、ハーネイトがフリーになってから。風の噂に聞いたけどやっぱり凄いわ、ハーネイトは。断れない有名人第一位、忙しいのはあなたが仕事抱え込みすぎるからでしょうに。自業自得よ!」
 「うっ、言い返せない。」

  ハーネイトは、アンジェルの言葉に言葉が詰まる。それが事実だからである。

 「とはいっても、知名度は破格よね。下手な貴族よりも影響力あるし。そういや、あの角の生えた彼は?今は一緒じゃないのね。」

  アンジェルは、ハーネイトが如何に有名か言いながらとある人物の存在について彼に聞いた。

 「確かに、そうなのかもな。それとあいつは今別行動だ。いれば、あんな連中瞬殺だろうがな。異世界より来たりし魔王。」
 「ハーウェンオルクスのあれだな。災いをもたらすか、栄光の勝利をもたらすか。ハーネイトにしか手綱を握れない危険な男。」
 「はあ、あいつも彼女を連れて世界を回っているだろうから、今の異変について把握しているとは思うがな。正直仲間にしたらしたで、頭が痛い。切っても撃ってもノーダメージとか、どう倒せばいいのかいまだに悩む。」

  エレクトリールを除くほか全員が共通したある人物のことを思い出しつつ、その恐ろしさについて語る。
  
 ハーネイトがあいつと呼ぶ人物は、今から約5年前に出くわした別次元から来た人のようなものである。いや、正確には超生命体と言うべきだろう。人類にとって、最凶最悪の存在ともいえる者であり、出会った際にその者と戦ったハーネイトは、実質勝負に負けているのである。複雑な経緯が絡みながら、結局ハーネイトに懐き、今はこの星のどこかで旅をしている。もしその男とハーネイトが連携すれば、それだけでどんな戦いにも勝てるというほど、チートと呼ばれる力を持っている。ハーネイトが述べたとおり、その男には攻撃が通じない。しかも防いだはずの攻撃が直撃し、削り取られるという。そんな男にも懐かれるハーネイトの度量に妙に感心するルズイークたちであった。

 「そいつの助けもあるといいな。厄介なのは仕方ないとしてだが。それと話の途中で悪いがハーネイト、これを。」

ルズイークは、荷物の山から大きな包みを取り出して中身を出す。

 「ハーネイト、解決屋として一つ頼みがある。俺の教え子にこいつを渡して欲しい。」
 「これは銃か?大きい。ルズイークの教え子とはなあ。いつの間にねえ。」
 「月日が流れるのは早いってか?ああ。名をリシェルと言ってな、狙撃や重火器、ナイフに長けた非常に戦力になる男だ。そいつにこれを渡して欲しい。」
 「別に構わんが。代わりに渡すよ。」
 「かたじけない。その銃はリシェルの兄姉が作った多機能銃だ。説明書もあるからリシェルに読ませろよ?」
 「了解した。」

  ルズイークはリシェルと言う男がこの大陸におり、その人に白い銃を渡して欲しいと、ハーネイトに依頼を申し込む。彼はそれを快諾し、しばらくその白い銃を見続けていた。

 「しかしそのリシェルさんは何をしているのでしょうか。故郷が大変なときに一体?」

  エレクトリールの質問にアンジェルが答える。

 「リシェルは旅に出ているわ。目的は明かしてはくれなかったけど、近頃東大陸の、確かシャリナウって所でそれらしい人を見たって。少し昔の写真だけど、これ。リシェルがまだ軍人だった時の写真よ。」
 「いい面構えしているな。シャリナウ、割りとここから近い。次はそっちに向かう。いいかエレクトリール?」

  ハーネイトはダグニスが持ってきた地図を見ながらエレクトリールに確認する。

 「ええ、いいですよ。早くリシェルさん探して、銃を渡さないと。」
 「頼むわよ。彼はぶっきらぼうなところがあるけど、ハーネイトの昔話とかしてあげたら?興味持っていたみたいだし、ちゃんと仲間にしてきてね?お願いよ?」
 「分かった分かった。銃の扱いが得意な奴は必要だからな。俺は銃や機械はいまいち苦手だ。」

  アンジェルの頼みも理解し、ハーネイトは手を軽く振りながら銃の扱いが苦手なことを言う。

 「それなら、この際リシェルからアドバイスを聞いた方がいい。機械とか苦手なところは魔導師らしいなハーネイト。それ以外は型破りすぎだが。」
 「確かに、日本刀を杖代わりに使う男など聞いたこともない。」

  ルズイークの指摘に、アレクサンドレアル6世が言葉を付け足す。この世界でも他の世界と同様に、魔法が使える者は基本的に杖を所持しているのが主流だが、このハーネイトは通常魔法などを刀から発射するというユニークな方法をとっている。

 「これでもあの頭の固い爺さんたちよりは使えるが。うちの教え子にはかなわないけど……。仕方ないだろ?不得意の一つはあるさ。リシェルに会ったらルズイークたちのことも言っておこう。」

  ハーネイトは機械の扱いはほかの魔法使いよりもうまくできるという。事実ではあるが、まだ機械音痴なところはあるという。そして教え子と言う言葉が出てきたが、ハーネイトが機士国に仕える前に一年間だけ魔法学の先生をしていたことがある。32人の優秀な魔法使いが生まれたが、そのどれもが機械と魔法を組み合わせて行使する新生代の魔法使いであった。中にはそれで犯罪行為を行う者もおり、彼の胃は精神的にきりきりしているという。

 「ああ、頼むぞ。」
 「それと明日は、3人はダグラスと一緒にリンドブルクまで魔法で飛ばすからな。事務所はダグラスか案内するから、そこで好きにしていてくれ。あと、よかったらメイドたちが帰ってきたら足止めを頼む。特に女メイドにはな。」
 「分かったハーネイト。何から何まで済まない。助けられっぱなしな所が多いが、いざというときは私がそなたの力になろう。しかしメイドとは、私に仕えていた時の影響か?」

  アレクサンドレアル6世はハーネイトの心遣いに感謝しつつ、メイドガイることについて質問する。」

 「は、ははは。まあ、そうですねえ。」
 「少しは人間らしい欲も出てきたか?まあいい、ハーネイト。いつもありがとう。」
 「別に構いませんよ。ではそろそろ寝ましょう。」

ハーネイトが部屋の電気を消し、全員ベッドに入り一夜を明かす。

  その少し前、3人が襲撃にあった地点の近くに、白衣を着た背の高い、30代後半に見える男が一人、立ち尽くしていた。

 「な、んてこと。あれだけの兵力が、全滅だと!」

  その男はボルナレロ・フェムニシア・オーベリスという。DGに所属し、魔獣や魔物について調査や研究を行うMAGT(先進研究開発機構)の魔獣研究科リーダーである。ジュラルミンからの依頼を受け、機士国王暗殺の命を受けながら、魔獣制御装置の本格的運用に向けて活動していた。追っ手からの情報をもとに待ち伏せを行い、その前に、周辺に存在する魔獣などに装置を取り付け、タイミング良く包囲できるように準備をしていた。
  結果として、魔獣を制御し機械兵とともに包囲することはできた。しかし、謎の男らによる助太刀が入り、装置や機械兵もろとも、すべてを失うことになったのだ。この時モニターをしていればその犯人の正体はすぐにわかっただろう、しかし単純なミスでボルナレロはその姿を確認できなかった。

 「機士国王といい、あれといい、私の研究を邪魔するとは許せん。許せんぞ!何が何でも殺してやる。まあ、研究はうまくいっているし、また研究費をもらえばいいだろう。」

  彼は、昔機士国で研究を行っていた。MLTと呼ばれる、最先端の技術を研究する組織で、電波を用いた遠隔操作について研究を行っていた。しかし、機士国王の政策により、その組織に充てられる予算が減少、研究が思うようにできなくなった彼はDGと接触し、迎え入れられた。研究施設と研究費を渡す代わりに、魔獣の操作装置の開発と生産を依頼され、その言葉に乗ってしまったのである。彼の最終的に目指すところは魔獣の被害抑制であった。しかし、DGはこれを戦争を引き起こす道具として見ており、この男はDGの甘い言葉にだまされている状況である。と言いつつも、だんだんと彼自身も怪しい雲行きを感じていた。

 「とにかく、一旦本国に戻ろう。また機材の調達をせねばな。DG本部から派遣されたハイディーンと言う男にも負けるわけにはいかない。胡散臭い男だしな。私の研究の方が、未来を変えるために必要だろうに、ハイディーンが持ち込んだ変身システムはさすがに引くわ。」

  ボルナレロはそう考えつつ車に乗り、近くにあるDGの拠点に戻ることにした。月が照らす夜の街道を、砂ぼこりを上げながら疾走する。彼自身も、DGのやり方にどこか違和感を覚えていた。別の研究者の技術に危機感を持ちながら、自身の研究こそ正しいと思っている彼も、また危険人物ではあるのだが。

  ボルナレロが拠点に戻ったころ、ベッドで寝ていたハーネイトはうなされていた。どうやら悪い夢でも見ているようである。

 「誰、だ…また声が。」

    ……ココロ…ヒラケ、ウケイレロ、ワレラヲ。

  頭の奥から、声がする。それは冷たく、無機質な、寒気を覚える声であった。同じ言葉を数回ハーネイトは聞いた後、目が覚めてベッドからゆっくり起き上がる。

 「また、か。以前よりも頻度が増えている。この声の主は誰なんだ一体。」

  心の中でそう思い、以前からある幻聴に不安を覚えながら、毛布で体をくるんでもう一度寝ることにした。


 次の朝、彼らは宿屋の一階で朝食を取っていた。

 「ここのナチェはうまいな。生地がしっかりして風味もいい。リラムと研究したい。」

ハーネイトはナチェと呼ばれる、豆や穀物を粉にして練り焼いた物を食べながら、味の感想を言う。

 「そうね、これは癖になりそう。それで私たちはこれからハーネイトの事務所に向かうのよね?」

  アンジェルがコーヒーを飲みながらそう質問する。

 「ああ。ダグニスには連絡済みで後で合流する予定だ。事務所には3人のメイドがいる。戻ってきていたらこれを見せれば、世話をしてくれるはずだ。あの変態ゴリラともう一人の執事は国王を知っているから。ほらよ。食べたら町の外に向かうぞ。いいか?」

  そういうと、ハーネイトは手形のような、木でできた板をアンジェルに手渡した。

 「わかったわ。既に宿代は払ったからすぐに行けるわよ。」
 「っと、ハーネイト。こいつを渡して置く。」

  ルズイークはハーネイトに携帯端末を渡す。

 「携帯端末というやつか、これで連絡を取れと言うことだな?」
 「何かあったら連絡してくれ。この程度ならまあ扱えるだろう。」
 「あ、ああ。拠点を確保次第連絡する。それと予備はあるか?」
 「まだ何台かあるが。」

  そうハーネイトが質問するのは、いざという時にエレクトリールとダグニスにすぐ連絡が取れるようにしたいという考えがあったからだ。

 「エレクトリールとダグニスの分もいいか?」
 「そうだな、エレクトリールと昨日の情報屋もとい命の恩人さんにも渡さないとな。」

ルズイークはもう2つ携帯端末を渡す。

 「これでいいか、ではそろそろ支度だ。」

  ハーネイトが食事代を払い、全員外に出て、町外れの人気のない場所で集まる。木々に囲まれた街リノスは、このような場所が幾つも存在している。朝方の、少し身震いしそうな寒さの風が木々を吹き抜けていく。

 「ハーネイトの兄貴!来ましたよ!寒いですね本当に。」

  ダグニスが、ハーネイトのもとへ全速力で駆けてくる。

 「来たか、ダグニス!ほら、こいつを受けとれ。」

  ハーネイトはダグニスに携帯端末を渡す。

 「これで離れていても連絡できる。いい情報を手にいれたら連絡をくれ。それと事務所と王様たちを任せていいか?案内をしてやってくれ。」
 「無論っすよ!兄貴の頼みなら何なりと。ハーネイトの兄貴が拠点見つけたら、すぐにつれていきますから。」
 「頼もしいな。ダグニス、よろしく頼む。では転送準備だ、みんな集まって。」

ハーネイトの指示で魔方陣の中央に彼らを集める。そして移動魔法の詠唱を始める。機士国の魔法警戒網は東大陸でも中央を分けて東側の方には存在していなかった。それを理解しハーネイトは移動魔法の詠唱を始める。

 「あとは頼んだ、ハーネイト。また会おう。吉報を待っている。新たな拠点ができ次第、私も指揮をとろう。」
 「分かりました。」

ハーネイトの詠唱が終わり、ルズイークたちは光に包まれてリンドブルクの方向に飛んでいった。

 「はあ、ん…ひとまず王様たちの無事は確認できたし、3か月前に何があったか、そしてエレクトリールの故郷の襲撃との関連性について、改めて分かった。」
 「はい、何があったか、それが徐々に分かってきましたね。次の目標は、リシェルさん探しと銃の受け渡しですね。」
 「ああ。ではそろそろ俺らも動こう。」
 「はい!ハーネイトさん。お供致します。」

こうして彼らは、機士国を乗っ取ったドグマ・ジェネレーションの侵略と戦う同士を探すため、長い旅を始めるのであった。


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